社会保険には、それぞれに加入条件が定められています。しかし、社会保険ごとの加入条件について、完全に理解できているという人は少ないかもしれません。
社会保険の加入条件は、事業所の業種や規模によって異なるためしっかりと理解しておきましょう。本記事では、社会保険ごとの加入条件や加入手続きを怠ったときの罰則などについて解説します。
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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1. 社会保険とは?
社会保険の具体的な加入条件について解説する前に、社会保険とは何のために存在しているのか、社会保険の仕組みはどうなっているのかについて解説します。
社会保険を定義するにあたって、「広義」「狭義」の2つに分けることができます。
【広義の社会保険】
病気やけが、出産、失業、障害、老齢、死亡などに対する必要な保険給付をおこなう公的保険のこと。
- 被用者保険:会社員が加入する
- 一般国民保険:自営業者などが加入する
※被用者保険はさらに、「狭義の社会保険」と「労働保険」に分かれる。
【狭義の社会保険】
狭義の社会保険は以下の4つのことを指します。
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 労働保険
※労働保険は「雇用保険」「労災保険」を合わせたもの
新しい従業員が就職・転職してきた際は、会社側で健康保険、厚生年金保険、介護保険、労災保険、雇用保険の加入手続きをおこないます。
通常、社会保険と言われる場合は狭義の社会保険を指すことが多いでしょう。
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2. 社会保険の加入条件は事業所の規模によって異なる
各種社会保険の加入条件として、「強制加入」「任意加入」(※労災保険は特別加入も)があります。
それぞれの条件がどのように定められているのか、チェックしておきましょう。
2-1. 労災保険
2-1-1. 強制加入の条件
- 原則として、常時使用する労働者が1人でもいる事業所
法人・個人事業を問いません。ただし、国の直轄事業、官公署の事業は除きます。
※「労働者」とは、正社員・アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、事業に使用され、賃金が支払われる者のことです。原則として、事業主や役員、事業主の同居親族は労働者に該当しませんが、勤務実態によっては、役員や同居親族でも労働者として認められる場合があります。
※「常時使用する」とは、雇用関係が常用的であることをいい、試用期間中の労働者も含みます。
2-1-2. 任意加入の条件
- 個人経営の農業で常時使用する労働者が5人未満
- 個人経営の林業で常時使用する労働者がおらず、年間労働者数が延べ300人未満
- 個人経営の漁業で常時使用する労働者が5人未満
労働者の過半数の希望があったときは、事業主は任意加入申請をする義務があります。 労働者の同意がなくても、事業主は任意加入申請ができます(労災保険料は全額事業主負担)。
2-1-3. 特別加入の条件
労災保険には特別加入制度があり、以下の者が対象です。
- 中小事業主
- 一人親方
- 特定作業従事者
- 海外派遣者
2-2. 雇用保険
2-2-1. 強制加入の条件
- 原則として、常時使用する労働者が1人でもいる事業所
ただし、雇用保険の加入条件を満たす労働者がいない事業所は除きます。
2-2-2. 任意加入の条件
任意加入の条件は、先ほどの労災保険と同じです。
任意加入するには、事業所で常時使用する労働者(雇用保険加入の条件を満たす者)の過半数の同意を得て、事業主が加入申請をします。
2-3. 健康保険・厚生年金
2-3-1. 強制加入の条件
- 法人事業所で常時従業員を使用(国・地方公共団体・事業主だけの事業所を含む)
- 個人事業所で常時使用する従業員が5人以上(農林水産業・一部サービス業・士業・宗教などを除く)
2-3-2. 任意加入の条件
- 個人事業所で常時使用する従業員が5人未満(農林水産業・一部サービス業・士業・宗教などを含む)
任意加入するには、事業所で常時使用する従業員(健康保険・厚生年金加入の条件を満たす者)の過半数の同意を得て、事業主が加入申請をします。
本章で解説した社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入条件は、2022年10月、2024年10月の法改正により、適用範囲が順次拡大されます。詳しくは後述しますのでチェックしておきましょう。
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3. 社会保険に加入するために必要な手続き
社会保険のうち、健康保険・厚生年金に加入するためには、事業所ごとの手続きと従業員ごとの手続きが必要です。以下、それぞれの手続きについて詳しく解説します。
3-1. 事業所ごとの社会保険加入手続き
