労働者を本採用するかを見極めるために試用期間を設ける企業は多いでしょう。試用期間中の給与は、本採用時よりも低く設定することも可能です。とはいえ、規定ルールがあるため順守することが求められます。本記事では、試用期間における給料・残業代の設定ルールや、よくある質問について解説します。
目次
1. 試用期間のおさらい
試用期間とは、「本採用前に従業員の適性や能力等を確認し、正式に採用するか判断する期間」を指します。本採用後の従業員とは、給与面や待遇面、雇用契約に異なる点があるため、正しく理解しておくことが重要です。
2. 試用期間中も給料・残業代は発生する!設定ルールについて
企業は労働者を雇用する際に、労働の対価として賃金を支払います。
給与の支払いは労働基準法で明確に定められており、試用期間中であっても無給で働かせることは違法となります。
もちろん、本採用後に試用期間中の給与をまとめて支払うといった方法も認められていません。試用期間中の労働者には、一般の従業員と同じように給与支払いをおこないましょう。
2-1. 本採用時の給料より低い金額設定には、合意が必要
試用期間中における給与の支払い額を、本採用よりも低く設定する企業も存在します。
最低賃金法の7条では、都道府県労働局長の許可を得た場合に限り、試用期間中の従業員の給与を最低賃金より20%低く設定することが認められています。
ただし、労働基準法15条には「労働条件を労働条件通知書に明記する」という旨が記載されています。事前に労働者への告知を得ずに、給与額を引き下げることはできないので注意しましょう。
前もって試用期間中の給与額を提示しなかったときには、一般社員と同じ方法で給与額を計算し、支払うことになります。
2-2. 最低賃金より低い金額設定には、下限がある
試用期間中の給与は基本的には最低賃金を下回らないよう設定する必要があります。
ただし、企業が都道府県労働局長の許可を得ている場合には、試用期間中の給与が最低賃金を割り込むこともあります。
最低賃金法第7条には「最低賃金の減額の特例」が定められています。この法律を適用した場合、試用期間には最大で最低賃金の20%を減額することが可能となります。ただしその適用期間は最長で6ヵ月となっています。
最低賃金の減額の特例は労働局長の許可を受け、求人票または労働条件通知書に記載した場合に限り適用されます。許可を得ずに最低賃金未満の給与額で働かせた場合には違法とされることになるので気をつけましょう。
2-3. 時間外労働への割増賃金も支払う必要がある
試用期間中の労働者には、本採用されている一般社員と同じように給与を支払う必要があります。
試用期間中に残業や深夜出勤、休日出勤が発生したときには、割増賃金を正しく計算して支払いましょう。法定労働時間は1日8時間、週40時間と定められており、これを超えたときには時間外労働に対する割増料金の支払いが必要です。同様に、深夜時間や法定休日に労働させた場合も、割増賃金が必要となります。試用期間だからといってこれらの支払いをしないのは違法行為にあたります。
試用期間中の残業や休日出勤などに対して割増賃金を支払わなかった場合には、労働基準法違反とみなされます。労働者の通告によって行政指導や是正勧告を受けるケースもあるため、必ず支給しましょう。
企業は労働者を雇用する際に、労働の対価として賃金を支払います。給与の支払いは労働基準法で明確に定められており、試用期間中であっても無給で働かせることは違法となります。
もちろん、本採用後に試用期間中の給与をまとめて支払うといった方法も認められていません。試用期間中の労働者には、一般の従業員と同じように給与支払いをおこないましょう。
3. 試用期間中の給料に関するよくある質問について
ここからは、試用期間中の給料や待遇に関するよくある疑問について回答します。
試用期間中の有給休暇の扱いや、試用期間中に解雇する場合の給与支払い方法、ボーナスの有無や、社会保険の加入義務などを解説していきます。
3-1. 試用期間中と有給休暇の関係について
試用期間の長さによっては、有給休暇が付与されることもあります。
有給休暇とは、「雇入れ日から6ヵ月以上勤務を継続しており、出勤日が全労働日の8割以上である場合」に付与するものです。
そのため、例えば試用期間を1年に設定した場合には、上記の条件を満たす従業員には有給を付与する必要があります。
3-2. 試用期間中に解雇する場合の給与の支払い方法は?
