育児休業する場合、一定の条件を満たせば、育児休業給付金をもらうことができます。育児休業給付金がもらえない代わりに、退職後に失業手当を受け取れる可能性もあります。この記事では、育児休業給付金の支給要件や申請から受給までの流れについてわかりやすく解説します。また、育児休業給付金がもらえない場合はどうするかも紹介します。
目次
1. 育児休業給付金とは?
育児休業給付金(育休手当)とは、育児休業を取得している一定の要件を満たした従業員が受け取れる給付金のことです。労働者は育児休業給付金を受け取ることで、育児休業中に給与が支払われないとしても、安定した生活を送ることができます。ここでは、育児休業給付金と出生時育児休業給付金の違いや、2025年4月からの受給期間延長手続きにおける注意点について詳しく紹介します。
1-1. 育児休業給付金と出生時育児休業給付金の違い
育児休業給付金と出生時育児休業給付金は、どちらも育児休業を取得する際に受け取れる給付金です。しかし、受給の対象者や要件に違いがあります。
育児休業給付金は、原則として1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した場合に受け取ることができます。そのため、男性も女性も要件を満たせば、育児休業給付金を受給することが可能です。
一方、出生時育児休業給付金は、子の出生後8週間のうち合計4週間分(28日)を上限に、産後パパ育休を取得した場合に受け取ることができます。そのため、原則として男性のみが受給することが可能です。ただし、養子を育児する場合、女性も受け取れる可能性があります。
このように、育児休業給付金と出生時育児休業給付金は同一のものでなく、違いがあるので正しく制度を理解しておくことが大切です。
関連記事:育児休業の期間はいつまで?男性も可能?給付金の申請条件や計算方法もわかりやすく解説
1-2. 2025年4月より育児休業給付金の受給期間延長手続きの改正に注意!
育児休業給付金は、一定の要件を満たせば、1歳6カ月もしくは2歳となる日の前日まで受給することができます。これまでは、保育所入所の申請をしたけれど、当面の間入所できないことについて、自治体が発行する入所保留通知書などで簡易的に確認していました。そのため、受給期間を延長するために、形式的にだけ保育所の入所申請をおこなう人も出ていました。
しかし、2025年4月より、従来の確認に加えて、保育所の入所申し込みが、速やかな復職のために実施されたものであることの証明が必要になり、これまで以上に育児休業給付金の受給期間延長手続きが厳格化されます。なお、2025年4月からは、「育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書」に「保育所等の利用申込書の写し(コピー)」も添付しなければならないので注意が必要です。
2. 育児休業給付金がもらえる要件
育児休業給付金はどのような要件を満たせばもらえるのか気になる人もいるかもしれません。「育児休業給付金がもらえない」とならないよう、あらかじめ要件をきちんと確認しておくことが大切です。ここでは、育児休業給付金がもらえる要件を一つずつ詳しく紹介します。
2-1. 雇用保険の加入者で育児休業を取得した人
育児休業給付金をもらえるのは、原則1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した「雇用保険の被保険者」です。そのため、雇用保険に加入している必要があります。雇用保険の加入条件は、次のすべての要件を満たすことです。
- 週の所定労働時間が20時間以上である
- 31日以上雇用される見込みがある
- 学生でない(例外あり)
これらの要件をすべて満たしていれば、雇用保険に加入することができます。なお、定時制や夜間の学校に通っている場合、学生でも雇用保険の加入対象に該当する可能性があります。育児休業給付金を受け取るため、まず雇用保険の加入者かどうか確認しましょう。
関連記事:雇用保険の加入条件!手続き方法や注意点をわかりやすく解説
2-2. 育児休業前の2年間に賃金支払基礎日数が一定以上
育児休業給付金をもらうためには、育児休業の開始日前2年間に、賃金支払基礎日数11日以上ある月が12カ月以上あることも要件の一つです。なお、賃金支払基礎日数11日以上ない月は、賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上あれば、該当期間の1カ月として含めることができます。ただし、これまでに基本手当の受給資格や高年齢受給資格の決定を受けたことがある場合、それ以降のものに限定して計算されるので注意が必要です。
関連記事:賃金支払基礎日数とは?給与形態ごとの数え方や注意点
2-3. 育児休業中の就業日数・時間が一定以下
