近年、多くの企業が「従業員エンゲージメント」に注目しているのではないでしょうか。
「従業員満足度」ではなく「会社に対する愛着度」に着目し、自社に対する愛着を感じているか、自社の理念・ビジョンに共感できているか、自社の企業成長に積極的に関わっていこうとしているか、という行動について「エンゲージメントレベル」という尺度をもとに評価するのが従業員エンゲージメントです。
評価が高ければ高いほど、生産性の向上や離職率低下に大きく影響することが研究や調査によりわかっており、実際に企業における事例も出てきています。
本記事では、従業員エンゲージメントを強化することでどのようなことが実現できるのか、事例を紹介します。
目次
従業員エンゲージメントとは?
従業員エンゲージメントとは、従業員が仕事に対して強い関心や熱意を持ち、会社に対して「貢献したい」と意欲を抱く状態を指します。
従業員エンゲージメントが高まると、従業員は仕事にコミットメントするため、組織の生産性は格段に上がるといえるでしょう。
ただし、従業員エンゲージメントに明確な定義はありません。そのため、何をもって従業員エンゲージメントが高いと判断するかは、会社ごとに定義する必要があります。
従業員エンゲージメントと従業員満足度の違い
従業員エンゲージメントは、会社や仕事への貢献意欲を指す言葉です。一方で、従業員満足度は会社や仕事に対する満足感を指します。
従業員エンゲージメントは仕事に対する情熱や貢献意欲が特徴ですが、従業員満足度は仕事に対する満足感に留まっているのが特徴です。そのため「無理なく働ける」「今の働き方に満足している」といった場合でも、従業員満足度は高いといえます。
従業員エンゲージメントとモチベーションの違い
従業員エンゲージメントとモチベーションは密接に関連していますが、概念としては異なります。従業員エンゲージメントは、従業員が会社に貢献意欲を抱き、会社が達成すべき目標に共感している状態です。
一方でモチベーションは、従業員が個別の目標や課題に向けて行動する原動力を指しています。
従業員エンゲージメントは会社に対する意識や状態を指すのに対し、モチベーションは個々の行動における動機付けに留まる可能性があります。
従業員エンゲージメントが注目される理由
2017年にアメリカの世論調査会社であるギャラップ社により、世界139か国における従業員エンゲージメントの統計調査がおこなわれました。
このうち、日本は132位という世界でも最低水準の国ということがわかっています。
この結果から、日本では企業に愛着を持つ従業員や、企業の理念やビジョンを理解し、共感し、行動している従業員は極めて少ないということがいえます。
従業員と企業の相互理解がおこなわれなければ、お互いが取り組むべきことや解決すべき企業の課題がどのようなものなのかわからないままになってしまい、不満だけが募るという事態を招きかねません。
従業員エンゲージメントが低いと、会社の離職率が高まり、売り上げや顧客満足度にもネガティブな影響を及ぼしてしまうため、自社の従業員エンゲージメントを高めるための施策は極めて重要です。(※後ほど詳しく説明します。)
具体的な従業員エンゲージメントの測定方法や施策は以下の記事でも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
従業員エンゲージメントが高いことのメリット
従業員エンゲージメントが高ければ高いほど、
- 生産性が向上する
- 顧客満足度が上がる
- 売り上げが上がる
- 離職率が下がる
という結果が出ることがわかっています。
以下で詳しく解説します。
従業員エンゲージメントが高いと生産性も向上する
従業員エンゲージメントが高いと、労働生産性が向上します。
2017年のギャラップ社の調査では、従業員エンゲージメントが高い人は生産性が21%も高いという結果が報告されており、従業員エンゲージメントの重要性が示されています。
スターバックスは2007年頃、業績が著しく悪化していましたが、元CEOのハワード・シュルツ氏が復帰するとともに、従業員エンゲージメントの向上に努めました。
具体的には、マニュアルを作らないことや、社員だけでなくアルバイトやパートタイマーにも理念やビジョンを理解してもらうこと、経営層が従業員をパートナーと呼ぶようにすることで、従業員エンゲージメントの改善をおこないました。
すると、全世界において約15,000店舗(2007年)だった店舗数が、2020年には約32,000店舗にまで増加したのです。
このように、従業員エンゲージメントが高い企業では生産性が向上し、店舗数が増加するなどといった目に見える結果が出ることがわかります。
従業員エンゲージメントと顧客満足度は比例する
従業員エンゲージメントが高まると、それに比例して顧客満足度も向上するケースが多いでしょう。
ヘルスケアや高齢者の生活市場に食品や食事のサービスを提供する、アメリカのMorrison Management Specialists社では、従業員エンゲージメントに関する調査をおこなっており、そこで改善すべきポイントを明らかにしました。
