社会保険は、従業員の健康維持や安定した老後の生活のために必要な制度です。社会保険の加入条件は法律によって定められており、条件を満たす従業員は加入が必須です。
しかし、条件を満たしているにも関わらず、社会保険に加入していない従業員がいた場合は、さまざまな罰則が課される可能性があります。
中には会社の存続に関わる重大な罰則も含まれているため、社会保険の未加入は会社にとって大きなリスクとなるでしょう。
今回は、社会保険未加入の際に受ける罰則の内容や、社会保険の加入条件について詳しく解説します。
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社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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1. 社会保険未加入の場合の罰則
社会保険に未加入の場合、複数の罰則が同時に適用される可能性があるため注意が必要です。具体的にどのような罰則があるのか、次に詳しく説明します。
1-1. 懲役または罰金刑が課せられる
社会保険未加入が発覚した場合は、健康保険法第208条によって「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」が適用となる恐れがあります。
この罰則は社会保険未加入だけに限らず、社会保険料の度重なる滞納、行政からの指導に従わないなど悪質なケースについても適用されることがあります。
1-2. 過去に遡及して未納金を徴収される
健康保険法第208条で定められた罰則よりも、さらに厳しい内容の罰則もあります。
厚生労働省からの調査によって社会保険未加入が判明した場合には、過去2年間に遡って未納金を支払いを命ぜられる可能性があります。
この際、未納金の総額を従業員と折半することになりますが、一旦は会社が現金で未納金全額を支払うことになります。
支払う金額によっては、会社の経営を揺るがす事態につながる恐れもあるでしょう。
1-3. 退職者分の未納金を負担する恐れがある
2年間分の未納金の支払対象は、在職者だけでなく退職者も該当します。2年も経っていれば、連絡が取れない退職者も出てくるでしょう。
この場合、連絡が取れない退職者の分は会社が全額負担しなくてはいけません。
仮に連絡が取れたとしても、退職者との間で大きなトラブルに発展し、未納金の回収が困難となることが想定されるため、退職者分の未納金は会社が全額負担すると思っていて間違いないでしょう。
1-4. 未加入期間に応じて追徴金が発生する
未加入期間分の社会保険料を支払うだけでなく、未払金の総額に10%を乗じた追徴金も支払わなくてはいけません。
未加入期間が長くなるほど追徴金の額も上がるため、会社の負担はさらに大きくなってしまいます。
また、社会保険に加入していても、社会保険料を滞納すれば延滞金が発生します。督促状を受けた日以降に支払った場合に延滞金が発生し、延滞日数が長いほど延滞金の負担も大きくなる仕組みです。
1-5. ハローワークへの求人ができない
社会保険に加入すべき場合に未加入であった場合、ハローワークへ求人の申し込みをすることができないため、人材確保が困難となる可能性があります。
この他にも、社会保険未加入であることが世間に知れ渡るようなことが起きた際には、社会的な信用を無くし、会社の採用活動にも大きな影響を及ぼす恐れもあります。
また、2022年10月には社会保険の適用拡大がなされ、新たに社会保険の適用となる従業員が増える可能性があります。適用拡大に適切に対応できていない場合でも罰則を科される可能性があるため、社会保険手続きに関する最新の法律やルールを理解しておくことが重要です。当サイトでは、法改正に則った必要な社会保険手続きを一冊にまとめた資料を無料でお配りしています。
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2. 社会保険とは
社会保険には狭義と広義の2つがあります。狭義は「健康保険」と「厚生年金保険」を、広義は「健康保険」「厚生年金(年金保険)」「介護保険」「労災保険」「雇用保険」の5つを指します。
ここでは、社会保険の概要について簡単におさらいしましょう。
2-1. 健康保険
健康保険とは、業務以外で病気やけがなどをした際の保障制度です。医療費は、所得や年齢に応じて1~3割の負担となっており、残りは全国健康保険協会や組合が支払います。
健康保険があることにより、従業員は安心して治療を受けることが可能です。さらに、病気やけがで仕事に就けなかった場合は、一定の要件を満たすことで傷病手当金も支給されます。
会社に雇用された場合の多くは、全国健康保険協会または各社の健康保険組合に加入します。保険料は従業員と会社で折半して支払うため、保険料の負担が少ない点が国民健康保険との大きな相違点です。
2-2. 厚生年金保険
厚生年金保険とは、主に会社員や公務員に向けた公的年金制度のことです。企業に所属する従業員や公務員は、厚生年金保険料を支払います。この厚生年金保険料には国民年金保険料も含まれていて、加入すると国民年金の第2号被保険者に該当します。
その結果、老後に厚生年金と国民年金の両方を受け取ることが可能です。
2-3. 介護保険
介護保険とは、社会で介護を支えるための制度です。40歳以上を過ぎた従業員だけが加入し、介護に対する個人負担を軽減する目的を持っています。
40歳から65歳未満の従業員は、介護保険料も会社と折半し、健康保険料と合わせて徴収されることになります。
2-4. 労災保険
労災保険とは、業務中・通勤中でのけがや病気、または死亡などに対する保障制度です。具体的には、療養(補償)給付は必要な療養や療養にかかる費用を給付します。
さまざまな給付金を支給することで、加入者の社会復帰を手助けするのが労災保険の大きな目的です。
2-5. 雇用保険
