近年ではテクノロジーの発展や働き方改革の影響で、副業解禁をする企業が増えています。副業解禁をすることで、企業と従業員ともにさまざまなメリットが得られます。この記事では、副業解禁はいつからなのか、副業と兼業の違いも踏まえて解説します。また、副業解禁のメリットとデメリット、注意点についても紹介します。
1. 副業解禁はいつから?
副業はかつてより法律で禁止されていません(公務員など一部を除く)。そのため、副業はいつから解禁されたかは明確に示すことができません。しかし、2018年1月に厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の「モデル就業規則」を改訂し、副業禁止に関する規定を削除しました。これにより、副業解禁をおこなう企業は増加するようになりました。そのため、副業解禁は2018年1月からといえるかもしれません。
ここでは、副業とは何か、副業と兼業の違いを踏まえて解説します。また、副業は法律でどのように規定されているのかも紹介します。
1-1. 副業とは?
副業とは、本業以外で収入を得る仕事のことです。たとえば、会社で働いている人であれば、アルバイト・パートなどでもう一つの給与を得たり、自分で事業をおこなって収入を得たりすることが副業として挙げられます。
1-2. 副業と兼業の違い
副業と似た用語に「兼業」があります。副業と兼業は同じ意味合いを持ちます。しかし、使い方に違いがみられます。副業は本業の片手間でおこなうものであるのに対し、兼業は本業と同程度に力を注いでおこなうものというニュアンスの違いがあります。このように、副業よりも兼業のほうが「本業以外の仕事」に対するウエイトが大きいといえるかもしれません。
1-3. 副業は法律(憲法)で認められている
日本国憲法第22条により、公共の福祉に反しない限り、すべての人に職業選択の自由が認められています。そのため、会社に勤めていたとしても、自分のプライベートの時間に副業をおこなうことは自由といえるでしょう。
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
しかし、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に記載されているように、下記のような本業に悪影響を及ぼす場合は、副業禁止が認められる可能性もあります。
副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、例えば、
① 労務提供上の支障がある場合
② 業務上の秘密が漏洩する場合
③ 競業により自社の利益が害される場合
④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
に該当する場合と解されている。
2. 副業解禁のメリット
副業解禁をすることで、企業はさまざまなメリットが得られます。ここでは、副業解禁するメリットについて詳しく紹介します。
2-1. 採用を強化できる
副業を禁止していると、自社で副業により働きたい優秀な人材を雇用することができません。副業解禁すれば、短時間でも働きたいと考えている人を雇えるようになり、採用を強化することができます。また、副業を許可している企業だと社外にアピールすることで、副業にも取り組みたいと考えている労働者を獲得できる可能性が高まります。
2-2. 離職率の低下につながる
副業ができないことで、生活にゆとりが持てず、離職してしまう人もいるかもしれません。副業を解禁することで、プライベート時間の使い方の選択肢が広がり、従業員満足度が向上します。「働きやすい会社」だと従業員が感じられれば、離職・転職する人は減り、離職率を低下させることが可能です。
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2-3. 従業員の成長を促進できる
副業を解禁することで、従業員は本業以外の仕事に取り組み、新たな知識・能力を身に付けることができるようになります。そのため、従業員の成長を促進することが可能です。副業で培ったスキルを本業に活かしてもらえば、生産性の向上も期待できます。
3. 副業解禁のデメリット
副業解禁には、メリットだけでなく、デメリットもあります。ここでは、副業解禁するデメリットについて詳しく紹介します。
3-1. 生産性が低下する可能性がある
副業を解禁することで、プライベートの時間を副業に充てる従業員が増えるかもしれません。副業に時間を費やしすぎて、休憩やリフレッシュできず集中力が下がり、本業の生産性が低下する可能性があります。副業を推進する際は、本業に影響が出ないよう、申請制にするなど、対策をおこなうことが大切です。
3-2. 社外秘の情報が漏洩する恐れがある
副業解禁により、本業での情報を副業に活用する従業員もいるかもしれません。また、本業で使用しているパソコンやスマホなどの備品を副業でも使用すると、意図せず社外秘の情報が漏れてしまう恐れがあります。このような事態が生じないよう、貸与している備品を副業で使用するのは禁止するなど、副業のルールを明確に定めておくことが大切です。
3-3. 転職リスクが高まる
副業解禁をすることで、従業員は新たな知識・スキルを身に付け、副業で本業以上に稼ぐケースもあります。これにより、転職リスクが高まり、かえって離職率が上昇してしまう恐れもあります。本業よりも副業での評価が高い場合、本業での取り組みや成果が過小評価されている可能性が考えられます。優秀な人材を失わないよう、副業解禁とともに評価制度の見直しもおこなうことが推奨されます。
4. 副業解禁する際のポイント
副業解禁をおこなう場合、事前にきちんと準備をすることが大切です。ここでは、副業解禁をするうえで注意すべきポイントについて詳しく紹介します。
4-1. 労働時間の管理方法を見直す
