通勤手当のルールを決めるときに、労働基準法や課税・非課税の対象など、理解しておくべきことがいくつかあります。知らずに決めてしまうと、会社がルール違反に手を染めることになりかねません。本記事では、労働基準法における通勤手当の規定や通勤距離に関する課税の仕組み、ルールを決めるときの注意点などをお伝えします。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 通勤手当と交通費の違いは?
通勤手当は、交通費と同じではありません。通勤手当とは、労働者の通勤に関わる費用です。
たとえば、自宅から出社するときと、会社から自宅に戻るときにかかる費用が、通勤手当に該当します。勘定科目では、人件費となります。
一方、交通費とは、営業や出張、他店舗の応援など、仕事上で移動が必要なときにかかる費用です。勘定科目では、旅費交通費(または交通費・出張費)となります。
2. 労働基準法に通勤手当の規定はあるのか?
労働基準法には、通勤手当の支給を義務付ける内容は含まれていません。通勤手当は、各企業の裁量によって定めるものです。通勤手当を全額支給する企業もあれば、最大で月に3万円と定めている企業もあります。
また、従業員に定期券を購入してもらい、その代金を支払う場合であれば、支給金額を定期券の1カ月分の費用とするケースがある一方で、6カ月分を月割りにして支給するケースもあります。
このような違いが発生するのは、企業によってルールが異なるからです。通勤手当を支給しないというルールを定めても、法律上は何の問題もありません。ですが、支給しなければ、従業員に不満を持たれる可能性が高いです。
厚生労働省が令和2年に実施した調査によると、92.3%の企業が通勤手当を支給していることがわかりました。[注1]
通勤手当を支給すると、以下のようなメリットがあります。
- 求職者を集めやすくなる
- 従業員の安全・安心を確保できる
- 従業員の定着につながる
- 法人税を減税できる
従業員だけでなく、企業にもメリットが存在するため、できる限り通勤手当を支給することをおすすめします。
[注1]2賃金制度|厚生労働省
3. 通勤手当の支給のルールの定め方
通勤手当のルールを定めるときのポイントは、全部で3つです。それぞれの内容を、説明します。
3-1. 距離の定め方について
とくに、マイカーで通勤する従業員に通勤手当を出す場合、距離について明確な規定を設けておく必要があります。
直線距離をもとに計測することも1つの方法ですが、実際の距離より短くなってしまい、不満を抱く従業員がいるかもしれません。
そこでおすすめなのが、Googleマップを活用する方法です。自宅の住所と会社名を入力すれば、通勤に必要な距離をすぐに計測できます。客観的な数値が算出されるため、不公平が発生しません。
また、実際よりも長い距離を申告する従業員がいなくなるため、会社側にもメリットがあります。
3-2. 支払方法について
通勤手当の支払方法は、実費での支給が一般的です。
定期券の代金を支払う場合は、従業員に定期券を購入してもらい、後から代金を支払うことになります。
3-3. 通勤日数が少ない従業員がいる場合の対応について
従業員に通勤手当を支給している場合は、通勤日数がほかの従業員より少ない従業員に対しても、原則として通勤手当を支給しなければなりません。
とはいえ、以下のようなケースも考えられます。
- 長期の出張のため出社する日数が少ない従業員がいる
- 出社日数を考えると、定期券を購入させると通勤手当を通常より多く支払うことになる
大切なのは、実際のケースを想定したうえで、通勤手当の規定を就業規則に定めておくことです。
たとえば、以下のような内容です。
- 出張の回数に関わらず、出張にかかった費用は全額支給する
- 出張によってオフィスに出社しなかった日の通勤手当は支払わないものとする
- 定期券は、週に4日以上通勤する者のみ購入を許可する
きちんとルールを定めておくことで、従業員から通勤手当に関する質問が出たときに、慌てずに対応できます。
4. 通勤手当の距離に関する課税・非課税のルールは?
通勤手当の課税・非課税のルールは、平成28年1月1日に改正されました。[注2]
その内容をお伝えします。
4-1. 公共交通機関(電車やバスなど)や有料道路を利用する場合
上記のケースは、1カ月あたり15万円までは非課税の対象です。金額の定義について、国税庁は、合理的な運賃等の額と定めています。明らかに不必要な費用は、合理的とは見なされません。
定期券の金額を支給している場合や、公共交通機関に加えてマイカーや自転車なども利用して通勤している場合も、15万円までが非課税の対象です。
4-2. 公共交通機関以外(マイカーや自転車など)を利用する場合
公共交通機関以外で通勤する場合は、距離に応じて非課税の上限額が異なり、以下のルールが定められています。
下記の金額が、非課税の上限額です。
- 片道が2km未満 :全額課税
- 片道が2km以上10km未満 :4,200円
- 片道が10km以上15km未満 :7,100円
- 片道が15km以上25km未満 :12,900円
- 片道が25km以上35km未満 :18,700円
- 片道が35km以上45km未満 :24,400円
- 片道が45km以上55km未満 :28,000円
- 片道が55km以上:31,600円
5. 通勤手当を支給するときの注意点
通勤手当を支給する際は、以下の3つのことに注意しましょう。
5-1. 1つ目:正社員と非正規社員との間で差をつけない
もし、合理的な理由がない状況で差をつけてしまうと、非正規社員の方が不満を抱えてしまいます。
実際に、非正規社員の通勤手当を正社員の半額に設定した企業があり、裁判所は違法という判決を下しました。
裁判官は「正社員と非正規社員の勤務形態に異なる点は存在せず、通勤手当に差があるのは不法行為である」と判断し、非正規社員の損害賠償請求が裁判所によって認められました。
人事担当の方であれば、頭に入れておくべき事例です。
5-2. 2つ目:不正受給を防ぐ方法を構築して従業員に徹底させる
通勤手当の不正受給に関して、会社としては従業員のことをあまり疑いたくないものです。しかし大切なのは、不正をさせない仕組みを作ることです。
たとえば、以下のようなルールを決めて、就業規則に明記しておきましょう。
- 定期券については、コピーしたものを提出する
- 通勤距離は、従業員ではなく会社が計測する
- 通勤区間が変更になった場合は、必ず申告する
万一、通勤手当をごまかした従業員がいた場合、不正の証拠がない状況で処分を下してしまうと、処分の内容によっては会社側が不利益を受ける可能性があります。処分を行う場合は証拠を集めたうえで、適切な方法で対処しましょう。
5-3. 3つ目:社会保険料の対象となる
課税・非課税のルールの項目で説明したとおり、通勤手段や距離によって所得税の対象にならない(非課税になる)ケースもありますが、社会保険料の対象です。
ですので、通勤手当の支給額によって社会保険料に違いが発生することを念頭に置いておきましょう。
6. 公平な通勤手当の支給を
通勤手当のルールは1度決めればいいものではなく、状況に応じて変えていくべきです。
テレワークを実施している企業であれば、定期券の購入ルールを見直すといった対応が必要になるかもしれません。
また、部署によって通勤日数に差がある企業や、出社するかどうかの判断を個人に委ねている企業の場合は、従業員の間に不公平が生まれないように、状況に合わせたルールを細かく設定する必要があります。
あなたの会社の状況に合わせて、臨機応変にルールを定めることを心がけてください。
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