給与計算はうっかり忘れや計算ミスが許されない業務です。税金や保険も絡んでいるため、十分な知識と計算能力が求められます。不慣れだとなかなかスムーズにすすみません。
本記事では複雑な給与計算方法を、5つのステップに分けてわかりやすく解説します。各計算に必要な情報も掲載していますので、給与計算でお困りの際はぜひお役立てください。
関連記事:給与計算とは|概要から手取りの計算方法まで基礎知識を総まとめ
「自社の給与計算の方法があっているか不安」
「労働時間の集計や残業代の計算があっているか確認したい」
「社会保険や所得税・住民税などの計算方法があっているか不安」
など給与計算に関して不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けて当サイトでは「給与計算パーフェクトマニュアル」という資料を無料配布しています。
本資料では労働時間の集計から給与明細の作成まで給与計算の一連の流れを詳細に解説しており、間違えやすい保険料率や計算方法についてもわかりやすく解説しています。
給与計算の担当者の方にとっては大変参考になる資料となっておりますので興味のある方はぜひご覧ください。
1.給与計算とは?仕組みやスケジュールについて解説
給与計算とは、働いている従業員の給与を支払うまでの一連のプロセスのことです。
基本給の計算はもちろん、社会保険の控除など複雑な業務が必要です。
また給与計算には月間、年間である程度スケジュールが決まっています。下記の図はその例です。
2. 給与計算の流れを5ステップで解説
給与計算の流れを5つのステップで見ていきましょう。
給与計算の流れは主に下記の5つです。
- 総支給額を計算
- 社会保険・雇用保険の控除
- 所得税・住民税の控除
- 労使協定やその他の控除項目を控除
- 支給額(手取り額)を算出
注意点も交えてお話しますので、スムーズな給与計算にお役立てください。実際に計算しながら読み進めていただけますと、支給額を簡単に求められます。
関連記事:給与計算の初心者が押さえておきたい準備や正しい手順
2-1. 総支給額を計算
総支給額とは、基本給に手当をプラスした金額です。「額面金額」と呼ぶこともあります。
総支給額を求める際は
基本給 + 各種手当 -欠勤控除 =総支給額
この式を使います。
基本給・各種手当・欠勤控除の出し方は以下の通りです。
基本給(月給制の場合) |
手当や控除を一切含まない基本手当で、労働者ごとに決まっています。 役職手当や住宅手当などの金額が固定されている手当や時間外労働や休日出勤、交通費などの金額が変動する手当なども含みません。 |
各種手当 |
時間外労働手当・通勤手当・役職手当・家族手当・住宅手当など、基本給に含まれない諸手当です。 企業によって名前が異なりますが、基本給に付随して支払う賃金すべてを指します。 |
欠勤控除 |
給与計算をする期間内にあった欠勤・遅刻・早退などで引かれる賃金です。 |
各種手当は種類が多く、労働者ごとに内容が異なるため、計算が複雑な部分です。特に毎月変動する時間外労働手当の計算は厄介で、時間がかかります。
勤怠管理システムを導入していれば自動で算出できますが、アナログな方法で計算する場合は以下の式で求められます。
月給 ÷ 1ヶ月の所定労働時間 =1時間当たりの賃金
労働時間 × 1時間あたりの賃金 × 割増率 =時間外労働手当
割増率は、労働基準法によって最低基準が定められています。
労働内容 |
割増率 |
残業 |
25%以上 |
深夜労働 |
25%以上 |
月60時間を超える残業 |
50%以上 |
休日労働 |
35%以上 |
この割増率の最低ラインを厳守していることを確認しつつ、時間外労働手当を計算しましょう。各種手当の金額が出れば、残りの計算はさほど複雑ではありません。
2-2. 社会保険・雇用保険の控除
総支給額が出ても、給与計算はまだ終わりません。次は各種保険料の控除を行います。
一般的な企業の保険は
- 社会保険(健康保険・厚生年金保険・介護保険)
- 雇用保険
- 労災保険
この3つです。このうちの労災保険は、従業員に保険料の負担が発生しないため、給与計算時は無視して問題ありません。
社会保険は企業側と労働者が折半で負担しているもので、労働者側の各種保険料は以下の式で求めます。
【社会保険料】
標準報酬月額 × 保険料率 = 各種保険料
標準報酬月額とは、原則4月~6月の給与総額を平均した金額で、毎年算出します。この金額にそれぞれの保険料率をかけたものが社会保険料です。
【雇用保険料】
総支給額 × 保険料率 =雇用保険料
雇用保険についても、会社負担の方が多くなりますが、会社と労働者で負担しています。
雇用保険の保険料率は、業種によって違いがあります。詳細は厚生労働省のホームページで確認できますので、保険料率が分からない場合はご確認ください。
関連記事:給与計算によって決まる社会保険料について計算方法や注意点を徹底解説
2-3. 所得税・住民税の控除
保険料の控除額が算出できたら、次に給与から控除する税金を計算します。
税金とは、下記の2つです。
- 所得税
- 住民税
