みなし残業代制や固定残業代制を導入している企業の場合、一定のルールに基づいてみなし残業代あるいは固定残業代が支払われる仕組みになっています。みなし残業と固定残業は共通点が多い一方、似て非なる部分もあります。
この記事では、みなし残業と固定残業の違いについて解説します。また、みなし残業代制や固定残業代制の間違いやすいポイントについても紹介します。
「固定残業とみなし残業の違いがよくわからない」「固定残業代の計算方法や、違法にならない制度運用を知りたい」とお考えではありませんか?
当サイトでは、固定残業とみなし残業の違いから固定残業代の計算方法、適切な運用についてまとめた「固定残業代制度ルールBOOK」を無料で配布しております。
自社の固定残業やみなし残業の制度運用に不安がある方は、こちらからダウンロードしてご覧ください。
目次
1. みなし残業とは?
みなし残業とは、実際の労働時間にかかわらず、残業をおこなったとみなして従業員に残業代を支払う制度です。みなし残業には、「みなし残業代制」と「みなし労働時間制」の2つの考え方があります。
ここでは、みなし残業代制とみなし労働時間制の残業について詳しく紹介します。
1-1. みなし残業代制
みなし残業代制とは、実際の残業の有無にかかわらず、一定時間分の時間外労働に対する割増賃金を事前に基本給に組み込んで支給する制度です。
1-2. みなし労働時間制
みなし労働時間制とは、業務時間の把握が難しい場合に一定時間を勤務したものとみなして賃金計算をする制度です。みなし労働時間制を導入する際、時間外労働や深夜労働が想定されている場合には、あらかじめその残業代を含めた金額を基本給として設定しておきます。
なお、みなし労働時間制には、「事業場外みなし労働時間制」と「裁量労働制」の2種類があります。ここからは、事業場外みなし労働時間制と裁量労働制について詳しく紹介します。
1-2-1. 事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制とは、労働基準法第38条の2で定められた制度で、自社ビルやオフィスなどの事業場以外の場所で労働に従事している従業員に適用される勤務形態のことです。直行直帰の多い営業マンなど、事業場外での就労が多い職種では、オフィス勤務の人に比べて正確な労働時間を把握しにくい傾向にあり、事業場外みなし労働時間制が採用されるケースもあります。
事業場外みなし労働時間制では「あらかじめ事業場外での労働時間」をみなし時間として定めるのに対し、みなし残業代制では「残業のみ」をみなし時間として設定するという違いがあります。
第三十八条の二 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
関連記事:事業場外みなし労働時間制とは?メリットとデメリット、適用要件を解説!
1-2-2. 裁量労働制
裁量労働制とは、労働基準法第38条の3、4により定められた制度で、業務遂行の手段や方法、時間配分などを労働者自身の裁量に委ねる必要がある場合に適用される勤務形態のことです。裁量労働制はすべての人に適用できるわけではありません。
裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。専門業務型裁量労働制とは、厚生労働省が定めている、19の職種に従事する従業員が適用可能な業務形態です。新商品の研究開発担当者や公認会計士、コピーライターなどの業務が該当します。一方、企画業務型裁量労働制とは、事業運営上の重要な決定がおこなわれる本社や本店などにおいて、企画、立案、調査および分析をおこなう従業員に対して適用できる業務形態です。
このように、「事業場外みなし労働時間制」と「裁量労働制」は、みなし労働時間制の一種ですが、適用できる職種に違いがみられます。
関連記事:裁量労働制は残業代が出ない?計算方法や休日出勤・深夜労働についてわかりやすく解説!
2. みなし残業と固定残業の違いとは?
みなし残業と固定残業はしばしば混同されがちで、実際、同義で用いているケースがほとんどです。ここでは、固定残業とはどのような制度かを説明したうえで、みなし残業と固定残業の違いについて詳しく紹介します。
2-1. 固定残業とは?
