働き方に対する価値観が多様化している昨今、管理職が対応すべき事項は多岐にわたり、マネジメントのフォームチェンジが求められています。
エースプレーヤーがマネジャーに昇進するのはよく見られるケースですが、プレーヤーからマネジャーへの意識変革ができずに、成果を出すことに苦戦している場合も多くあります。
そこで今回は、『令和の時代の「デキる管理職」』の連載4回目として、数多くの企業で管理職育成の支援をされてきたリンクアンドモチベーションの宮澤さんに、プレーヤー意識から脱却し、組織で成果を最大化するマネジャーになるためのポイントを伺いました。
【人物紹介】宮澤 優里 | 株式会社リンクアンドモチベーション MMEカンパニー カンパニー長
2008年 一橋大学を卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。一貫して大手企業向けのビジョン浸透・風土変革・育成に携わり、延べ150社以上を支援。顧客企業の組織変革を成功に導く傍ら、自社のプロダクト開発にも従事。コンサルティング部隊のマネジャーを経て、現在大手企業向けの風土変革・人材育成領域の責任者を務める。また、個人の自立的な成長サイクルを実現する人材育成クラウド「ストレッチクラウド」の事業責任者を兼務。メディアでの解説実績多数。
目次
プレイングマネジャーは悪なのか?
ー今回は、活躍できる管理職への二歩目ということで、「頼れるリーダー」から「成果創出マネジャー」へステップアップするポイントについて伺っていければと思います。
宮澤さん:まずは、前提となる、管理職が自分の現在地を知るための「レーティング」について、今回もおさらいします。
当社では、管理職を対象にマネジメント状態を診断するマネジメントサーベイを提供しています。「何にどれくらい期待しているのか」「何にどれくらい満足しているのか」という2つの軸で360°サーベイを実施し、結果をDD〜AAAの11段階の「レーティング」で表しています。
累計779社、16,483名の結果を分析した結果、レーティングごとの特徴が見えてきました。
前回は、レーティングC・D「孤独な管理職」から、レーティングB「頼れるリーダー」にステップアップするポイントをお伝えしました。
今回は、レーティングB「頼れるリーダー」から、「成果創出マネジャー」へステップアップするポイントについてお話しします。
宮澤さん:レーティングBの特徴的な項目として、以下が挙げられます。
- 部下への支援行動
- 率先垂範行動
- 即時の意思決定
- 対立時の葛藤解消行動
- 部下の意見の傾聴姿勢
このように、レーティングBのマネジャーは、率先して行動し、かつメンバーをサポートできていることがわかります。
前回詳しくお伝えした、メンバーとの信頼関係が築けている状態で、メンバーからは、頼れる存在だと思われていることでしょう。
しかし、レーティングBのマネジャーは、自ら現場に介入し、メンバーと一緒に汗をかいて推進してしまいがちという傾向もあります。
つまり、現場で活躍する「立派なプレーヤー」、いわゆる「プレイングマネジャー」がレーティングBであることが多いのです。
ーレーティングB「頼れるリーダー」の課題はどこにあるのでしょうか?
