社会保険料は毎月支払う保険料ですが、年末調整や確定申告をおこなうことで控除が受けられます。人事や総務担当者は従業員の年末調整を実施する必要があるため、社会保険料控除について理解を深めておきましょう。
本記事では、社会保険料控除とはどのようなものなのか、対象になるものや必要な手続きとあわせて解説しています。
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目次
1. 社会保険料控除とは?
社会保険料とは、病気や怪我、失業や労災、加齢や介護など、何かあったときに給付が受けられるよう日頃から支払っている保険料です。
具体的には、健康保険や年金保険などが挙げられますが、加入が義務付けられているものが多く、給与の支給がある会社員は、毎月自動的に天引きされています。控除は差し引くという意味なので、社会保険料控除とは毎月支払っている社会保険料が差し引かれるということです。
どこから差し引かれるのかというと、所得から差し引かれます。所得税や住民税は、年間の所得額から計算されるため、控除を受けないと支払う税金が多くなってしまいます。適切な額で納税するためにも、年末調整や確定申告で控除を受ける必要があるでしょう。
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1-1. 社会保険料は全額控除される
1~12月の間、毎月支払った社会保険料は全額控除できます。社会保険料の種類は多くありますが、控除できるものは実際支払ったものだけです。
なお、生計を共にする親族の分の社会保険料を負担した場合は、支払った人が控除の対象になります。たとえば、子どもの国民年金保険料を親が代わりに支払った場合、親が払った金額分の控除を受けることができるのです。
ただし、妻が年金をもらっている場合、そこから引かれる介護保険料は特別徴収されているため妻が支払ったことになります。よって、このようなケースでは控除の対象になりません。
1-2. 給与所得者と個人事業主で控除方法は異なる
給与所得者の場合は、年末調整の際に会社側が社会保険料控除をおこないます。会社側は控除される社会保険料の額を書類に記入する必要があるため、給与から毎月天引きしている従業員の保険料を把握しておくことが大切です。
なお、給与所得者でも、年末調整を受ける会社以外の場所から年間20万円以上の収入をもらっている場合や、年収が2,000万円を超えている人は、個人で確定申告をしなければなりません。
個人事業主の場合は、自分で確定申告をして控除を受ける必要があります。
2. 社会保険料控除の対象になるもの
控除の対象となる保険料はいくつかあり、国税庁によると全部で14項目が対象とされています。ここでは代表的な社会保険料控除を紹介しますので、把握しておきましょう。
2-1. 健康保険料
自営業など個人事業主の場合は、国民健康保険に加入していることが多く、会社員の場合は各種の組合や協会けんぽなどに加入しているでしょう。どのような健康保険であっても控除の対象となります。
年末調整や確定申告の際は納付額を記載しますが、控除証明書の添付は必要ありません。国民健康保険の場合、毎年1月中に証明書が送られてきます。
2-2. 年金保険料
公的年金は、国民年金と厚生年金があり、加入が義務付けられているものです。年金保険料も控除対象となります。
国民年金の場合は、自宅に控除証明書が届きますが、厚生年金の場合は会社が控除額を算出するため、従業員に証明書が送られてくることはありません。
2-3. 介護保険料
健康保険に加入している40~64歳までの人は、介護保険料を支払います。健康保険料と同様、介護保険料も控除対象となるため忘れないようにしましょう。
65歳以上になると、支給される年金から特別徴収されるようになりますが、確定申告をすることで控除可能です。
2-4. 労働保険料
労働保険とは、雇用保険と労災保険を合わせたものです。労災保険は労働者ではなく雇用主が全額支払うものなので控除とは関係ありませんが、雇用保険は事業主と労働者双方で負担しているため、控除の対象になります。
なお、例外として一人親方など自分で事業をおこない、自分で労災保険を支払っている場合は、社会保険料控除の対象です。
2-5. 年金基金の掛金
国民年金基金の掛金、もしくは厚生年金基金の掛金を支払っている場合は、社会保険料控除の対象になります。控除を受けるには控除証明書の添付が必要なので、確定申告をおこなう際は証明書を準備しておきましょう。
2-6. その他の保険料
その他、以下のような保険料も控除の対象となります。
1 健康保険、国民年金、厚生年金保険および船員保険の保険料で被保険者として負担するもの
2 国民健康保険の保険料または国民健康保険税
3 高齢者の医療の確保に関する法律の規定による保険料
4 介護保険法の規定による介護保険料
5 雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
6 国民年金基金の加入員として負担する掛金
7 独立行政法人農業者年金基金法の規定により被保険者として負担する農業者年金の保険料
8 存続厚生年金基金の加入員として負担する掛金
9 国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、私立学校教職員共済法、恩給法等の規定による掛金または納金等
10 労働者災害補償保険の特別加入者の規定により負担する保険料
11 地方公共団体の職員が条例の規定によって組織する互助会の行う職員の相互扶助に関する制度で、一定の要件を備えているものとして所轄税務署長の承認を受けた制度に基づきその職員が負担する掛金
12 国家公務員共済組合法等の一部を改正する法律の公庫等の復帰希望職員に関する経過措置の規定による掛金
13 健康保険法附則または船員保険法附則の規定により被保険者が承認法人等に支払う負担金
14 租税条約の規定により、当該租税条約の相手国の社会保障制度に対して支払われるもの(我が国の社会保障制度に対して支払われる当該租税条約に規定する強制保険料と同様の方法ならびに類似の条件および制限に従って取り扱うこととされているものに限ります。)のうち一定額
3. 社会保険料控除に必要な手続き
