経営環境の変化が激しい状況で、企業が競争に勝ち残り存続し続けるには、組織とメンバーを引っ張って、成果を生み出すリーダーの存在が必要です。
では、リーダーに必要とされるリーダーシップを社員に発揮してもらうには、どのような研修や教育が必要なのでしょうか。
本記事では、リーダーシップの定義や種類、理論の解説、リーダーシップに必要な要素や能力など、具体例を含めて解説します。
1. リーダーシップとは
組織が効率よく活動するには、メンバー全体をまとめるリーダーの存在が不可欠です。
そしてリーダーには、組織の指導者として、メンバーを統率して目標に導くために必要な能力や資質であるリーダーシップが必要です。
1-1. リーダーシップの定義と種類
リーダーシップとは、「組織の目標を達成するために、個人やチームに対して行動を促すことによって、成果を出す能力」を指します。
リーダーシップについては、古くから様々な学者によって研究され、定義づけやリーダーシップのスタイルによる分類がおこなわれています。
リーダーシップ理論に関する実験で有名なものに「アイオワ研究」があります。
「アイオワ研究」は、社会心理学の父と呼ばれるアメリカの心理学者クルト・レヴィンの指導の下、アイオワ大学の研究生だったロナルド・リピットとラルフ・ホワイトがおこなった実験です。
アイオワ研究では、実験に基づいてリーダーシップのタイプを、以下の3つに分類しています。
①専制型リーダーシップ
専制型リーダーシップとは、意思決定、作業手順などすべての集団行動に対してリーダーが指示・命令をおこなうスタイルです。
短期的には他のリーダーシップスタイルよりも高い生産性を発揮できるため、失敗が許されないような重要なプロジェクトへ取り組む際や積極性の低いメンバーを率いる場合に、高い効果を発揮します。
しかし、メンバーが自分で考えて行動する自立心を育てることができないため人材育成には向いていません。
②放任型リーダーシップ
放任型リーダーシップとは、リーダーがメンバーの行動に一切関与することなく、現場におけるすべての意思決定や決断をメンバーに任せるスタイルです。
それぞれのメンバーが優れた能力を持っている集団であれば成立することもありますが、組織のまとまりがなくメンバーのモチベーションや生産性を低下させる可能性があります。
③民主型リーダーシップ
民主型リーダーシップとは、リーダーはサポート役に回り、メンバーが作業方針や作業手順など直接関わる要素について自分達で話し合って決定していくスタイルです。
専制型リーダーシップに比べて、意思決定が遅くなるため、生産性が低くなりがちです。
しかし、長期的にはメンバーの主体性が育成されることで、生産性が上がるため、通常の業務では最も望ましいスタイルといえるのではないでしょうか。
1-2. リーダーシップとメンバーシップの必要性
リーダーシップを補完する役割として、メンバーシップという考え方があります。
メンバーシップとは、組織に属するメンバーが、自分自身の役割を果たして組織全体に貢献することです。
組織が効率よく動いて生産性を高めるには、リーダーシップを持ったリーダーが必要ですが、リーダー1人では目標を達成することはできません。
そこで、各自の役割をしっかりと理解し、行動することで組織に貢献するメンバーシップが不可欠です。
1-3. リーダーシップとマネジメントの違い
経済学者で、マネジメントの父と呼ばれているピーター・ドラッカーは、リーダーシップとマネジメントを以下のように定義しています。
リーダーシップ:組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に確立すること
マネジメント:組織に成果を上げさせるための道具、機能、期間
つまり、リーダーシップは具体的な目標や結果を示す役割を持ち、一方のマネジメントはその手段や、どのように目標を達成するのかを示す役割を持っています。
具体的には、以下の通りに分類されます。
2. PM理論におけるリーダーシップ
PM理論とは、リーダーに求められる言動に注目した行動理論の一種です。この考え方では、目標達成機能(Performance)と集団維持機能(Maintenance)のどちらを重視するのかをPとMで表します。
