従業員から有給休暇の前借りを依頼された場合、企業はどのように対応したら良いのでしょうか。この記事では、有給休暇の前借りについて法的な観点から解説していきます。
有給休暇の前借りは、トラブルに発展しやすいため注意が必要です。要求に応じる場合は対策をおこない、正しく運用しましょう。
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有給休暇を前借させることは法律的に問題ありませんが、付与の基準日が他の従業員とずれてしまうため、注意が必要です。
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目次
1. 有給休暇の前借りとは?
有給の前借りとは、本来翌年に付与されるはずの休暇を、前倒しで付与することを認めるものです。
通常、有給休暇は勤続年数や所定労働日数によって1年間に与えられる日数が決められています。しかし、何かしらの事情で新しく付与される前に使い切ってしまった場合などにおいて、有給の前借りを求められるケースもあるのではないでしょうか。
このような場合、企業は要求に応じるべきか対応に悩むこともあるでしょう。
1-1. 有給休暇の前借りに応じる義務はない
有給の前借りに関することは、法律で規定されていないため、前借りそのものが違法にはなりません。しかし、企業は従業員からの前借りの要求に応じる義務もないのです。社内で前借りに関するルールを定めていなかったり、禁止していたりする場合は、受け入れる必要はありません。
法律で定める一定の日数を与えていれば、企業は付与義務を果たしていることになります。
また、前借りを認めた場合、本来有給を付与するはずの基準日がずれてしまうため、管理が複雑になってしまう可能性もあるでしょう。
有給休暇の消化は従業員の権利であり、自由に取得できるものでなければなりませんが、前借りに関する権利は存在しないため、その違いを理解しておくことが大切です。
2. 有給休暇の前借りを依頼されたときの対応方法
有給の前借り依頼に応じる義務はありませんが、状況によっては対応することもあるかもしれません。ここでは、適切な対応方法を4つ紹介します。
2-1. 特別休暇を付与する
社内で定める特別休暇であれば法律の適用外です。たとえば、リフレッシュ休暇やバースデー休暇などは特別休暇にあたるため、有給とは別に前倒しで与えられます。
また、お悔やみ事など、やむを得ず休む必要のある従業員には、前借りではなく慶弔休暇を付与するとスムーズに休暇が取得できるでしょう。
特別休暇を設ける場合は就業規則に規定し、従業員に周知しなければなりません。就業規則での定めがない場合は対応ができませんので、あらかじめ記載しておく必要があります。
2-2. 法定外の有給休暇を付与する
有給休暇はフルタイムの場合、入社から半年経過した段階で全労働日の8割出勤していれば10日付与しなければならないことが労働基準法で定められています。
このように法律で決められている有給休暇に関しては、前借りなどイレギュラーな対応をおこなうと後々トラブルに発展しやすいため、企業が独自に法定外の有給を付与すれば、支障なく前借りができるでしょう。
法定外有給に関しても、就業規則で定めなければなりません。
2-3. 有給を分割付与する
通常、有給休暇は早くても入社してから半年経たないと付与されないものです。しかし、一部の有給を入社した時点で先に付与し、基準日を迎えた段階で残りを付与することもできます。
たとえば、入社した4月1日に5日分を付与し、半年後の10月1日に残りの5日分を付与するというケースが考えられるでしょう。
しかし上記のケースで分割付与をおこなった場合、通常の基準日は10月1日ですが、前倒しで付与した4月1日が基準日に変わります。
分割付与は、法律で定めるタイミングよりも早く有給を付与するものなので、基準日のずれが生じて有給の管理がややこしくなるなど、企業側にとって負担になる可能性がある点に注意しましょう。
2-4. 試用期間中の従業員に前借りを依頼されたときの対応
試用期間中の従業員についても、先ほど紹介したような分割付与で前借り依頼に対応することが可能です。ただし本来は、入社してから6カ月に満たない従業員に対して有給休暇を付与する義務はありません。
また、試用期間は従業員の能力を確認したうえで本採用するかどうかを見極める期間であるため、無理に有給休暇の前借り依頼に対応する必要はないでしょう。試用期間中の従業員にも配慮したい場合は、管理が煩雑にならないよう特別休暇を付与するのがおすすめです。
このような前借りに対応する方法を含む有給休暇のルールは、法律に則って定め、就業規則に記載する必要があります。法律に違反している社内の規則は無効となるため、事前に有給休暇の基本的なルールを確認する必要があります。当サイトでは、有給休暇についての社内規則を定める上で把握しておくべき基本ルールをまとめた資料を無料でお配りしています。自社のルールが法律に則っているか確認したい方は、こちらからダウンロードしてご活用ください。