具体的には、組織文化の浸透戦略やマネージャー・リーダーのコーチング強化などをおこない、結果として従業員エンゲージメントが30%増加し、さらに顧客満足も16%増加しました。
また、ニューヨークの高級アパレルであるSaksFifthAvenue社では、顧客に対するサービスを押し上げる方法を探しており、従業員エンゲージメントと顧客エンゲージメントの相関性を発見しました。
そして従業員エンゲージメントを強化した結果、売上やリピートなど、顧客満足度が20~25%改善したのです。
従業員エンゲージメントが高いと売上が上がる
自社に貢献しようとする意欲は、結果として高いパフォーマンスを生み出し、売上向上につながります。
グローバルに組織人事コンサルティングおよびアウトソーシングビジネスを展開しているAON Hewitt社の調査によると、エンゲージメントの高い従業員が増えると、売上高が向上すると述べており、従業員エンゲージメントが1%増加すると0.6%の売上増に貢献できるとのことです。
また米国の建設機器大手、キャタピラー社では、従業員エンゲージメントを高める施策を実施し、エンゲージメントスコアを8%改善することに成功しました。
その結果、売上が300%の伸長となり、従業員エンゲージメントを高めることが売上の大幅な上昇に影響することを証明しました。
従業員エンゲージメントが高いと離職率が下がる
イギリスの化学メーカーにおいては、エンゲージメント向上に向けて経営陣が改革に取り組み、離職率を38%減少させた事例があるなど、従業員エンゲージメントは従業員の離職率にも大きく影響します。
経営や人事管理に関するコンサルティングをおこなっているアメリカCEB社(Corporate Executive Board)の「従業員エンゲージメントを通したパフォーマンス向上と離職率低下」に関するレポートによれば、エンゲージメントの高い従業員は、エンゲージメントの低い従業員と比較すると離職率が87%も低いという調査結果も出ています。
またグローバル企業59社、5万人を対象とした調査では、エンゲージメントの高い社員の66%が離職を考えておらず、転職先を探しているのはわずか3%であったとのことです。
それに対して、エンゲージメントの低い従業員では離職を考えていないのは12%で、31%が実際に転職先を探していました。
イギリスで実施された調査では、エンゲージメントの高い従業員の病欠は年間2.69日だったのに対し、エンゲージメントの低い従業員は年間6.19日という結果が出ており、従業員エンゲージメントは欠勤にも大きく影響することがわかっています。
従業員エンゲージメントが高い企業に共通すること
従業員エンゲージメントが高い企業には共通点があります。
大きく4つの要素に分けることができます。
- 従業員が企業の理念やビジョンに共感できているか
- 公平・適正な人事評価がなれているか
- 働きやすい環境になっているか
- 従業員が十分に能力を発揮できる配置になっているか
これらはすべて従業員エンゲージメントを高めるために欠かせない要素といえ、従業員のコミットや自発的な努力につながります。従業員が働きやすい環境をつくることで、必然的に従業員エンゲージメントが高い企業になっていくのです。
従業員エンゲージメントが低い原因
従業員エンゲージメントが低い原因として考えられる要素はさまざまです。ここでは、とくに多く発生している2つの原因を紹介します。
コミュニケーションが不足している
従業員エンゲージメントが低い原因のひとつとして、組織内でのコミュニケーション不足が挙げられます。経営層が情報を適切に共有せず、従業員が会社の目標や方針を理解できていない状態では、従業員エンゲージメントが上がることはありません。
またコミュニケーションの不足が続くと、従業員は自分の役割や貢献が評価されていないと感じるため、最悪の場合、離職に至るケースも考えられます。
適切なキャリア開発がされていない
従業員が自身のスキルやキャリアを発展させる機会がないことも、従業員エンゲージメントが低い原因のひとつです。従業員エンゲージメントは、「会社に貢献したい」と考える従業員に対して、会社側が貢献度合いに応じた評価をおこなうことで、常に高まり続けます。
反対に、適切な評価がおこなわれない場合は、従業員は会社や自身の先行きに不安を感じ、従業員エンゲージメントを維持できなくなってしまいます。
従業員エンゲージメントを高めるための施策
従業員エンゲージメントを高めるためには、どのような施策が効果的なのでしょうか。ここでは、押さえておきたい施策を5つ紹介します。
会社の思いや目標を共有する
まずは会社として成し遂げたい明確な目標を設定し、思いとともに共有することが大切です。
従業員は会社のビジョンや目標に共感することで、仕事を通して貢献したいと考えるようになり、従業員エンゲージメントが高まります。
コミュニケーションを活発化させる
