健康保険は、従業員本人(被保険者)だけでなく従業員の被扶養家族も保険給付の対象とする保険制度です。結婚や子供の出生などにより従業員の被扶養家族に変更があった場合、企業は健康保険被扶養者(異動)届を提出し、健康保険への加入手続きをおこなわなくてはなりません。
ただし、従業員の被扶養者が健康保険に加入するためには、被保険者本人との続柄や収入額など様々な要件をクリアしている必要があります。被扶養家族の認定をスムーズに進める為には、被保険者届を正しく記入することはもちろん、必要な書類をあらかじめ用意しておくことが大切です。
本記事では、健康保険被保険者(異動)届の提出が必要となるケースや書類の書き方、提出時に添付を求められる書類について解説します。
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目次
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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1. 健康保険被扶養者届とは
まずは、健康保険被扶養者届の基本を確認しましょう。
1-1. 健康保険被扶養者届は「被扶養家族の変更を申請する書類」
健康保険被扶養者(異動)届は、健康保険に加入する従業員(被保険者)の被扶養家族の変更を申請するための書類です。被保険者の被扶養者に認定された家族には保険証が交付され、怪我や病気、死亡、出産について保険給付がおこなわれます。
被扶養家族変更の事実が確認された場合、事業主は5日以内に「健康保険被扶養者(異動)届」を自社が所属する健康保険組合もしくは管轄の社会保険事務所に提出しなければなりません。従業員から結婚や出産の報告を受けた際は速やかに手続きをおこないましょう。
1-2. 健康保険における「被保険者」と「被扶養者」とは
次に、「被保険者」と「被扶養者」について念のため確認しておきましょう。
「被」は「〜される」という意味です。つまり、被保険者とは、政府の「国民健康保険」か健康保険組合(協会けんぽ)に保険金を納めてその保険を受けられる人のことを指します。
一方の「被扶養者」にも「被」がつきます。先ほどと同じように、被保険者に扶養されている人のことを意味する言葉です。そのため、被扶養者は被保険者の健康保険にそのまま加入することができ、被保険者と同様に病気や怪我の場合に保険金が給付がされます。
1-3. 収入が多い方が被保険者となる
最近では、共働き世帯も増えています。夫婦それぞれに収入がある場合は、被扶養者の人数にかかわらず年間収入の多いほうが被保険者(被扶養者)となります。
ただ、扶養者が出産に伴って育児休業制度などを利用した場合、扶養者の年間収入が被扶養者の年間収入を下回ることがあるかもしれません。一時的に下回った場合に限っては、育児休業中の被扶養者の異動手続きは必要ないので注意しましょう。
1-4. 被扶養者の規定は各健康保険で異なるため注意
健康保険ごとに「被扶養者」の規定が異なります。具体的なケースを紹介しましょう。
- 出産手当金や失業給付金なども収入として考えるため、合算した金額が年間130万円を超えると「被扶養者」から外れる
- 金額に関係なく、失業保険を受給している期間は「被扶養者」として認めない
このように、被扶養者の扱い方は健康保険によって異なります。転職した従業員から、「前の会社と扶養の扱いが違う」といった問い合わせを受けることもあるかもしれません。
そのため、まずは自社が加入している健康保険の扶養に関する規定をしっかりと理解しておくことが大切です。
健康保険被扶養者届は従業員と従業員の家族の健康保険にかかわってくる重要な書類です。抜け漏れがないように作成・届出をする必要があります。一方で、「社会保険の手続きが複雑で正しくできているのかよくわからない」というお悩みがあるご担当者様もいらっしゃるのではないでしょうか。
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2. 健康保険の被扶養家族に該当する要件
健康保険被保険者の被扶養家族と認定されるためには一定の要件を満たさなければなりません。被扶養家族の認定要件を理解し、適切な事務手続きをおこないましょう。
2-1. 被扶養家族の範囲(続柄)
被扶養家族に認定されるのは、被保険者本人から見て一定範囲の続柄にある親族です。ただし、続柄によっては被保険者本人と同一世帯で同居していることが要件となります。
1. 同居・別居を問わない親族
- 直系尊属(父母、祖父母、曾祖父母など)
- 配偶者(内縁者を含む)
- 子供(養子縁組をした子を含む)
- 孫
- 兄弟姉妹
2. 同一世帯での同居を条件とする親族
- 上記1以外の3親等以内の親族(叔父・叔母、義父母など)
- 内縁の配偶者の父母、子(該当配偶者の死後、引き続き同居する場合を含む)
2-2. 被扶養家族の収入要件
被扶養家族として認定を受けるためには、被扶養者本人の年間収入が130万円未満(対象の扶養家族が60歳以上もしくは障害者の場合は年間収入180万円未満)であることが要件です。
