働きやすい会社を作り出し、従業員の生産性を高めるには、仕事内容だけでなく、福利厚生にも気を配ることが大切です。ユニークな福利厚生の一つとして「社内通貨制度」があります。
この記事では、社内通貨とは何か、メリット・デメリットを踏まえてわかりやすく解説します。また、社内通貨制度の作り方のポイントや、実際に導入している企業事例も紹介します。
目次
1. 社内通貨とは?
社内通貨とは、企業が自社の従業員向けに社内限定で発行される通貨のことです。通貨とよばれますが、日常に使用されている硬貨・紙幣のようなものから、システムで管理されているポイントのようなものまで、導入している企業によって形はさまざまです。ここでは、社内通貨制度が注目されている背景や理由、社内通貨は課税されるのかを詳しく紹介します。
1-1. 社内通貨が注目される背景・理由
社内通貨制度は2005年ごろから一部の企業で導入されたのがはじまりといわれています。導入当初は利用が限定的でしたが、最近では制度運用の仕組みを支援するビジネスの登場により、利用しやすい環境が整ってきたため、取り入れる企業が増えているようです。また、社内通貨を福利厚生制度として導入することで、社内のコミュニケーションを活性化させたり、従業員のモチベーションアップを向上させたりすることができます。このような背景・理由から、社内通貨が注目されるようになっています。
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1-2. 社内通貨は課税・非課税?
社内通貨はインセンティブとして給与と別に付与されることが多いようです。この場合、社内通貨の使い道によって課税されるかが決まります。たとえば、社内通貨が下記の要件を満たし、自社の商品・サービスの値引きなどにポイントとして用いる場合は、原則として課税されません。
- 現金支給ではない
- すべての従業員が対象である
- 社会通念上、合理的な金額の範囲内である
一方、社内通貨を使って現金や現金同等物と交換できる場合は、課税されるのが基本です。このように、社内通貨が課税・非課税かどうかには決まりがあるので、所得税法などの法律をきちんと確認することが大切です。また、社内通貨を導入したいけれど、課税・非課税か判別できない場合は、最寄りの税務署などに相談してみることが推奨されます。
従業員に付与されるポイントに係る経済的利益については、原則として従業員がそのポイントを利用してサービスを受けたときに、そのサービスの内容によって課税・非課税を判断することになります。
使用者が役員又は使用人に対し自己の取り扱う商品、製品等(有価証券及び食事を除く。)の値引販売をすることにより供与する経済的利益で、次の要件のいずれにも該当する値引販売により供与するものについては、課税しなくて差し支えない。
(1) 値引販売に係る価額が、使用者の取得価額以上であり、かつ、通常他に販売する価額に比し著しく低い価額(通常他に販売する価額のおおむね70%未満)でないこと。
(2) 値引率が、役員若しくは使用人の全部につき一律に、又はこれらの者の地位、勤続年数等に応じて全体として合理的なバランスが保たれる範囲内の格差を設けて定められていること。
(3) 値引販売をする商品等の数量は、一般の消費者が自己の家事のために通常消費すると認められる程度のものであること。
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2. 社内通貨を導入するメリット
社内通貨を取り入れることで、さまざまなメリットが得られます。ここでは、社内通貨制度を導入するメリットについて詳しく紹介します。
2-1. 経営理念や行動指針の浸透につながる
従業員に経営理念や行動指針を伝え、共感してもらうことで、強固な組織を作り出すことができます。従業員のなかには、経営理念・行動指針の内容は理解していても、具体的に何に取り組めばよいかわからない人もいるかもしれません。経営理念や行動指針にあった成果を出した従業員に社内通貨を付与することで、行動すべき方向が明確になり、組織が一丸となって目標に向かって取り組むことができるようになります。これにより、組織全体の生産性も高まります。
2-2. 成果や気持ちを可視化できる
従業員が成果を出したとしても、それに対する対価が支払われなければ、モチベーションが維持できなくなる可能性があります。従業員の成果に応じて社内通貨を付与すれば、従業員の頑張りを評価し、仕事へのモチベーションを高めることができます。また、従業員同士で社内通貨をやり取りできる仕組みを構築することで、目には見えない感謝の気持ちを可視化して、良好な人間関係を作り出すことが可能です。
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2-3. 企業のイメージアップにつながる
