試用期間中でも加入要件を満たす労働者には、正社員やパート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、社会保険に加入させなければなりません。この記事では、試用期間を設ける企業の場合、社会保険はいつから加入させる必要があるのか解説します。また、社会保険それぞれの加入条件や社会保険未加入のリスクについても紹介します。
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目次
1. 試用期間における社会保険の加入はいつから必要?
試用期間中でも、要件を満たしいる労働者には、社会保険の加入義務が発生します。ここでは、試用期間と社会保険の基礎知識を説明したうえで、試用期間中の労働者の社会保険の加入義務はいつから生じるのか紹介します。
1-1. 試用期間とは?
試用期間とは、労働者を本採用する前段階で、試しに一定期間仕事に携わってもらい、適性や能力などを見極めるための期間のことです。試用期間の長さに明確な決まりはないため、企業の裁量で自由に決めることができます。
ただし、民法の「公序良俗」の規定に違反しないよう、適切な長さを定めることが大切です。実際に試用期間の長さは、1カ月~6カ月程度に定めている企業が多いようです。なお、試用期間はあくまで本採用前のステップであり、試用期間満了後には継続して労働してもらうことを前提としている点に注意が必要です。
関連記事:試用期間とは?設定する際の注意点やよくある質問・トラブルを紹介
1-2. 社会保険とは?
社会保険とは、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5つの保険の総称のことです。健康保険・厚生年金保険・介護保険を総称して「狭義の社会保険」、雇用保険と労災保険を総称して「労働保険」とよぶケースもよくあります。
社会保険に加入している労働者は、健康保険をはじめとしたさまざまな保険の恩恵を受けられます。企業の社会保険は個人が加入するものよりも負担が少なく、手厚い保障を受けることが可能です。また、社会保険には扶養制度もあり、家族のいる労働者が加入すれば世帯における保険料の金額を抑えることもできます。
関連記事:社会保険の種類ごとの特徴や加入条件をわかりやすく解説
1-3. 試用期間でも要件を満たせば社会保険の加入が必須
試用期間中も労働者であることに変わりません。そのため、一般の従業員と同様で、パート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、加入要件を満たす試用期間中の労働者に対しては、社会保険に加入させなければなりません。
1-4. 試用期間の労働者の社会保険への加入義務はいつから?
試用期間が終わってから、社会保険に加入させればよいと考えている事業者もいるかもしれません。試用期間中でも条件を満たしていれば、社会保険に加入させる必要があります。試用期間中の労働者で加入要件を満たしている場合、原則として、入社初日から加入義務が発生します。そのため、試用期間を設ける場合でも、労働者を雇用したら素早く社会保険の加入手続きをおこなわなければなりません。
2. 試用期間における社会保険の加入要件
試用期間の従業員を社会保険に加入させるかどうか判断するには、加入要件を正しく理解しておく必要があります。社会保険の加入要件は、労災保険、雇用保険、狭義の社会保険(健康保険・厚生年金保険・介護保険)で異なります。ここでは、それぞれの保険における加入条件について詳しく紹介します。
2-1. 労災保険
まず事業主は1人でも労働者を雇用したら、労働保険(労災保険と雇用保険)の適用事業者に該当することになります。そして、正社員やパート・アルバイトなどの雇用形態に関係なく、賃金を支払われるすべての労働者は、労災保険に加入しなければなりません。
そのため、試用期間中であっても、労働者であれば必ず労災保険に加入することになります。ただし、取締役などの法人の役員は、原則として適用対象になりません。また、労災保険料は、すべて事業主が負担しなければならないので注意が必要です。
2-2. 雇用保険
事業主は労働保険について、労働者を1人でも雇ったら必ず加入しなければなりません。しかし、雇用保険は、労災保険と異なり、適用対象労働者に制限があります。使用者は、次のいずれもの要件を満たす労働者に対して、原則として、雇用保険に加入させる必要があります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 1カ月以上の雇用見込みがある
そのため、試用期間中の労働者であっても、加入要件を満たしていれば、雇用保険に加入させなければなりません。
2-3. 狭義の社会保険
強制適用事業所に該当する事業所は、必ず社会保険への加入手続きをしなければなりません。なお、強制適用事業所とは、次のいずれかの要件を満たす事業所のことです。
- 法人の事業所(事業主のみの事業所も対象)
- 常時従業員数が5人以上の個人事業所(農業・林業・漁業などの業種は対象外)
強制適用事業所に該当しない場合でも、従業員数の半数以上が同意し、事業主が手続きをして厚生労働大臣の認可を受ければ、適用事業所になることができます。
適用事業所で働く労働者のうち、週の所定労働時間および月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上である人は、狭義の社会保険に加入しなければなりません。また、社会保険の適用事業所で働く次のいずれもの要件を満たす労働者に対しては、原則として狭義の社会保険に加入させる義務が生じます。
