突然ですが、ワークエンゲージメントという言葉を聞いたことはあるでしょうか。
「ワークエンゲージメントの意味が詳しくわかっていない」、「どのようにしたらワークエンゲージメントを向上できるのかわからない」と思っている人が実は多いのが現状です。
この記事では、ワークエンゲージメントの意味や測定方法、向上の方法などを詳しく解説します。
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目次
1. ワークエンゲージメントとは?意味や定義を詳しく解説
ここでは、ワークエンゲージメントの意味や定義、類似概念との違いについて解説します。
1-1. ワークエンゲージメントの定義
ワークエンゲージメントとは、主に「仕事に関連したポジティブで充実した心理状態」を指す言葉です。オランダのユトレヒト大学に在籍するウィルマー・B・シャウフェリ教授によって定義された言葉で、企業において重要な概念として注目されるようになりました。
ワークエンゲージメントが低下すると、従業員が離職したり、生産性が下がったりするため注意しなければなりません。ワークエンゲージメントを継続的に把握し、充実した状態が持続しているかを判断することが大切です。
1-2. ワークエンゲージメントを構成する3つの要素
ワークエンゲージメントは、主に3つの要素から構成されます。仕事へのやりがいを表す「熱意」、仕事に集中して取り組めるかを表す「没頭」、仕事をすることから元気をもらっている状態を表す「活力」です。
それぞれの要素について簡単に確認しておきましょう。
熱意
熱意とは、与えられた仕事内容に対するやりがいや、キャリアに対する誇りのことです。熱意のある従業員は仕事に積極的に取り組むため、生産性向上につながります。業績アップにつながるような新しいアイデアを出してくれることも期待できるでしょう。
没頭
没頭とは、時間が経つのも忘れるほど、集中して仕事に取り組むことです。仕事に没頭することは、ミスの防止や生産性アップにつながります。没頭している従業員は仕事を楽しいと感じていることが多く、組織に対する愛着も高まっているといえるでしょう。
活力
活力とは、仕事を進めるためのエネルギーのことです。活力が高い従業員は、新しい知識やスキルを積極的に身につけ、業績アップのために一生懸命働いてくれるでしょう。トラブルが発生したりストレスを感じたりしても休息を取ることですぐに回復し、業務に復帰してくれます。
1-3. ワークエンゲージメントと関連する概念
ワークエンゲージメントと関連する概念には、「職務満足感」「ワーカホリズム」「バーンアウト」の3つが存在します。
それぞれの違いを活動水準と仕事への態度・認知の要素で表すと、上記の表のようになります。以下、それぞれの違いを解説しますのでチェックしておきましょう。
リラックス(職務満足感)
リラックス(職務満足感)とは、従業員の仕事への態度・認知は高いが、活動水準が低い状態を指します。ワークエンゲージメントと同じように働きがいを仕事から得ているといえます。
しかし、仕事に「没頭」していないため、活動水準は低くなっているでしょう。職務満足感は「仕事そのものへの認知や感情」を指します。それに対し、ワークエンゲージメントは「仕事に取り組んでいる際の認知や感情」を示します。
ワーカホリズム
ワーカホリズムとは、労働者の仕事への態度・認知は低いが、活動水準が高い状態を指します。これは「強制退職の不安を回避するため」に労働しているといえるでしょう。
ワーカホリズムでは「働きたくないが、働かなければならない」というような強迫観念によって動機づけがおこなわれています。それに対し、ワークエンゲージメントは「働きたい」という気持ちで労働します。
バーンアウト
バーンアウトとは、仕事への認知・態度が低く、活動水準も低い状態のことです。仕事に対して誠心誠意、熱意をもって取り組んだが、自分の思った結果が得られなかったことなどが原因で起こります。
バーンアウト状態では、自分を守るために顧客や同僚に対し人のせいにする言動が増える傾向があります。例を挙げると、問題が起きたら責任を同僚に押し付ける、顧客への悪口が増えるなどです。
