社会保険の加入条件を満たした会社や従業員は、必ず加入手続きをしなければなりません。社会保険未加入のまま放置していると、懲役や罰金などの罰則が課せられる恐れがあります。本記事では、社会保険未加入の場合の罰則の内容をわかりやすく解説します。また、事業所と従業員それぞれの社会保険の加入要件についても具体的に紹介します。
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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目次
1. 社会保険未加入の場合の罰則
会社や従業員が社会保険の加入要件を満たしているのにもかかわらず、手続きをせず、未加入のままでいると、懲役や罰金などの罰則が課せられる恐れがあります。ここでは、社会保険未加入の場合の罰則の内容について詳しく紹介します。
1-1. 懲役または罰金刑が課せられる
社会保険の加入要件を満たしたら、必ず手続きをしなければなりません。社会保険未加入のままでいると、次のような罰則を受ける恐れがあります。
- 健康保険・厚生年金保険:6ヵ月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金(健康保険法第208条、厚生年金保険法第102条)
- 雇用保険・労災保険:6ヵ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金(雇用保険法第83条、労働者災害補償保険法第51条)
この罰則は社会保険未加入だけに限らず、社会保険料の度重なる滞納、行政からの指導に従わないなど、悪質なケースについても適用されることがあります。法律に基づき、正しく社会保険の手続きをしましょう。
1-2. 過去に遡及して未納金を徴収される
厚生労働省や日本年金機構などの調査により、社会保険の未加入が発覚すると、過去に遡って社会保険料を納めなければならない可能性があります。時効により、原則として2年前まで遡って社会保険料を納めることになります。この場合、過去2年間分の社会保険料を一括で納めなければならないので、金額によっては、会社の経営を揺るがす事態につながる恐れもあります。また、保険料納入の告知・督促には、時効を更新させる効力があるので注意しましょう。
(時効)
第百九十三条 保険料等を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から二年を経過したときは、時効によって消滅する。
2 保険料等の納入の告知又は督促は、時効の更新の効力を有する。
関連記事:社会保険は遡り加入できる?時効の有無や手続きの流れ、支払い方法をまとめて紹介
1-3. 退職者分の未納金を負担する恐れがある
社会保険未加入であった場合の2年間分の追納は、在職者だけでなく、退職者の分も対象です。2年も経っていれば、連絡が取れない退職者も出てくるかもしれません。
たとえば、健康保険料・厚生年金保険料は労使折半、雇用保険料は使用者と労働者で一定の割合ずつ負担をします。しかし、連絡がつかない場合、退職者に社会保険料を請求できず、会社が全額負担しなければならないので気を付けましょう。
1-4. 未加入期間に応じて追徴金が発生する
社会保険未加入であった期間については、その分の社会保険料を支払うだけでなく、未払金の総額に10%を乗じた追徴金なども支払わなければならない可能性があります。未加入期間が長くなるほど追徴金の額も上がるため、会社の負担はさらに大きくなってしまいます。
なお、社会保険の加入手続きをしていても、社会保険料を滞納すれば延滞金が発生します。督促状により指定を受けた日よりも後に支払った場合に延滞金が発生し、延滞日数が長いほど延滞金の負担も大きくなる仕組みです。
加入手続を行うよう指導を受けたにもかかわらず、自主的に加入手続を行わない事業主に対しては、行政庁の職権による加入手続と労働保険料の認定決定が行われ、労働保険料が遡って徴収されるほか、併せて追徴金が徴収されることとなります。
督促状の指定する期日までに納付がなく、督促状の指定する期日より後の日に納付がされたときは延滞金がかかります。
