近年では働き方改革や人的資本経営といった流れを受けて、組織開発を人事が主導し、生産性高く働く組織を目指す企業が増えてきました。この記事では、組織開発とは何か、人材開発との違いを交えながらわかりやすく解説します。また、組織開発の目的や手法、フレームワークについても紹介します。
目次
1. 組織開発とは何か?
組織開発とは、組織内の人間関係を強化し、全体のパフォーマンスを向上させるための取り組みを指します。「OD:Organization Development」と英語で表記されることもあります。1950年代のアメリカで生まれたこの概念は、行動科学を基に、組織内の課題を明らかにし、それらを解決するためのプロセスに焦点を当てています。組織の健全化と活性化を目指し、従業員一人ひとりが解決策を考え、実行に移すことが特徴です。ここでは、組織開発が注目される理由や、組織開発の目的と重要性について詳しく紹介します。
1-1. 組織開発が注目される背景
現代社会では年功序列や終身雇用制度が崩壊しつつあり、成果主義や時短勤務、テレワーク、ダブルワークといった多様な働き方が推進されています。このような新しい働き方に対応して企業を成長させるには、環境の変化に柔軟に対応できる組織を作り出す必要があります。
また、少子高齢化の影響により労働人口が減少しており、企業が存続し続けるためには、限られた人材で成果を出せる組織を構築しなければなりません。そのためには、多様な価値観を持った人材を受け入れ、その能力を最大限に引き出す必要があります。このような背景・理由から、人と人の結びつきに着目する「組織開発」に注目が集まっています。
1-2. 組織開発の目的と重要性
組織開発の主な目的は、組織全体のパフォーマンスを高めることです。組織の課題を明らかにし解決することで、従業員のモチベーション向上、チームワークの強化、組織内コミュニケーションの改善などにつながり、組織をよりよい方向へと発展させることができます。組織開発は、現代の急激に変化するビジネス環境に迅速に対応し、持続可能な成長を達成するために不可欠といえます。
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2. 組織開発と人材開発の違い
組織開発と似た用語に人材開発があります。ここでは、組織開発と人材開発の違いについて詳しく紹介します。
2-1. 組織開発の焦点
組織開発は、個々の従業員ではなく、組織全体の構造や、プロセス、文化に焦点を当てます。目標は、組織内の相互作用と関係性を強化し、全体としてのパフォーマンスを向上させることです。
2-2. 人材開発との比較
人材開発は、個々の従業員のスキルや能力の向上に重点を置きます。研修やOJT、外部セミナー、自己学習などを通じて、従業員の個人的な成長を促進します。たとえば、新卒社員に対するビジネスマナーや企業・事業理解の研修が人材開発に含まれます。
一方、組織開発は、個人の成長を超え、組織全体の効果性を高めることを目指します。組織開発では評価制度の変更や人事配置の見直し、ワークフローの再構築、コミュニケーションの改善といったアプローチを取ります。たとえば、従業員同士の関係性を強化するためのワークショップが組織開発に該当します。
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3. 組織開発のメリット
組織開発に取り組むことで、さまざまなメリットが得られます。ここでは、組織開発のメリットについて詳しく紹介します。
3-1. 組織全体の生産性を向上できる
近年では働き方改革の影響もあり、分業が進んでおり、横のつながりが希薄化しているといわれています。横のつながりが弱くなると、コミュニケーションが少なくなり、組織に属しているという帰属意識が低下する可能性があります。また、情報共有が遅れることで、認識齟齬による致命的なミスが生じる恐れもあります。
組織開発を実施して、人と人、部門と部門といった横のつながりを強化することで、まとまりのある組織を作り出すことができます。情報共有がしやすくなり、組織全体の生産性を向上させることも可能です。
3-2. 従業員エンゲージメントの向上が期待できる
組織開発により、良好な人間関係や職場環境が築かれることで、働きやすい組織を生み出すことができます。このような組織では、自分の意見を言いやすく、助け合いの文化も醸成されているので、組織に対する愛着心や帰属意識が高まっていきます。結果として、従業員エンゲージメントが高まり、仕事へのモチベーションの向上や定着率の上昇が期待できます。