先ほど紹介した強制加入の条件に該当する場合は「強制適用事業所」、任意加入の条件に該当する場合は「任意適用事業所」となります。日本年金機構の事務センターか年金事務所にて、以下のような手続きをしましょう。
強制適用事業所の場合
条件に該当した日から5日以内に「新規適用届」を提出する必要があります。法人事業所の場合は「法人登記簿謄本」を添付しましょう。個人事業所の場合は「事業主の世帯全員分の住民票」を添付します。
任意適用事業所の場合
任意適用事業所の場合は、「任意適用申請書」を提出します。また、従業員の半数以上からの同意を得たうえで「任意適用同意書」を作成して提出しなければなりません。
3-2. 従業員ごとの社会保険加入手続き
新たに従業員を採用した場合や、従業員が退職したときなどは、以下のような手続きをおこないましょう。
社会保険に新たに加入する場合
加入条件に該当する従業員がいる場合は、その事実が発生してから5日以内に「被保険者資格取得届」を日本年金機構の事務センターか年金事務所に提出しなければなりません。従業員ごとの基礎年金番号かマイナンバーの記載が必要になるため、早めに提出してもらいましょう。
全国健康保険協会ではなく、別の健康保険組合に加入しているときは、別途、手続きが必要です。
社会保険の資格を喪失した場合
従業員が退職したときなど、資格を喪失した場合は、すぐに「被保険者資格喪失届」を提出しましょう。健康保険被保険者証も返却してもらいます。
全国健康保険協会以外の健康保険組合に加入している場合は、別途手続きをおこないましょう。
4. 社会保険の加入条件に関する注意点
ここまで、社会保険の加入条件や加入手続きについて解説しました。社会保険の手続きが煩雑だと感じる人もいるかもしれませんが、加入を怠ると罰則があるので注意が必要です。
ここでは、事業所だけでなく従業員個人の加入条件についてもポイントを解説していきます。
4-1. 社会保険の加入条件を満たしていながら手続きを怠った際の罰則
強制加入の条件を満たしていながら、手続きを怠った事業主に対しては、罰則が定められています。
4-1-1. 労災保険
過去2年分の労災保険料を納付しなければなりません。 また、加入手続きをしない間に労災事故が発生した場合、保険給付額の全部または一部が事業主から徴収されます。
4-1-2. 雇用保険
過去2年分の雇用保険料を納付する必要があります。 さらに、6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されることがあります。
4-1-3. 健康保険・厚生年金
過去2年分の社会保険料を納付します。退職済み被保険者の社会保険料については、全額、事業主負担となるケースもあるため注意しましょう。また、6カ月以下の懲役、または50万円以下の罰金が科されることもあります。
関連記事:社会保険の手続方法|社員雇用の際に必要な書類や手順などをご紹介
4-2. 従業員によって異なる社会保険の加入条件
まず、勤務する事業所が、社会保険適用事業所であることが前提です。 そのうえで、条件を満たした従業員は強制的に加入者、すなわち被保険者となります。自由意思で加入の有無を選ぶことはできません。社会保険ごとの条件は以下の通りです。
4-2-1. 労災保険
◎労働者全員
4-2-2. 雇用保険
下記いずれかの条件を満たす労働者
- 週所定労働時間が40時間以上
- 週所定労働時間が20時間以上で、31日以上引き続き雇用される見込みがある
雇用期間の定めがない、または31日未満の契約を更新する可能性がある場合を含みます。
4-2-3. 健康保険・厚生年金
下記いずれかの条件を満たす従業員
- 常時使用されている
- 週所定労働時間および月所定労働日数が、常時使用されている従業員の4分の3以上
ただし、雇用期間が2カ月で契約更新の可能性がない場合を除きます。
4-3. パート・アルバイトの社会保険の加入条件
パート・アルバイトなどの短時間労働者の加入条件が変わり、2022年10月以降は従業員101人以上の事業所で働く人にまで対象が拡大されました。さらに、2024年10月からは従業員51人以上の事業所にまで拡大されます。
週の所定労働時間、及び、月の所定労働日数がフルタイムの4分の3以上で、以下の条件を満たす場合は、パートやアルバイトでも加入対象となります。
- 週所定労働時間が20時間以上
- 月収が88,000円以上
- 2カ月を超えて雇用される見込みがある
- 学生ではない
さらに、以下のような条件に該当する場合も加入対象となるため注意しましょう。
4-3-1. 従業員501人以上の事業所
従業員が501人以上の事業所で働いており、下記すべての条件を満たす人は被保険者となります。
- 週所定労働時間が20時間以上
- 月収が88,000円以上
- 1年以上引き続き雇用される見込みがある
- 学生ではない
参考:「パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象が広がっています。|政府広報オンライン」
関連記事:2022年社会保険適用拡大の法律・対応方法をわかりやすく解説!