延滞金は、納付期限の翌日から、納付の日の前日までの日数に応じ、保険料額(保険料額に1,000円未満の端数があるときは、その端数を切捨て)に一定の割合を乗じて計算されます。
1-5. ハローワークに求人が出せない
社会保険の加入要件を満たしたら、手続きをするのが事業所の義務です。加入手続きをしていない場合、原則として、ハローワークは求人票を受け付けてくれません。ただし、従業員を採用したらすぐに手続きをすることを条件に、求人票を受理してもらえる可能性はあります。ハローワークに求人が出せないことで、人材確保が困難になり、経営を継続させることが難しくなる恐れもあるので気を付けましょう。
Q1 零細企業のため労働保険、社会保険は加入していないが求人は出せますか
A.労働者を雇用する事業所は、雇用保険法や厚生年金保険法等の法律に基づき、各種保険への加入義務がありますので、加入手続きを済まされたうえで求人の申し込みをお願いします。なお、求人申込の時点で従業員がいない場合は、採用後すみやかに加入いただくことを前提として申し込みいただけます。
1-6. 損害賠償を請求される
健康保険に未加入の場合、病気やケガで働けなくなったとしても、傷病手当金を受け取れません。また、業務中に亡くなった場合、遺族厚生年金を受け取ることもできません。
もしも従業員が社会保険の要件を満たしていた場合、会社が正しく手続きをしていれば、傷病手当金や遺族厚生年金を受け取れていたはずです。そのため、従業員やその家族から損害賠償を請求される恐れもあるので注意しましょう。
2024年10月から社会保険の適用範囲がさらに拡大し、新たに社会保険の適用となる労働者は増えています。適用拡大に適切に対応できていない場合も罰則を課される可能性があるため、社会保険手続きに関する最新の法律やルールを理解しておくことが重要です。当サイトでは、法改正に則った必要な社会保険手続きについて一冊にまとめた資料を無料でお配りしています。漏れなく社会保険手続きをおこないたい方は、こちらから「社会保険手続きの教科書」をダウンロードして、業務にお役立てください。
2. そもそも社会保険とは?
社会保険とは「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「労災保険」「雇用保険」の5つの公的保険を指します。ここでは、それぞれの社会保険の制度内容について詳しく紹介します。
2-1. 健康保険
健康保険とは、業務以外で病気やケガなどをした際の保険制度のことです。健康保険に加入すれば、国民健康保険よりも手厚い保障を受けられる可能性があります。
健康保険の運営主体は、大きく「全国健康保険協会(協会けんぽ)」と「健康保険組合(組合健保)」があります。なお、健康保険に加入できるのは75歳までです。75歳以上になると、後期高齢者医療制度に切り替えなければならないので注意しましょう。
2-2. 厚生年金保険
厚生年金保険とは、主に会社員や公務員に向けた公的年金制度のことです。厚生年金保険料には国民年金保険料も含まれているため、将来的に老齢厚生年金と老齢基礎年金の両方を受け取れる可能性があります。
また、厚生年金保険に加入する従業員(第2号被保険者)に扶養されている配偶者(原則、年収130万円未満かつ20歳以上60歳未満)は、第3号被保険者となり、国民年金保険料を支払わずとも、国民年金に加入できるメリットがあります。なお、厚生年金保険は原則70歳まで加入でき、健康保険や介護保険などと上限年齢が異なるので正しく制度を理解しておきましょう。
2-3. 介護保険
介護保険とは、介護サービスを受けた際に費用の負担を軽減できる保険制度のことです。介護保険は、40歳以上の人が被保険者になります。健康保険に加入する40歳以上65歳未満の人は、第2号被保険者として介護保険に加入することになります。
65歳以上で要介護認定を受けた人は、費用負担を少なくして、介護サービスを受けることが可能です。また、40歳以上65歳未満であっても、対象となる特定疾病に該当し、介護が必要と認定を受ければ、介護保険を使って介護サービスが受けられます。
2-4. 労災保険
