労働時間を適切に管理することは、従業員に正しく給与を支払うことだけでなく、自社の労働環境を正しく把握し従業員を守ることにも繋がります。
本記事では、月の労働時間の目安や厚生労働省が発表した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」について、わかりやすく解説します。
関連記事:労働時間とは?労働基準法に基づいた上限時間や、休憩時間のルールを解説!
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1. 労働時間管理とは?
労働時間管理とは、従業員一人ひとりの法定内労働時間や時間外労働時間、休日労働時間などを管理することです。
労働時間を管理する担当者は、労働時間の定義や基準について理解を深める事が大切です。
ここでは、「労働時間と勤務時間の違い」や「労働時間に関する規則」について詳しく解説します。
1-1. 労働時間と勤務時間の違い
「労働時間」と「勤務時間」は言葉が非常に似ていることから、同じ意味を指していると思われがちです。しかし、両者には明確な違いがあります。「勤務時間」とは従業員の始業時間~終業時間までを指し、「労働時間」とは勤務時間から休憩時間を引いた時間のことを指します。
具体的な計算例は下記のとおりです。
例)始業が9時、終業が17時で、間に1時間の休憩がある企業の場合
勤務時間:8時間(9時~17時)
労働時間:勤務時間(8時間)- 休憩時間(1時間)= 7時間
1-2. 月の労働時間の目安は?
次に、月の労働時間の目安について解説します。
労働基準法により、労働時間は原則「1日8時間、週40時間まで」と定められており、この労働時間の上限を法定労働時間といいます。一か月を約4週間と考えると、月の労働時間上限は約160時間となります。
この「1日8時間、週40時間」を超えて、従業員に労働させるためには36協定の締結が必要です。36協定を締結すると、「月45時間、年360時間」までの時間外労働が可能となります。
関連記事:月の労働時間上限とは?月平均所定労働時間や残代計算について解説!!
1-3. 時間外労働の上限規制が厳格化
先ほど、36協定を締結すると「月45時間、年360時間」まで時間外労働をさせることができると解説しました。ただ、この上限を超えて従業員に労働させたい場合は、特別条項付き36協定を締結する必要があります。
法改正前の36協定は、従業員に「月45時間、年360時間」を超えて時間外労働をさせても行政指導がおこなわれるだけでした。また、特別条項を締結すれば従業員に上限なく働かせることができたため、労働環境の悪化などが問題視されていました。このような状況を是正するため、現在では一部の業界を除き、特別条項を締結しても時間外労働は「月100時間、年720時間まで」と定められています。また、上限を超えた場合には行政指導だけではなく、罰則が科されるため注意が必要です。
特別条項付き36協定を締結する場合は、以下の規則の範囲内で従業員を労働させなくてはなりません。
・時間外労働:年720時間以内
・時間外労働と休日労働の合計:月100時間未満
・2~6か月平均の時間外労働と休⽇労働の合計:80時間以内/月
・時間外労働が月45時間を超えられる期間:年6か月まで
1-4. 労働時間管理が義務化
2019年の労働安全衛生法改正に伴い、労働時間の管理が義務化されました。労働時間管理の主な目的は、以下の通りです。
- 厚生労働省が各企業に対し、全従業員の正確な労働時間の把握・管理を求めているため
- 残業時間に上限規制が設けられたため
- 60時間を超える時間外労働に対する割増率が50%に引き上げられるため
- 従業員の心身の健康を守るため
- 働き方を見直し、ワークライフバランスを改善するため
このように、労働時間管理の目的は多岐にわたります。全従業員の労働時間管理は企業にとって大きな負担ですが、コンプライアンスの遵守や過重労働の防止、従業員の健康維持などのために欠かすことはできません。
また、ワークライフバランスの改善などは自社のイメージを守ることにもつながるため、厚生労働省が発表した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に従い、適切に対応することが大切です。このガイドラインについては、後ほど詳しく解説します。
ここまで、労働時間や時間外労働に関する上限規制、労働時間管理の義務化について解説しました。
ここからは「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」について、わかりやすく解説します。
関連記事:労働時間の上限とは?2024年建設業、運送業への法改正についても解説!
2. 厚生労働省の「労働時間に関するガイドライン」とは?