このような状態では仕事の生産性が低下するだけではなく、周りにも悪影響を及ぼすため注意が必要です。
1-4. ワークエンゲージメントと従業員エンゲージメントの違い
ワークエンゲージメントと似た言葉に、従業員エンゲージメントがあります。従業員エンゲージメントとは、所属している会社や組織に対する愛着や帰属意識のことです。積極的に働き会社に貢献したいと考えているなら、従業員エンゲージメントは高いといえるでしょう。
一方のワークエンゲージメントとは、主に与えられた仕事に対するやりがいや意欲を指します。従業員エンゲージメントは会社との関係性を含む言葉であるため、ワークエンゲージメントより大きな概念であるといえるでしょう。
1-5. ワークエンゲージメントは国民性の違いが出る
日本人は外国の方と比べ、自己批判的である傾向が強いです。そのため、自分に対し厳しく、自己効力感を得にくい特徴があります。さらに、外国と比べ周囲と協調することを重要とする傾向があります。
このような文化的背景の違いがあるため、ワークエンゲージメントを高めようと海外のやり方を真似しても上手くいかない可能性が高いでしょう。自分の国の文化や自社の社風にあったワークエンゲージメントの高め方を試し、定着させる必要があります。
2. ワークエンゲージメントが重要視される背景
ここでは、ワークエンゲージメントが重要視されている背景を5つ説明します。
2-1. 終身雇用制度崩壊による人材の流動化
以前は終身雇用制・年功序列が一般的で、一度入った会社で定年まで勤めることが当たり前でした。しかし、終身雇用制が崩壊した現代では、転職することが容易になっています。とくに優秀な人材は、さらに良い待遇や条件を求め転職することが多く、人手不足に陥り倒産を余儀なくされる企業が増えるでしょう。
ワークエンゲージメントの向上は、仕事に対する満足感につながります。優秀な人材を企業に定着させるためにもワークエンゲージメントが重要視されるようになりました。
2-2. 少子高齢化による労働人口の減少
現代では、少子高齢化が進み労働人口が減少しています。それに伴い、労働市場は売り手市場から買い手市場に変化しました。労働人口を確保しなければ、慢性的な人手不足に陥る可能性があります。
そこで重要なのがワークエンゲージメントです。ワークエンゲージメントが高く、満足度が高い企業は求職者からすると、とても魅力的な要素の一つになります。
2-3. 主体的な人材が必要とされている
ワークエンゲージメントが高い人材は主体的に動くことができます。主体的な人材は、仕事に対し能動的で、モチベーションが高く、向上心があります。また、自分の意見をはっきりと述べることも特徴のひとつです。
このような人材は周りに良い影響を与えるため、従業員のワークエンゲージメントを高めることはとても重要であるといえます。
2-4. テレワークによるコミュニケーション量の低下
近年ではデジタル化への移行や感染症対策として、テレワークを導入する企業が増えてきました。しかし、テレワークでは空間の共有や対面コミュニケーションが不足し、エンゲージメントの低下も起こりやすくなります。
従業員がこれまでのような居場所作りや関係性構築ができなくなれば、会社への帰属意識は薄れてしまうのです。
帰属意識が低い状態が続くと従業員は能動的な仕事ができず、生産性が下がったり成果物の質の低下が起きたりといった問題も生じやすくなります。また、モチベーション不足やストレスによるパフォーマンス低下が起きやすくなるのも大きな問題です。
2-5. 厚生労働省もワークエンゲージメントに注目している
厚生労働省が「労働経済白書」のなかでワークエンゲージメントに言及したことで、より注目度が高まりました。厚生労働省は、ワークエンゲージメントが高い従業員は仕事にやりがいを感じながら熱心に取り組み、活力のある状態を維持していると述べています。
従業員の離職率や定着率、顧客満足度などと関係していると公表したことからも、ワークエンゲージメントの向上に取り組む企業が増えてきたのです。
3. ワークエンゲージメント向上が企業にもたらす効果
ここでは、ワークエンゲージメント向上のメリットを6つ解説します。
3-1. メンタルヘルスの状態がよくなる
