退職に関することは、労働基準法によって定められています。しかし、民法や就業規則などでも退職について触れられているため、どの定義を確認すれば良いかわからないこともあるでしょう。
本記事では、労働基準法における退職の定義について解説します。さらに、人事担当者が行うべき退職手続きの方法や注意点についても紹介するので、日々の業務にお役立てください。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
1. 労働基準法における退職の定義
退職とは、労働者からの申し出によって労働契約を終了することを指すと厚生労働省が発表しています。実は労働基準法では、退職の定義が明確に記されていません。そのため、退職については労働基準法のほかに民法のルールが適用されます。[注1][注2]
労働基準法では、労働者の退職の自由について以下のように定められています。関連する民法の規定とともに見ていきましょう。
1-1. 契約初日から1年が経過したあとは自由に退職できる
労働基準法第137条では、1年を超える期間で労働契約を締結している労働者が1年以上働いた場合、いつでも退職できると決められています。
民法628条ではやむを得ない事由があるときは直ちに契約の解除ができるとしていますが、労働基準法ではやむを得ない事由があるかどうかにかかわらず、契約初日から1年を経過した日以降は退職できるとしています。
1-2. 労働条件と異なっていた場合は契約を即時解除し退職できる
労働基準法第15条では、使用者は労働契約を結ぶとき、労働者に対して賃金や労働時間などの労働条件を明示しなければならないと定めています。そこで明示された条件が事実と異なった場合、労働者は即座に労働契約を解除することが可能です。
労働者が働くために住居を変更する場合、金銭的な負担が大きくなってしまいます。
そのため、労働条件が異なることを理由に退職かつ契約解除の日から14日以内に帰郷する場合は、使用者が必要な旅費を負担するよう決められています。
このように、労働条件の伝え漏れや意図的に隠す行為は会社にとっても大きな不利益になります。そのため、事前に正確な労働条件を明示し、同意したうえで雇用契約を締結しなければなりません。2024年4月からは明示ルールの変更もあったため、不安な方は確認しておきましょう。当サイトでは、絶対的明示事項や相対的明示事項で明示すべき事項や雇用契約手続きに関するよくある質問をまとめた資料を用意しています。雇用契約の基本を再確認したい方にもおすすめですので、興味のある方はこちらからダウンロードしてご確認ください。
1-3. 民法の規定では、意思表示をすれば2週間後に退職できる
使用者が労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前にはその予告をしなければならないと労働基準法で決められています。一方、労働者が一方的に退職する場合の期間の決まりは労働基準法ではなく、民法で定められています。
民法第627条第1項では、雇用期間の定めがない場合いつでも解約の申し入れができ、雇用は解約申し入れの日から2週間経過すれば終了すると定められています。
2. 労働基準法に基づく退職手続き
人事担当者は、労働者から退職の意思表示があった場合速やかに退職手続きをしなければなりません。手続き内容は大きく分けて3つあるので、それぞれ確認しましょう。
2-1. 保険に関する手続き
従業員が退職する場合、人事担当者は雇用保険や社会保険(健康保険や厚生年金保険)の資格喪失届を出さなければなりません。決められた期限を過ぎると、退職者が転職先で雇用保険に入れなくなったり失業給付金が受け取れなくなったりするので、速やかに手続きを行いましょう。それぞれの手続きは、以下の流れで行います。
① 雇用保険
- 離職証明書(雇用保険被保険者離職証明書)を作成する
- 書類に記載された離職理由を退職者本人に確認してもらい、署名または記名押印をもらう
- 資格喪失届(雇用保険被保険者)を作成する
- 離職証明書と資格喪失届を合わせて、退職日の翌日から10日以内に所轄のハローワークに提出する
② 健康保険や厚生年金保険
- 退職者の保険証(健康保険被保険者証)を退職日までに回収する
- 資格喪失届(健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届)を作成し、退職日の翌日から5日以内に所轄の年金事務所に提出する
- やむを得ない事由によって保険証を回収できない場合は、健康保険被保険者証回収不能・滅失届を提出する
