労働者を本採用するか見極めるために試用期間を設ける企業も少なくないでしょう。試用期間中の給与は、本採用時よりも低く設定することも可能です。ただし、試用期間中の給料をなしにしたり、最低賃金よりも大幅に減額したりするのは違法になります。この記事では、試用期間における給料のルールやポイントをわかりやすく解説します。
目次
1. 試用期間中の給料なしは違法?
試用期間中の給料なしは違法です。ここでは、試用期間とは何か説明したうえで、試用期間中の給料なしが違法になる理由について詳しく紹介します。
1-1. 試用期間とは?
試用期間とは、本採用前に従業員の適性や能力などを確認し、正式に採用するか判断する期間を指します。試用期間は1カ月~6カ月程度と設定する企業が多いようです。あまりにも長い期間の試用期間を設定すると、民法の「公序良俗」の観点から無効になる恐れもあるので注意が必要です。
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1-2. 試用期間中の給料なしは違法
試用期間中だとしても労働者であることに変わりないため、労働基準法が適用されます。労働基準法第11条では、給料(賃金)は労働の対償として使用者が労働者に支払うべきものと定義されています。
そのため、会社には試用期間中に働かせた場合、その対価として給料を支払う義務があります。試用期間中に労働させたにも関わらず、給料なしとした場合、労働基準法違反となり、罰金などの罰則が課せられる恐れもあるので注意が必要です。
第十一条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
1-3. 試用期間中と本採用後の給料が違うのは違法でない
試用期間中の従業員を働かせた場合、労働基準法に則り、必ず給料を支払わなければなりません。しかし、試用期間中と本採用後の給料が違うこと自体は問題ありません。ただし、給料額を変える場合、後でトラブルを招かないよう、就業規則や労働条件通知書・雇用契約書にわかりやすく明記しておくことが大切です。
2. 試用期間中でも支払うべき給料
試用期間中でも、労働に対する対価として給料を支払わなければなりません。試用期間中に支払うべき給料には具体的にどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、試用期間中でも支払うべき給料について詳しく紹介します。
2-1. 通常の賃金
通常の賃金とは、時間給や日給、月給などのように、労働契約に基づき労働の対価として支払われる賃金のことです。ノーワーク・ノーペイの原則に則り、早退・遅刻や欠勤など、業務をしていない時間があれば、賃金控除することもできます。
2-2. 残業代
試用期間中であっても、労働契約で定められた労働時間を超えて働かせた場合、残業代を支払わなければなりません。法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えない範囲での残業であれば、残業時間分の基礎賃金を追加で支払えば問題ありません。なお、試用期間中でも、法定労働時間を超えて残業させる場合、36協定の締結・届出が必要になるので注意しましょう。
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2-3. 割増賃金
割増賃金とは、従業員が法定労働時間を超えた労働(時間外労働)や、法定休日の労働(休日労働)、深夜帯の労働(深夜労働)をおこなった場合に、通常の賃金に一定額上乗せして支払われる賃金のことです。割増率は、次の通り労働基準法で定められています。
- 時間外労働(月60時間以下):25%以上
- 時間外労働(月60時間を超える):50%以上
- 休日労働:35%以上
- 深夜労働:25%以上
試用期間中でも、従業員に休日出勤や夜勤をさせられますが、割増賃金を支払わなければ労働基準法違反となり、労働者の通告によって行政指導や是正勧告を受けたり、懲役や罰金といった罰則が課せられたりする恐れがあるので気を付けましょう。
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3. 試用期間中の給料設定ルール
試用期間中でも、通常の賃金に加えて、残業代や割増賃金も支払わなければ違法になります。しかし、法律に則り、給料を減額すること自体は違法になりません。ここでは、試用期間中の給料設定ルールについて詳しく紹介します。
3-1. 給料減額する場合は合意が必要
労働契約法第6条に基づき、会社側が労働者に賃金を含む労働条件を事前に明示し、それに合意することで労働契約は成立します。試用期間中の給料を減額する場合、その旨を労働条件通知書や雇用契約書に記載しておかなければなりません。試用期間中の給料減額について労働条件として明示していない場合、雇用契約書に明記されている本採用後と同様の給料を支払う必要があります。
