企業は有給休暇を従業員に付与するにあたって、適切に基準日を管理しなければなりません。基準日が正しく設定・管理されているか確認しましょう。本記事では、有給休暇の基準日や基準日を変更する際の注意点などについてわかりやすく解説します。
目次
1. 有給休暇の基準日とは
有給休暇の基準日とは、有給休暇を付与した日のことです。以下の2つの条件を満たしている場合、有給休暇が発生します。
- 入社日から6か月継続して勤務している
- 労働日の8割以上出勤している
例えば、4月1日に入社の従業員が、6か月継続勤務し、全労働日の8割以上出勤している場合、10月1日が有給休暇の基準日となります。
1-1. 基準日から1年以内に5日の有給休暇取得が義務化
2019年4月から、有給休暇が年10日以上付与された従業員に対して、1年以内に最低5日の有給休暇を取得させることが企業に義務付けられました。
1年以内とは基準日から1年間ということです。そのため、企業は従業員の基準日を把握しておく必要があります。
1-2. 基準日は管理簿に記載必須
企業は従業員ごとに有給休暇の管理簿を作成し、3年間保管しなければなりません。
また、管理簿には、①基準日②取得日数③時季(有給休暇を取得した日付)を記載する義務があります。
参照:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省
2.基準日は前倒しであれば、変更可能
有給休暇の基準日は原則雇い入れをしてから6か月経過した日となりますが、前倒して付与することは可能です。また、一度基準日を設定した後でも、前倒して変更することは可能です。前倒し付与には3通りあります。本章では前倒し付与の方法を解説します。
2-1. 基準日を入社日にする
上述の通り、有給休暇は原則雇い入れから6か月経過した日に付与し、その日が有給休暇の基準日となります。しかし、会社独自に有給休暇の付与を前倒して入社日にすることは可能です。
ただ、注意すべきなのは、前倒して入社日に有給休暇を付与した場合、基準日は入社日になるということです。有給休暇は基準日から1年ごとに付与されるため、入社日を基準日とした場合、翌年の同じ日に2回目の有給休暇を付与することになります。
2-2. 有給休暇を分割付与する
会社独自に有給休暇を分割して、一部を前倒し付与することも可能です。ただ、注意すべきなのは、前倒し付与した日が基準日となることです。
基準日は最初に有給休暇を付与した日が適用されるため、例えば10日の有給休暇を5日と5日に分割し、それぞれ4月1日と10月1日に付与した場合、基準日は4月1日になります。
2-3. 2年目の有給休暇を前倒して基準日を統一する
中途入社などで基準日が他の従業員と違う場合、他の従業員と基準日を揃えるために前倒して基準日を設定することが可能です。例えば、4月1日が基準日の従業員が多く、一部従業員が5月1日の場合、5月1日の基準日を前倒して4月1日に変更することができます。
3. 有給休暇の基準日を効率的に管理する方法
有給休暇の基準日は従業員ごとに異なるため、人事担当者は管理に手間がかかります。しかし、管理方法を工夫すれば、効率的に管理することもできます。以下では、基準日を効率的に管理する方法を2つ紹介します。
3-1. 基準日を統一する
有給休暇の基準日を統一することで、従業員の有給休暇を付与する日をまとめて管理することができます。基準日を統一する方法はいくつかあり、基準日を年に1回にする、年に2回にするなど、企業によって管理しやすい方法を選ぶのが良いでしょう。
3-2. 勤怠管理システムを導入する
有給休暇を効率的に管理できるツールの1つに勤怠管理システムがあります。出退勤の管理というイメージが強い勤怠管理システムですが、ほとんどの勤怠管理システムで有給休暇の管理ができます。勤怠管理システムを使うことで、申請と承認のフローが捺印不要で行えるため、大幅に業務量を削減できます。
また、有給休暇を取得した日数や残日数が自動でカウント・表示されるため、従業員も把握できます。5日の有給休暇取得ができていない従業員がいる場合、アラートが出るものもあるため、法違反のリスクを削減できるのもメリットです。
有給休暇の管理に工数がかかっている場合は、勤怠管理システムの導入も検討してみましょう。とはいえ、システムでどのように有休管理が効率化されるかあまりイメージがつかないという方も多いのではないでしょうか?当サイトでは、システムで有給休暇を効率よく管理する方法を具体的に解説した資料を無料で配布しております。紙で有給休暇を管理している担当者様や有休管理にお悩みがある場合はこちらからご確認ください。