育児休業中も全く労働していけないわけではありません。会社や業務の都合で出社しなければならないケースもあるかもしれません。一支給単位期間中の就業日数が10日以下、もしくは就業時間数が80時間以下であれば、労働していても育児休業給付金をもらうことができます。支給単位期間とは、育児休業の開始日から起算した1カ月ごとの期間のことです。なお、育児休業開始日や終了日が含まれるために、支給単位期間が1カ月に満たない場合も、同じ条件で判断されるので注意が必要です。
2-4. 育児休業後に労働契約終了が見込まれていない
育児休業給付金を受給するためには、育児休業後に労働契約終了が見込まれていないことも要件の一つです。この要件は有期雇用労働者(期間を定めて雇用される者)に課されるもので、無期雇用労働者は考慮しなくて問題ありません。
具体的には、養育する子が1歳6カ月に達するまで(子が1歳6カ月に達する日以降も育児休業を取得する場合は2歳に達するまで)の期間に、その労働契約の終了が明らかでなければ要件を満たすことができます。なお、労働契約が更新されると見込まれている場合は、その更新後のもので判断されます。
3. 育児休業給付金がもらえないケース
それでは、どのようなケースに該当する場合、育児休業給付金がもらえないのでしょうか。ここでは、育児休業給付金がもらえない具体的なケースについて詳しく紹介します。
3-1. 雇用保険に加入していない場合
パートやアルバイトでも加入条件を満たせば、雇用保険に加入することができます。しかし、週の所定労働時間が20時間未満の場合などで、雇用保険に加入していなければ、育児のために休業を取得したとしても、育児休業給付金をもらうことができません。
3-2. 育児休業中に一定以上の労働をしている場合
育児休業中も一定の範囲であれば働いても問題ありません。しかし、一支給単位期間中の就業日数が10日を超える場合、育児休業給付金がもらえなくなるので注意が必要です。
3-3. 育児休業後に労働契約終了が見込まれている場合
有期雇用労働者で、育児休業後に労働契約が終了すると明示されている場合、育児休業を取得しても、育児休業給付金をもらえません。ただし、契約が更新される見込みがあれば受給できるので、事前に労使双方できちんと話し合うことが大切です。
育児休業の申出があった時点で労働契約の更新がないことが確実であるか否かによって判断されます。事業主が「更新しない」旨の明示をしていない場合については、原則として、「更新しない」とは判断されません。
4. 2人目の育児休業給付金の要件には例外がある
2人目の育児休業を取得する場合も、要件を満たせば、育児休業給付金をもらうことができます。ただし、支給要件に例外もあるので注意が必要です。ここでは、2人目以降の育児休業給付金の受給について詳しく紹介します。
4-1. 支給要件の例外
育児休業給付金を受給するためには、育児休業開始日前の2年間に、11日以上就業した月が12カ月以上あることが要件の一つです。育児休業中に2人目の子を妊娠した場合、2人目の育児休業中にこの要件を満たせなくなる可能性があります。
しかし、育児休業開始日前2年間に、疾病や負傷など、やむを得ない事由によって、30日以上賃金を受け取れなかった期間がある場合、その期間を2年に加算して合計で最長4年間まで遡ることが可能です。このように、4年間遡れば要件を満たし、2人目の育児休業中でも育児休業給付金をもらえるかもしれません。
4-2. 育児休業給付金がもらえないケースもある
育児休業給付金の要件には例外を適用することができます。4年間の遡りのルールを適用すれば、2人目の子の育児休業でも、育児休業給付金を受給できるかもしれません。しかし、次のようなケースでは、2人目の子の育児休業の際、育児休業給付金をもらえない可能性もあるのでよく確認しましょう。
- 1人目の育児休業で延長などにより2年を超えて取得している
- 最初の育児休業で遡りのルールを適用している
このように、最長4年間の遡りルールがあるとはいえ、正しく受給要件を理解していなければ、2人目の育休の際、育児休業給付金をもらえない可能性もあるため注意が必要です。
4-3. 3人目の育児休業給付金を申請する場合は注意が必要
3人目の子のために育児休業を取得する場合でも、すべての要件を満たしていれば、育児休業給付金をもらうことができます。たとえば、1人目と2人目の子は、連続して育休を取り、一度復帰して3人目の子の育休を取る場合などが挙げられます。
ただし、1人目と2人目の子の育児休業を連続して取り、2人目の育休中に3人目の子を妊娠した場合、遡りのルールを適用したとしても、受給要件を満たせない可能性があります。このような場合、3人目の子の育児休業給付金をもらうには、職場に復帰して最低でも1年は勤める必要があります。
5. 育児休業給付金の申請・受給の流れ
育児休業給付金は従業員と会社ともに手続きが必要になります。従業員が申請しても、会社が手続きをし忘れると、「育児休業給付金がもらえなかった」という事態を招く恐れがあります。ここでは、育児休業給付金の申請・受給の流れについて詳しく紹介します。
5-1. 従業員が就業規則に従って申請する