ただし、労働契約法第8条に則り、試用期間中の給料減額について事前に伝えていない場合でも、労働者の合意があれば、後から労働条件を変更して対応することが可能です。しかし、従業員の同意がないのにも関わらず、会社からの一方的な意向で給料減額をおこなうのは違法になる可能性が高いので注意しましょう。
(労働契約の成立)
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
3-2. 最低賃金より低い金額設定には下限がある
試用期間中であっても、原則として、最低賃金を下回らないように給料を設定する必要があります。最低賃金は地域ごとに異なり、定期的に更新されるので、最新の情報をきちんと取得したうえで給料を設定することが大切です。
なお、最低賃金法第7条「最低賃金の減額の特例」により、使用者が都道府県労働局長の許可を得ている場合に限り、試用期間において最大で最低賃金の20%を減額することが可能となります。試用期間の長さは法律によって明確に定められているわけではありませんが、「最低賃金の減額の特例」を適用する場合、試用期間は最長でも6カ月と設定する必要があります。
(最低賃金の減額の特例)
第七条 使用者が厚生労働省令で定めるところにより都道府県労働局長の許可を受けたときは、次に掲げる労働者については、当該最低賃金において定める最低賃金額から当該最低賃金額に労働能力その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める率を乗じて得た額を減額した額により第四条の規定を適用する。
(省略)
二 試の使用期間中の者
(省略)
2 減額の特例許可を受けようとする期間は、必要な期間となっていますか?
「業種・職種等の実情に照らし必要と認められる期間」ですから、必要最小限度の期間としてください。この期間は、最長でも6箇月としてください。
3-3. 賞与・ボーナスを支給なしにすることも可能
賞与やボーナスは、法律で支給が定められているわけではないため、通常の従業員であっても支払わなくても問題ありません。しかし、就業規則などで「すべての従業員に賞与を支給する」と明記している場合、試用期間中の労働者に対しても、賞与を支払わなければなりません。
なお、「試用期間中はボーナス支給の対象外」とルールを定めていれば、通常の従業員にはボーナスを支給して、試用期間中の従業員にはボーナスを支給しないとすることもできます。また、住宅手当や家族手当などの任意で支給する手当も同じような扱いが可能です。ただし、残業手当や深夜手当など、法律で支給が定められている手当は、すべての労働者に対して支払わなければならないので注意が必要です。
4. 試用期間中の給料支給のポイント
試用期間中の給料支給にはいくつかの気を付けるべき点があります。ここでは、試用期間中の給料支給のポイントについて詳しく紹介します。
4-1. 賃金支払いの5原則を遵守する
賃金支払いの5原則とは、労働基準法第24条で定められた適切に賃金を支払うためのルールです。試用期間中の労働者に対しても、賃金支払いの5原則を遵守して賃金を支払う必要があります。
「試用期間中の賃金は本採用後にまとめて支払えばよい」と勘違いされている事業主もいるようです。試用期間中であっても、給料は毎月1回以上、期日を定めて支払われなければなりません。そのため、試用期間3カ月分の給料を試用期間終了後に支払うということはできないので注意が必要です。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(省略)
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。(省略)
関連記事:賃金支払いの5原則とは?違反したときの罰則や例外を詳しく紹介
4-2. 試用期間中に退職した場合も給料の全額を支給しなければならない
試用期間中に退職する従業員もいるかもしれません。試用期間に退職した場合、それを理由に給料を一部減額するのは違法になります。労働した分に対して、全額給料を支払う必要があります。
また、退職金制度を定めている場合、すべての従業員を対象としているのであれば、試用期間中に退職した労働者に対しても退職金を支給しなければなりません。一方、「試用期間中に退職した労働者を除く」と退職金規定に記載していれば、試用期間中に退職した従業員には、退職金を支払わなくても問題ありません。
4-3. 試用期間中に解雇する場合は解雇予告手当が必要
試用期間中に労働者の仕事に対する能力や適性を判断した結果、解雇を選択するケースもあるかもしれません。試用期間中に解雇する場合、通常の解雇と同様で、労働基準法第20条に則り、解雇日の30日前までに通告をする必要があります。