固定残業とは、固定残業代制を採用している場合に支給されていることが決まっている残業代のことです。 固定残業代には、基本給に加えて固定残業代を支払う「手当型」と、基本給に固定残業代を含める「組込型」の2種類があります。
関連記事:固定残業代とは?手当型と組込型の違いや就業規則・労働条件通知書への記載についてわかりやすく解説
2-2. みなし残業と固定残業の違い
固定残業代制とみなし残業代制は同じ意味合いで用いられます。そのため、固定残業代制における「固定残業」とみなし残業代制の「みなし残業」は同義です。
しかし、みなし残業は、「みなし残業代制の残業」と「みなし労働時間制の残業」の両者を包括した表現です。みなし残業代制(固定残業代制)には、職種による制限がありません。そのため、使用者の裁量で適用することが可能です。一方、みなし労働時間制は、導入できる職種や業務内容が限定されています。
このように、みなし残業代制(固定残業代制)のみなし残業なのか、みなし労働時間制のみなし残業なのかを明確に判断できるようにすることが大切です。
関連記事:みなし労働時間制は違法?運用の際の注意点について解説
3. みなし残業(固定残業)のメリット
ここでは、みなし残業代制(固定残業代制)におけるみなし残業(固定残業)を導入するメリットについて詳しく紹介します。
3-1. 労働生産性の向上が期待できる
みなし残業(固定残業)を導入すると、残業をしてもしなくても、従業員に支払われる給与はほとんど変わりません。そのため、無駄な残業を減らし、業務効率化しようとする従業員が増え、労働生産性が向上します。結果として、企業の業績アップが期待できます。
3-2. 残業代計算の負担を軽減できる
固定残業代制を導入することで、残業代計算の負担を軽減することができます。たとえば1カ月あたり30時間分のみなし残業手当を支給する場合、残業時間が30時間までであれば、支給する給与に変動が起きないので、毎月の残業代計算が簡素化されます。
また、みなし残業代制により、支払うべき残業代が明確になり、発生する人件費が把握しやすくなります。正確な人件費を予測できれば、適切な経営戦略に役立てることが可能です。
3-3. 従業員の十分な生活を保障できる
みなし残業代制を導入すれば、従業員は毎月基本給に加えて固定残業代を受け取れるため、生活にゆとりをもたせることができます。
たとえば、月給25万円に加えて、5万円のみなし残業手当が支給される場合、毎月30万円以上の給与を受け取ることが可能です。一方、みなし残業代を導入しない場合、残業の有無によって、支給される給与は変動します。残業がまったくない場合、月給25万円のみの支給となり、生活が苦しいと感じる従業員もいるかもしれません。
このように、固定残業代制は、従業員の生活を保障できるのもメリットといえます。
関連記事:固定残業代を設ける2つのメリットと押さえておきたいデメリット
4. みなし残業(固定残業)のデメリット
みなし残業代制(固定残業代制)にはメリットだけでなく、デメリットもあります。ここでは、みなし残業(固定残業)を導入するデメリットについて詳しく紹介します。
4-1. 人件費の負担が大きくなる可能性がある
みなし残業代を導入すれば、残業代計算の負担が軽減されたり、人件費の予測がしやすくなったりするメリットを得られます。しかし、残業がまったく発生しないのにも関わらず、固定残業代制を導入すると、人件費の高騰へとつながります。そのため、本当にみなし残業代制が必要かどうかを従業員の労働時間の実績などから見極めたうえで、導入を検討しましょう。
4-2. 長時間労働やサービス残業が発生する恐れがある
固定残業代制では、みなし残業時間を超えて働いた場合、その時間に対してはみなし残業代にプラスで残業代が支給されます。みなし残業代制が導入されているから、いくらでも残業してもよいと考える従業員もいるかもしれません。このような従業員の理解不足により、長時間労働やサービス残業が発生し、従業員の健康に悪影響を及ぼす恐れがあります。みなし残業代制を導入する場合は、きちんとその制度の内容を従業員に周知することが大切です。
固定残業とみなし残業は非常に混同されやすいです。きちんとそれぞれの規定に則って運用しましょう。当サイトでお配している無料ガイドブック「固定残業代制度ルールBOOK|残業代の計算方法や導入する際の注意点を解説!」では、それぞれの制度の違いについてを、表を用いてわかりやすく解説しています。
また、固定残業代制を導入する際のメリットや、導入する際の手順など、固定残業代制の基本についての情報もこの一冊で把握することができます。法律に則って、正しく固定残業代制を運用したいとお考えの方は、こちらから「固定残業代制度ルールBOOK」をダウンロードして、自社の制度を見直してみましょう。
5. みなし残業と固定残業の間違いやすいポイント
ここでは、みなし残業や固定残業を導入するにあたって、間違いやすいポイントについて詳しく紹介します。