雇用保険は、失業時などに給付されます。失雇用保険にはさまざまな種類がありますが、一例を紹介します。
・求職者給付:失業時の生活を安定させるために支給する
・教育訓練給付:一定の条件を満たした在職者や離職者に、教育訓練費用の一部を支給する
失業時でも、労働者の安定した生活を守るために雇用保険が存在しています。
2-6. 社会保険に加入していない企業への指導が強化されている
解説の通り、社会保険は労働者を守る大切な保障制度です。そのため、社会保険に加入していない企業への指導が強化されています。
社会保険加入が強化されている理由は他にもあります。
- 高齢期の経済基盤を充実させるため
- 働き方の多様化へ対応するため
- 社会保険制度維持を目的とした財源確保のため
- 関連省庁との連携により、未加入企業が把握できるようになったため
これらの理由により、2015年度から、国税庁から給与の支払い実態などの情報をもとに、厚生労働省はパートやアルバイトの加入漏れを防ぐなどの対策をおこなっています。
また、すでに社会保険に加入済の企業に対しても、4年に1度、従業員の加入漏れがないかの定例調査をおこなうなど、社会保険加入の促進に取り組んでいます。
このあと、社会保険の加入条件を解説するので、改めてその仕組みや条件を確認してみましょう。
加入条件を満たしているにも関わらず、未加入となっている企業・従業員がいる場合は、早急に加入手続きをおこないましょう。
3. 社会保険への加入義務・条件
社会保険は法律によって加入が義務づけられていますので、加入条件を満たす場合は社会保険の加入手続きを行わなくてはいけません。加入条件は事業者と従業員でそれぞれ異なりますの、次に詳しくみていきましょう。
3-1. 社会保険の加入が義務付けられる事業所の条件
法律によって定められた社会保険の加入条件を満たす事業所のことを「強制適用事業所」といいます。
強制事業所の加入条件は以下の通りです。
- 常時1人以上の従業員を使用する法人
従業員が代表者1人だけしかいなくても法人であれば、社会保険の加入が必須です。また、法人だけでなく国や地方公共団体も社会保険の加入が必要となります。
- 常時5人以上の従業員を使用する個人事業主
但し、サービス業や士業など適用除外となる業種を除きます。
上記いずれかの条件を満たす場合、社会保険は強制加入となりますので注意しましょう。
3-2. 社会保険の加入が義務付けられる従業員の条件
強制適用事業所で働く正社員は、前述の通り社会保険に加入させなくてはいけません。
パートやアルバイトなど短時間労働者であっても「1週間の所定労働時間または1か月の所定労働日数が常時勤務者の4分の3以上」である場合は、社会保険の加入が必要です。
また、下記の条件を全て満たす場合にも、社会保険の加入が義務付けられます。
①1週間の労働時間が20時間以上
②2か月以上の継続した雇用期間がある場合(または見込みがある)
③1ヶ月の賃金が88,000円以上
④社会保険加入者が101人以上の企業に勤務
⑤学生ではない
現行は上記の通りですが、2024年10月から社会保険の適用範囲がさらに拡大されます。
具体的には、④の社会保険加入者が「101人以上→51人以上」に条件が引き上げられる予定です。
社会保険の加入漏れが無いよう、法律の改正内容もチェックするようにしましょう。
関連記事:社会保険への加入|任意適用事業所が加入するメリットとは
4. 社会保険未加入を防ぐための対策
社会保険の未加入を防ぐには、加入条件を把握することが重要です。加入条件を満たしている場合は、速やかに社会保険加入の手続きを行いましょう。
次に、社会保険の未加入を防ぐための対策について、いくつかご紹介します。
4-1. 該当の従業員へ社会保険加入の説明を行う
短時間労働者など、従業員の中には自分が社会保険の加入対象者であることを知らないケースも少なくありません。
社会保険の加入対象となっている従業員には、社会保険の加入が義務であることや社会保険で受けられる保障などについて事前に説明を行う必要があるでしょう。
事前に説明をしておくことで、社会保険加入後に起こりえる労使間のトラブルを未然に防ぐこともできます。
4-2. 社会保険に加入するメリットを説明する
社会保険への加入によって得られるメリットを正しく伝えることも企業の重要な約割です。例えば、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金も支給て年金の受給額が増えるため、将来の不安が減らせます。
また、社会保険の保険料の会社と折半できる点も、従業員にとって大きなメリットです。
これまで加入していなかった社会保険への加入に抵抗感を示す従業員も出てくることもありますが、メリットを説明した上で従業員本人に加入・非加入の判断をしてもらうのがよいでしょう。
4-3. 労働時間の短縮または賃金の調整を行う
配偶者の扶養範囲内で勤務している場合などで、社会保険に強制加入させられると問題が生じる従業員も出てくるでしょう。しかし、諸事情があったとしても条件を満たしている場合は社会保険に加入しなければならず、未加入のままでは事業者側が罰則を受けてしまいます。
従業員が社会保険への加入を望まない場合は、1週間の労働時間を20時間より少なくする、あるいは1か月の賃金を88,000円超えないよう調整することで、社会保険の加入対象外となります。
事前に従業員と相談した上で、労働時間または賃金いずれかで調整を行うと良いでしょう。
5. 社会保険の加入条件を満たす場合は速やかに加入手続きをしよう
社会保険の未加入事業者には、懲役や罰金刑、過去最大2年分の支払い命令など厳しい罰則が適用される恐れがあります。
社会保険の加入条件を満たす場合は、速やかに加入手続きを行わなくてはいけません。
加入条件は、事業所と従業員とで条件がそれぞれ異なるため、内容をしっかり把握しておく必要があります。
罰則の内容によっては、会社の存続が危うくなることも想定されるため、社会保険の加入漏れがないよう、日ごろからきちんと労務管理を行うことが重要です。