マイナンバー制度の進展により、従業員が市区町村の窓口で所定の手続きをすれば、連動して社会保険の名義変更もおこなわれるようになりました。しかし、従業員の扶養者の名義変更など、現在でも一部の名義変更は会社での手続きが必要です。
本記事では、従業員の名義変更が必要なケースと不要なケース、事業所の名義変更手続き方法などを解説します。
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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目次
1. 名義変更が必要な社会保険
従業員や事業所に関する名義変更があった際は、社内情報だけでなく、以下の社会保険でも手続きが必要です。
- 厚生年金保険
- 健康保険
- 雇用保険
- 労災保険(事業所名のみ)
なお、会社でおこなう名義変更手続きは、1.従業員の氏名に変更があったときと、2.事業所の名称に変更があったときの2つのケースが考えられます。それぞれ、どのような場合に変更手続きが必要か解説します。
関連記事:社会保険とは?代表的な4つの保険と今さら聞けない基礎知識
1-1. 従業員の名義変更が必要なケース
以下に該当する従業員に名義変更があった際は、速やかに手続きが必要です。
- 基礎年金番号とマイナンバーが紐づいていない従業員の氏名変更
- マイナンバーを有していない海外居住者や短期在留外国人従業員の氏名変更
- 上記に該当する従業員の氏名の訂正
- 従業員が扶養する者の氏名変更
- 70歳以上の従業員の氏名変更
とくに、従業員が扶養する者の氏名は自動で変更とならないため注意しましょう。
参考: 従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)の氏名に変更があったときの手続き|日本年金機構
1-2. 事業所の名義変更が必要なケース
事業所では以下に該当する場合、名義変更などの手続きが必要です。
- 事業主の変更
- 事業主の氏名の変更
- 事業所の名称や住所・電話番号の変更
- 法人番号などの変更や訂正
- 事業所の区分変更など
事業所の名義変更では、事業所自体の名義だけでなく事業主の名義が変更になった際も届出が必要です。
なお、労災保険など一部の社会保険については、法人事業所の代表者氏名変更のみの場合、手続きが不要なケースもあるためそれぞれ確認しましょう。
2. 社会保険の名義変更が不要なケース
マイナンバー制度の導入により、社会保険の多くで従業員の氏名変更手続きが不要となっています。それぞれ、不要なケースを解説します。
2-1. 厚生年金・健康保険
マイナンバー制度の導入により、2018年3月より、基礎年金番号とマイナンバーが紐づいている被保険者に関しては、氏名変更手続きが不要となりました。そのため、従業員が各自治体の窓口で、婚姻届や離婚届、転入届を提出すれば、その情報に紐づいて自動的に社会保険に関する情報も変更されます。
なお、協会けんぽに加入する会社の場合、氏名変更後の健康保険証は自動的に事業所へ送付されるため、従業員に交付しましょう。古い健康保険証は回収した後、日本年金機構まで返送が必要です。従業員個人で返送したり、破棄したりすることはできないため注意しましょう。
2-2. 雇用保険
2020年1月より「雇用保険被保険者氏名変更届」は廃止されたため、名義変更単独での手続きは不要となりました。名義変更が必要な際は、以下の手続きと合わせておこないます。
- 雇用保険被保険者資格喪失届
- 雇用継続交流採用終了届
- 雇用保険被保険者転勤届
- 個人番号登録・変更届
- 高年齢雇用継続基本給付金の支給申請
- 高年齢再就職給付金の支給申請
- 育児休業給付金の支給申請
- 介護休業給付金の支給申請
それぞれの届書に氏名変更記入欄があるため、記載して変更します。
関連記事:【雇用保険がわかる】人事担当者が知るべき雇用保険を徹底解説
3. 社会保険の名義変更手続きの流れと必要書類
マイナンバーと基礎年金番号が紐づいていない従業員の氏名変更や、事業所の名称変更の方法を解説します。
3-1. 従業員の名義変更の方法
厚生年金保険・健康保険に加入する従業員の氏名を変更する際は、以下の届書と書類が必要です。
- 保険・厚生年金保険被保険者氏名変更(訂正)届
- 健康保険被保険者証
(高齢受給者証、特定疾病療養受療証、健康保険限度額適用認定証等を含む) - ローマ字氏名届(外国人従業員のみ)
上記に必要事項を記入したうえで、所管の年金事務所に提出します。なお、提出方法は、電子申請、郵送、窓口への持参、いずれの方法でもかまいません。
3-2. 従業員が扶養する者の名義変更の方法
協会けんぽに加入する会社で、従業員が扶養する者の氏名に変更があった際は、以下の書類により届出が必要です。
- 健康保険 被扶養者(異動)届
- 被扶養者の健康保険証
これらに必要事項を記入し、所管の年金事務所に届け出ます。
参考: 家族を被扶養者にするとき、被扶養者となっている家族に異動があったとき、被扶養者の届出事項に変更があったとき|日本年金機構
3-3. 健康保険組合に加入する会社の場合
協会けんぽに加入する会社は、厚生年金・健康保険、どちらも同一の届出で手続きが完了します。しかし、健康保険組合に加入する会社では、厚生年金の手続きとは別に、各健康保険組合で名義変更の手続きが必要です。