4. 有給休暇の基準日を統一した場合の運用例
有給休暇の基準日を統一することで、従業員の有給休暇が管理しやすくなります。有給休暇の基準日を統一した場合の運用例を紹介します。
4-1.基準日を年1回に統一した例
<基準日を年1回の4月1日に統一する場合>
4月入社の新卒入社Aさん:本来入社して6か月目の10月1日に付与だが、前倒して4月1日に付与。後ろ倒しにして翌年の4月1日に1回目の有給休暇を付与することはできない。
6月入社の中途入社Bさん:本来入社して6か月目の12月1日に付与だが、前倒して4月1日に付与。後ろ倒しにして翌年の4月1日に1回目の有給休暇を付与することはできない。
基準日を年1回に統一することで、従業員によっては有給休暇の付与日が早くなるため、多少不公平に感じる場合がありますが、管理側からすれば有給休暇の残日数の計算などが非常に楽になります。
4-2.基準日を年2回に統一した例
<基準日を年2回の4月1日と10月1日に統一する場合>
有給休暇の基準日を4月1日か10月1日の中で一番近い日に前倒す
4月入社の新卒入社Aさん:本来入社して6か月目の10月1日に有給休暇が付与なので、そのまま10月1日に付与。
6月入社の中途入社Bさん:本来入社して6か月目の12月1日に付与だが、前倒して10月1日に付与。後ろ倒しにして翌年の4月1日に1回目の有給休暇を付与することはできない。
1月入社の中途入社Cさん:本来入社して6か月目の7月1日に付与だが、前倒して4月1日に付与。
4-3.基準日統一によって5日の取得義務発生期間が被ってしまった場合の特例
入社した年とその翌年とで有給休暇の付与日が異なる場合、年5日の時季指定義務の履行期間に重複が生じる、いわゆる「ダブルトラック」が発生する場合があります。ダブルトラックが発生すると、有給休暇の取得状況の管理が複雑になる可能性があります。
この場合の取得義務日数の算出方法は、以下の2通りが特例で認められています。
有給休暇の取得義務日数の算出方法
①ダブルトラックの期間の月数÷12×5をして比例按分する方法
②ダブルトラックの期間のそれぞれの期間で5日取得する方法
②の方法を用いると、計算が煩雑になってしまうため、多くの企業で①が取り入れられています。
<比例按分する場合>
6月入社の中途入社Bさん:12月1日に1回目の有給休暇が付与されたが、会社で基準日統一をするため、前倒して10月1日に2回目の有給休暇が付与された。
①12月1日(基準日)~11月30日
②10月1日(基準日)~9月30日
→10月1日~11月30日が重複
比例按分して計算すると、
12月~翌々9月の月数÷12×5=22÷12×5≒9なので、
12月1日から翌々9月30日までの間で9日与えていれば良いということになる。
参照:年休を前倒しで付与した場合の年休時季指定義務の特例について|厚生労働省
5. 有給休暇の基準日設定に関する注意点
有給休暇の基準日設定をする際にはいくつかの注意点があります。
5-1. 基準日統一を行う場合、就業規則に記載して労働基準監督署に提出
有給休暇の基準日を統一する場合は、事前に労使間で合意したうえで就業規則を変更する必要があります。また、その内容を労働基準監督署に提出しなければなりません。
5-2. パートやアルバイトの基準日は正社員と同じ
有給休暇の基準日は就業形態に関わらず、正社員・パート・アルバイト全て原則入社して6か月経過した日、もしくは会社独自で設定した日となります。
5-3. 前倒しは可能だが後ろ倒しの設定はできない
有給休暇の基準日を変更する際は、前倒しのみ可能で後ろ倒しはできません。労働基準法は労働者を守るための最低限の基準です。労働基準法よりも良い条件を変更することは問題ありませんが、労働基準法よりも悪い条件に変更することは法違反となるため、注意が必要です。
6. 有給休暇の基準日は管理簿に記載して適切に管理しましょう
有給休暇の基準日は有給休暇を付与した日です。2019年の労働基準法の改正によって、年10日以上有給休暇が付与された従業員に5日確実に取得させる義務が発生したため、企業は従業員一人ひとりの有給休暇の管理をしなくてはなりません。
手作業で従業員一人ひとりの基準日を把握・管理していると、膨大な業務が発生します。有給休暇が管理できるシステムなどを使って、有給休暇の楽な管理方法を探すのも良いでしょう。適切に有給休暇の管理をして、従業員にもれなく有給休暇を付与しましょう。