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3. 有給休暇の前借りに関するトラブル事例と対策
ここでは、有給の前借り依頼に応じたことで起こりうるトラブル事例を紹介します。前借りを認めるのであれば、トラブルを想定して対策をおこなうことも大切です。
3-1. 前借りしたまま従業員が退職するケース
まず考えられるトラブルは、前倒し付与した従業員が辞めてしまうケースです。
たとえば、入社と同時に付与した5日間の有給休暇を基準日を迎える前に使い切ってしまい、さらにそのまま退職してしまった場合はどのように処理すれば良いのでしょうか。
このような場合、前倒しした有給休暇は戻ってきませんし、賃金の返還を求めたり、給料から差し引いたりすることも基本的にできません。
前借りさせた有給休暇の日を欠勤扱いに修正し、支払った有給休暇の賃金を従業員に請求することは不可能ではありませんが、問題が複雑化する恐れがあります。
そのため、前借りさせた日は特別休暇を与えたこととして処理するのが無難です。前倒しを認めると、このような損失リスクがあることを企業は理解しておきましょう。
3-2. 前例ができたことにより希望者が増える可能性がある
従業員にやむを得ない事情があり、企業側の好意によって有給の前借りを認めた場合、前例ができたことで前借りを希望する従業員が増加してしまう可能性があります。
希望者が増えることで、管理する側の負担も増加するため、適切な運用ができなくなることも考えられるでしょう。
また、前借りをしている従業員が増え、それが当たり前になってしまうと、通常の付与日数内で計画的に消化している他の従業員との公平性に問題が生じてしまいます。
3-3. 有給休暇の管理が複雑になる
繰り返しになりますが、前借りを認めると、有給休暇の管理が複雑になることに注意しなければなりません。有給の前借りをおこなうと、他の従業員と基準日がズレてしまうため、管理の手間が増えてしまいます。
また2019年以降、年10日以上の有給休暇が付与される従業員については、そのうち5日を確実に消化させなければなりません。基準日が複数存在することで、取得漏れが発生する可能性もあるため注意しましょう。
4. 有給休暇の前借りが違法になるケースとは?
良かれと思って前借りさせた場合でも、企業側が有給休暇について正しく理解していないと、思わぬところで法律に違反してしまう恐れがあります。
前借りが違法になるケースとして考えられるのは、基準日を迎えたときに、前年の前借り分を差し引いて付与するケースです。
「前倒しで付与したのだから、その分差し引くことは当然では?」と疑問に思う人も多いでしょう。たとえば、年10日付与予定の従業員が1日前借りをした場合、一般的に翌年の有給付与日数は前借り分を差し引いた9日だと考えます。
しかし、この考え方で付与してしまうと労働基準法に違反する可能性があるのです。
労働基準法第39条では「雇い入れから起算して半年勤務し、全労働日の8割以上出勤した従業員には10日の有給休暇を与えなければならない」としています。
参考:労働基準法|厚生労働省
したがって、いくら前借りさせていたとしても、法律が定める付与日数を下回ることは違法として扱われてしまいます。
たとえ、労使間で同意を得ていたり、就業規則で定めていたりしても、労働基準法には従わなければなりません。
有給の前借りは従業員にこそメリットはあるものの、企業にとってはリスクの高いものでしかないように感じられるでしょう。それは、法律で有給休暇の前借りに関する規定が何も示されていないからです。
法律で規定されていないので、前借りに応じる義務もない反面、応じる場合はさまざまなリスクが潜んでいることを企業は把握しておくべきでしょう。
関連記事:労働基準法で定められている有給休暇|法律の内容、注意点を詳しく解説
5. 有給休暇の前借りはリスクが大きいため注意が必要
有給休暇の前借りは、法的に違法ではありません。しかし、従業員から前借りの依頼があったとしても、義務ではないため受け入れないという選択肢もあります。
事情があり、前借りを認めるケースもあるかもしれませんが、企業はトラブルが起こることをあらかじめ想定したうえで対応することがポイントです。
はじめから前借りではなく、特別休暇や法定外休暇を付与するなどして、リスク回避することも求められるでしょう。
前借りの前例ができてしまうと、労務管理が複雑になり企業の負担が増えてしまう恐れもあるので、できる限り前借りには応じないことをおすすめします。
有給休暇を前借させることは法律的に問題ありませんが、付与の基準日が他の従業員とずれてしまうため、注意が必要です。
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