- 従業員数51人以上の事業所
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月給が88,000円以上
- 2カ月以上の雇用見込みがある
つまり、試用期間中であっても、社会保険の適用事業所で働く場合、要件を満たせば社会保険に加入することになります。
関連記事:社会保険は強制加入?強制適用・任意適用の違いを詳しく解説
2-4. 【注意】社会保険の適用対象外となるケース
試用期間中でも、条件を満たせば、社会保険に加入しなければなりません。しかし、次に該当する場合は、社会保険に加入できないケースがあります。
- 2カ月以内の期間を定めて雇用される人
- 事業所の所在地が一定でない人
- 季節的に雇用される人
- 国民健康保険組合の事業所に雇用される人
- 後期高齢者医療制度の対象になる人
- 船員保険の対象になる人
- 日雇い労働者
- 昼間学生 など
このように、社会保険の適用対象外にあてはまる場合、試用期間中の労働者で原則的な要件を満たしていても、社会保険に加入できない可能性があります。また、労働保険には加入できても狭義の社会保険に加入できないケースや、健康保険や介護保険には加入できても厚生年金保険に加入できないケースもあるので、一人ひとりの労働者の属性をみて手続きをおこないましょう。
最新の法改正においては、2024年10月から社会保険料の加入条件が拡大されています。とくに社会保険料は給与から控除して支払うため、この法改正によって適用範囲が変更されることによって対象従業員の給与にも大きく関係します。確認ミスや漏れによるトラブルがないように対応しなければなりません。 そんな人事労務担当者の方の役に立つ「最新の法改正に対応した社会保険の加入条件ガイドブック」を無料配布しております。 加入条件をわかりやすく図解していますので、参考にしたい方はこちらから無料でダウンロードしてご覧ください。
3. 試用期間中の社会保険未加入は違法?
労働者が社会保険の加入条件を満たしているのにも関わらず、事業主が当該従業員を社会保険に加入させず未加入のままにしていると、法律に則り罰則が課せられる恐れがあります。ここでは、試用期間中の社会保険未加入の違法性や罰則・ペナルティについて詳しく紹介します。
3-1. 追徴金を支払う必要がある
社会保険に加入させなければならない従業員を未加入の状態で労働させたとき場合、労働者は最大2年間遡って社会保険に加入することができます。これは試用期間中の労働者にも適用されます。この場合、未加入であったときの社会保険料を支払う義務が生じます。また、労働保険の場合、保険料の10%を追徴金として支払わなければならない恐れもあるので注意が必要です。
事業主が故意または重大な過失により、労働保険への成立手続を行っていない期間中に労働災害が生じ、労災保険給付を行った場合、事業主から(1)~(2)を徴収することになっております。
(1) 最大2年間遡った労働保険料及び追徴金(10%)(2) 故意又は過失により、労災保険給付額の40%又は100%
3-2. 延滞金を求められる
社会保険への加入義務があるにもかかわらず、社会保険料を支払っていなかったときには、延滞金を督促されることになります。支払い期限を過ぎると督促状が届き、督促状に記載の期限を過ぎたときには社会保険料とともに延滞金を請求されます(例. 厚生年金保険法第87条)。延滞金の支払いは企業にとって大きな痛手です。リスクを避けるためにも、試用期間も含め、社会保険に正しく加入させ、適切に保険料の支払いをおこないましょう。
(延滞金)
第八十七条 前条第二項の規定によつて督促をしたときは、厚生労働大臣は、保険料額に、納期限の翌日から保険料完納又は財産差押の日の前日までの期間の日数に応じ、年十四・六パーセント(当該納期限の翌日から三月を経過する日までの期間については、年七・三パーセント)の割合を乗じて計算した延滞金を徴収する。(省略)
3-3. 懲役や罰金が課せられる
試用期間中であっても労働者が加入条件を満たしているのであれば、社会保険に加入させる手続きをしなければなりません(例. 健康保険法第48条)。これを怠った場合、法律に則り、懲役や罰金などの罰則を受ける恐れがあります(例. 健康保険法第208条)。このような事態を生じさせないためにも、試用期間中の従業員の労働条件をチェックし、適切に社会保険の手続きをしましょう。
(届出)
第四十八条 適用事業所の事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者の資格の取得及び喪失並びに報酬月額及び賞与額に関する事項を保険者等に届け出なければならない。
第二百八条 事業主が、正当な理由がなくて次の各号のいずれかに該当するときは、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第四十八条(第百六十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき。
(省略)
3-4. 労働者が不利な状況に置かれることになる