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3-3. 環境変化に柔軟に対応できる組織を構築できる
近年ではテクノロジーの発展により、ビジネス環境は目まぐるしく変化しています。このような社会では、従来のやり方が通じない可能性も十分にありえます。そのため、環境の変化にあわせて組織も柔軟に変化しなければなりません。組織開発を実施することで、変化を受け入れやすい組織を作り出せるので、新しい戦略や技術を導入したり、組織構造を変革したりすることがしやすくなります。これにより、市場変化や競争環境に適応しやすい組織を構築することが可能です。
4. 組織開発のデメリット
組織開発は正しく取り組まなければ、デメリットが生じる恐れもあります。ここでは、組織開発のデメリットについて詳しく紹介します。
4-1. コストがかかる
組織開発を実施するには、ノウハウが必要になります。そのため、人事担当者を育成したり、組織開発に関する豊富な知識や経験を持っている人材を外部から採用したりする必要があります。このように、組織開発を実施にはコストがかかるので、予算や目的を明確にしたうえで慎重に進めることが大切です。また、外部から人材を雇う余裕がない場合、組織開発コンサルティングを活用するのも一つの手です。
4-2. 従業員の不満につながる恐れがある
組織開発を実施する場合、組織の文化や業務の進め方などに変革が生じる可能性があります。変化を好まない従業員にとっては不満につながる恐れがあります。組織開発の目的や必要性を従業員にきちんと周知し、同意を得たうえで、施策を進めるようにしましょう。
4-3. 長期的な取り組みになる
組織開発は必ずしも成果が出るとは限りません。また、組織開発は施策をおこなってからすぐに効果が出るものでもありません。そのため、あらかじめ長期的な取り組みになることを押さえてきましょう。施策の実施と改善を繰り返し、ノウハウを蓄積させながら、組織開発を進めることで、結果が出やすくなります。
5. 組織開発の手法
組織開発は正しいステップにより進めることで、効果が期待できます。ここでは、組織開発の具体的な手法・流れについて詳しく紹介します。
5-1. 目的の明確化
組織開発は手段であり、目的ではありません。そのため、目的を曖昧にしたまま組織開発をおこなっても、期待しているような効果は得られません。組織開発を成功させるためには、まず自社のビジョンやミッションを明確化し、組織が目指すべき具体的な目的を設定することが重要です。
5-2. 現状把握
組織開発の目的を達成するためには、組織の現状を正確に把握することが重要です。組織開発を進める担当者の主観や漠然とした印象に基づくと、正確に組織の現状を把握できない可能性があります。そのため、従業員の意見を聞くヒアリングやアンケート調査などの客観的なデータに基づいて現状を分析し、事実から課題を特定することが大切です。
5-3. 課題の設定
課題が洗い出されたら、組織開発により解決する課題を設定します。現状把握の段階で個人に問題があると判断された場合は、従業員の資質やスキルに着目し、人材開発により課題解決にあたります。一方、グループやチームに課題がある場合は、組織開発により問題解決をおこないます。そのため、従業員一人ひとりではなく、メンバー同士や上司と部下といった関係性に着目してみると、組織開発で解決する課題を適切に設定することができるかもしれません。
5-4. スモールスタートによるアプローチ
組織開発により解決を目指す課題が設定できたら、具体的に施策を策定・実施します。組織開発は、中長期的に取り組むものです。そのため、短期的な目標を設定し、小規模なプロジェクトやチームでの取り組みから始め、その後全社に展開する方法が有効的です。このように、組織開発はスモールスタートのアプローチを取るのが推奨されます。
5-5. 効果検証・フィードバック
実施した取り組みの効果を検証し、必要に応じて改善策を講じます。定期的なフィードバックと効果測定により、組織開発の取り組みを継続的に改善していきます。このように、PDCAサイクルを回すことで、より効果的な組織開発をおこなうことが可能です。
5-6. 成功事例の共有・展開
