人的資本の情報開示義務化はいつから?対象項目や対象企業について解説! |HR NOTE

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人的資本の情報開示義務化はいつから?対象項目や対象企業について解説!

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世界中で人的資本への注目が高まっています。日本でも人的資本の情報開示が義務化されるようになりました。この記事では、人的資本の情報開示の義務化はいつから始まったのか、対象項目や対象企業を踏まえてわかりやすく解説します。また、人的資本の情報開示のメリットやポイントも紹介します。

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1. 人的資本の情報開示の義務化とは?

人的資本の情報開示とは、人的資本を投資家などのステークホルダーに公開することを意味します。人的資本の重要性に興味を示すステークホルダーが増加したことなどを背景に、日本でも人的資本の情報開示が一部義務化されました。ここでは、人的資本の情報開示の義務化はいつからなのか、対象企業や対象項目を踏まえて紹介します。

1-1. 人的資本とは?

人的資本とは、組織で働く従業員が持つ知識や技術、資質、ノウハウなどを資本として捉えることです。つまり、「カネ・モノ」のように、「ヒト」に投資することで、利益や価値を高めることが、人的資本の考え方になっています。時代や社会の変化とともに、これまで以上に人的資本の考え方が普及しつつあります。

関連記事:人的資本とは?経営に必要な理由とメリットを解説

1-2. 人的資本の情報開示の義務化はいつから?

引用:サステナビリティ情報の記載欄の新設等の改正について(解説資料)|金融庁

人的資本の情報開示の義務化は2023年3月期決算となる事業年度の有価証券報告書からです。つまり、2023年3月期決算の有価証券報告書が発表される2023年6月から開示が義務付けらています。

1-3. 人的資本の情報開示の義務化における対象企業

有価証券報告書を発行している金融商品取引法に基づく約4,000社の上場企業が義務化の対象となっています。しかし、中小企業などでも、人的資本の情報開示の必要性を考慮し、自主的に情報を開示する企業も増えています。このように、人的資本の情報開示の義務化は、すべての企業に適用されているわけではないので注意しましょう。

1-4. 人的資本の情報開示の義務化における対象項目

引用:企業内容等の開示に関する内閣府令等改正の解説|金融庁

人的資本の情報開示の義務化における対象項目は、次のように2分野6項目です。

分野

項目

サステナビリティに関する考え方及び取組【新設】

・人材育成方針
・社内環境整備方針
・測定可能な指標(インプット/アウトカム)目標および進捗状況

従業員の状況【既設】

・女性管理職比率
・男性育休取得率
・男女間賃金格差

有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設されており、「人材育成方針」と「社内環境整備方針」および、「その測定可能な指標に基づく目標・進捗状況」の項目の記載が義務付けられています。また、必要に応じて、既設されている「従業員の状況」の記載欄に、「女性管理職比率」「男性育休取得率」「男女間賃金格差」の項目も記載が義務付けられるようになっています。なお、今後は人的資本に関する情報開示の義務化の対象企業や対象項目が広がる可能性もあるので、最新の情報をきちんとチェックし、適切に対応しましょう。

2. 人的資本の情報開示が義務化された理由

なぜ人的資本の情報開示が義務化されたのでしょうか。ここでは、人的資本の情報開示が義務化された理由について詳しく紹介します。

    2-1. ESG投資への注目の高まり

    ESG投資とは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」に配慮して経営を実施している企業に投資をおこなうことです。近年では地球温暖化や人種・性別による差別などの環境問題・社会問題が世界的に問題視されています。

    このような課題の解決に取り組まなければ、社会も組織も持続的に成長をすることができません。そのため、中長期的な経営の観点から、ESG投資が注目されています。ESG投資する投資家の判断材料として人的資本は「社会」の要素になります。このように、ESG投資への注目の高まりが、人的資本の情報開示が義務化されるようになった背景の一つです。