なお、ここでの年間収入とは過去1年間の実収入額ではなく、被扶養家族に認定された日以降の年間収入の見込み額です。また、被扶養家族の収入には雇用保険の失業給付金や公的年金、健康保険の傷病手当金等も含まれます。被扶養家族の認定基準を満たす収入目安は以下の通りです。
- 給与等の月額:108,311円以下(60歳以上・障害者は150,000円以下)
- 失業給付等の日額:3,611円以下(60歳以上・障害者は5,000円以下)
また、上記の要件に加え、居住形態に応じて以下のいずれかの要件を満たす必要もあります。
- 同居の被扶養家族の場合:収入が扶養者(被保険者)の収入の半分以下であること
- 別居の被扶養家族の場合:収入が扶養者(被保険者)の仕送り額未満であること
2-3. 2022年10月の社会保険適用拡大による変化
2022年10月から社会保険の適用拡大がなされたことによって、社会保険の対象となった場合は、被扶養者の対象から外れます。
2022年10月と前後の社会保険の適用拡大状況は以下の通りです。
以下の表は国民年金機構の資料を参照し、一部編集しています。
参照:令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大|国民年金機構
上記に記載の通り、社会保険の適用拡大がなされたことによって、これまで被扶養者だった人が被扶養者ではなくなる場合があるので、注意しましょう。
3. 健康保険被扶養者届の提出が必要なケース
健康保険被扶養者(異動)届は被保険者の被扶養家族の変更が発生した際に提出する書類です。ここでは健康保険被保険者(異動)届の提出が必要となるケースを解説します。
3-1. 被保険者の被扶養家族が増えるとき
被保険者の被扶養家族が増える際は健康保険被扶養者(異動)届の提出が必要です。被扶養家族が増加する主な要因として以下のようなケースが挙げられます。
- 被保険者本人の結婚や子供の出生
- 失業や働き方の変更による配偶者や子供の収入減少
- 年金受給額が少ない両親に仕送りする場合 など
なお、被保険者の配偶者や両親を被扶養家族とする場合、収入要件をしっかりと確認したうえで手続きをおこないましょう。失業給付や年金給付も年収に含まれるため、収入額によっては被扶養家族と認定されない可能性があります。
3-2. 被保険者の扶養家族が減少するとき
被保険者の被扶養扶家族が減少する際も健康保険被扶養者(異動)届を提出し、被扶養家族からの削除を申請しなければなりません。被扶養家族が減少する主な要因としては以下の理由が挙げられます。
- 被扶養家族の就職
- 被扶養家族の結婚
- 被扶養家族の死亡 など
被扶養家族が就職等により年間130万円以上の収入を得る場合は、認定基準を満たせなくなるため被扶養家族からの削除が必要です。また、被扶養家族が結婚して他の世帯で養われる場合も、元の被保険者の被扶養家族から抜ける必要があります。
なお、被扶養家族が死亡した場合も被扶養者の減少にあたるため、同様に健康保険被扶養者(異動)届による手続きが必要です。
3-3. 被扶養家族の氏名が変更されたとき
被扶養家族の変更には氏名の変更も含まれます。被扶養家族の氏名が変更されるケースは多くありませんが、登録上のミスにより被保険者や被扶養家族の情報(氏名、住所、生年月日等)の間違いが発覚した際は、健康保険被扶養者(異動)届による修正手続きが必要です。
関連記事:被保険者住所変更届が必要なケースや手続き方法を解説
4. 健康保険被扶養者届の書き方
健康保険被扶養者(異動)届には健康保険組合が用意する専用の書式があります。保険組合によって書式は異なりますが、記載すべき内容は同じです。
書式は、日本年金機構や所属する健康保険組合のホームページなどからダウンロードできます。
ここでは健康保険被扶養者届の書き方を解説します。
4-1. 被扶養家族の認定に用いる書類は2種類
被扶養家族の認定に用いる書類は以下の2種類です。
- 健康保険被扶養者(異動)届
- 国民年金第3号被保険者関係届
「健康保険被扶養者(異動)届」はすべての被扶養家族の認定手続きに用いられます。一方、「国民年金第3号被保険者関係届」は第3号被保険者となる被扶養家族(20歳以上60歳未満の配偶者)の認定に必要な書類です。
なお、保険組合によっては健康保険被扶養者(異動)届と国民年金第3号被保険者関係届を1枚にまとめた書式が用いられる場合もあります。
4-2. 書式の項目に従って必要事項を記載する
健康保険被扶養者(異動)届は、書式の項目に従って必要事項を記載します。記載項目は「事業主記載欄」「被保険者欄」「配偶者である被扶養者」「その他の被扶養者欄」の4つです。
それぞれの書き方を以下に紹介します。
記載項目 | 概要や記入上の注意点 |
事業主記載欄 |
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被保険者欄 |
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配偶者である被扶養者 |
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その他の被扶養者欄 |
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4-3. 健康保険被扶養者届の記入例