社会保険料控除を受けるためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。年末調整と確定申告、それぞれの手続き方法を紹介します。
関連記事:社会保険の手続方法|社員雇用の際に必要な書類や手順などをご紹介
3-1. 年末調整で社会保険料控除を受ける手続き
会社で年末調整をおこなう担当者は、年末調整に間に合うよう、従業員に「給与所得者の保険料控除申告書」を配布します。申告書には生命保険料や地震保険料など、会社が把握していない社会保険料を記入してもらい、回収する際は控除証明書も一緒に提出してもらいましょう。
提出された申告書に書かれている社会保険料が控除の対象かどうかを確認し、その後は社会保険料控除の総額を集計します。年末調整では、社会保険料控除以外にも配偶者控除や扶養控除を受けるために「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を書いてもらう必要があります。
これら全てを合わせた控除額を集計してから、従業員ごとに源泉徴収票を作成しましょう。年末調整をおこなった翌年1月10日までに、源泉徴収票を含む法定調書を税務署に提出し、手続きは完了となります。
3-2. 個人で確定申告をおこない社会保険料控除を受ける手続き
個人事業主など、個人が控除を受ける場合は、確定申告をおこないます。会社員と異なり、1年間で支払った健康保険料や年金保険料など、全ての社会保険料の額を自分で集計しなければなりません。
そのため、控除証明書を準備したり、確定申告書を用意して必要事項を記入したりする必要があります。確定申告の期間は原則、毎年2月16日から3月15日の1カ月間です。
確定申告書の記入後は、直接税務署に提出するか電子申告をしましょう。
3-3. 社会保険料控除の手続きは電子化するのがおすすめ
社会保険料控除や年末調整の手続きを効率よく進めたい場合は、電子化するのがおすすめです。政府も手続きのデジタル化を推進しており、デジタルデータとして発行できる控除証明書も増えてきました。
手続きをデジタル化すれば、書類の配布や回収を効率化できます。また、パソコンで必要な情報を入力するだけで申告書を作成できるため、従業員側の負担も大きく軽減できるでしょう。
さらに、従業員がマイナポータル連携をしている場合は、控除証明書を提出してもらうことなく、企業側は控除内容を把握できます。マイナポータル連携に対応したシステムも多く存在しているため、ぜひ導入を検討しましょう。
4. 社会保険料控除に必要な証明書
社会保険の種類によっては、控除を受けるために証明書が必要となるケースがあります。年末調整や確定申告の際に忘れずに提出しましょう。
4-1. 証明書が必要なケース
国民年金や国民年金基金に加入している場合は、控除証明書を添付して確定申告書と一緒に提出しなければなりません。控除証明書には、その年の1〜12月に納付した金額が記載されています。通常、10〜11月に郵送されてくるため、なくさないように保管しておきましょう。
4-2. 証明書が不要なケース
厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料・雇用保険料など、給与から天引きされる保険料については、証明書は必要ありません。また、国民健康保険料、任意継続している健康保険料、年金から控除された介護保険料などについても証明書は不要です。
5. 社会保険料控除の計算方法
ここでは、社会保険料の控除額がいくらになるのか、計算方法について紹介します。
5-1. 厚生年金保険料・健康保険料・介護保険料
厚生年金保険料、健康保険料、介護保険料の3つは、「標準報酬月額 × 保険料率 ÷ 2」という式で算出が可能です。標準報酬月額は、従業員の給与額から算出されるため、人によって納める保険料は異なります。給与額が多い人ほど、支払う社会保険料も多くなるでしょう。
保険料率は、厚生年金保険料の場合、18.3%と決められていますが、健康保険料と介護保険料は年や都道府県により違いがあります。全国健康保険協会のホームページなどで確認しておきましょう。
5-2. 雇用保険料
雇用保険料は、「賃金総額 × 雇用保険料率」で算出でき、料率は事業の種類によって異なります。たとえば、一般事業の場合、令和6年度における労働者負担は0.6%、事業主負担は0.95%です。
雇用保険料率は変更されるケースも多いため、計算する前に確認するようにしましょう。
6. 社会保険料控除に関する注意点
社会保険料控除に関しては、以下のような点に注意しましょう。
6-1. 国民年金保険料を2年分前納したケース
国民年金保険料は、1年分・2年分をまとめて前納して、割引を受けることが可能です。
仮に2年分を前納した場合は、その年に2年分の保険料を全額控除するか、1年分ずつ分けて控除するかを自由に選べます。売上が多かった場合は、2年分を全額控除することで節税を図ることも可能ですので、状況に応じて最適な方法を選びましょう。
6-2. 過去の国民年金保険料を支払ったケース
国民年金保険料を払い忘れてしまった場合は、期限から2年以内であれば、さかのぼって納付することが可能です。また、免除を受けている場合は、10年前の保険料までさかのぼって納付できます。
このようなケースにおいて過去の国民年金保険料を支払った場合は、支払った年の控除対象とすることが可能です。追納した場合でも節税につなげることができるため、忘れずに申告しましょう。
6-3. 後期高齢者医療保険料を支払ったケース
家族の後期高齢者医療制度の保険料を支払った場合、支払った人の控除対象となります。一方、該当する家族本人の年金から保険料が引かれている場合は、控除の対象とはなりません。
7. 社会保険料控除の手続きをして所得控除をおこなおう
社会保険料控除とは、毎月支払っている社会保険が、所得から控除される制度のことです。
対象となる社会保険料は、健康保険や年金保険など加入が義務付けられているものが多く、給与額に応じて保険料も変動します。手続きをおこなえば全額控除されるため、所得税や住民税などの節税につながるでしょう。
社会保険料控除の手続きを適切に実施するためにも、会社は従業員の給与から天引きしている社会保険料を日頃からしっかり管理しておくことが大切です。