労災保険とは、業務中・通勤中での病気やケガ、または死亡などに対する保障制度です。たとえば、業務上の事故でケガをした場合、健康保険でなく、労災保険から給付が受けられます。
労災保険は、すべての労働者が加入対象です。また、労災保険料は、全額事業主が負担することになるので注意しましょう。
2-5. 雇用保険
雇用保険とは、失業した場合などに必要な給付が受けられる保険制度のことです。たとえば、次のような給付があります。
- 基本手当:失業中および求職中の期間に支給される
- 再就職手当:失業後に早期に就職できた場合などに支給される
- 高年齢雇用継続給付:定年などによって賃金が大幅に減る場合に支給される
- 教育訓練給付:教育訓練費用の一部が支給される
雇用保険には、年齢制限がありません。また、雇用保険料は、使用者と労働者で半分ずつ負担するわけではないため、正しく計算方法も理解しておくことが大切です。
関連記事:社会保険の種類ごとの特徴や加入条件をわかりやすく解説
3. 社会保険への加入要件(健康保険・厚生年金保険・介護保険)
「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」は、まとめて狭義の社会保険と定義されることがあります。ここでは、狭義の社会保険に対する事業所と従業員それぞれの加入要件について詳しく紹介します。
3-1. 事業所の条件
法律によって定められた社会保険の加入条件を満たす事業所のことを「強制適用事業所」といいます。強制適用事業所に該当する条件は以下の通りです。
- 法人の事業所(事業主蚤の場合も含む)
- 国・地方公共団体の事業所
- 常時5人以上の従業員を使用する個人事業所(法定17業種以外を除く)
株式会社などの法人は、従業員数に関係なく、強制適用事業所に該当します。また、製造業や建設業などの個人事業所で、法定17業種にあてはまる場合、従業員数が常時5人以上になると、強制適用事業所になります。
一方、飲食業や宿泊業など、法定17業種に該当しない場合、従業員数が常時5人を超えても、強制適用事業所にはなりません。なお、強制適用事業所に該当しない場合でも、従業員の半数以上が同意し、厚生労働大臣の認可を受ければ、任意適用事業所として、社会保険適用事業所になることができます。
3-2. 従業員の条件
適用事業所(強制適用事業所や任意適用事業所)で働く正社員は、社会保険の加入対象です。パートやアルバイトなどの労働時間を短くして働く従業員でも、1週間の所定労働時間と1ヵ月の所定労働日数の両方が常時勤務者の4分の3以上の場合は、社会保険の加入対象になります。これらに該当しない短時間労働者であっても、次のいずれもの要件を満たす場合、社会保険の加入対象に含まれます。
- 従業員数50人を超える会社などで働く
- 1週間の労働時間が20時間以上
- 2ヵ月を超える雇用の見込みがある(季節的業務に就く人などを除く)
- 1ヵ月の賃金が88,000円以上
- 学生ではない(定時制・通信制などの学生を除く)
なお、所在地が一定しない事業所に使用される人など、これらの要件を満たしていても、社会保険の適用除外となるケースもあるので注意しましょう。
関連記事:社会保険の任意適用事業所とは?加入のメリットや手続き方法を紹介
4. 社会保険への加入要件(雇用保険)
狭義の社会保険(健康保険・厚生年金保険・介護保険)と雇用保険の加入要件は異なります。ここでは、雇用保険に対する事業所と従業員それぞれの加入要件について詳しく紹介します。
4-1. 事業所の条件
1人でも従業員を雇用する事業所は、原則として雇用保険に加入しなければなりません。ただし、農林水産業を営む常時従業員数5人未満の個人事業所は、暫定任意適用事業として、雇用保険への加入は任意になるので注意しましょう。
4-2. 従業員の条件
次のいずれもの要件を満たす従業員は、雇用保険の加入対象となります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
- 学生でない(定時制・通信制などの学生を除く)
なお、季節的業務に就く人など、適用除外となるケースもあるので注意が必要です。
5. 社会保険未加入はバレない?
