人材育成の目標とは、組織の人材を求める人物像に育てるための指標のことです。効果的な人材育成を実現するため、あらかじめ人材育成の目標を数値化してわかりやすく設定することが大切です。この記事では、人材育成の目標の立て方や、従業員が個人目標を立てる際の書き方や例文を解説します。また、目標管理を効率化するためのツールも紹介します。
目次
1. 人材育成における目標とは?
人材育成における目標とは、企業の人材を求める人物像に育成するための指針となるもののことです。ここでは、人材育成とは何か、その課題を踏まえて説明したうえで、人材育成には目標が重要な理由を解説します。
1-1. 人材育成とは?
人材育成とは、経営戦略や事業目標を達成するため、従業員に必要な知識やスキルを身に付けて育成することです。人材育成を適切に実施することで、組織の求める人材に育て上げ、効率よく組織の目標に向かって仕事に取り組むことができるようになります。
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1-2. 人材育成の課題
近年では少子高齢化の影響で労働人口が減少しており、少ない人材で仕事を回さなければならない企業も少なくないでしょう。このような場合、通常の業務で忙しく、人材育成に割く時間やコストがなく、後回しになっていることもよくあります。
また、グローバル化や働き方改革、技術革新などにより、多様な価値観を持った労働者が組織には集まっており、目まぐるしくビジネス環境は変化しています。そのため、中長期的な人材育成計画を立てても、ニーズの変化により、意味ないものとなってしまうケースもあります。
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1-3. 人材育成では目標設定が重要!
昨今の時代や社会の変化により、人材育成にはさまざまな課題があり、人材育成に取り組みづらいと考えている企業も多いのではないでしょうか。まずは人材育成でどのようなことを実現したいのか、目標を立てることが重要です。そうすれば、人材育成の重要性を理解し、今の業務で忙しくても後回しにすることが少なくなるでしょう。また、人材育成で成し遂げたいことが明確になれば、時代や社会が変化したとしても、ブレず柔軟に対応することができるようになります。このように、人材育成を成功させるためには、目標設定が不可欠といえます。
2. 人材育成における目標設定の必要性
人材育成の課題を解決するためにも、人材育成の目標を立てることは重要です。しかし、それ以外にも、人材育成の目標設定には意味やメリットがあります。ここでは、人材育成における目標設定の必要性について詳しく紹介します。
2-1. 人材育成の方針が明確になる
人材育成の目標を立てることで、人材育成によって何を実現したいのかが明確になります。また、目標設定をおこなうには、組織の求める姿とのギャップを理解するため、現状の従業員のスキルの把握が必要になります。これにより、将来なりたい姿から逆算して人材育成の計画を策定することで、人材育成の方針が明確になり、行動を起こしやすくなります。最初に人材育成の目標や方針を従業員に周知すれば、組織全体の方向性を一致させ、一丸となって目標達成を目指すことが可能です。
2-2. 従業員のモチベーションアップにつながる
人材育成の目標が明確になれば、それに応じて従業員も個人目標が立てやすくなります。従業員自身が明確で具体的な目標を設定できれば、次の行動につなげやすくなり、主体的に能力を高めようとモチベーションが高まります。また、その目標を達成することで、人材育成の目標を達成することにつながるため、個人と組織の両者にメリットが得られます。
2-3. 人事評価がしやすくなる
人材育成における目標を設定することで、管理者(担当者)と従業員両者の人事評価がしやすくなります。人材育成でどのようなことを成し遂げたいか目標を設定し、進捗管理をおこなうことで、人材育成の設計担当者がどの程度目標達成できたか明確に把握でき、客観的に評価することが可能です。また、組織の理想像から従業員もスキルアップに関する目標を具体的に立てて、その目標管理をおこなうことで、達成度に基づき、適切に人事評価をおこなうことができます。
3. 人材育成における目標設定の手順
人材育成の目標の立て方を理解することで、スムーズに人材育成における目標を設定することができます。ここでは、人材育成における目標設定の手順について詳しく紹介します。
3-1. 組織の人材育成の目的を明確にする
まずなぜ人材育成を実施するのか、目的を明確にしましょう。目的が曖昧だと、どのような人材を育成すべきかも不明瞭なままとなってしまいます。目的が定まることで、人材育成の目標も設定しやすくなります。
3-2. 組織の求める姿に必要となるスキルを洗い出す