ワークエンゲージメントが向上することにより、仕事で受けるストレスを減らすことができます。
多くの企業がおこなっているストレス対策は、ストレスが発生することを前提としています。しかし、ワークエンゲージメントが高い状態においては、仕事に対してポジティブな感情を持っているのでストレス自体が発生しにくいという根本的な解決につながるでしょう。
3-2. 離職率が低下する
厚生労働省が発表した『労働経済の分析(令和元年版)』において、ワークエンゲージメントが高いことと新卒3年目の離職率には正の相関があることが明らかになりました。
離職率が低くなることで、採用や人材育成にかかるコストを抑えることができ、長期的に働いてもらうことでスキルを習得し、優秀な人材に成長してくれることも期待できます。
3-3. 帰属意識(コミットメント)が生まれる
ワークエンゲージメントが高い人材は、会社が自分の仕事の成果やアイデアを認めてくれると考えるため、帰属意識が高くなります。帰属意識が高いことは、愛社精神や忠誠心の向上にもつながるでしょう。
このような状態だと従業員のモチベーションが高く、生産性も高まります。さらに組織内のコミュニケーションが促進され、新たな意見が生まれることも期待できます。
3-4. 労働生産性が上がる
ワークエンゲージメントが高い人材は仕事のパフォーマンスが最大化するため、業務の生産性が比較的早い段階で向上します。
モチベーションエンジニアリング研究所が調査した『従業員エンゲージメントとキャリア充足度』に関する調査によると、エンゲージメントの向上は「営業利益率」と「労働生産性」を向上させるということが明らかになりました。
3-5. 顧客満足度が向上する
ワークエンゲージメントの向上は社内だけにとどまらず、顧客にも良い影響をもたらします。
すべての従業員が高いエンゲージメントを保持していれば、業務のパフォーマンスも上がりやすくなります。従業員がポジティブに仕事に取り組む姿や自信を持って商品をおすすめする姿を顧客に見せられるのが、ワークエンゲージメントを高めるメリットです。
ワークエンゲージメントが低い状態で提供される商品やサービスに、顧客が魅力を感じる可能性は低いものです。しかし、いきいきと働く従業員を目にした顧客は、企業や商品、サービスに対して良い印象や信頼感を抱きやすくなります。
顧客満足度を向上させるためにも、ワークエンゲージメントを高める施策を効率的に実施していきましょう。
3-6. 新しいアイデアを創出できる
新しいアイデアの創出につながることも、ワークエンゲージメントを高めるメリットのひとつです。ワークエンゲージメントが高い従業員は、意欲と熱意をもって業務に取り組むため、新しい意見やアイデアを積極的に出してくれます。
ワークエンゲージメントが高まれば、新しいスキルや知識の習得にも積極的になります。得た知識をもとに、業務改善や売上アップにつながるようなアイデアを出して企業に貢献してくれる場面も増えるでしょう。
4. ワークエンゲージメントの尺度・測定方法
ここではワークエンゲージメントの尺度と測定方法について3つ紹介します。
4-1. UWES(Utrecht Work Engagement Scales)
UWES(Utrecht Work Engagement Scalest)とは「熱意」「没頭」「活力」の3つの要素から計17問の設問でワークエンゲージメントを直接測定する方法です。日本では最も利用されている測定方法です。
具体的な質問項目
具体的には、「私は仕事にのめりこんでいる」「私は仕事に集中している」という設問を7段階評価で選びます。3つの要素それぞれの平均値を「ワークエンゲージメントスコア」としています。
4-2. MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)
MBI-GS(Maslach Burnout Inventory-General Survey)のBはバーンアウトを指します。この方法では、対象者がバーンアウト状態かどうかを測定するのが大きな特徴です。その数値が低いほどバーンアウト状態から遠く、エンゲージメントが高い状態であるといえます。
具体的な質問項目