日本では長時間労働や過労死が社会的に問題となり、政府は労働環境を是正するため「働き方改革」を打ち出しました。この流れを受けて施行されたのが「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」です。
ここでは、このガイドラインの詳しい内容について解説します。
2-1. 始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
使用者は従業員の労働時間を詳しく把握するために、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録する必要があります。
従業員の労働時間を記録する方法として、タイムカードやICカードなど客観的な記録方法を用いて、労働時間を管理することが義務づけられています。そのため、従業員の自己申告による始業・終業時間の記録は原則として、認められていません。
2-2. 自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
ここでは、やむを得ず従業員の自己申告によって労働時間の管理を行う際の措置について紹介します。厚生労働省が発表したガイドラインには以下のように明記されています。
ア 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
イ 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
ウ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。エ 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
自己申告による勤怠管理では労働時間を正しく把握することができず、長時間労働の原因になってしまう可能性もあります。そういった状況を是正するために、自己申告で労働時間を管理する場合は、従業員に労働時間管理の重要性を十分に説明したり、情報に乖離があった場合に実態調査をおこなったりするなどの対応が必要です。
関連記事:直行直帰の意味とは?労働時間の管理方法やメリット・デメリットについて解説!
2-3. 賃金台帳の適正な調製
賃金台帳の適切な作成方法については、以下の通りです。
使用者は、労働基準法第 108 条及び同法施行規則第 54 条により、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならないこと。
休日労働や深夜労働には割増賃金が発生するため、使用者が労働時間を適切に記録するのを怠るリスクがあります。こういったリスクを減らすために、使用者は上記のように、項目ごとに分けて労働時間を管理しなくてはなりません。
なお、労働時間の種類と割増率の関係は以下の表の通りです。
労働時間の種類 |
概要 |
割増率 |
法定内残業 |
1日の所定労働時間を8時間以内に設定している場合、所定時間を超えるが8時間を超えない労働 |
0% |
法定外残業 |
1日8時間、週40時間を超える労働 |
25% |
月60時間を超える時間外労働 |
1カ月60時間を超える時間外労働 |
50% (中小企業も2023年4月から適用) |
法定休日労働 |
法定休日の労働 |
35% |
深夜労働 |
22~翌5時までの労働 |
25% |
時間外労働と深夜労働が重複した場合 |
時間外勤務+深夜労働 |
50% (25%+25%) |
休日労働と深夜労働が重複した場合 |
休日労働+深夜労働 |
60% (35%+25%) |
割増賃金を求める計算式は「基礎賃金×割増率×時間数」となります。労働時間の種類によって割増率が異なるので、誤りのないように計算しましょう。
2-4. 労働時間の記録に関する書類の保存
労働時間の記録に関する書類の保存方法については、以下の通りです。
使用者は、労働者名簿、賃金台帳のみならず、出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第 109 条に基づき、3年間保存しなければならないこと。
労働者名簿や賃金台帳のみを保存している場合、過去の労働時間を確認することができず、適正な労働環境づくりができない可能性があります。そのため、使用者は労働者名簿や賃金台帳に加え、出勤簿やタイムカードといった客観的な労働時間の記録を3年間残さなくてはなりません。
2-5. 労働時間を管理する者の職務について
労働時間の管理者に求められていることは、以下の通りです。
事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。
上記の内容で重要な部分は、労働時間を適正に把握するだけでなく、「労働時間管理上の問題点を見つけ、解消する事が職務である」と明記されている点です。労働時間の適正な管理は「働きやすい労働環境」に繋がります。適正な労働時間管理を心掛け、労働時間に問題がある場合は早急に対応しましょう。
2-6. 労働時間等設定改善委員会等の活用
使用者は、事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間等設定改善委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。
自己申告による労働時間管理は上記の方法であれば可能であるとはいえ、やはり労働環境の把握が曖昧なものになりがちなので、労使協議組織を活用するのが望ましいでしょう。
ここまで解説した「時間外労働の上限規制」やガイドラインはいずれも、「働き方改革関連法」を受けて施行されたものです。働き方改革関連法は各従業員の労働時間の削減や労働環境の整備を目指している反面、各従業員を管理する管理職の過重労働が懸念されています。
3. 管理監督者の労働時間管理が義務化
元々、管理監督者の労働時間には上限規制が設けられていませんでした。しかし、管理監督者の長時間労働が深刻な問題となり、2019年4月からは管理職の労働時間を適切に管理することが義務化されました。
ここでは、管理職義務化の具体的な内容について解説します。
関連記事:管理監督者の労働時間について適用や除外を合わせて詳しく解説
3-1. そもそも管理監督者とは?管理職との違いは?