ただし、中途採用の場合など一定の理由がある場合、住民税については、労働者が個人で税金を納める「普通徴収」の場合があります。その場合、この計算は不要です。会社員は原則「特別徴収」であるため、基本的にこの計算を実施します。
【所得税】
所得税は給与の「課税対象額」と「扶養親族の数」を「源泉徴収税額表」に当てはめて計算します。課税対象額を求める式は以下の通りです。
総支給額 – 非課税対象の諸手当 – 社会保険料と雇用保険料 =課税対象額
扶養親族とは、以下の条件を満たす者のことを指します。
- 所得が48万円以下の配偶者
- 満16歳以上で所得が48万円以下の親族
扶養家族の人数は労働者側から申告してもらうものです。変化があった場合は、すぐに申告書を提出してもらうように周知しておきましょう。
国税庁の源泉徴収税額表は、必ずその年のものを確認しましょう。以下のリンクは令和6年分の源泉徴収税額表ですので、年度にご注意ください。
関連記事:給与計算によって決まる所得税について計算方法や源泉徴収を詳しく紹介
関連記事:給与計算によって決まる住民税について算出の仕方や気をつけたいポイントを解説
2-4. 労使協定やその他の控除項目を控除
最後は労使協定に基づいた控除や、会社が就業規則によって独自に定めている控除を行います。企業によって内容は大きく異なりますが、代表的なものは以下の通りです。
- 労働組合費
- 財形貯蓄
- 社宅の利用費
- 親睦会費
毎月固定の金額を控除することが多いですが、念のため変更がないか毎回確認しましょう。
2-5. 支給額(手取り額)を算出
ここまでのステップで総支給額・保険料・その他控除額・税金が求められていれば、あとは簡単な計算で支給額を求められます。
総支給額 – 保険料 – その他控除額 – 税金 = 支給額
この式で労働者に支給する給与の算出ができます。
端数が出た場合は、切り捨てをしてはいけません。例えば、時間外労働手当が1,517.8円発生した際に、1円未満の端数を切り捨てて1,517円の支給にすることは違法になります。基本的には切り上げで計算し、1,518円を支給します。
このように、給与計算をおこなう際には欠かせないステップがあり、どこかで計算ミスをすると、その他の計算にも狂いが出るため、ミスが許されない業務です。特に複雑でミスが発生しやすいのが社会保険料の計算であり、その後の所得税の計算にも影響を与えてしまいます。当サイトでは、社会保険料の計算についてわかりやすく解説した資料を無料でお配りしています。社会保険料の計算を正しくおこない、ミスなく給与計算をしたい方はこちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
3. 給与計算をマスターするためのポイントと注意点
給与計算は正しく、明確な基準で行わないとトラブルに発展しやすいです。間違いのない給与計算をするためのポイントを解説します。
関連記事:給与計算を基礎から徹底解説!ミス発生時の対応も詳しく解説
3-1. 賃金支払5原則を必ず守る
まずは賃金支払5原則を知っておきましょう。労働基準法で定められたもので、厳守しなくてはいけません。
①通貨で支払う
賃金は日本円かつ現金(口座振り込みを含む)で支払わなくてはいけません。
ただし、労使協約で規定を設けている場合や退職金の支払いなどでは例外が存在します。
②直接本人に支払う
賃金は労働者本人に支払わなくてはいけません。
ただし、本人が病気や怪我などの理由で受け取れない場合は、配偶者への支払いをはじめ、確実に賃金が渡される方法で支払うことが可能です。
③全額支払う
法や労使協定で定められていない限り、賃金は全額支払わなくてはいけません。
④毎月1回以上支払う
賃金は毎月1回以上支払わなくてはいけません。
⑤一定の期日で支払う
賃金は締日と支払日を定め、一定の期日を守って支払わなくてはいけません。
これらは給与計算・支払いの大前提です。必ず守るようにしましょう。
3-2. 最低賃金ルール
日本には地域別の最低賃金が定められています。最低賃金以下での労働は違法です。
毎年見直しが行われるものですので、必ずその都度確認し、労働者全員の給与が最低賃金を上回っていることを確認しましょう。
3-3. 残業代は正確に計算する
時間外労働や休日労働の割増賃金の計算は複雑で時間がかかる部分です。労働者ひとりひとりの勤怠を確認して残業時間を計算し、それに時間単価を算出したり、割増率を使ったりして計算する必要があります。
法定休日と法定外休日の扱いや、変形労働時間制での残業時間の計算は特に複雑です。勤怠管理システムを導入していない場合は、計算ミスが起こりやすい部分ですので十分に注意しましょう。
4. 給与計算をスムーズに行うには事前準備が重要
給与計算はミスが許されない業務です。少人数の事業場であれば負担は軽いですが、労働者の数が増えればその分計算業務が増え、大きな時間と労力を取られる業務になります。
そんな給与計算をスムーズに行うには、事前に保険料率や税率を確認し、従業員の家族構成を分かりやすくまとめておくことが重要です。
加えて、勤怠管理システムを導入すると、計算業務を大きく減らせます。変化する税率にも対応できますので、給与計算にお困りの際はぜひ検討してみてください。