質問項目は仕事を通じて、力を出し尽くし消耗した状態を測る「疲労感」、クライアントに対する非人道的な態度を測る「シニシズム(社会の風潮を冷笑する態度)」、ヒューマンサービスに関する「達成感」、有能感を測定する「職務効力感」などの計16項目から構成されます。
具体的な質問例としては
・こんな仕事もうやめたいと感じるか
・出勤前、 職場に出るのが嫌になって、 家にいたいと思うことがあるか
・仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがあるか
・体も気持ちも疲れ果てたと思うことがあるか
が挙げられます。
4-3. OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)
OLBI(Oldenburg Burnout Inventory)は上記に記載したMBI-GSと同じように、バーンアウト状態かを測定することでワークエンゲージメントを把握する方法です。
具体的な質問項目
主な質問内容は「疲労」と「離脱」です。「疲労」の項目が高い場合、活動水準が下がっていることを意味します。「離脱」の項目が高いと、仕事の認知と態度が低く、仕事に没頭できていない状態といえるでしょう。
この2つの項目が低いとワークエンゲージメントが高いといえます。
具体的な質問例として、
「疲労」に関する質問例
・仕事の前にすでに疲労感を感じていませんか?
・仕事後、ぐったりと疲れ果てていることがありますか?
・やる気に満ちあふれていますか?
「離脱」に関する質問例
・否定的な語りが増えていませんか?
・機械的に労働していませんか?
・他の職業は考えられないと考えていますか?
・仕事に集中して打ち込んでいますか?
が挙げられます。
5. ワークエンゲージメントを高める方法
ワークエンゲージメントの高め方は、主に自己効力感から生まれる個人の資源と、仕事の満足感から得られる仕事の資源の2つに分類されます。
5-1. 個人の資源
「個人の資源」とは、ポジティブな心理状態を引き出す個人の内的な要因を示します。例を挙げると「自己効力感」「自尊心」「ポジティブシンキング」などです。
個人の資源を高めるために有効な方法として「ジョブ・クラフティング」が挙げられます。「仕事のやり方」「人間関係」「仕事のとらえ方」を修正し、見直すことで主体的に仕事へ関われるようになり、個人の資源を高めることができます。
5-2. 仕事の資源
「仕事の資源」とは、仕事を通じた成功体験を得ることや仕事の負担を減らすことで仕事へのモチベーション向上を促す要因のことで、これを高めることでワークエンゲージメントの向上につながります。
具体的な方法としては、パフォーマンスに対する正当な評価やフィードバック、上司や同僚からの適切なサポート、仕事の裁量権が与えることなどが挙げられます。
6. ワークエンゲージメント向上を成功させた企業事例
ここでは、ワークエンゲージメント向上を成功させた企業例を紹介します。
6-1. スターバックス コーヒー ジャパン
スターバックスは、パートナーのエンゲージメントが高いことで有名です。その理由は、マニュアル重視の労働ではなく、従業員のエンゲージメントによる行動を重視しているからです。カップにイラストを描くことはマニュアルで決められているわけではありません。従業員の自発的な行動を大事にしているといえます。
また、このような内発的動機には企業が大切している価値観を従業員に周知し、共感を得ることが関係しています。
6-2. 株式会社リクルートホールディングス
リクルートでは企業レベルではなく、部署やチーム単位でのエンゲージメントサーベイを実施し、従業員同士でサーベイの結果をもとにしたディスカッションをおこないます。課題を基にした次なるアクションを一人ひとりが主体的に推進することにより、ワークエンゲージメントの向上につなげています。
7. ワークエンゲージメントを高めて従業員を定着させよう!
この記事では、ワークエンゲージメントについて紹介してきました。ワークエンゲージメントを高めることには、従業員だけでなく、企業にとっても多くのメリットがあります。ぜひワークエンゲージメントを意識した組織作りをおこなっていきましょう。