妊娠や出産、育児に関する不安を抱えながら仕事をしている女性は少なくありません。企業には、こういった女性労働者を手厚くサポートする義務があります。
実際に、労働基準法には産前や産後の働き方に関する母体保護規定と呼ばれるルールが定められています。女性が安心して働ける職場を作るためにも、労働基準法の定めを熟知しておきたいものです。
本記事では、労働基準法による妊婦の保護について詳しく説明します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法による妊婦を守る制度
労働基準法には、産前産後の女性を守るための定めがいくつもあります。ルールを守らなかったときには労働基準法違反とみなされ、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金ペナルティが課せられます。
母体保護規定には以下のような定めがあるので、十分に把握しておきましょう。[注1]
[注1]労働基準法|e-Gov法令検索
1-1. 産前休業
労働基準法の第65条には、産前休業に関する詳細な定めがあります。企業は、女性労働者が出産予定日から6週間以内の休業を請求したときには応じなければなりません。
なお、双子など多胎妊娠の場合には、労働者は14週間前からの産前休業申請が可能となります。これは、多胎妊娠の身体的負担が単胎妊娠よりも大きくなるためです。
1-2. 産後休業
労働基準法第65条には産前休業に加え、産後休業に関する記載もあります。
この条文では、産後の女性を8週間就業させてはいけないと定めています。このうち、6週間までは強制的な休暇となっています。
6週間が経過したのち、労働者本人に働きたいという請求があり、さらに担当医師が問題ないと判断した場合に限り、就労が認められます。たとえ6週間が経過していても、労働者が希望していない場合や医師の許可が出ない場合には就労させることができません。
なお、産前休業の日程は出産予定日を基準として算出しますが。産後休業は実際の出産日を基準とします。出産日の翌日を産後休業の初日とし、その後8週間または6週間を産後休業の期間として扱います。
1-3. 育児時間の請求
生後1年に満たない子供を育てる女性労働者は、1日2回少なくとも30分の育児時間を請求することが可能です。育児時間の請求は、労働基準法第67条に定められています。
育児時間をどのタイミングで取得するかは当事者間の判断に任せられています。
1-4. 危険有害業務の就労制限と軽易業務転換
労働基準法第64条の3には、妊産婦に危険有害業務をさせてはいけない旨が定められています。ここでの危険有害業務とは、重量物を取り扱う業務、有毒ガスを発散する場所での業務、その他妊娠出産や保育に有害となる業務のことを指します。
また、労働基準法第65条の3には、軽易業務転換に関する記載があります。この条文では、妊娠中の女性が請求したときには、その労働者を軽易な業務に転換させなければならないと定められています。軽易業務転換は危険有害業務に限ったものではありません。
1-5. 解雇に関する制限
労働基準法第19条では、産前産後休暇中とその後30日間は解雇することができないと定められています。
また、男女雇用機会均等法の第9条[注2]には、妊娠出産に関わる不利益取り扱いの禁止に関する規定もあります。この条文では、妊娠や出産に起因する能力低下を理由として解雇や不利益取り扱いを行ってはならないと定められています。
また、妊娠中や産後1年以内の解雇に関しても、事業主の反証がない限りは無効とされます。
[注2]雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律|e-Gov法令検索
2. 労働基準法による妊婦の労働時間の制限について
労働基準法には、妊婦を守るための条項として労働時間を制限するルールも定められています。[注1]
労働時間の制限は主に、労働基準法第66条に定められています。労働基準法第66条の第1項には、妊産婦に対する変形労働時間制の適用制限に関する記載があります。これによると、女性労働者を変形労働時間制で働かせている場合でも、女性労働者本人が請求したときには1日および1週間の法定労働時間を超えて働かせることができません。
また、労働基準法第66条第2項と第3項には、妊産婦が請求した場合に時間外労働や休日労働、深夜労働をさせられないという旨が定められています。
妊産婦は労働時間の請求を口頭で行うことが可能です。また、時間外労働はしても休日労働はしないなど、部分的な請求を行うことも認められています。
ただしこれらの定めは、妊産婦からの請求があった場合に限り適用されます。労働者本人から請求がないときには、一般の労働者と同じ労働基準法の範囲内で時間外労働や休日労働、深夜業を課しても問題ありません。
[注1]労働基準法|e-Gov法令検索
3. 労働基準法に基づく妊婦の労働環境を整えるポイント
労働基準法の母体保護規定は、妊婦をサポートし自身の力を発揮してもらうためのものです。企業には、労働基準法の定めに従って妊婦が働きやすい職場を作る責任があります。
ここからは、妊婦の労働環境を整えるために意識したいポイントをチェックしていきましょう。
3-1. 個々の労働者の体調に合わせて対応する
妊娠中の体調変化は個人差が大きく、これまでとほぼ同じように働き続けられる妊婦もいるものです。一方で、つわりや切迫早産などの影響で思ったように働けなくなってしまう労働者も少なくありません。
体調の変化が著しく、思ったような働き方ができない妊婦は、心身に大きな負担を感じながら仕事をすることになります。体調変化の軽かった妊娠経験者を基準として社内のルールを決めてしまうと、体調変化が大きい妊婦が負担に耐えきれず、退職に追い込まれるなどのリスクが発生します。
企業は単に労働基準法や社内ルールに照らし合わせて判断するのではなく、個々の労働者に対して柔軟な対応を行う必要があります。労働基準法を遵守するのはもちろんのこと、休憩時間を増やしたり時差通勤を導入したりして、働きやすい職場を作る工夫をしてみましょう。
3-2. 不当な給与減額を行わないよう注意する
企業は、妊婦が希望したときには労働時間を調整したり、軽易業務への転換を行ったりする必要があります。このとき、給与を不当に減額するような対処を行うことは避けましょう。
たとえば、妊婦の要望に応じて外勤から内勤に配置換えしたタイミングで給与を減額してしまうと、マタニティハラスメントと認識されてしまうおそれがあります。
労働基準法第65条の軽易業務転換の条項には、給与に関する記載がありません。しかし、減額の措置を講じることは、妊婦にとって働きにくい職場と認識されてしまうことにつながります。
ただし、危険な作業や深夜業務に手当をつけている場合、配置換えをすれば当然ながらこれらの手当がつかなくなります。こういった場合には、給与額が変動しても不当な減額とはみなされません。
[注1]労働基準法|e-Gov法令検索
4. 妊婦が自身の能力を十分に発揮できるようサポートすることが大切
労働基準法の母体保護規定は、女性労働者を守るための決まりです。
妊娠中には女性の体に大きな変化が起こり、仕事における負担も大きくなります。企業が妊婦の労働環境を整えるよう意識すれば、女性労働者は妊娠期間を順調に過ごせるようになります。さらに、妊婦が職場で自身の能力を十分に発揮できるようサポートすることも、企業の大切な役割です。
労働基準法の母体保護規定を遵守することは、母体や胎児を守ることにつながるのです。
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