宮澤さん:「プレーヤー意識が抜けないマネジャー」になってしまっていた場合、問題があります。
「プレーヤー意識が抜けないマネジャー」とは、マネジャーでありながら、マネジメントに必要な意識や能力が備わっておらず、結果としてプレーヤーと同じ状態に陥っているマネジャーです。
例えば、マネジメントするメンバーが5人くらいであれば、プレーヤーとして引っ張っていくやり方でも成り立つと思います。
しかし、メンバーが10人、20人と増えていくと、プレーヤーのままでマネジメントの役割を果たすことはかなり難しくなります。
一緒にフィールドを走り回る選手から、徐々に監督のポジションにフォームチェンジをしていかなくては、いずれ組織の成果が頭打ちになるでしょう。
宮澤さん:誤解がないようにお伝えしたいのは、プレイングマネジャー自体は悪くないということです。
例えば、「チームで直面したことがない課題」が発生した際は、チームで一番力量のある人間が前線に立って解決することが求められます。
その場合は、マネジャーが自らプレーヤーとして解決していくことも、手札として必要だと思います。
また、リクルートワークス研究所の調査 (※) によると、 日本企業の課長相当の管理職のうち約9割がプレイングマネジャーなのです。
そして、プレイング業務の割合が20~40%程度に抑えられていれば、プレイング業務がないマネジャーより高いチーム成果を生み出せるというデータもあります。
※ 出典:リクルートワークス研究所 Works Report 2020 プレイングマネジャーの時代 2020年1月(参照 2023年6月)
宮澤さん:ただ、サッカー選手と監督が全く別の役割であるのと同様に、プレーヤーとマネジャーは全く別の役割であることを自覚する必要があります。
マネジャーの役割とは、「組織の成果に責任を持ち、それを最大化していくこと」です。トッププレーヤーであっても、一人で出せる成果には限界があります。マネジャーは、組織として成果を最大化させる方法に目を向けるべきです。
つまり、レーティングBのマネジャーの課題は、自分が成果を出すのではなく、メンバーの力を引き出して、自組織に求められている成果を最大化することです。
この課題をクリアできれば、レーティングA「成果創出マネジャー」にステップアップすることができるでしょう。
「成果創出マネジャー」に向けた、マネジメントのポイント
ー選手から監督になるのは、簡単ではなさそうですね。組織で成果を生み出すために意識すべき、マネジメントのポイントを教えてください。
宮澤さん:組織で成果を生み出すためには、「役割設計」と「目標設計」の2点が重要なポイントとして挙げられます。
役割設計
まず、役割設計についてですが、これは言い換えると、「メンバー個々の役割分担を明確化する」ということです。
例えば、チームの中で「比較的難易度が低い、新規開拓営業のリーダーは◯◯さんに任せる」「自分は難易度が高いプロジェクトの進行に入る」といったイメージで、役割を明確にして分けていきます。
そして、役割を任せる際には、役割を果たした先にある「成果」に目を向けさせることが重要です。「一人ひとりの動きが何に貢献しているのか」を伝えて、理解してもらうとよいでしょう。
目標設計
2つ目が目標設計です。
チーム全体の目標を決め、目標達成に向けてメンバーに動いてもらいます。目標と実績との差分から、メンバーに自らPDCAサイクルを回してもらうのです。要は、目標を「コーチ」の役割として機能させるようなイメージです。
目標に届いていない際は、何かしらの課題があるはず。その課題を自分一人で解決するのではなく、メンバーに解決に向けて動いてもらいます。
このように、目標をうまく使ってマネジメントしていく意識を持てるとよいですね。
この2つを実践できるようになると、組織で成果を生み出せるようになり、レーティング A「成果創出マネジャー」に近づきます。
簡単にいえば、メンバーを動かすことこそが、組織成果の最大化のために必要だということです。
そのためにマネジャーは、時には「自分が手を出したくても我慢する」ことが求められます。組織全体としての成果最大化のために、自分が介入する部分とそうでない部分を見極めることも大事なポイントですね。
チーム全体で、リソースの総量は決まっています。組織成果を最大化させるためには、そのリソースをどこに振り分けるのが良いか、パズルのように考えていくイメージです。
戦略的に、自部署を経営する視点をもっていただければと思います。
マネジャーは「編集者」として、経営とメンバーをつなぐ
ー「役割設計」や、「目標設計」によって、メンバーを動かすことが必要だとわかりました。具体的に、どのようにして役割や目標を考え、自部署を経営していけば良いのでしょうか?