労働基準法第38条により、複数の企業に勤める場合などは、本業と副業の労働時間を合算して勤怠管理をしなければなりません。労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合、割増賃金の支払いが必要になります。適切に賃金を支給しなければ、違法となり、罰金や懲役といった罰則を受ける恐れもあるので注意が必要です。
(時間計算)
第三十八条 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
4-2. 就業規則を整備する
副業禁止にする場合も、副業解禁にする場合も、就業規則にその内容を明記するようにしましょう。なお、労働基準法第89条により、常時従業員数10人以上の会社は、就業規則の作成・届け出が義務付けられているので注意が必要です。
副業を解禁する場合は、条件や内容を就業規則に記載しましょう。また、「業務上の秘密が漏洩する副業」や「競業により自社の利益を害する副業」などは、禁止事項として記載しておくことが大切です。就業規則は用意するだけでは、従業員に伝わらない可能性があります。きちんと周知する場も設けましょう。
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
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4-3. 社会保険の見直しが必要
副業を解禁すると、副業先でも社会保険の加入要件を満たし、複数加入する必要があるケースもあります。このような場合、本業と副業の賃金を合算し、それぞれの会社で按分して計算しなければならないので注意が必要です。副業解禁をおこなう場合、あらかじめ従業員に社会保険の注意点についても説明しておくことが大切です。
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4-4. 副業をする従業員の年末調整に気を付ける
原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を勤務先に提出しており、年末まで勤めている従業員は、年末調整を受けることができます。ただし、副業所得が20万円を超える場合、確定申告が必要になります。複数の会社に勤めている場合は、まず本業先に「扶養控除等申告書」を提出して年末調整を受けます。その後、本業先と副業先の源泉徴収票を基に、確定申告をおこないましょう。
年末調整が済んでいる給与所得者であっても、その給与所得以外に副収入等によって20万円を超える所得を得ている場合には、確定申告が必要となります
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5. 副業解禁に関するよくある質問
5-1. 就業規則に違反したら解雇も可能?
副業解禁する場合、就業規則に違反したら解雇するような規定を定めることができるのか気になる人もいるかもしれません。本来副業は個人の自由であるため、就業規則で禁止していても、合理的な理由がなければ権利を濫用したものとみなされ、解雇が無効になる可能性があります(労働契約法第16条)。
就業規則に違反する従業員が発生したら、まずは同じようなことを起こさないよう注意指導をおこないましょう。それでも違反があった場合、減給や降格、出勤停止、懲戒解雇といった懲戒処分をすることを検討しましょう。なお、懲戒処分は問題に応じて適切なものを選ばなければ、不当処分とみなされる恐れもあるので注意が必要です。
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
5-2. 公務員でも副業できる?
国家公務員法第103条、地方公務員法第38条により、原則として、公務員は営利目的の副業は禁止されています。ただし、認められるケースもあるので、副業をしたいと考えている公務員の人は、上司や人事担当者に相談してみるのがおすすめです。法律で厳しく罰される恐れもあるため、決して自分だけで判断しないようしましょう。
(私企業からの隔離)
第百三条 職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。
② 前項の規定は、人事院規則の定めるところにより、所轄庁の長の申出により人事院の承認を得た場合には、これを適用しない。
(省略)
(営利企業への従事等の制限)
第三十八条 職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。ただし、非常勤職員(短時間勤務の職を占める職員及び第二十二条の二第一項第二号に掲げる職員を除く。)については、この限りでない。
2 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。
5-3. どのような副業をおすすめすべき?
ここでは、どのような副業があるのか、参考までにいくつか以下に挙げてみました。
- FX:FXとは外国通貨を売買して利益を得る投資です。少額から始めることができます。
- アフィリエイト:自分のブログやホームページに広告やリンクを貼り、そこからユーザーが商品を購入するなどの成果があがった場合に広告収入を受け取ることができる仕組みです。
- せどり/転売:古本や中古のCD、DVD、ゲームなどを安く買って転売し、利益を得るビジネスです。
- クラウドソーシング:ランサーズやクラウドワークスに代表されるような、個人や企業がお願いしたい単発の仕事を、ネットを介して請け負います。
- 家事代行:家事代行サービス業者に家事代行スタッフとして登録し、アルバイトをして収入を得ます。
- 空き部屋レンタル:Airbnbのように自宅の空き部屋を間貸しして報酬を得ます。
副業解禁をおこなったら、従業員におすすめの副業として勧めてみてもよいかもしれません。
6. 副業解禁する際は社内制度をきちんと見直そう
副業解禁をおこなうことで、企業と従業員ともにメリットが得られます。ただし、労働時間の管理や就業規則の整備、社会保険の見直しなど、事前に準備すべきことがあります。社内制度をきちんと整備したうえで、副業解禁をおこないましょう。