裁量労働制とフレックスタイム制は、自由度が高いという点が似ているため、混同されやすい制度です。しかし、2つの制度は根本的に異なり、対象範囲や残業代の取り扱いなども大きく違うため、正しく理解しておく必要があるでしょう。
この記事では、裁量労働制とフレックスタイム制の違いと、それぞれのメリット・デメリットについて解説します。
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裁量労働制制は適用できる職種が法律で定められていたり、導入する際にも種類によって労使協定の締結などが必要になったりします。
また、「フレックスタイム制など類似制度との違いがわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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1. 裁量労働制とフレックスタイム制の違い
裁量労働制とフレックスタイム制の違い理解するために、それぞれの制度の特徴を紹介します。
まず、裁量労働制とは、労使間で定めたみなし労働時間を労働時間とみなす制度です。例えば、みなし労働時間を8時間と決めていた場合は、何時間残業をしたとしても8時間働いたとみなされます。反対に、仕事が早く終わり7時間で退勤できた場合でも、8時間とみなされるのです。
そのため、裁量労働制においては実労働時間ではなく、仕事の成果が重視されると言えるでしょう。裁量労働制は、大きく分けると専門業務型と企画業務型の2種類に分類されます。
続いて、フレックスタイム制とは、労働者自身で勤務の開始時間と終了時間を自由に決められる制度のことです。
フレックスタイム制では、清算期間で定めた総労働時間は守らなければなりませんが、その範囲であれば、日々の労働時間は自分で決められます。会社によっては、必ず業務を行わなければならないコアタイムや、労働者が働く時刻を選べるフレキシブルタイムなどを設けている場合もあるでしょう。
裁量労働制とフレックスタイム制の特徴について説明しましたが、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。次項では制度の違いについて詳しく解説します。
1-1. 適用範囲が異なる
2つの制度の大きな違いとしてまず挙げられるのが、適用範囲の違いです。フレックスタイム制は対象の職種や人に制限がありません。フレックスタイム制を導入している会社に勤めている労働者であれば、誰でも平等に利用できます。
対して裁量労働制は、厚生労働省が定める職種にのみ適用される制度です。専門業務型裁量労働制の具体的な職種は、研究者や開発者、プロデューサーやディレクター、弁護士や税理士などが挙げられ、全部で19種類あります。
定められている職種であれば必ずしも適用されるわけではありません。裁量労働制として認められるには、業務の遂行や労働時間の配分などが業務の性質上、労働者本人に任せる必要性がある場合に限ります。
関連記事:裁量労働制が適用される職種について専門業務型や企画業務型の関係と併せて解説
1-2. 時間や給料の扱い方が異なる
フレックスタイムは前述のとおり、出退勤時間を自由に決められるものであり、実労働時間に応じて給料が支払われるものです。そのため、清算期間で定めた総労働時間を満たしていない場合は、賃金が減額されることもあります。
また、総労働時間を超えた分は残業扱いになるため、労働者には残業代を支払わなければなりません。
裁量労働制は基本的に仕事の成果で評価されるため、労働時間は関係なく、遅刻や早退の概念がありません。設定されているみなし労働時間が法定内であれば、残業代の支払い義務はないものとされています。
関連記事:裁量労働制における残業代について計算方法を徹底解説
1-3. 導入のための手続き方法が異なる
フレックスタイム制は就業規則に記載し、労使協定を締結するだけで導入できますが、裁量労働制はより複雑な手続きが必要になります。
裁量労働制のうち専門業務型においては、労使協定を締結して労働基準監督署に届け出が必要です。もうひとつの企画業務型に関しては、労使委員会を設置し、4/5以上の多数による議決で決議をして、対象労働者から個別に同意を得なければなりません。
このように、フレックス制と裁量労働制にはいくつかの異なる部分があるため、それぞれの概要を理解して自社にあった制度を採用するとよいでしょう。当サイトでは、1冊でフレックスタイム制と裁量労働制のそれぞれの制度理解ができる資料を無料でお配りしています。フレックスタイム制・裁量労働制の成功事例や導入方法を知りたい方はこちらからダウンロードしてご活用ください。
2. それぞれのメリットとデメリット
柔軟な働き方が魅力的な2つの制度ですが、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。それぞれ確認してみましょう。
2-1. 裁量労働制のメリット
裁量労働制は、時間の拘束がなく自分のペースで働ける点が大きなメリットです。仕事を効率良く進めれば、みなし労働時間より早く終えることもできます。出退勤も自由に決められるので、生活スタイルに合わせた働き方が可能です。
また、仕事の質や成果が評価されるので、生産性が向上されることが期待できます。自己管理能力が高い人には向いている働き方かもしれません。
会社側のメリットは、残業代の支払いを見込んでみなし労働時間を決めているケースが多いため、人件費の管理がしやすくなることです。残業代計算の手間が省け、労務負担の軽減にもつながります。
2-2. 裁量労働制のデメリット
裁量労働制の場合、みなし労働時間が決められているため、いくら労働をしても残業代が出ないことは、労働者にとってデメリットでしょう。日常的にみなし労働時間を超えて働いている場合は、メリットが感じられない可能性があります。
裁量労働制は導入のハードルが高く、手続きをしても認められるとは限りません。労使協定で決議をしたり、場合によっては労使委員会を設置する必要もあります。
無事導入できたとしても、働き方が大きく変わるため、制度に即した新しい人事評価を取り入れる必要があるでしょう。
また、自己管理ができない労働者が多いと、裁量労働制のメリットが活かされず、長時間労働が助長されることが懸念されます。
2-3. フレックスタイム制のメリット
フレックスタイム制は、仕事とプライベートが両立しやすくなるメリットがあります。出退勤の時間を自由に決められるため、通勤ラッシュの時間を避けたり、子どもの送迎や通院がしやすくなったりなど、ライフワークバランスが取りやすくなるでしょう。
また、仕事量が多い日と少ない日にムラがある場合、フレックスタイム制であればその日の仕事量に合わせて労働時間を調整できます。総労働時間の範囲内であれば調整は自由なので、業務負荷を分散させられるでしょう。
厚生労働省の就労条件総合調査によると、2021年調査時点でのフレックスタイム制導入率は、6.5%となっています。なお、企業の規模が大きいほど導入率が高い傾向にあるようです。[注1]
現在、多くの業種で人材確保の難しさが問題となっていますが、柔軟性のある働き方が可能なフレックスタイム制を導入していることは、会社にとってアピールポイントになります。
2-4. フレックスタイム制のデメリット
フレックスタイムのメリットである出退勤の時間を自由に決められる点は、デメリットにもなる可能性があります。出退勤の時間が個々で違うことによって、社員同士のコミュニケーションが取りづらくなったり、会議の調整が難しくなったりするからです。
会社は、フレックスタイム制を利用する労働者に、コアタイム以外で勤務時間を指定することは原則できません。
また、労働者の勤怠管理が複雑になるため、労務担当者の負担が増えてしまう可能性もあるでしょう。
時間にルーズな人は、フレックスタイム制の自由度の高さが裏目に出て、生産性を下げてしまうことも考えられます。
3. 裁量労働制やフレックスタイム制を導入して職場環境を整備しよう
今回は、裁量労働制とフレックスタイム制の特徴とあわせて、2つの制度の違いについて詳しく紹介しました。
どちらも生活スタイルに合わせた柔軟な働き方に対応していますが、時間や給料の扱い方が異なる点は大きな違いです。裁量労働制とフレックスタイム制は根本的に全く別の制度であることを理解しておきましょう。
両者ともメリットとデメリットがありますので、自社に合った制度の導入を検討してみてください。