宮澤さん:まず、マネジャーの皆さんに心構えとしてお伝えしたいのが、情報の「編集者」になろう、ということです。
マネジャーは、上から降りてきた役割や目標をそのままメンバーに伝えてしまうことがよくあります。そうすると、メンバーにうまく伝わらず行動してもらえないばかりか、誤った認識を生むことも起こりえます。
マネジャーは、メンバーにただ情報を降ろすのではなく、伝わるように情報を編集することが求められます。つまり、情報を具体化して、メンバーとすり合わせていくのです。
そのための方法として「3C分析」「BP分析」をご紹介します。
3C分析
3C分析とは、「企業(Company)」「競合(Competitor)」「顧客(Customer)」の3つを軸にした市場環境の分析手法ですが、「自分たちが提供する価値」を定めるのに活用することができます。
具体的には、企業(ここでは自社)、競合、顧客について分析し、「顧客から選ばれる理由」を言語化するのです。
自分たちが提供する価値をメンバーが理解することで、「この価値を届けるために、この役割が必要なんだな」「この価値を届けるのであれば、この目標を追いかけるのが適切だな」と、業務と結びつけやすくなります。
宮澤さん:3C分析の次におこなうのがBP(ビジネス・プロセス)分析です。こちらはその名のとおり、ビジネスのプロセスを分解して理解していくフレームワークで、役割設計や目標設計に活用できます。
大きく以下のような項目に分けて分析し、やるべきことを絞り込むことで、役割を明確にしていきます。
- どのようなプロセスを経て、顧客に価値を届けているか
- どのような行動が顧客価値につながるのか?
- どのような行動が顧客価値につながらないのか?
宮澤さん:例えば、リンクアンドモチベーションのインサイドセールスの部署では、以下のように分析することができます。
ー「顧客価値につながっていないこと」も分析していくのですね。
宮澤さん:顧客価値につながらない行動も決めておかないと、やみくもに行動量を増やしてしまうリスクがあります。
それでは、最終的に顧客価値の提供につながらず、無駄にリソースを使ってしまうかもしれません。
この部署の例では、「今の悩みに対して、効果が期待できるサービスがありそうだな!」と顧客に感じてもらうことを基準に、そこにつながる行動かどうかを分析しています。
ー質を高めるために、やらないことを定めるイメージですね。
宮澤さん:そうですね。これは、目標設計にもつながります。たとえば「商談◯件」だけを掲げるのではなく、「一定の条件を満たした商談を◯件」と、より明確な目標を掲げることもできるようになります。
また、分析によって具体化した役割や目標は、戦略共有会など、コミュニケーションの場を設けてすり合わせていきます。
リンクアンドモチベーションのある部署では、役割や目標をただ共有するだけでなく、メンバーから質問や提案も出してもらい、双方向で議論する場にしています。
このように、役割や目標を具体化するプロセスは、マネジャーが一人で進めるのではなく、メンバーと一緒にリサーチを進めるなど、メンバーを巻き込んでいくことがおすすめです。このプロセスを通じて、メンバーとのすり合わせも進んでいきます。
マネジメントの語源は「やりくり」です。自らプレイングするのではなく、やりくりして成果を出すのがマネジャーの仕事です。
戦略や役割、目標を具体的に提示し、任せるべきところはメンバーに任せ、限られたリソースをやりくりしながら組織で成果を創出しましょう。
プレーヤーから監督へのフォームチェンジは、ビジネスで重要な分岐点となる
ー最後に、レーティング B「頼れるリーダー」に該当するマネジャーの方々に、メッセージをいただければと思います。
宮澤さん:私は、レーティング Bのマネジャーの方々がおそらくチームの中で一番頑張っていらっしゃる方だと思っています。
弊社が提供する成長支援クラウド「ストレッチクラウド」のデータを見ると、マネジャーに昇格したタイミングではレーティング Bの方が多いのですが、数年経過すると、いつの間にかレーティングCになってしまうか、レーティングAにステップアップするかが分かれてくる傾向があります。
これは、エースプレーヤーから監督に変わるためのフォームチェンジが簡単ではないことを意味していると思います。
そして、このフォームチェンジに挑み続けることは、先のマネジャー人生においても重要な分岐点だと考えています。
今後も課長から部長に、部長から本部長に役割が変わる度に、やはりフォームチェンジをしていく必要があります。
ここで、「優秀なプレーヤー」から「メンバーの力を引き出せるマネジャー」にフォームチェンジができれば、「自分は一度変われたんだから大丈夫」という自信につなげていくことができると思います。
逆に、フォームチェンジできないまま昇格してしまった結果、苦労されているという方のお話も耳にします。
特に新任マネジャーの方は、いつまでもエースの意識でいるのではなく、監督としてメンバーの力を引き出し、組織で成果を出すことへのフォームチェンジにチャレンジしてほしいですね。