    関連記事:ESGとは?SDGsとの違いやESG投資の種類、企業取り組み事例をご紹介

    2-2. 欧米での情報開示義務化

    欧米では日本より早くから人的資本の情報開示の義務化に関する法規制があります。欧米での情報開示義務化の具体的な内容は、以下の表のとおりです。

    時期

    義務化の内容

    欧州

    2014年

    欧州委員会から非財務情報開示指令による「社会・従業員」を含む情報開示を義務化

    米国

    2020年

    米国証券取引委員会から上場企業に対する人的資本の情報開示を義務化

    欧米の動きに早急に対応しなければ、日本は世界的な市場から取り残されてしまう恐れがあります。このように、欧米において既に人的資本に関する情報開示が義務化されていたことも、日本で情報開示が義務化された要因の一つと考えられます。

    2-3. 人的資本の企業価値の向上

    昨今ではAIや機械などの技術成長が目覚ましく、単純作業は簡単に自動化できる時代になりつつあります。このような現代においては、「ヒト」にしかできない創造的な仕事がより重視されるようになっています。そのため、企業価値の判断が有形資産から無形資産に移行する傾向も高まっています。このように、人的資本が企業の無形資産として重要視され、企業価値の向上につながっていることも情報開示の義務化につながった理由の一つといえます。

    2-4. ISO30414の公表

    2018年にISO30414が公表され、人的資本の情報開示に関する国際基準が設定されたことも、情報開示の義務化につながった理由の一つです。これにより、企業は国際的に統一された基準に基づき情報を開示することが促進されました。

    関連記事:ISO30414とは?|言葉の定義や誕生した背景について紹介!

    3. 日本において人的資本の情報開示の義務化が進められる背景

    日本の人的資本に関する情報開示の義務化は、いきなり実施されたわけではありません。ここでは、日本において人的資本の情報開示の義務化が進められた背景について詳しく紹介します。

    3-1. 人材版伊藤レポート

    人材版伊藤レポートとは、2020年に経済産業省が公表した研究会における最終報告書のことで、組織が成長するための経営陣・取締役・投資家それぞれが果たすべき役割やアクションについてまとめられています。人材版伊藤レポートが発表されて以降、日本において人的資本の課題や重要性について注目が集まるようになりました。

    3-2. 非財務情報の開示指針研究会

    非財務情報の開示指針研究会とは、2021年に経済産業省によって設立された研究会を指します。非財務情報の開示指針研究会では、日本・世界において求められる非財務情報の開示の方向性について話し合われています。 たとえば、2021年9月に実施された「第3回非財務情報の開示指針研究会」では、人的資本の開示の課題や重要性について議論がおこわれています。

    • IIRC(International Integrated Reporting Council)のフレームワークにおいて、「人」に関する情報が「人的資本」という形で整理された背景には、企業の長期価値創造プロセス・ビジネスモデルとの繋がりから人的資本に関する情報を開示すべき、という考え方がある。
    • 人的資本については、①人材像、②人材戦略、③ベンチマーク情報(指標を含む)という三要素を連携させながら開示することが重要。

    引用:非財務情報の開示指針研究会(第3回)議事要旨|経済産業省

    3-3. 非財務情報可視化研究会

    非財務情報可視化研究会とは、2022年に内閣府によって設立された研究会を指します。非財務情報可視化研究会では、企業内での非財務情報の可視化する仕組みを構築し、ステークホルダーとの意思疎通の手段を強化するため、人的資本を含む非財務情報の価値評価のやり方について話し合われています。なお、非財務情報可視化研究会によって、人的資本の可視化に関する指針となる「人的資本可視化指針」が公表されています。

    4. 人的資本の情報開示に求められる7分野19項目

    引用:人的資本可視化指針|内閣官房 非財務情報可視化研究会

    人的資本の情報開示義務化によって、義務付けられた開示項目は限定的です。しかし、人的資本の情報を開示する際は、投資家などのステークホルダーが理解しやすく具体的に示すべきといえます。ここでは、義務化されているわけではありませんが、「人的資本可視化方針」によって公表されている人的資本の情報開示で求められる7分野19項目について詳しく紹介します。