一般的に言われる「管理職」と労働基準法における「管理監督者」は意味合いが異なります。労働基準法における「管理監督者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある労働者のことを指します。具体的な管理監督者の定義は以下の通りです。
①重要な職務内容を有していること
②経営者と一体的な責任と権限を有していること
③勤務期間の制限をうけていないこと
④職務相応の待遇をうけていること
それに対し、管理職とは各企業のある一定の役職以上の労働社を指します。そのため、企業内では管理職として扱われていても、法律では管理監督者に当てはまらないというケースも少なくありません。そのような場合は管理職であっても、残業代や休日出勤の割増賃金の支払いが必要です。
3-2. 労働基準法の一部は適用されない
労働基準法第41条により、管理監督者は労働時間や休憩時間、休日に関する規定が適用されません。そのため、管理監督者が時間外労働や休日出勤をした場合でも、割増賃金は支払われません。
3-3. 有給休暇、深夜労働は適用される
前項では、管理監督者には割増賃金が支払われないと解説しました。ただし、管理監督者であっても、有給休暇の付与や深夜労働による割増賃金は発生するので注意しましょう。
このように、法改正によって今までの勤怠管理を続けていては違法になる可能性もあります。今一度、法改正に則った勤怠管理方法を確認しましょう。当サイトでは、法改正に対応した勤怠管理の方法を一冊にをまとめた資料を無料でお配りしています。
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4. 労働時間管理を効率化するツールを紹介
ここまで、労働時間に関する規則や管理方法について紹介しました。
上述した通り、労働時間の管理方法は非常に複雑で、知らないうちに法令違反となるケースも少なくないので注意が必要です。
ここからは、複雑な労働時間計算を効率化するツールについて解説します。
4-1. Excelで労働時間管理表を作成する
表計算ツール「Excel」を用いて労働時間管理表を作成して管理をおこなう方法です。
実際に、労働時間計算に特化したテンプレートなども、WEB上で簡単に手に入れることができるので、手軽に労働時間管理をおこないたい方におすすめです。また、Excelは労働時間の管理だけでなく、給与計算にも使用できるので非常に便利です。
ただ、Excelに情報を入力するのは基本的に手作業で入力をおこなうため、入力ミスなどのリスクもあります。
4-2. WEB計算サイトで給与計算の手間を削減する
WEB上で無料で利用できる計算ツールを用いて、労働時間計算をおこなうという方法です。こちらもExcel同様に労働時間計算だけでなく、給与計算にも使用することができます。
ただ、Excelのように記録を残す事ができないため、労働時間や給与に関する情報を紙などの別の媒体に記録する必要があります。そのため、労働時間の計算を効率化したいという方には向いていますが、計算だけでなく労働時間の管理まで一気通貫でおこないたい方には向いていません。
4-3. 勤怠管理システム・アプリで労働時間管理も給与計算も一元化する
勤怠管理システム・アプリを導入して、労働時間計算をする方法です。勤怠管理システム・アプリは打刻・労働時間計算・記録を連動させることが可能なため、手作業による入力ミスの恐れがないのがポイントです。また、スマートフォンやICカードというように、打刻方法が多様なので、リモートワークなどの柔軟な働き方にも対応することができます。
さらに、割増率の変更など法改正があった際や社員ごとに割増賃金が異なる場合などでも、自動でシステムに反映させることができるため、人事担当者の業務を大幅に減らすことができます。
勤怠管理システム・アプリの主な機能は、以下の表でご確認ください。
機能の種類 |
概要 |
労働時間の打刻 |
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労働時間の集計 |
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休暇の管理 |
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対応可能な勤務形態 |
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各種申請 |
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その他 |
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5. 労働時間の管理方法を見直し、労働時間を正しく管理しよう!
本記事では、労働時間に関する規則や労働時間管理の目的労働時間の管理方法について解説しました。2019年より、労働時間管理は義務化されています。労働時間の適正な把握はコンプライアンスを遵守するという意味だけではなく、企業の労働環境を改善し、従業員を守ることにも繋がります。現状の労働時間管理を見直し、勤怠管理システムなどの方法で労働時間を正しく、効率的に管理しましょう。
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