4-3-2. 従業員51人以上の事業所(2024年10月以降)
2024年10月以降はさらに適用範囲が拡大される予定のため、注意が必要です。従業員が51人以上いる場合は、パートやアルバイトを社会保険へ加入させなければなりません。
とくに社会保険料は給与から控除して支払うため、この法改正によって適用範囲が変更されることによって対象従業員の給与にも大きく関係します。確認ミスや漏れによるトラブルがないように対応しなければなりません。 そんな人事労務担当者の方の役に立つ「最新の法改正に対応した社会保険の加入条件ガイドブック」を無料配布しております。 加入条件をわかりやすく図解していますので、参考にしたい方はこちらから無料でダウンロードしてご覧ください。
4-4. 社会保険への加入を一括適用できる場合もある
複数の支社がある場合でも、本社が従業員の労務管理をまとめて担当しているときは、全体を1つの事業所と捉えることができます。一括適用を申請して承認を受ければ、本社や支社で人事異動があったときでも、社会保険への加入手続きや喪失手続きが必要ありません。
業務の効率化にもつながるため、多くの支社がある場合は一括適用を検討してみましょう。
5. 【2024年10月】社会保険の加入条件は拡大される
繰り返しになりますが、パートやアルバイトの社会保険の加入条件は順次拡大されつつあります。2022年10月以降は従業員数101人以上の企業、2024年10月以降は従業員数51人以上の企業も加入の対象となります。飲食業や小売業など、小規模事業者でも加入対象となることが考えられるため、しっかりと準備をしておくことが大切です。
具体的には、新たに被保険者となるパートやアルバイトについて把握しておきましょう。そのうえで、必要に応じて対象者への説明をおこなうことが重要です。多くの従業員の資格取得届を提出する可能性もあるため、直前で焦らないよう作成の準備も進めておきましょう。
6. 社会保険の加入条件を満たさなくなったときの対応方法
社会保険に加入していた従業員が、勤務日数や勤務時間の変化などにより加入条件を満たさなくなったときは、以下のような対応が必要です。
5-1. 従業員に社会保険の加入条件を満たしていないことを伝える
従業員が社会保険の加入条件を満たしていないからといって、勝手に手続きを進めるのは避けましょう。労使間のトラブルにつながる可能性もあるからです。
まずは、従業員に現状を伝え、社会保険の加入条件を満たしていないことを把握してもらいましょう。
5-2. 業務の調整や社会保険の資格喪失手続きをおこなう
従業員が社会保険の資格喪失に納得している場合は、手続きを進めましょう。前述の通り「被保険者資格喪失届」を作成して提出しなければなりません。
従業員が社会保険への継続加入を希望している場合は、勤務日数や勤務時間などを調整します。できる限り希望に合わせ、従業員が安心して働ける環境を整えましょう。
5-3. 扶養に入る場合は必要書類を提出してもらう
社会保険の加入条件を満たさなくなったタイミングで、扶養に入ることを検討する従業員もいるでしょう。1年間の収入が130万円未満で、被保険者の収入の2分の1未満であれば、扶養に入ることが可能です。
扶養に入るときは、、「健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届」を提出してもらいましょう。下記の添付書類も必要です。
- 被保険者の謄本、または住民票
- 被扶養者の退職証明書、または確定申告書の写し
5-4. 加入条件を一時的に満たさない場合は年金事務所に相談する
加入条件を一時的に満たさない場合は、年金事務所に相談しましょう。たとえば、繁忙期は加入条件を満たしているものの、閑散期には勤務時間が減ることで加入条件を満たさなくなるケースが考えられます。加入条件を満たしているかどうかの判断は状況によって異なるため、年金事務所へ相談のうえ、正しく対応することが大切です。
また、週の所定労働時間は20時間未満であるものの、勤務実態としては20時間以上働くことが2カ月以上連続しており、今後もその状態が続くと予想される場合は、労働時間が20時間以上となった月から3カ月目より、社会保険へ加入させなければなりません。
6. 社会保険の加入条件を把握して法令を遵守しよう!
社会保険は、事業所・労働者それぞれに加入条件が定められています。 法改正によって、条件の変更もあり得ますので、最新の情報を把握しておく必要があります。
社会保険には、疾病や障害、失業などに際して保険給付があり、これは労働者にとっても、事業主にとっても「メリット」です。社会保険料という目先の「デメリット」だけにとらわれていては、大切なメリットを逃すことにもなります。
また、近年、社会保険未加入に対する調査や罰則が強化されつつあり、マイナンバー導入によって、さらに強化が進むと考えられています。 事業主には、常に法令遵守の意識が必要です。
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社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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