    分野

    項目

    育成

    ・リーダーシップ

    ・育成

    ・スキル/経験

    エンゲージメント

    ・エンゲージメント

    流動性

    ・採用

    ・維持

    ・サクセッション

    ダイバーシティ

    ・ダイバーシティ

    ・非差別

    ・育児休業

    健康・安全

    ・精神的健康

    ・身体的健康

    ・安全

    労働慣行

    ・労働慣行

    ・児童労働/強制労働

    ・賃金の公平性

    ・福利厚生

    ・組合との関係

    コンプライアンス/倫理

    ・コンプライアンス/倫理

    4-1. 育成

    人材育成は情報開示に不可欠な分野で、有価証券報告書への記載が義務化されています。育成の分野では、「リーダーシップ」「育成」「スキル・経験」といった情報の開示が求められています。たとえば、スキル支援の内容や研修時間、研修費用、リーダーシップ育成の取り組みが具体的な開示内容として挙げられます。

    4-2. エンゲージメント

    エンゲージメントは従業員が勤務先に対して、働きがいや満足感をどれだけもっているかを把握できる指標です。従業員エンゲージメントを高めることで、生産性や従業員満足度の向上につなげることができます。情報開示には、ストレスチェックや従業員満足度調査、顧客満足度調査などの実施結果を利用するとわかりやすいでしょう。

    関連記事:従業員エンゲージメントとは?向上施策や調査方法とその手順をわかりやすく解説!

    4-3. 流動性

    流動性とは、人材の流出入に対しての情報であり、人材確保が安定的に実施できているかを理解できる指標にもなります。流動性の分野では「採用」「維持」「サクセッション」に関する情報の開示が求められています。つまり、優秀な人材を確保できる力や流出しないで長く働ける環境であることを示すことが大切です。たとえば、離職率や定着率、採用コストなどが開示内容の具体例として挙げられます。

    4-4. ダイバーシティ

    ダイバーシティとは、多様性を意味する用語で、人種や性別など、あらゆる属性を持つ人々が組織や集団において共存している状態を指します。多様なバックグラウンドを持っている人材が集まることで、新たなイノベーションを起こすことにもつながります。ダイバーシティの分野では「ダイバーシティ」「非差別」「育児休業」の開示が求められます。具体的には、男女間の給与差や育児休業の取得率、契約形態による福利厚生の差などが挙げられます。

    関連記事:ダイバーシティ&インクルージョンとは?意味や問題点、取り組み事例を紹介!

    4-5. 健康・安全

    従業員の健康と安全への配慮は、企業の持続可能な経営をしていくために不可欠です。従業員の健康管理や安全な職場は、従業員の生産性と満足度の向上につながります。健康・安全の分野では「精神的健康」「身体的健康」「安全」に関する開示が求められます。たとえば、労働災害の発生率や健康診断などの健康と安全に関する取り組みが、具体的な開示内容として挙げられます。

    4-6. 労働慣行

    労働慣行とは、労使間で当然のように認めれている事実上の制度や取り扱いを指します。労働慣行は、労働者の働きやすさや生産性に影響を与えます。労働慣行の分野では「労働慣行」「児童労働/強制労働」「賃金の公平性」「福利厚生」「組合との関係」に関する情報開示が求められます。たとえば、長時間労働者の割合や男女間の賃金格差、福利厚生の種類などが開示内容として挙げられます。

    4-7. コンプライアンス/倫理

    コンプライアンスは法令遵守を指し、倫理と含めて企業が社会的責任を果たすために不可欠な要素です。コンプライアンスや倫理が保たれることで、健全な企業運営につながり、社会的信頼も高まります。開示内容の具体例として、内部通報制度の運用やハラスメントに対する調査、コンプライアンス研修などの内容・結果が挙げられます。