2-2. 税金に関する手続き
人事担当者は、退職者の所得税や住民税に関する手続きも行うことになります。普段の税金関連業務とは異なる手続きも発生するため、注意しながら進めましょう。
① 所得税
- 1月から退職月までの賃金額や所得税額を計算する
- 源泉徴収票を作成し、退職後1カ月以内に退職者に交付する
② 住民税
- 給与支払報告に係る給与所得異動届を作成し、退職日が属する月の翌月10日までに市区町村の窓口に提出する
- 住民税の未徴収分を徴収する場合は、退職時期によって徴収方法を変える
退職時期による未徴収分の徴収方法の違いは、以下のとおりです。
- 1月1日〜4月30日:一括徴収
- 5月1日〜5月31日:通常どおり5月分を徴収
- 6月1日〜12月31日:以下の3つから退職者が選択
- 市町村の納税通知書を利用して退職者が直接納付
- 本人の同意があれば、翌年5月までの住民税を一括徴収
- 就職先が決まっていれば、就職先で徴収
2-3. 労働基準法上の手続き
人事担当者は、労働基準法上の手続きとして退職証明書の発行と退職金の支払いも行う必要があります。手続き方法や期限を確認し、速やかに済ませましょう。
① 退職証明書
- 退職者に退職証明書の交付を希望するか確認する
- 希望があった場合は退職証明書を作成し、使用期間や賃金など退職者が請求した事柄を記載する
- 作成した退職証明書を遅滞なく退職者に交付する
退職証明書の内容に誤りがあると、労働基準法第120条によって3万円以下の罰金が科される場合があるため注意が必要です。
② 退職金の支払い
- 退職者の請求があった場合、原則として7日間以内に退職金を支払う
- あらかじめ就業規則で退職金について定めている場合は、規定に基づいて支払う
2-4. 退職者に返却依頼
退職手続きを進めるうえで、退職者に返却を依頼しなければならないものがあります。以下の書類や物品は返却してもらう必要があるので、早めに退職者に知らせましょう。とくに個人情報や機密情報が含まれるものは、トラブルに発展しないよう必ず返却してもらいます。
- 保険証(健康保険被保険者証)
- 社章や社員証
- 本人や取引先の名刺
- 制服や作業着
- 会社貸与の情報端末
- 業務や取引先の重要情報が含まれる書類
2-5. 退職者へ返却
会社が預かっている書類などは、退職にともなって本人に返却する必要があります。忘れず返却しなければならないのは、以下の書類です。
- 年金手帳
- 雇用保険被保険者証、離職票
- 源泉徴収票
- 健康保険被保険者資格喪失確認通知書
- 退職証明書
3. 労働基準法に基づく退職の注意点
労働基準法に基づき退職を受理しなければならない場合でも、会社の都合で渋ってしまうケースがあるかもしれません。しかし、以下のような注意点があるため覚えておきましょう。
3-1. 引き止めに法的な拘束力はない
退職予定者を引き止めたり後任を確保するよう命じたりする会社もありますが、引き止めに法的な拘束力はありません。労働者には退職する自由があり、人事担当者を含め会社側は引き止めることができないのです。
どんなに引き止められたとしても、労働者は退職の意思を伝えれば2週間後に退職でき、後任を確保する義務もありません。退職者を引き止めようと無理な要求をするのではなく、退職そのものを防ぐ工夫をする必要があります。
3-2. 退職者への嫌がらせは法令違反などのトラブルを招く
退職を申し出た従業員の給与の支払いを止めたり、退職金を出さなかったりする会社もあります。しかし、これらは労働基準法を始めとする法令に違反するため注意が必要です。正当な理由なく有給休暇の消化を認めない、離職票を出さないなどの行動もトラブルに発展するため、退職に関する手続きは適切に進めてください。
さらに、会社と退職者のあいだで起こったトラブルの話がどんどん広がり、会社の評判を落とすことも考えられます。退職者に不当な扱いをすることは短期的にも長期的にも良い結果を招かないので、退職希望者がいる場合は円満退職してもらえるよう留意しましょう。
[注1]労働基準法|e-Gov法令検索
[注2]民法|e-Gov法令検索
4. 速やかで適切な退職手続きを心がけて
退職については労働基準法だけでなく民法でも定められており、基本的に労働者から退職の意思表示があった場合、会社側は引き止めることができません。労働者の退職の自由を尊重し円満に退職してもらえるよう、人事担当者は速やかに手続きを進めましょう。
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