各保険組合により申請書の様式や必要書類は異なります。氏名変更にどのような手続きが必要か、担当窓口に確認し対応しましょう。
3-4. 【健康保険・厚生年金】事業所の名称や所在地の変更方法
事業所の名称や所在地、法人番号などに変更があった際は、社会保険を管轄するそれぞれの事務所で手続きが必要です。
健康保険と厚生年金では、事実発生から5日以内に、以下の書類を準備し所管の年金事務所で手続きをおこないます。
- 健康保険・厚生年金保険適用事業所関係変更(訂正)届
- 履歴事項全部証明書のコピー
- 法人(商業)登記簿謄本のコピー(会社法人等番号を変更するとき)
- 法人番号指定通知書のコピー(法人番号を変更するとき)
なお、添付書類は提出日から遡って90日以内に発行されたものに限られます。また、管轄外の事業所の変更の場合、届出様式が異なるため注意しましょう。
参考: 適用事業所の名称・所在地を変更するとき(管轄内の場合)|日本年金機構
3-5. 【健康保険・厚生年金】事業所の登録内容の変更
事業主の変更など、事業所として登録している内容に変更があった際は、事実発生から5日以内に、以下の届出により、所管の年金事務所で手続きを進めましょう。
- 健康保険・厚生年金保険 事業所関係変更(訂正)届
- 法人(商業)登記簿謄本のコピー(会社法人等番号を変更するとき)
- 法人番号指定通知書のコピー(法人番号を変更するとき)
なお、事業所の名称変更などの際も、各健康保険組合に加入する事業所では厚生年金分の変更以外に、別途手続きが必要です。
参考: 事業主の変更や事業所に関する事項の変更(訂正)があったとき|日本年金機構
3-6. 【雇用保険・労災保険】事業所名の変更の場合
雇用保険や労災保険の変更では、変更があった日の翌日から10日以内に、以下の書類をそれぞれ管轄の事務所に提出します。
- 労働保険名称、所在地等変更届
……労働基準監督署または、公共職業安定所に提出する - 雇用保険事業主事業所各種変更届
……事業所の所在地を管轄する公共職業安定所に提出する
なお、事業所の移転などにより、管轄する公共職業安定所自体が異なるときは、移転後の住所を管轄する事務所へ書類を提出します。
また、上記を提出しただけではハローワークの求人票の情報は変更されません。求人を出している場合は、「雇用保険事業主事業所各種変更届」が受理された後に渡される“事業主控”を求人担当者に提出し、登録内容を変更しましょう。
関連記事:被保険者住所変更届が必要なケースや手続き方法を解説
4. 社会保険の名義変更をしないとどうなる?
働きやすい環境をつくる施策のひとつとして、結婚後も職場で旧姓の使用を認める企業が増えてきました。名刺やメールアドレス、社員証などを旧姓のまま使用している企業も多いでしょう。
しかし、社会保険については、旧姓のまま使用することはできません。国や行政機関は戸籍名で管理しているため、社会保険を含め、源泉徴収簿や労働者名簿などの法的な根拠を求められる書類については名義変更をする必要があります。
4-1. 名義変更をしていない保険証は使用できない
名義変更をしていないことによる問題のひとつとして、保険証が使用できなくなることが挙げられます。保険証には戸籍上の氏名を表記しなければならないため、旧姓のままの保険証は病院などで使用できません。正しい手続きをおこない、新しい保険証の交付を受けましょう。
なお、2022年9月からは、保険証に戸籍名と旧姓の両方を記載できるように変更されました。併記する場合は、戸籍名の横に括弧書きで旧姓が記載されます。
参照:被保険者証通称名記載及び旧姓併記の取扱い|全国健康保険協会
5. 名義変更に伴う社内の必要業務
従業員の名義変更があった場合は、社会保険関係の手続きのほか、以下のような作業をおこなう必要があります。
5-1. 労働者名簿の修正
労働者名簿には、戸籍上の氏名を記載しなければなりません。仕事上での呼称を旧姓のままにする場合でも、忘れずに更新しましょう。
社員名簿や緊急連絡先名簿など、関連する書類についても更新が必要です。従業員の配偶者の氏名が変わる場合も更新を忘れないようにしましょう。
5-2. 「扶養控除等(異動)申告書」の変更
たとえば、結婚により配偶者が扶養親族になる場合などは、「扶養控除等(異動)申告書」を修正しなければなりません。「扶養控除等(異動)申告書」は、翌年の所得税を決定するための重要な書類です。
記載内容に変更があった場合は、書類をもとに所得税の再計算をおこなう必要があります。年の途中で変更があった場合は、該当する従業員に「扶養控除等(異動)申告書」の修正をしてもらいましょう。
5-3. 各種手当の見直し
会社のルールによっては、結婚したことにより家族手当が追加されたり、引っ越しに伴い通勤手当が変更されたりするケースもあります。正しい手当を支給できるよう、すぐに変更手続きを進めましょう。
また、各種手当は固定的賃金に該当するため、月額変更届(随時改定)が必要なケースもあります。社会保険料に影響するため、忘れずに対応することが大切です。
6. 社会保険の名義変更が必要かどうかを把握しておこう
マイナンバー制度の導入により、社会保険の名義変更手続きは圧倒的に削減されました。しかし、現在でも外国人従業員の名義や、従業員の扶養親族の名義変更など、会社での手続きが必要なものも残っています。また、事業所や事業主の名義変更は個別の手続きが必要です。
手続き漏れのないよう、名義変更が必要なケースと不要なケースを把握し手続きをおこないましょう。