近年では少子高齢化の影響で労働人口が減っており、人材確保に悩みを抱えている企業が増えています。社内通貨制度を導入して福利厚生を充実させることで、従業員満足度を高め、定着率を向上させることが可能です。また、社内通貨制度のように、ユニークで魅力的な福利厚生制度を導入すれば、自社の存在を社外にアピールすることができます。結果として、求人応募者数が増え、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。
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3. 社内通貨を導入するデメリット
社内通貨にはメリットだけでなく、デメリットもあります。ここでは、社内通貨制度を導入するデメリットについて詳しく紹介します。
3-1. コストがかかる
社内通貨制度を導入するには、システム・サービスの導入費用や、運用担当者の人件費といったコストがかかります。また、社内通貨は直接業務に関係する費用でないため、生産性向上や採用力強化といった効果が得られなければ、コストの無駄遣いとなってしまいます。まずは目的を定め、社内通貨を導入する必要性を検討しましょう。費用対効果を検証することで、社内通貨を導入すべきかどうか明確にすることができます。
3-2. 制度が形骸化する
社内通貨制度を導入してみたものの、形だけとなり、導入に失敗してしまうケースもあります。制度が形骸化しないためにも、社内のニーズにあわせて社内通貨制度を構築することが大切です。また、従業員にきちんと周知することで、積極的に活用してもらえるようになり、社内通貨の効果を高めることができます。
3-3. 不公平が生じる
社内通貨制度を「表彰」のために導入するケースがあります。しかし、限られた人のみにしか社内通貨が付与されない場合、不公平だと感じ、不満を感じる従業員が生じる恐れもあります。すべての従業員に社内通貨を付与される機会があるよう、制度を設計することが大切です。また、社内通貨が付与される基準を明確にすることで、公平な制度となり、従業員の不満を防止することができます。
4. 社内通貨制度の作り方
社内通貨制度を導入しても失敗に終わってしまったという事例もあります。ここでは、社内通貨制度の作り方のポイントをわかりやすく解説します。
4-1. 目的を明確にする
社内通貨を導入する場合、まずは目的を明確にしましょう。たとえば、社内のコミュニケーション活性化を目的とする場合、従業員同士で社内通貨をやり取りできる仕組みを構築するのがよいかもしれません。従業員の生産性向上やモチベーション向上を目的とする場合、成果に応じて社内通貨を付与することが推奨されます。このように、目的が定まることで、社内通貨制度の具体的な仕組みが設計しやすくなります。
4-2. 運用ルールを定める
社内通貨の導入目的が明確になったら、それにあわせて細かく運用ルールを設計しましょう。社内通貨の付与基準が曖昧だと、上手く制度を運用できないだけでなく、従業員とのトラブルにつながる可能性もあります。そのため、社内通貨を「誰に」「いつ」「何に対して」「どのような基準で」付与するのかを細かくルールとして定めることが大切です。
4-3. アプリやシステムを構築する
社内通貨制度をスムーズに運用するためには、アプリやシステムが必要になる可能性もあります。自社でアプリ・システムを構築できれば、時間やコストの負担を減らすことが可能です。自社で構築するのが難しい場合は、アウトソーシングを活用したり、専用のソフト・システムを導入したりするのもおすすめです。
4-4. 従業員に周知する
社内通貨制度のシステムと運用ルールを構築できたら、実際に運用を始めましょう。社内通貨制度を導入しただけでは、従業員に伝わっておらず、積極的に活用されない可能性があります。そのため、社内通貨の導入と同時に、掲示板や社内SNSなどの方法を用いて、従業員にきちんと周知することが大切です。また、社内制度の仕組みを正しく理解してもらうため、研修やセミナーを開くのも一つの手です。
4-5. 定期的に見直しと改善を実施する
社内通貨を実際に運用したら、定期的に実施状況をチェックし、見直しをおこないましょう。社内通貨が活用されていない場合、その原因を探り、改善することで、これまで以上に施策の効果を高めることができます。
5. 社内通貨を導入している企業事例6社
ここでは、社内通貨を導入している企業事例6社を紹介します。他社の成功事例を参考にしたうえで、ぜひ自社でも社内通貨の導入を検討してみてください。
5-1. 株式会社DISCO|社内通貨「will」
半導体切断装置の世界最大手のDISCO。2017年3月には、厚生労働省が選んだ「働きやすい企業」部門で最優秀賞を得ました。現在の好業績を支えたのは社内仮想通貨「will」の存在だそうです。DISCOは、2003年に仮想通貨の会計制度「will会計」を導入。2011年に個人単位で採算管理をする「個人will会計」としています。
【活用方法】
- willを活用したオークション形式で社内業務の受発注がおこなえる