社会保険の加入要件を満たした場合、加入手続きをするのが義務です。しかし、社会保険未加入でもバレなきゃ大丈夫と考えている人もいるかもしれません。結論、社会保険未加入は、遅かれ早かれバレます。ここでは、社会保険未加入のままでいると、どのような指導や調査がおこなわるのかについて詳しく紹介します。
5-1. 加入勧奨
社会保険の加入要件を満たしているのに、未加入のままでいると、厚生労働省や日本年金機構などから自主的に加入するよう通知がされます。この時に加入手続きをすれば、遡って社会保険料を納めたり、懲役・罰金といった罰則が課せられたりすることはありません。そのため、行政などから社会保険の加入手続きに関するお知らせが届いたら、無視せず、速やかに手続きをすることが大切です。
5-2. 加入指導
加入勧奨されているにもかかわらず、社会保険の加入手続きをしない場合、訪問による加入指導がおこなわれる可能性があります。
5-3. 立入検査
加入勧奨や加入指導があっても、社会保険の加入手続きをしない場合、立入検査がおこなわれる可能性もあります。事業主には立入検査の受忍義務があり(健康保険法第198条、厚生年金保険法第100条、雇用保険法第79条など)、正当な理由もなく検査を拒否したり、質問に回答しなかったりすると、法律に基づき罰則が課せられる恐れもあります。
また、社会保険未加入であったことが発覚し、悪質だと判断されれば、遡り加入が求められ、懲役や罰金などの罰則が課せられるリスクもあります。このような事態を招かないよう、「バレなきゃ問題ない」という考えは捨てて、正しく社会保険の加入手続きをしましょう。
(立入検査等)
第百九十八条 厚生労働大臣は、被保険者の資格、標準報酬、保険料又は保険給付に関して必要があると認めるときは、事業主に対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を命じ、又は当該職員をして事業所に立ち入って関係者に質問し、若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
5-4. 【注意】社会保険に加入していない企業への指導が強化されている
社会保険は労働者を守る大切な保障制度です。また、昨今では次のような理由から、社会保険に加入していない企業への指導が強化されています。
- 高齢期の経済基盤を充実させるため
- 働き方の多様化へ対応するため
- 社会保険制度維持を目的とした財源確保のため
- 関連省庁との連携により、未加入企業が把握できるようになったため
これらの理由により、2015年度から、国税庁から給与の支払い実態などの情報をもとに、厚生労働省はパートやアルバイトの加入漏れを防ぐなどの対策をおこなっています。また、すでに社会保険に加入済の企業に対しても、4年に1度程度、従業員の加入漏れがないかの定例調査をおこなうなど、社会保険加入の促進に取り組んでいます。
6. 社会保険への加入を拒否する従業員への対応
社会保険の未加入を防ぐには、正しく加入条件を把握することが重要です。しかし、社会保険の加入手続きをしようとしても、社会保険料の負担が大きくなることなどを理由に、加入を拒否する従業員もいます。ここでは、社会保険への加入を拒否する従業員への対応について詳しく紹介します。
6-1. 社会保険の加入義務について説明する
社会保険は加入要件を満たしたら、必ず加入しなければなりません。加入を拒否する従業員に対しては、社会保険の加入は任意でなく、法律で定められた義務であることをまず伝えましょう。
6-2. 社会保険に加入するメリットを説明する
社会保険に加入することで、「労使折半で社会保険料を負担できる」「将来の年金額を増やせる」などの数多くのメリットが得られます。また、産休や育児・介護などが必要な際も、手厚い保障を受けられます。このように、社会保険に加入するメリットを知れば、加入手続きに進んで協力してもらえる可能性も高まるでしょう。
6-3. 労働時間の短縮または賃金の調整を行う
社会保険に加入する義務やメリットについて理解しても、「扶養から外れたくない」「給与の手取りを減らしたくない」などの理由で、社会保険に加入したくない従業員も少なからず出てきます。
パート・アルバイトなどで働く労働者の場合、労働時間を短縮したり、賃金額を減らしたりして、加入要件を満たさなくすれば、社会保険に加入させなくても法的に問題なくなります。
ただし、労働条件を変更する際は、従業員の同意が必要です。同意を得ず、会社側の一方的な都合で労働条件を変更したとなれば、違法となります。労働条件の変更が必要な場合、再度労働条件通知書や雇用契約書を交わすようにしましょう。
関連記事:雇用契約は途中で変更可能?拒否された場合や覚書のルールについても解説!
7. 社会保険の加入条件を満たす場合は速やかに手続きをしよう!
加入条件を満たしたら、社会保険に加入するのは法律で定められた義務です。正当な理由もなく、社会保険に未加入のままでいると、懲役や罰金刑、過去最大2年分の支払い命令など厳しい罰則が適用される恐れがあります。社会保険の加入要件は事業所と従業員それぞれにあり複雑です。社会保険の加入漏れが生じないよう、あらかじめ社会保険手続きのマニュアルなどを整備しておきましょう。