目標達成機能(P)では成果を上げることを重視します。逆に、集団維持機能(M)では、リーダーはチームをまとめることに注力します。Pを重視しすぎると集団がまとまりにくくなる一方、Mを重視すると成果が上がりにくくなります。
PM理論においては、目標達成と集団維持という両方の能力を強化することが肝心です。目標達成のための計画力やチームワーク向上の管理力をバランスよく強化し、理想的なリーダーシップを発揮したいものです。
3. リーダーシップをとる方法
前章では、リーダーシップの種類やマネジメントとの違いについて解説しました。
本章では、具体的にリーダーが取るべき行動からリーダーシップをとる方法をご紹介します。
目標を設計する
リーダーは、組織の目標を設計する必要があります。
「組織がどのような方向に進むのか」「これから何に取り組むのか」というように、チームのメンバーが今後の動きを把握できるように、明確な目標を設計することが重要です。
計画を立てる
目標を設計した後は、どのようにその目標達成するのか、計画を立てる必要があります。
ここでも、「誰が・いつまでに・何をやるのか」といったように、メンバーごとに業務のすみ分けをして、計画を立てなければなりません。
しかし、優秀なリーダーであってもすべてが計画通りに進むとは限りません。
計画通りに進まなかったとしても、目標を達成できる「修正力」がリーダーには求められます。
モチベーション管理
リーダーには、コミュニケーションを取りながら、メンバーのモチベーションを維持・向上させて、組織全体を活性化させる必要があります。
モチベーションが高まると、社員の生産性が上がり、離職防止につながるなどの効果が見込めます。
モチベーションを管理は、短期的に効果が見えないため、長期的にPDCAを回しながら施策を考える必要があります。
業務の効率化を図る
チームでの成果を出すためには、業務の無駄をなくしたり、優先順位をつけたりするなど、業務を効率化することで生産性を高める必要があります。
労働生産性を高めるには、社員1人ひとりの業務を把握したり、業務を標準化したりするなど、メンバー1人ひとりを見る視点と、組織全体を見る視点の両方持つことが重要です。
また、RPA(Robotic Process Automation)などのIT技術を活用することで、パソコンでおこなう定型業務をプログラム上のロボットに覚えさせ自動化することで、人の手で数時間かかっていた作業を一瞬で終わらせることもできます。
リーダーは、どのITツールを活用すれば業務が効率化するかも考えなければなりません。
結果を確認して振り返る
リーダーには、チームメンバーへの成果の振り返りと自分自身の振り返りの2つを実施する必要があります。
チームメンバーへの振り返りでは、成果を正当に評価し、フィードバックすることで、メンバーのマインドセットにもつながります。
そのため、リーダーは部下の視点に立ち、どのようにフィードバックしたらメンバーのモチベーションが上がるのかを考えながら、メンバーへの振り返りを実施しましょう。
次に、自分への振り返りでは、自分自身を客観的に振り返る力が必要になります。
リーダーシップを発揮する人にはポジションが高い人が多いため、自分より上のポジションの人からフィードバックしてもらう機会が少なくなります。
よって、第三者の意見がなくとも、自分自身を客観的に振り返る力を養わなければなりません。
4. リーダーシップを取るために必要な力
組織でリーダーシップを取るためには、次のような能力が必要です。
①マネジメント力
マネジメント力では、目標を達成するためにどのような手段を使うか、どのような管理方法で計画を進めるかが問われます。
そのために、現在の組織にどのような課題があって、どのように解決するかを適切に判断しなければなりません。
また、ゴールまでの道筋を逆算して、計画立案、スケジュール作成、要人員調整、実行など、プロジェクトやチーム全体を俯瞰できる力が必要になります。
②判断力・対応力
いくらプロジェクトを成功させるために正しいプロジェクト管理を実践したとしても、想定外の出来事が発生する可能性はあります。
そのような不測の事態では、当初の計画を修正して乗り切る対応力が求められ、その対応策を的確に部下に伝えることも重要になります。
想定外の出来事に遭遇した際に、いかに迅速かつ適切に軌道修正できる判断をし、意思決定したことに対してやりきる能力も重要視されます。
③責任感
