「部下のマインドを変えたいけど、なかなかわかってくれない・・・」と毎日頭を悩ませている「上司」ことマネージャーや役職者。
メンバーとの日々の会話や面談のたびに「どうすればこの悩みを解消出来るのか」と懸命に考え、細心の注意を払って会話していることかと思います。
しかし、そのような想いに反して部下からは、「上司がわかってくれない」という会話が居酒屋で繰り広げられがちです。対処に対処を重ねるものの、「自己評価がやけに高い」部下は、いつまでも変わらぬまま――。
どうすれば部下のマインドや行動を変えることができるのか。
今回インタビューした井上顕滋さんから出た答えは、ビジネスの「当たり前」を明確に知り教えることでした。
【人物紹介】井上 顕滋 氏|リザルトデザイン株式会社 代表取締役
経営者・経営幹部専門の人材・組織開発コンサルタント。約30年以上の経営と部下育成の経験、更に世界最先端の心理学を各分野の第一人者から徹底的に学び、人が持つ能力を最大限に引き出す独自の能力開発メソッドを確立。理想の組織作りと、組織に対するロイヤリティを飛躍的に向上させることを専門とするリザルトデザイン(株)を2004年に設立。
井上さんの社員育成ノウハウがまとまっている、過去のインタビュー記事はこちら
目次
素直さ、謙虚さがない部下への根本解決は、「評価」を正しくとらえること
ー今回は、「面談・人事評価」での”あるある”な場面について伺いたいと思います。「自己評価がやけに高い」部下に対して、上司はそのマインドを変えようと努力するもののなかなか報われないことがあるかと思います。
井上さん:そうですね。端的にいうと、「素直じゃない、謙虚じゃない」という言葉が頭の中に浮かぶマネジャーや役職者の方が多いと思います。
しかし、部下のその姿勢が変わらずに、上司がいくら会話や面談での話ぶりを工夫してみたとて、対処でしかありません。
部下のためにも、根本解決をしたい。そのためには、私は「評価」というものについて正しくとらえることが必要なのだと思います。
それは面談などでの人事評価、という各論はもちろんですが、もっと大きな捉え方のお話です。
例えば、部下の目線で「この上司は私を認めてくれている」「成長したと理解してくれている」と判断している軸や主語は誰なのか、ということです。
部下の仕事の成果は、過程においても結果や成果においても、他者の評価によって測られます。この評価の「他者」という軸や主語、これが大切で、間違えてしまいますと問題が起こります。
こんな場面に遭遇しませんか。「私はすごく成長した」と面談で言う社員がいたとします。しかし、マネージャーからするとたいして成長していないと感じている。部下からの説明にそれほど同意できない。
そして面談をもって会社側から評価や処遇がなされるわけですが、「なんでこんな評価なんだ」「こんなはずじゃない」という不満のコメントが出たことはありませんか。
自分の能力を、本来の能力より高く見積もっている若手社員はよくいます。しかし、いざ難しい業務にのぞむと、たいして結果を出さない。なぜなら、本当はまだ能力が追いついていないからです。
しかし、自分の評価は高いので結果が出ないことを「何か」もしくは「誰か」のせいにして、言い訳をしたり、自分の出した結果を正当化しようとすることが多くなります。
ーつまりは、自己評価と上司からなされた評価にギャップがあるから不満につながるのですね。
ビジネスは「他者評価」という「当たり前」を認識することが重要
井上さん:あくまでビジネスの現場に限ってお話しますが、基本的にビジネスには「他者評価」しか存在しません。
他者からの評価は言い換えれば、「売上などの業績、営業成績、人事評価」などです。ビジネスに関わるうえでの鉄則です。
サービスや商品を購入していただく、売上利益に貢献したり、組織に貢献して人事評価をもらうなど、すべてのビジネスでの活動は、自己の行動に対する、あらゆるかたちに姿をかえた「他者」による評価で、成り立っています。
多くの企業が導入している人事評価における、絶対評価・相対評価にも、評価者から見た「他者評価」が多分に含まれています。
ーたしかに私も営業の頃は、「結果=お客様からの評価」だと教わりました。
井上さん:そうですよね。ここまでの前提にたったうえで、冒頭の上司の皆さんがストレスを感じる状況に戻ってみましょう。
面談の場面などでの部下の自己評価に、上司は同意できない。これは、部下つまり、評価される側が、自分で自分の仕事を評価している「自己評価」の状態であることが問題なのです。
だから、分かってもらえないとなってしまう。しかし、そもそもビジネスの現場はあらゆるものが「他者評価」であると分かっていれば、上司(他者)側からの評価を素直に受け入れることができるので、そもそも行き違いが起きません。
成果や貢献度が「基準以下」の状態で、高い評価を求める人というのは、その行為自体がさらに評価下げることにつながる可能性が高いので注意しなければなりません。
個人と組織の「成長」を実現する、「他者評価」で「自責」のアプローチ
井上さん:つまり自分への評価に「不満」を言う時点で、ビジネスの「当たり前」のルールがわかっていないのです。
こういう人は、「自己評価=正しい、他者評価=間違い」の感覚を持っているので、基本的に成長が遅い、もしくは成長しないと考えられます。
つまり皆さんの現場でよくいわれる「自責」「他責」という言葉につながってくるのですが、他者評価を素直に受け止めている人は、自然と「自責」において分析、対応行動ができるのです。
受け入れられない人が「他責」になるのは、いわずもがなですね。
部下が「周りからの評価が低い」と感じたときの解釈も、しっかり設定しておいた方がよいと思います。
- ×「評価が低い=自分の人格への否定」=間違った解釈
- ◯「評価が低い=自己評価が過大」=もっと仕事の基準を上げる必要あり
評価が低いことは、決して人間性や自己の否定ではないということと同時に、単に仕事の基準をもっと上げる必要があるのだというフィードバックとして捉えることが大切です。
幼少期の育ち方、教育環境、様々な要因で「自己評価」ビジネスマンが生まれる
ー「他者評価」を受け入れられない、逆にいうと自己評価のみの人というのは、なぜそうなってしまうのですか?