- 月の収入と支出を仮想通貨で管理
- 社内プレゼンテーションの賞金としてwillが贈られる
- 半年ごとに換金、貯蓄をリセット
- will保有者の上位はホームページで公表される
社内コミュニケーションの促進というよりも、モチベーションアップや競争促進といったことが目的になっているようです。
5-2. カブドットコム証券|社内通貨「OOIRI(オオイリ)」
三菱UFJフィナンシャル・グループのカブドットコム証券の社内通貨「OOIRI(オオイリ)」は、イスラエル発のフィンテックベンチャー企業ZEROBILLBANKと共同で開発した最新鋭の取り組みとのことです。ブロックチェーンという仕組みを基盤に、ビットコインで有名な仮想通貨技術、位置情報を活用したインセンティブツールとして、働き方改革や健康経営の効果が期待されています。
【活用方法】
- 残業なしの場合、1日につき「10 OOIRI」が贈られる
- 1日で1万歩以上歩いた場合、「100 OOIRI」が贈られる
- 社内メンバーへの感謝として、OOIRIが贈られる
貯めたOOIRIは社内サービスだけでなく、近くの飲食店で利用できるよう計画が進められています。導入されはじめたのは2016年からで、2017年にはカブドットコム証券の顧客にリリースされる予定とのこと。リリースにより、社内通貨制度の拡大が予想されています。
5-3. 株式会社オロ|社内通貨「Oron」
コミュニケーションデザイン事業とビジネスソリューション事業を展開するオロの社内通貨サービス「Oron」は、社内コミュニケーション促進のための取り組みです。社員数の増大、支社の拡大とともに社員間のコミュニケーションツールとして2012年に導入されました。
【活用方法】
- 毎月3Oron支給される
- 感謝の気持ちを伝える手段として、WEBを介して社員間でやりとり
- 誰から送られたかはわからない仕組みになっている
- 貯まったOronはさまざまなアイテムと交換することができる
アイテムは、MacBookAirや会社でも履けるルームシューズやブランケットなどがあります。また、オロのロゴを使用したトランプやマウスパッドなども好評とのことです。
5-4. 株式会社リンクアンドモチベーション|社内通貨「LIMO」
モチベーションを軸にした組織変革コンサルティングの株式会社リンクアンドモチベーションの社内通貨の活用法は特徴的です。カジノに見立てた人事制度「カジノルール」のツールとして社内通貨「LIMO」を活用しています。カジノルールとは、従業員のモチベーション向上と社内コミュニケーションの活性化を目的に、ビンゴやポーカーなどカジノで実施されているゲームに見立てた社内教育や報酬をルール化したものです。
【活用方法】
- 「カジノルール」の導入と同時に社内通貨単位「LIMO」を流通。「円」との交換が可能
- 各研修や自社理解テストの成績、社内表彰制度の報酬として「LIMO」を配布
- 内外環境によって為替相場が毎日変動する
カジノを参考にしているため、ユニークな取り組みの一つといえます。
5-5. 株式会社じげん|社内通貨「GAT」
IT会社であるじげんは、感謝の気持ちを示すコミュニケーションツールとして、社内通貨制度「GAT」を取り入れています。2008年から導入されました。
【活用方法】
- 月に1度、1人に感謝の気持ちとして手書きのメッセージと共に1,000GATを贈られる
- 社員間で直接手渡しする仕組み
- Amazonポイントなど、豪華景品に交換できる
贈られたGATを社内に掲示することにより、表には出づらい協力行動の可視化につながり、社員のモチベーションアップにもつながったそうです。手書きのメッセージもついてくるところが特徴的といえます。
5-6. 株式会社Wiz|社内通貨「Wizコイン」
ベストベンチャー100に4年連続で選出された、ベンチャー企業Wizでも社内通貨制度「Wizコイン」が取り入れられています。その仕組みは、社内で「いいね!」と思われる行動をするとWizコインという社内通貨が贈られるというものです。仕事以外にも、挨拶、周辺の掃除など人間性や普段の行動も評価対象になっているそうです。
【活用方法】
- 全従業員対象。業務だけでなく、お互いの普段の良い行動を評価してWizコインを贈り合うことができる
- 1枚から交換可能
- コインの枚数に応じてWizのオリジナル商品やオーダーメイドスーツなど豪華景品と交換できる
Wizは他にも、美容手当やママ手当などユニークな福利厚生制度が充実しています。Wizコインをはじめとした社員モチベーションの管理が好業績につながっているのかもしれません。
6. 社内通貨を導入して福利厚生を充実させよう!
社内通貨を導入することで、仕事へのモチベーション向上や社内コミュニケーションの活性化が期待できます。ただし、慎重に導入しなければ、社内通貨制度が形骸化してしまい、失敗に終わってしまう恐れもあります。まずは目的を明確にし、福利厚生を充実させるための施策を取り入れてみましょう。