リーダーには、すべての課題や問題から逃げずに対応しようという自覚と責任感が必要です。
責任にはリーダー自身の言動による結果はもちろんのこと、メンバーが行動した結果についても責任を持たなければなりません。
リーダーは責任を負わなければならない立場のため、事前に問題になりそうなことをいち早く察知する必要があります。
4-1. ゴール設定力
リーダーシップを取る人にはゴール設定という大切な役割があります。
ゴールとなる目標がない状態ではチームが迷走しやすくなり、結果として業務が滞ってしまうおそれもあります。リーダーが業務の目的地を設定して率いる必要があります。
正しくゴールを設定する能力は、リーダーシップになによりも大切な要素です。
このとき重要なのは、単にゴールを決めることではなく、設定するゴールの難易度を見極めることです。簡単に達成できるゴールを設定しても業務効率は上がりません。だからといって、実現不可能なゴールを設定してしまうと、メンバーに大きな負担やストレスがかかってしまいます。リーダーシップを取る人には、ゴールの適切なレベルを見極める能力が欠かせないのです。
5. 社員にリーダーシップを発揮してもらう方法
企業の将来を考えた時、現在のリーダーをスキルアップさせるだけでなく、次世代のリーダー育成も同時に進める必要があります。
では、次世代のリーダーとなる人材を発掘・育成するにはどのような方法があるのでしょうか。
本章では、現在のリーダーをスキルアップさせたり、次世代のリーダーを育成させたりする研修方法について解説します。
5-1. リーダーシップを高める研修方法
リーダーシップのスキルを身につけるための研修は、多くの企業でおこなわれています。
リーダーシップ研修に求められる役割は、組織において自分が置かれているポジションや責任を認識し、実際の仕事やコミュニケーションで生かしていくための知識をインプットすることにあります。
そのため、リーダーシップ研修を考察する際には、以下の要素を取り入れる必要があります。
5-2. リーダーシップ研修の具体的な内容
リーダーシップを身に着けるためには、研修などで正しくリーダーシップを発揮する方法を伝える必要があります。
以下に、リーダーシップ研修のコンテンツ内容の一例をご紹介します。
1.リーダーシップとは? | ・リーダーシップとは ・リーダーとメンバーシップの必要性 ・リーダーのタイプを知る |
2.目標の立て方 |
・目標を立てるフレームワーク |
3.部下へのフィードバック |
・部下のマインドセットを整える方法 |
4.リーダーの仕事の進め方 |
・仕事の進め方の基本 |
5-3. リーダーシップ研修の対象者
リーダーシップ研修では、誰に向けて研修をおこなうかで内容を変更する必要があります。
また、対象者に対して、より効果的な研修にするためには、外部講師や研修会社に委託することで、社内にはない知見を取り入れて、研修を実施することができます。
①新任管理者向け(リーダークラス)
新たに管理者の役職についた社員には、新任管理者に向けた研修をおこなう必要があります。
新任管理職研修では、「新たな環境や役割の変化に応じた期待・求められるものへの理解」が軸になります。
新たに管理職になった人だけではなく、既存のリーダークラスの社員であっても、リーダーシップ能力が不足している人や、リーダーシップ能力を身に着けたいという人も対象にして、研修をおこないます。
②次世代リーダー向け
将来のリーダーになる可能性がある若手社員にリーダーシップ研修を実施することも効果的です。
次世代のリーダー社員は、現時点ではチームのメンバーであることが多いので、リーダーシップにおけるメンバーシップの必要性も研修で伝えることが必要になります。
若手社員がメンバーシップを理解することによって、チームにおける自分自身の役割を果たして組織全体に貢献するでしょう。
6. まとめ
現在、日本では次世代のリーダーが育てられずに、経営課題として後継者不足に悩む企業が多くあります。
リーダーを育てるためには、育成計画を立てて、研修や教育を実施し、社員にリーダーシップを身につけさせて、発揮できる環境を作ることが大切です。
また、リーダーの育成には時間と手間がかかります。
数年後の自社の将来を考えて、今から既存のリーダー育成や次世代のリーダーの育成に取り組んでみてはいかがでしょうか。