健康保険被扶養者届の記入例は日本年金機構のホームページで公開されています。該当するものを以下のURLからダウンロードして活用してみてください。
記入例を見ながら記載することで、ミスや漏れを防止することができます。
健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)(該当・記入例)
健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)(非該当・記入例)
健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)(変更・記入例)
健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)(海外特例要件・記入例)
4-4. 健康保険被保険者届を書く際の注意点
健康保険被扶養者(異動)届を記載する際の注意点を紹介します。
4-4-1. 被扶養者になった日(異動の年月日)
実際に被扶養者となった日付を記載します。結婚の場合は籍を入れて扶養関係が開始された日、配偶者が退職して扶養に入る場合は退職日の翌日、子供が生まれた場合は誕生日が該当する日付です。
4-4-2. 被扶養家族の職業
被扶養家族が収入を得ている場合は「パート」や「アルバイト」、特定の職に就いていない場合は「無職」、子供の場合は「大学生」や「小学生」などと記載します。具体的な職種を記載する必要はありません。
4-4-3. 被扶養家族の収入
被扶養家族の収入欄は、月額の場合は直近の平均月額収入、年間収入の場合は不要開始日から1年間の見込み額を記載します。年間収入見込みが130万円を超える場合は被扶養家族の認定が受けられません。
5. 健康保険被扶養者届に添付する書類
健康保険被扶養者(異動)届の提出とあわせて、「続柄確認のための書類」や「収入要件確認のための勝利」の添付を求められる場合があります。特に配偶者の被扶養家族認定では収入要件を細かく確認されるため、該当の被保険者にはあらかじめ書類の用意を依頼しておくとよいでしょう。
1. 続柄確認のための添付書類
- 住民票の写し
- 被保険者の戸籍謄本 など
2. 収入要件確認のための添付書類
- 退職証明書や雇用保険被保険者離職票の写し
- 雇用保険受給資格者証の写し
- 給与明細や源泉徴収票
- 自営の場合は直近の確定申告書
- 年金受給額が分かる書類(年金の改定通知書等) など
また、以下のケースの場合は、別途添付書類が必要になるので注意しましょう。
- 別居中の家族(6歳未満または16歳以上の学生を除く)を被扶養者にする場合:仕送りの事実と仕送りの額を確認できる書類(例:預金通帳などの写しや現金書留の控えなど)
- 内縁関係の配偶者を被扶養者にする場合:内縁関係を確認するための書類(内縁関係にある両人の戸籍謄本・抄本や、被保険者の世帯全員の住民票など)
6. 健康保険被扶養者届の手続きの流れと提出方法
健康保険被扶養者届の提出は、事象が発生してから5日以内となっています。スムーズな手続きのために、流れや提出方法を確認しておきましょう。
6-1. 被保険者に健康保険被扶養者届を記入してもらう
健康保険被扶養者届を記入するのは被保険者です。健康保険被扶養者届の提出が必要な事象が確認できた場合は、従業員に用紙を配布してなるべく早く添付書類と共に提出してもらいましょう。
なお、扶養要件を満たしていないにも関わらず、用紙を提出してくるケースも少なくありません。健康保険被扶養者届を配布する前に、加入する健康保険の扶養要件を満たしていることを確認しましょう。
6-2. 提出された健康保険被扶養者届に不備がないかチェックする
健康保険被扶養者届の手続きは事業主を通すのが一般的です。
提出された健康保険被扶養者届に不備がないか、添付書類の不足がないかを確認しましょう。不備があった場合は、会社側が記入しても問題ありません。必要に応じて従業員に直接確認を取り、記入内容に不備や誤りがないことを確認してください。
6-3. 健康保険被扶養者届の提出方法
書類の確認が終わったら、加入する協会けんぽか日本年金機構に提出します。
健康保険被扶養者届の提出方法は、「窓口に直接出向く」「郵送」「電子申請」の3つがあります。
それぞれの流れや注意点は以下の通りです。
提出方法 | 概要や注意点 |
窓口に直接出向く |
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郵送 |
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電子申請 |
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7. 被扶養家族の変更に応じて雇用保険被扶養者届を提出しよう
雇用保険被扶養者(異動)届は、被保険者の被扶養家族に変更が生じた際に提出する書類です。2022年10月の社会保険適用拡大などによって被扶養家族に変更が生じた際は、すみやかに手続きをおこないましょう。
被扶養家族の変更手続きが適切に実施されていない場合、健康保険や年金保険の未加入期間が発生してしまう恐れもあります。従業員から被扶養家族変更の申し出を受けた際は迅速な処理を心掛けましょう。