    5. 人的資本の情報開示をするメリット

    メリット

    人的資本の情報開示の義務化は、一部企業の一部項目のみです。しかし、人的資本の情報開示を積極的にすることで、企業はさまざまなメリットが得られます。ここでは、人的資本の情報開示をするメリットについて詳しく紹介します。

    5-1. 組織の人的資本を可視化できる

    人的資本の情報開示をするには、社内の人的資本を可視化することから始めなければなりません。たとえば、どのような人材がいるのか、どのような制度が整備されているかを明確にし、洗い出す必要があります。これにより、人的資本の観点から、自社の強みや弱みを客観的に把握することが可能です。また、人的資本の情報開示により、外部からの意見も取り入れることができるようになります。フィードバックも活用して、今後の施策を検討し、実行することで、持続的な組織の成長につなげることができます。

    5-2. 投資家やステークホルダーからの評価が高まる

    人的資本を適切に開示することで、無形資産やESG投資を重視する投資家からの評価を高めることができます。また、人的資本の情報開示は、投資家だけでなく、取引先などの利害関係者にも透明性のある企業運営がされているとして好印象を与えることが可能です。ステークホルダーからの評価が高まることで、企業イメージが向上し、競合優位性を獲得することができるようになります。また、資金調達の効率性も高めることができるかもしれません。

    5-3. 優秀な人材を獲得できる

    人的資本の情報開示をおこなうことで、どのような人材育成が実施されているのかなどを外部に示せるため、求職者にアピールする手段の一つになります。人的資本を高めるための取り組みに力を入れているのであれば、情報開示により、成長や働きやすさを求める求人応募者の増加が期待できます。これにより、優秀な人材を獲得できる可能性が高まります。

    6. 人的資本の情報開示を効果的に実施するためのポイント

    ここでは、人的資本の情報開示を効果的に実施するためのポイントについて詳しく紹介します。

    6-1. ストーリー性を持たせる

    人的資本の情報開示が義務化されたからといって、その目的を果たすためにただ数値やデータを羅列するだけでは、企業価値を向上させたり、ステークホルダーにアピールしたりすることができません。経営戦略と結び付けて、ストーリー性のある人的資本の情報開示をおこなうことで、自社の課題や強みが理解しやすくなり、効率よく今後の組織成長につなげることが可能です。

    6-2. 他社と差別化して独自性を高める

    人的資本の情報開示が義務付けられたことで、他社の開示方法や内容を真似ることも少なくないでしょう。しかし、他社と同じような情報開示では、差別化できず、ステークホルダーに上手くアピールすることができません。情報開示する際は、自社と他社の分析を実施し、独自性を高めることが大切です。他社にない取り組みを外部に伝えることで、企業への注目度も高まります。

    6-3. 情報の取捨選択をする

    自社が人的資本を高めるために積極的に取り組んでいるからといって、すべて情報開示しようとすると、時間や手間がかかります。また、ステークホルダーにとっても情報量が多くなり、何に重点を置いているのかが理解しにくくなります。現時点では、人的資本の情報開示が義務付けらている項目や内容は限定的です。まずはそれを遵守して情報開示しましょう。その後は、自社の目的や、ステークホルダーが要求していることにあわせて開示する内容を取捨選択することが大切です。

    7. 人的資本の情報開示の義務化について正しく理解しよう!

    日本でも2023年3月期の決算から人的資本の情報開示が義務化されています。ただし、対象企業や対象項目は限定的なので、自社の人的資本に関する取り組みについてすべて開示する義務はありません。しかし、人的資本の情報開示は、投資家やステークホルダーからの評価を高めるために有効的な施策の一つです。自社の目的にあわせて、義務化されている企業・項目に限らず、積極的に人的資本の情報開示に取り組んでみましょう。

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