井上さん:原因は大きく4種類あります。
① 幼少期における父性愛の欠如
井上さん:幼少期に親からの「褒める」「受け入れる」一辺倒な関わり、つまりご両親が非常にやさしく温かいご家庭で、厳しい親なら強く叱る場面でも「母性愛」で受け入れてしまうタイプだった。
また厳しく努力と成長を促すことで、「親に認めてもらう努力」をする機会がないまま大人になったケースがそうです。
「ありのままの自分」を無条件に受け入れられてきたので、心は安定していて健全なのですが、他者からのネガティブなフィードバックに対する解釈や、どう向き合えばいいのかという感情のコントロールを訓練されていない。
それによって、他人からのポジティブな評価は受け取るが、ネガティブな評価に関しては受け入れない状態が基本となってしまっている。
② 過去の出来事によってつくられた思い込みによるもの:「他人は他人」だと信じている(それを、ビジネスにまで持ち込んでいる)
井上さん:特に思春期になると他人からどう見られているのかが急に気になり出します。
その頃に「他人は他人だから気にしなくていいよ」と親や友達から言われたり、耳にした経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
大人になってからも、ネットやソーシャルでのコメントの中に多くの「他者の評価は関係ない」という声があります。
ここで明確にしたいのは、あくまで「ビジネスにおいて」は他者評価が絶対であり、その仕事に関連するステークホルダーについてしっかりと評価を受け止めなければならないということです。
仮にプライベートの投稿に対して誹謗中傷や心ないコメントがあったとしても、それがビジネスに関係のない内容、または相手からであれば、それほど気にする必要はないと思います。
自身のビジネスのステークホルダーにおいては、他者評価。
また、個人の趣味や私生活での好き嫌いなどは自己評価で構いません。この「他者評価」を徹底する範疇を間違えないでいただきたいと思います。
③学生のときと社会に出てからの評価は違う、ということを理解できていない
井上さん:学生は、スポーツのように統一のルールと指標で順位という学力評価が出ます。
それに対して社会人(ビジネスにおいて)は、すべてに共通のルールも指標もなく、共通の正解がありません。
顧客や上司、同僚、部下を含めたステークホルダーからの「他者評価」という一点のみが、評価です。この違いに気づかず、学生時代の評価のままを引きずっている人が少なくありません。
社会人になった瞬間に評価基準と評価システムが大きく変わるのですが、そのことに気づかず、学生時代の評価を引きずってしまっていることが原因です。
●●大学卒、という高い学歴を評価としたまま社会人になり、なかなか仕事で芽が出ず、もっと学歴が下の同期に先を越され、「こんなはずでは・・・」と思う。そこで奮い立てれば素晴らしいのです。
本質的に「評価」の基準と仕組みが違うことを受け入れると、謙虚になれて、更に成長速度が上がりますよね。
④「知識がある」と「知識を使える」の違いに気付いていない
井上さん:高い学力をもっていた人に多く見られる傾向として、「能力」と「知識」を混同している人がいます。「知識がある」というだけで自己評価を高くしてしまっている人が多くいます。
「知っている」ということと、知識を「使える」ということは全く違います。
学力が高い若者の中には、それまで評価を得てきた同じやり方の延長線上で、さまざまなことを「知っている」ということを、「能力が高い」と思っている人が多い。
これは実際のビジネスでは能力ではなく、前提となる知識でしかありません。知識は潜在的な能力ではありますが、持っているだけでは役に立ちません。
知識を使って成果を出したり、組織に貢献できるようになったときに「能力」に変わるのです。
「他者」評価の基本に気づき、「自己評価」に「結果」を合わせていく解決策
ーここまでの話をふまえて、成長をしていく人材を育てるにはどうしたら良いのでしょうか。
井上さん:下記の順番で認識を正し、日々の仕事に向かう姿勢を変えてみると良いのではないでしょうか。
- ①ビジネスには「他者評価」しか存在しないという現実を受け入れさせる
- ②結果や評価を素直に謙虚に受け入れて、現在地を正しく認識させる
- ③評価の対象を明確に認識させ、そのうえでそれらの評価を上げることにフォーカスさせる
少し混乱させてしまうかもしれませんが、私は「自己評価が高いことは、素晴らしいことである」と考えています。
自己評価が低く自信を持てずに「挑戦しない謙虚な人」よりは、はるかに社会や組織に価値をもたらす可能性を秘めているのが、自己評価の高い人だからです。必要なことは他者評価を受け入れる「素直さと謙虚さ」だけです。
「自己評価に見合う上司がいるはず」、と転職を繰り返してしまう、終わらない旅に出ようとする部下の方も多いと思います。
上司である皆さんにとっては、とても残念は気持ちになりますよね。考え方を変えなければ、どこにいっても同じです。
どんな上司でも評価をしてもらえる自分になる、それが部下の皆さんにとっての本質的な解決です。
目の前の上司やお客様に評価される自分になる。それが本人にとっての成功の道であることに気づいてもらえると嬉しいですよね。