社会保険に未加入の労働者は、退職後に失業手当を受けられない恐れがあります。また、病気になったときに傷病手当金を受け取れず、生活に支障を来すリスクもあります。さらに、社会保険未加入の期間中は、厚生年金保険の加入記録が残りません。結果的に、労働者が将来受け取れるはずの年金受給額が減少してしまうことになります。このように、労働者の生活を守るためにも、正しく社会保険の手続きをしましょう。
4. 試用期間の社会保険に関するポイントや注意点
ここでは、試用期間の社会保険に関するポイントや注意点について詳しく紹介します。
4-1. 試用期間中の労働条件を明示する
試用期間中でも労働者に変わりないため、労働基準法第15条に基づき、労働条件通知書を発行し、雇用条件を明示する必要があります。試用期間中と本採用後で労働条件が変わる場合、両者の条件をきちんと明記して伝えなければなりません。
また、その労働条件を基に、社会保険の加入要件にあてはまるか判断し、必要に応じて試用期間中の労働者も社会保険に加入させる必要があります。雇用条件が変更になる場合、本採用後に社会保険の加入条件を満たす可能性もあるため注意が必要です。後々トラブルが生じないよう、試用期間中と本採用後の労働条件を記載した雇用契約書を交付し、労使双方の合意があったことを証拠に残すようにしましょう。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。(省略)
4-2. 試用期間中と本採用後で給料が変わる場合は注意
労働条件を明示したうえで、労働者の同意が得られれば、試用期間中と本採用後で給料が変わっても何ら問題ありません。また、試用期間中は最低賃金法第7条に則り、最低賃金額を下回ることもできます。
しかし、試用期間中と本採用後で給料額が変わることで、社会保険の賃金要件(月額88,000円)について、試用期間中は満たさないけれど、本採用後は満たすという可能性もあります。このように、パート・アルバイトといった短時間労働者などで、試用期間中と本採用後で賃金が変わる可能性がある場合、本採用後に社会保険の手続きが必要になる場合もあるため気を付けましょう。
(最低賃金の減額の特例)
第七条 使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
(省略)
二 試の使用期間中の者
(省略)
関連記事:試用期間中の給料設定のルールを徹底解説!最低賃金以下の設定も可能なの?
4-3. 試用期間中でも社会保険の扶養の手続きができる
試用期間中であっても健康保険や厚生年金保険に加入した場合、条件を満たす家族を扶養に入れることができます。家族の年間収入をチェックしたうえで、事業主に家族を扶養に入れたいと申し出ましょう。その後、会社は「被扶養者(異動)届」を作成して、必要書類を添付し、日本年金機構や健康保険組合に届け出ることで扶養の手続きができます。
関連記事:社会保険の扶養範囲や扶養の手続き方法についてわかりやすく解説
5. 試用期間中の社会保険に関連するよくある質問
ここでは、試用期間中の社会保険に関連するよくある質問への回答を紹介します。
5-1. パート・アルバイトの試用期間でも社会保険への加入は必要?
パート・アルバイトの試用期間でも、社会保険の加入条件を満たすのであれば、必ず社会保険に加入させる必要があります。「試用期間が2カ月以内だから試用期間中は社会保険の手続きをしなくてもよい」と考えている事業者もいるかもしれません。
狭義の社会保険に加入しなくてもよいのは「契約期間が2カ月以内で延長する見込みがない」場合です。試用期間は本採用することを見越した労働契約であり、2カ月を超えて雇用される見込みがあり、その他の要件も満たしていれば、入社時に社会保険の手続きが必要です。
5-2. 試用期間中でも扶養から外れなければいけない?
試用期間中でも社会保険の加入条件を満たした場合、自身で社会保険に加入しなければならないので扶養から外れる必要があります。また、試用期間中で社会保険の加入条件を満たしていない場合でも、年間収入の見込みが130万円以上であれば、扶養要件を満たさなくなるため、扶養から外れ、国民健康保険や国民年金保険の手続きが必要になります。
関連記事:社会保険の扶養を外れる条件やタイミング、手続きの方法をわかりやすく解説!
5-3. 試用期間中の労働者が社会保険の未加入を希望した場合はどうなる?
社会保険の加入条件を満たしている場合でも、「扶養に入るから」「保険料を支払いたくないから」といった理由で、社会保険への加入を拒否し、未加入の状態を維持したいと考える労働者もいます。しかし、社会保険への加入させることは使用者の義務です。
そのため、試用期間中であったとしても、要件を満たしているのであれば、必ず社会保険に加入させなければなりません。もしも雇用した労働者から社会保険への加入を拒否される場合には、法律や制度の仕組みを説明し、納得してもらうことが大切です。
6. 試用期間中でも社会保険に加入させることが大切!
試用期間中であっても条件に該当する場合、正社員やパート・アルバイトなどの雇用形態を問わず、社会保険に加入させる必要があります。社会保険未加入のまま働かせると、違法になり、追徴金・延滞金を請求されたり、懲役・罰金の罰則を課せられたりするリスクもあります。社会保険の加入要件を理解し、試用期間中の労働条件を明確にしたうえで、適切に社会保険の手続きをしましょう。
労働者保護の観点から、解雇には様々な法規定があり、解雇の理由に合理性が無ければ認められません。
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