試用期間中に解雇する場合には、労働基準法第20条に則って解雇日の30日前までに通告をおこないます。解雇予告から解雇日までの給与は、通常通り支払うことになります。
解雇の30日前までに解雇予告をしなかった場合、「解雇予告手当」を支払う必要が生じます。
解雇予告手当とは、以下の公式で算出が可能です。
「解雇予告手当額=(30日-解雇予定日から解雇予告日引いた数)×直近3ヵ月の平均賃金」
直近3ヵ月の平均賃金とは、解雇日からさかのぼり最も近い3ヵ月分の支給給与から計算します。その際には、基本給や割増賃金、各種手当(通勤手当、住宅手当、家族手当、皆勤手当など)はすべて含めた状態で計算します。
解雇予告手当はいわば、突然仕事を失うことになる労働者のためのセーフティーネットです。例えば即日解雇を言い渡す場合であっても、給与支払いが一切必要なくなるというわけでありません。予告なしの解雇をするときには、法律に則り、正しく解雇予告手当を計算し支払いましょう。
3-3. 試用期間中であっても、ボーナスは支給すべき?
試用期間中の労働者にボーナスが支給されるケースもあります。
とはいえそもそも、企業が労働者に対してボーナス(賞与)を支払うよう義務付ける法律はありません。
ボーナスの支払いは、企業が社内規定で賞与支給に関するルールを設けている場合に限り実施されます。つまり、ボーナスに関する規定がない企業には、試用期間中か本採用後かといった区別なくボーナスの支払義務はないのです。
逆に言えば、社内規定でボーナスに関する取り決めがあるときには、そのルール通りにボーナスを支払う必要があります。たとえ試用期間中であっても、支給条件に該当している場合にはボーナスを支給しましょう。
企業によっては、試用期間中にはボーナスを支給しない旨を社内規定で別途定めることもあるようです。また、試用期間中のボーナスの額を減額するルールを取り決めている企業もあります。
企業が試用期間を設ける際には、ボーナスに関する規定についても具体的に定めておくのが安心でしょう。
3-4. 試用期間中であっても社会保険・雇用保険への加入は求められる?
試用期間中の労働者は原則として一般従業員と同じように扱われます。社会保険に加入している企業では、試用期間の初日から社会保険への加入が必須となります。
社会保険とは、健康保険や厚生年金保険、雇用保険、労災保険などのことを指します。健康保険法208条では、試用期間中であっても企業は労働者を社会保険に加入させるよう義務付けています。未加入の状態で働かせることは違法とみなされ、6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
労働者が就業前に家族の扶養に入っていた場合には、試用期間1日目以降は家族の扶養から外れます。社会保険加入後には、労働者の給与から社会保険料を差し引いた状態で支給することになります。
社会保険加入は正社員のみでなく、契約社員、アルバイトやパートなど雇用形態に関係なく、加入対象となれば加入が必要です。
4. 試用期間中の給与について具体的な社内規定を構築しておくことが肝心
試用期間中には、一般社員よりも低い給与額を設定するケースがあります。試用期間の待遇に差をつけること自体は違法ではありませんが、最低賃金を下回らないよう気をつけたり、あらかじめ労働者に告知したりと正しい方法で運用することが大切です。
試用期間中の解雇や社会保険加入は、社内規定や労働基準法の定めに従っておこなうよう気をつけましょう。また、社内規定があるときにはボーナスを支給しなければならないこともあります。
トラブルを避けるためにも、試用期間中の給与支払いに関する明確なルールを定めておくようにしましょう。