まずは育児休業を取得した従業員が就業規則に従って、会社に育児休業給付金の受給申請をおこなうようにしましょう。従業員が混乱しないように、手続きの方法や流れをルール化しておくことが大切です。
5-2. 育児休業給付受給資格確認手続を実施する
育児休業給付金を受給するためには、会社側が育児休業給付受給資格確認手続を実施する必要があります。育児休業給付受給資格確認手続には、次の提出書類と添付書類が必要です。
提出書類 |
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添付書類 |
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提出先は「事業所の所轄のハローワーク」、提出期限は「初回の給付金の支給申請を実施する日まで」です。なお「e-Govサイト」から電子申請により手続きすることもできます。受給資格があると認められれば、「育児休業給付受給資格確認通知書」と「育児休業給付金支給申請書」が交付されます。一方、受給資格がないと判断されれば、「育児休業給付受給資格否認通知書」が交付されるので、理由と合わせて従業員に送付しましょう。
5-3. 所轄のハローワークに給付金の申請をする
育児休業給付金の給付申請も事業主が実施します。ただし、やむを得ない事由で会社側での申請が難しい場合や、従業員本人が申請したいとの希望がある場合、従業員本人が給付申請をおこなうことも可能です。給付金の申請には、次の書類が必要です。
- 提出書類:育児休業給付金支給申請書
- 添付書類:労働者名簿や賃金台帳、出勤簿、タイムカードなど
「育児休業給付金支給申請書」は事業所の所轄のハローワークに提出する必要があります(電子申請も可能)。提出期限は、ハローワークから交付される「育児休業給付次回支給申請日指定通知書」に記載されています。初回の支給申請期限は、育児休業開始日から起算して4カ月を経過する日の属する月の末日までです。なお、育児休業給付金は、原則として2カ月に1回の申請が必要です。ただし、従業員が希望すれば、1カ月に1回支給申請をおこなうこともできます。
「育児休業給付受給資格確認手続」と「育児休業給付金の初回支給申請手続」は同時に実施することも可能です。その場合、「育児休業給付受給資格確認票」の代わりに「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」の提出が必要になります。初回の受給申請をおこなった後、「育児休業給付金支給決定通知書」と「(次回申請用)育児休業給付金支給申請書」が交付されます。「育児休業給付金支給決定通知書」は従業員に送付しましょう。
5-4. 給付金が振り込まれているかチェックする
育児休業給付金は、支給決定後、1週間程度で届け出された金融口座に振り込まれます。書類の記載ミスなどにより、間違った口座に振り込まれえてしまっている恐れもあります。そのため、会社側が給付金申請をおこなったら、従業員に給付金が振り込まれているかどうかチェックすることが大切です。
関連記事:会社側が出産手当金の申請から入金までに対応すべきフローを徹底解説!
6. 育児休業給付金がもらえない場合はどうする?
育児休業給付金がもらえない場合、どのような対応をすべきか悩まれる人も少なくないでしょう。ここでは、育児休業給付金がもらえない場合にすべき対応について詳しく紹介します。
6-1. 受給要件や就業規則を再度チェックする
相談窓口や会社の担当者の判断が間違っている可能性もあります。まずは受給要件や就業規則を再度見直しましょう。育児休業給付金は法律できちんと定められた制度なので、受給できない場合は理由があります。育児休業給付金は育休中の生活を支えるための大切な資金源であるため、不明点や疑問点があれば納得できるまで確認するようにしましょう。
6-2. 代わりに失業手当や出産手当金がもらえないか確認する
育児休業給付金を受給できない場合、生活に支障をきたす恐れがあります。育児休業給付金がもらえないとしても、代わりにとは言えないかもしれませんが、出産手当金や会社を辞めた後に失業手当を受け取れる可能性があります。なお、育児休業給付金と失業手当を両方受け取れる可能性もあります。また、出産手当金と育児休業給付金を併給することもできます。雇用保険や健康保険の支援金制度をきちんと理解して、正しく手続きをおこなうようにしましょう。
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7. 育児休業給付金を活用して従業員の生活を守ろう!
育児休業給付金をもらうためには、受給要件を満たす必要があります。育児休業給付金がもらえない場合でも、出産手当金や失業手当を支給できる可能性があります。育休中は働くのが難しいことから、給付金が大きな支えになります。会社側の手続きミスで「育児休業給付金がもらえなかった」とならないよう、正しく制度の内容を理解しておくことが大切です。