成功した取り組みは、他の部署やチームにも共有し、組織全体での学びと成長を促進しましょう。成功事例の分析と共有により、ベストプラクティスを確立することで、別の組織にも効果的な施策を適用することができます。また、成功体験をシェアすることで、従業員のモチベーションも向上します。
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6. 組織開発のフレームワーク
組織開発はさまざまな方法でおこなわれています。ここでは、組織開発のフレームワークについて詳しく紹介します。自社のニーズにあったフレームワークを活用して、組織開発を進めてみましょう。
6-1. OKR(目標と成果の管理)
OKR(Objectives and Key Results)とは、目標設定と成果の追跡をおこなうためのフレームワークです。明確な目標と測定可能な成果を設定することで、組織の向かうべき方向を明確にすることができます。OKRでは目標設定と分析・評価を高頻度で繰り返すので、スピーディーに問題解決を進めることが可能です。OKRを活用する場合、人事評価システムを活用するのもおすすめです。
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6-2. バランススコアカード
バランススコアカード(BSC)とは、財務的な指標だけでなく、顧客や内部プロセス、学習と成長の観点から組織のパフォーマンスを測定する手法です。これにより、組織の戦略的な目標達成を目指すことができます。
6-3. ADKARモデル
ADKARモデルは、組織の変革や改善を達成するために、変更管理に焦点を当てたフレームワークです。Awareness(認識)、Desire(願望)、Knowledge(知識)、Ability(能力)、Reinforcement(強化)の5つのステップを通じて、組織内の変更を効果的に管理することができます。
6-4. チェンジマネジメントフレームワーク
チェンジマネジメントフレームワークとは、組織を変革・改善させる際、従業員に働きかけたり、環境を整備したりして、従業員の抵抗を最小限に抑えながら進めるフレームワークです。変更の「計画」「実施」「評価」の各ステージで、従業員に積極的に参加してもらい、必要に応じて支援をおこないましょう。
6-5. リーンスタートアップ
リーンスタートアップとは、最小限のリソースで新しいアイデアやプロジェクトを迅速に試験し、学習するためのフレームワークです。仮説の設定、実験、学習のサイクルを通じて、効率よく組織の革新と成長を目指すことができます。
6-6. マッキンゼーの7S
マッキンゼーの7Sとは、組織構造を4つのハード面と3つのソフト面に分解し、課題解決をおこなうためのフレームワークを指します。
【ハード】
- Structure:組織構造
- Strategy:戦略
- Systems:システム
【ソフト】
- Shared Values:共有価値観
- Skills:能力
- Style:組織風土
- Staff:人材
7つの要素は互いに関連しており、バランスよく整えることで、強固な組織を作り出すことができます。また、優先順位付けをおこなうことで、経営資源を割くべき課題が明確になり、リソースを最適化することが可能です。
6-7. ワールドカフェ
ワールドカフェとは、カフェでリラックスするような雰囲気のなかで自由に話し合う組織開発フレームワークを指します。ワールドカフェを導入すれば、普段意見を出しにくい人でも、気軽に発言することが可能です。これにより、相互理解が深まり、従業員同士のつながりを強化することができます。
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7. 組織開発のやり方を理解して正しく組織を成長させよう
現代は働き方だけでなく、ダイバーシティ・インクルージョン(D&I)の推進により人材も多様化しています。組織開発では、多様な従業員が共に働きやすい環境を整備するために、変化に柔軟な組織構造を構築することが求められています。また、システムやAIなどのテクノロジーの進展が日々組織開発に新たな可能性をもたらしています。サーベイツールや人事管理システムによる従業員データ分析、生成AIの活用、自動化ツールの導入などにより、組織のパフォーマンスを高める新しい方法が登場しています。今後はこれらのテクノロジーを活用し、組織の未来を形作ることが鍵になってくるでしょう。