目的が明確になったら、組織の求める姿も明らかにしましょう。この組織の理想像が、いわゆる人材育成の目標(ゴール)の一つになります。組織の求める姿が明確になったら、その理想的な人材が持っているとされるスキルを洗い出しましょう。
3-3. 従業員の知識や能力を可視化する
組織の理想像と現状の従業員のスキルの差が課題となります。課題を具体化するため、今の従業員が持っている知識や能力を可視化することが大切です。現状を正しく把握するためにも、人事データを上手く活用しましょう。数値データで現状のスキルを可視化すれば、客観的かつ正確に従業員の持つ知識や能力を把握することができます。人事データの収集・分析・活用を効率化するため、タレントマネジメントシステムの導入を検討してみるのも一つの手です。
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3-4. 人材育成の計画書を作成する
理想と現状のギャップが明確になったら、それをなくすために実際に実行する人材育成のアクションプランを立てましょう。具体的な施策が決まることで、方針が定まり、行動を起こしやすくなります。また、アクションプランが決まったら、他の従業員に共有したり、進捗状況を定期的に確認したりするため、計画書を作成しましょう。
3-5. 従業員一人ひとりに目標を設定してもらう
人材育成の目標を立てて、アクションプランを設計し、計画書を作成したら、実際に施策を実施しましょう。まず組織の求める姿を周知したうえで、従業員一人ひとりに自身の目標を設定してもらうことが大切です。自分で目標を設定することで、責任感が生まれ、モチベーションを高めながら、主体的に人材育成の施策に取り組んでもらうことができます。
4. 【職種別】人材育成における目標の書き方・例文
ここでは、従業員が人材育成において設定する個人目標の例文を職種別(営業職・開発職・事務職)に紹介します。
4-1. 営業職
営業職は、売上や利益などを使用することで数値化して目標を設定しやすい職種の一つです。営業職が人材育成において設定する個人目標の例文は次の通りです。
- 四半期で顧客からの問い合わせ対応を1人でできるようになる
- 後輩の育成を実施しながらも昨年の売上を維持できるようにする
目標を立てたら、その行動プロセスも具体的に設定しましょう。また、無理な目標はノルマやプレッシャーに感じ、モチベーションを下げる要因になります。達成可能性を考慮し、自分のスキルにあった目標を設定しましょう。
4-2. 開発職
開発職は、スキルアップが成果に直結する職種でもあります。開発職が人材育成において設定する個人目標の例文は次の通りです。
- 1年後に自分でシステムの設計、構築、実装ができるようになる
- 6カ月後に新入社員が新規言語を習得できるようにサポートする
将来どのような人材になりたいかイメージすることで、どのようなスキルを身に付けるべきかが明確になります。また、業務に関係するものだけでなく、資格取得を目標に取り入れてみるのも一つの手です。
4-3. 事務職
事務職は、営業職と違い、数値化して目標を設定するのが難しい職種でもあります。事務職が人材育成において設定する個人目標の例文は次の通りです。
- 6カ月以内に採用説明会の責任者として運営ができるようになる(人事)
- 今年度中に社内の備品の注文から管理までの流れを把握できるようになる(総務)
- 1年以内に会計ソフトで仕訳入力をミスなくできるようになる(経理)
昨今ではバックオフィス部門でもITツールが普及するようになっています。ITツールを使いこなし、業務を効率化してコスト削減につなげることを目標に設定してみてもよいかもしれません。
5. 人材育成における目標設定の注意点やポイント
ここでは、人材育成における目標設定の注意点やポイントについて詳しく紹介します。
5-1. 無理な目標は設定しない
人材育成において理想的な姿があまりに現状と乖離してしまうと、達成不可能な目標が設定されてしまいます。非現実的な目標を設定しても、成し遂げたいという強い気持ちが芽生えず、モチベーション低下により、目標を達成できない可能性があります。そのため、達成可能性を考慮し、現実的な目標を設定するようにしましょう。
5-2. 目標は数値化して設定する
人材育成の目標を立てるときも、できる限り数値化して目標を設定することが大切です。目標が定量化されれば、明確な基準を示し、目指すべき方向性を統一することができます。また、目標の達成度も把握しやすくなり、進捗が思わしくない場合、その原因を追究して改善につなげることで、効率よく人材育成の目標達成を目指すことが可能です。なお、従業員に目標を設定してもらう際も、進捗状況を客観的に把握したり、公平な人事評価につなげたりするため、数値化して設定してもらうようにしましょう。