また、解雇予告から解雇日までの給与は、通常通り支払うことになります。なお、解雇日の30日前までに解雇予告をしなかった場合、その日数に応じて解雇予告手当を支払わなければならないので注意が必要です。ただし、労働基準法第21条により、試用期間中の労働者が14日以内に解雇される場合、解雇の予告および解雇予告手当の支給は不要になります。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。(省略)
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。(省略)
引用:労働基準法第20条一部抜粋|e-Gov
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
(省略)
四 試の使用期間中の者
関連記事:試用期間でも解雇できる?認められる理由・認められない理由を紹介
4-4. 試用期間中の給料にも源泉徴収が必要
試用期間中に支払われる給料に対しても、所得税や住民税などの源泉徴収が必要です。ただし、住民税について、「特別徴収」でなく「普通徴収」を選択している場合、納税者自身で住民税を納めることになるので、住民税の給与からの天引きは不要です。
4-5. 就業規則や労働条件通知書・雇用契約書をきちんと整備しておく
試用期間中の給料を本採用後よりも低く設定する場合や、試用期間中については賞与・手当などを支給しないとする場合、明確にルールを定め、労働者に周知していなければ、後々トラブルを招く恐れがあります。
なお、労働基準法第15条により、企業には賃金を含む労働条件の明示義務があります。また、労働基準法第89条には、退職金や臨時の賃金の定めを含む就業規則を作成し、届け出る義務も定められています。この機会に就業規則や労働条件通知書・雇用契約書をチェックし、見直しをしましょう。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。(省略)
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
(省略)
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(省略)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
(省略)
5. 試用期間中の給料に関するよくある質問
ここでは、試用期間中の給料に関するよくある質問への回答を紹介します。
5-1. 試用期間中の給料を手渡しするのはあり?
試用期間中の給料を手渡しすることは認められています。ただし、賃金支払いの5原則をきちんと守ることが大切です。手渡しする場合は、必ず全額を現金で本人に対して渡す必要があります。また、期日を守る必要もあります。このように、試用期間中の給料を手渡しで支給する場合、リスクもあるので、労働者の同意を得たうえで銀行振込にすることも検討しましょう。
5-2. 試用期間中の従業員にも有給休暇の付与は必要?
年次有給休暇は、次のいずれもの要件を満たす労働者すべてに付与されます。
- 雇入れ日から6カ月以上勤務を継続している
- 出勤日が全労働日の8割以上である
そのため、試用期間の長さによっては、有給休暇が付与されることもあります。また、雇入れ日からの期間や出勤日の日数には、試用期間も含まれます。試用期間を除いて計算しないよう注意が必要です。
5-3. 試用期間中であっても雇用保険・社会保険への加入は求められる?
試用期間中であっても、労働者に変わりないため、要件を満たしている人に対しては雇用保険や健康保険、厚生年金保険などへの加入が必要です。パートやアルバイトなどの短時間労働者の場合、条件を満たさないため、社会保険に加入させなくてもよいケースがあります。ただし、労災保険はすべての労働者を加入させなければならないので注意が必要です。また、社会保険加入後は、労働者の給与から社会保険料を差し引いて支給することになります。
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6. 試用期間中の給与について具体的な社内規定を構築しておくことが肝心
試用期間中には、一般社員よりも低い給与額を設定するケースがあります。試用期間の待遇に差をつけること自体は違法ではありませんが、最低賃金を下回らないよう気をつけたり、あらかじめ労働者に告知したりと正しい方法で運用することが大切です。また、社内規定があるときにはボーナスを支給しなければならないこともあります。トラブルを避けるためにも、試用期間中の給与支払いに関する明確なルールを定めておくようにしましょう。