定期的かつオープンなコミュニケーションは、従業員エンゲージメントを高めるために重要な要素です。
従業員同士のコミュニケーションが活発化すると、会社への帰属意識が高くなり、いっそう会社に貢献したいと考えるようになります。
1on1ミーティングをはじめとする話し合いの場を設けることはもちろん、チャットツールや社内SNSをうまく活用しましょう。
成長をサポートする
従業員のスキル向上や、キャリアの成長をサポートできるような制度や環境を整えましょう。
従業員が自身の能力を伸ばし、将来のキャリアパスを見据えることができれば、従業員エンゲージメントは自然と高まります。
オンライン動画授業や資格取得支援といった福利厚生の導入も、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
適切なフィードバックをおこなう
従業員に対して定期的にフィードバックの機会を設けて、「会社から見てもらえている」「評価されている」と感じてもらうことは大切です。
適切なフィードバックに対して従業員は安心感を抱き、会社への貢献意欲が向上します。成果への評価はもちろんですが、とくに新入社員に対しては状況に応じてプロセスを評価すると、より従業員エンゲージメントが高まるでしょう。
ワークライフバランスを尊重する
仕事ばかりに着目するのではなく、従業員のワークライフバランスを尊重するのも忘れないようにしましょう。
時間や場所に縛られない働き方や、適切な労働時間の確保により、従業員は仕事に対する熱意を適切に保つことができます。従業員エンゲージメントが高い状態で長く活躍してもらうためにも、ワークライフバランスは非常に重要な要素です。
従業員エンゲージメントが高い企業の事例
従業員エンゲージメントが高い企業は、実際にどのような取り組みをおこなっているのでしょうか。
3社の事例を紹介します。
世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることを使命にメディア運営をおこなっているGoogle。
Googleでは、従業員エンゲージメントを高めるために、従業員へ企業の重要な情報や経営目標の積極的な開示と共有をおこなうことを施策としています。
- 全社ミーティングでの情報開示
- 会社全体の目標と主要な結果を四半期ごとに共有
- 全世界の社員が対象のアンケート結果の共有
以上の施策を実施することにより、Googleでは従業員へ企業の情報を開示し、企業の目標や方針を理解してもらうことに努めました。その結果、積極的な業務の遂行を促すことで従業員エンゲージメントが高い状態を維持することができ、会社の成長を実現したのです。
提供会社:Google Inc.
LIFULL
「利他主義」を社是に掲げ、日本最大級の不動産・住宅情報サイトを運営する株式会社LIFULLは、「ベストモチベーションカンパニーアワード2021」の中堅・成長ベンチャー企業部門(従業員2,000名未満)の約1,100社において第3位を受賞しました。
- 従業員エンゲージメントの測定と課題の改善
- ミーティングにおける社内の課題の共有
- 在宅勤務の推奨
- 正社員の給料10%増額
従業員に自ら社内の課題に向き合う積極的な姿勢を促すだけでなく、会社が従業員の働きやすさを確保する施策が従業員エンゲージメントの向上につながったといえます。
提供会社:株式会社LIFULL
福井
600年の伝統産業である堺打刃物を主力商品として取扱いながら、農業・園芸・ガーデニング関連用品や工具・DIY用品も取り扱う株式会社福井。
属人的な業務形態が時代に合わないと感じるようになり、より柔軟性を持たせた業務ができる社内環境とすべく、以下の施策をおこないました。
- 顧客の業種に合わせたセクション分け
- 5つの基本方針と3つの行動指針
- 1on1をおこなうことで離職防止
基本方針には「家族」の項目が設けられており、「社員の最大の資産は家族」と定義されています。実際に、クリスマスには家族でケーキを食べることができるように従業員に商品券が贈呈されるなどの取り組みが実施されています。
また、月に1度、1on1をおこなうことで離職率が急激に下がりました。仕事についての内容だけを話すのではなく、従業員の近況について会話に取り入れることでコミュニケーションの機会を確保し、信頼関係の構築につながりました。
提供会社:株式会社福井
従業員エンゲージメントを高めて組織力を強化しよう!
従業員エンゲージメントを強化することによる好事例は数多く出てきていますが、「どのようにエンゲージメントを高めていけば良いのか」という部分については、非常に難しいと感じる方も多いでしょう。
現在では、従業員エンゲージメントについてサポートしてくれる、タレントマネジメントシステムやサーベイを提供する企業も出てきています。
従業員エンゲージメントが高い企業の事例を取り入れつつ、システムの導入をおこなうことで、自社の従業員エンゲージメントを高めることが可能になるでしょう。