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5-3. 期限を設けて定期的に見直す
人材育成の目標についても期限を定めましょう。人材育成が中長期的になる場合には、短期目標と長期目標に区分することで、期限が定めやすくなるかもしれません。期限を設けることで、それまでに目標を達成しようと、モチベーションが高まります。また、期限が過ぎたら、振り返りを実施し、課題や問題点を洗い出し改善につなげることで、効果的な人材育成を実現することが可能です。
なお、従業員が設定する目標についても、期限をあらかじめ決め、適切なタイミングで振り返りをおこなってもらいましょう。目標設定をする際は、期限以外にも、達成可能性や関連性なども考慮に入れることで、具体的で明確な目標を設定することが可能です。目標設定フレームワークの一つに「SMARTの法則」があります。SMARTの法則については、下記の記事で解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
関連記事:SMARTの法則とは?目標設定に活用するメリットと方法・注意点を解説
5-4. 組織の求める姿を把握する
まずは経営戦略や事業目標をチェックして、組織の求める姿を正しく把握しましょう。人材育成で目指す理想像が経営目標とズレていると、自社の経営に役立つ人材を育成できず、組織の成長につながらない可能性があります。
人材育成の目標が設定できたら、それを従業員に周知し、組織の求める姿について正しく理解してもらうことが大切です。従業員の将来なりたい姿に基づき、目標を設定し、それを達成できたとしても、個人の成長にはつながったけれど、組織の成長にはつながらなったという事態を招く恐れがあります。組織の求める姿を理解したうえで、それと結び付けて個人目標を検討することで、個人と組織の両方の成長につながる目標を設定することが可能です。
5-5. 従業員が納得できる目標にする
人材育成を成功させるためには、従業員の目標設定に注意が必要です。組織の求める姿を重視し過ぎるあまり、会社から一方的に個人の目標を押し付けてしまうと、従業員の意見が反映されないために当事者意識が生まれず、人材育成施策に対するモチベーションの低下につながる恐れがあります。あくまでも個人目標は従業員自身で設定してもらうようにしましょう。
関連記事:目標設定の押し付けは従業員のモチベーションを下げる!よい目標設定の特徴やポイントを解説
6. 人材育成における目標の管理方法
人材育成の目標を立てても、それを管理し、達成を目指さなければ意味がありません。ここでは、人材育成における目標の管理方法について詳しく紹介します。
6-1. 目標管理シートを作成する
目標管理シートとは、目標や行動プロセス、成果、評価を管理するためのシートのことです。目標管理シートは、ExcelやGoogleスプレッドシートなどで作成されることが一般的です。
目標管理シートを作成することで、目標と行動プロセスが明確になり、次の行動につなげやすくなります。また、目標管理シートを通じて、客観的に進捗を管理し、人事評価もおこなうことが可能です。さらに、目標管理シートであれば、メールやチャットなどで、情報共有を簡単に実施することができます。
関連記事:目標管理シートとは?書き方や作成上の注意点を詳しく紹介
6-2. 目標管理システムを導入する
目標管理システムとは、目標に関連した情報をデータ化し、ツール上で一元管理して目標管理を効率化するためのシステムです。目標管理システムを導入すれば、リアルタイムで情報を更新できるので、管理の効率を高めることができます。また、システム上で目標管理シートをやり取りできるため、情報共有のスピードを早め、スピーディーな意思決定につなげることも可能です。
6-3. 【ポイント】従業員の目標達成をサポートしよう
人材育成の目標を達成するためには、従業員に学びを深められる環境を提供することが大切です。研修の実施手法には、OJTやOFF-JT、自己啓発、eラーニングなど、さまざまな方法があります。複数の手段を組み合わせることで、相乗効果によりスキルアップしやすい環境を提供することが可能です。従業員がどのような学びの環境を欲しているのかヒアリングなどし、必要なサポートを提供することが重要です。
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7. 人材育成の目標を適切に設定して組織の成長につなげよう!
人材育成の目標を設定することで、組織における人材育成の方針が明確になり、何をすべきかが具体化されます。目標を設定する際は、誰が見てもわかりやすいように数値化して定量的に設定することが大切です。また、人材育成の目標は従業員にも共有し、組織の求める姿を周知したうえで、それに基づき個人目標を立ててもらうようにしましょう。