5-1. 労働条件通知書や雇用契約書への明記が必要
みなし残業代制を導入する場合、労働条件通知書や雇用契約書に明記が必要です。労働基準法第15条により、実態と労働条件通知書の内容が相違する場合、従業員は労働契約を即時解約することができます。労働者とトラブルを生まないために、求人票にも固定残業代制についてきちんと記載するようにしましょう。また、みなし残業代制は賃金に関する規定であるため、労働基準法第89条により、就業規則に明記したうえで、届け出をおこなう必要があります。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。(省略)
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
関連記事:雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?兼用可能?記載事項や作成しない場合の罰則を解説
5-2. 残業代の支払いが必要なケースもある
みなし残業代制(固定残業代制)を導入すれば、それ以上の残業代を支給しなくてよいと誤解している人もいるかもしれません。みなし残業として設定した時間を超えて残業をさせる場合、みなし残業手当とは別に残業代を支給する必要があります。
また、労働基準法第32条で定められた法定労働時間を超える場合、時間外労働の割増賃金の支払いが必要になります。なお、時間外労働が月60時間を超えると、割増賃金率を25%から50%に引き上げなければならないので注意が必要です。
(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
関連記事:固定残業代(みなし残業代)の計算方法とは?超過分の計算も詳しく解説
5-3. 深夜労働や休日労働の割増賃金は別で支給する必要あり
従業員が時間外労働、深夜労働、休日労働をおこなった場合、割増賃金を支給する必要があります。固定残業代制を導入している場合、深夜労働や休日労働の割増賃金は、固定残業代と別に支給しなければなりません。ただし、深夜労働の手当などをみなし残業代に含めている場合、この限りではありません。みなし残業代に、深夜労働の手当などを含める場合、就業規則や労働条件通知書・雇用契約書などにもきちんと明記しましょう。
5-4. 不利益変更となる場合は従業員の同意が必要
労働契約法第9条により、みなし残業代制を導入することで、従業員が不利益を被る場合、原則として従業員の同意が必要になります。従業員の同意を得ず、固定残業代制を導入し、労働者が不利益を被ったら、損害賠償を請求される恐れがあるので注意が必要です。
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない(省略)
5-5. みなし残業時間には上限がある
時間外労働や休日労働をさせる場合、36協定の締結が必要です。36協定を結んだとしても、原則として、月45時間、年360時間までしか残業させることができません。
臨時的な事情がある場合、特別条項付き36協定を締結すれば、上限を延長させることができます。しかし、臨時的な事情がないのにも関わらず、みなし残業時間を月45時間を超えて設定することは違法となる可能性があります。そのため、固定残業時間を設定する際は上限に注意しましょう。
関連記事:固定残業代(みなし残業代)40時間はやばい?設定の注意点も解説
5-6. 残業単価が最低賃金を下回っていないか確認する
固定残業として支給する残業代は、国が定める最低賃金を下回らないように気を付けましょう。たとえば「みなし残業3万円、40時間分」とした場合、残業単価は750円になってしまいます。最低賃金は都道府県によって異なります。また、毎年更新される可能性があるので、最新の情報をきちんと確認するようにしましょう。
関連記事:労働基準法における最低賃金とは?基準や罰則を徹底解説
6. みなし残業と固定残業のルールや両者の違いをしっかり理解しよう
みなし残業には「みなし残業代制」と「みなし労働時間制」の2種類があるので、みなし残業と固定残業が同義とは限りません。ただし、固定残業とみなし残業代制のみなし残業は同義で、どちらも実際の残業時間にかかわらず、一定の時間外労働手当が支給される制度のことです。
みなし残業・固定残業の導入は労使の両方にメリットがあります。しかし、みなし残業代制(固定残業代制)には、残業時間の上限など一定のルールがあるので、あらかじめ制度をよく理解しておきましょう。
「固定残業とみなし残業の違いがよくわからない」「固定残業代の計算方法や、違法にならない制度運用を知りたい」とお考えではありませんか?
当サイトでは、固定残業とみなし残業の違いから固定残業代の計算方法、適切な運用についてまとめた「固定残業代制度ルールBOOK」を無料で配布しております。
自社の固定残業やみなし残業の制度運用に不安がある方は、こちらからダウンロードしてご覧ください。