急速に広がるテレワーク・リモートワークにより、働き方自体が大きく変わりつつあります。
これまで以上にメンバー同士の対話の機会が減る中で、どのようにすれば効果的に「1on1」を機能させることができるのか。
前回から引き続き、幅広く人材育成や研修サービスを提供する株式会社NEWONEのココラボ責任者である桐山さんに寄稿いただきました。
第2弾となる今回は、1on1の実践方法について、具体的なメンバーのタイプ別の対応ポイントについてご紹介します。
<前回の記事はこちら>
テレワーク中の組織マネジメントにおいて「1on1」は救世主となりえるか?|NEWONE連載#1
目次
「1on1」の具体的な実践方法
【執筆者】桐山 恭子 | 株式会社NEWONE ココラボ責任者
大学卒業後、採用コンサルタントとして多種多様な企業の新卒採用企画及び新人研修をプロデュース。採用セミナー講師、キャリアカウンセリングなどの経験を経て、2006年より人材開発コンサルタントとして主に企業の人材育成・人材開発の研修プログラム開発責任者として従事する。新人研修から管理職研修まで幅広い階層にてファシリテーターとして活躍する他、アセスメント研修での幹部候補・役員候補のアセッサーや、360度研修などのグループコーチ、個別面談におけるコーチングなども多数実施。3人の子供の育休からの復帰経験あり。今までのノウハウをHRTech領域にて活かすべく2020年よりココラボ責任者に就任。米国CCE.Inc.認定キャリアカウンセラー。
前回の記事では、
- メンバーの「優先順位」を明確にする
- メンバーの「期待値」を調整する
- 部下と信頼関係を築く
という3点が、テレワークの中でより良い「1on1」を実現するために必要であることをお話させていただきました。
しかし、言葉で言うのは簡単ですが、実際に実行するのはなかなか難しいことと思います。
そこで、よりイメージを湧かすためにも、メンバーを9つのタイプに分類して、それぞれ「優先順位」「期待値」が何かを考えていきたいと思います。
メンバーは「9つのタイプ」に分類できる
社会心理学者のエドワード・デシによれば、人間には「自律性の欲求」「有能感の欲求」「関係性の欲求」という3つの基本的欲求があり、これらが満たされることで、やる気を高め、主体性を生み出すと言われています。
この3つの欲求を更に細分化し、それぞれタイプ別に分けたのが、上記の9つの意向です。
これらは、基本的にはどれも内発的動機を高める上で重要です。
しかし、人によって重要度の優先順位が異なり強弱があるため、一概に全部を満たそうとしても、人によっては重要視していない場合もあり、やる気や主体性が生まれることに貢献するわけではありません。
個々の優先順位や強弱をきちんと見極め、個々にあった対応をしていくことが大事になっていきます。
「自律性の欲求」が高いメンバーへの対応方法
それでは、この9つのタイプにそって、実際の具体的なモデルケースをもとに対応方法についてお話できればと思います。
今回は、「自律性の欲求」が高いメンバーに対する1on1での具体的な対応ポイントについて、まとめさせていただきました。
基本的な対応の流れは、次の通りです。
- メンバーの良い面をフィードバックする
- 現状に関しての認識をヒアリングする
- フィードバックをおこなう
それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
「自分で仕事をコントロールしたい」Aさんの場合
今年で入社3年目のAさんは、与えられた仕事をしっかりとこなし、仕事のクオリティも高いと評判です。自分の意見も明確に伝えることができ、仕事に対しても自信を持って取り組んでいることがわかります。
一方で、納期に対して少しギリギリな所があり、直前まで状況がわからないという場合も少なくありません。こだわりが強く、自分で仕事をコントロールして進めたい性格で、途中で自分が決めた方針が覆ることがあると、柔軟に対応できずに遅れが生じ、予定通りに進まなくなるようです。
以前、「細かい管理型」のリーダーの下で働いていた際も、最初はやる気が高かったようですが、次第に元気がなくなり、最後のほうは指示待ちで、ほぼ機能していなかったようです。
このようなAさんに対して「成長機会となるような顧客を1人で回せるようになってもらいたい」と、少し難易度の高い顧客を任せることにしました。
しかし、今までの経緯もあるため、完全に任せることにも不安を感じており、今度1on1を実施する予定です。
Aさんのやる気を引き出し、Aさんの期待値を調整するためには、どのように関われば良いでしょうか。
Aさんの特徴
9つのタイプの中で、Aさんは「仕事のコントロール」の意向が最も強く、「進め方を自分でコントロールしやすいかどうか」を特に重視しています。
仕事を進める上での順番・やり方を自分で決めることができるなど、裁量権が欲しいと考えていることが多いでしょう。
また、「自分で工夫したい」という意識が強い傾向があるため、人によっては、周囲と良好なコミュニケーションがしにくい状況が生まれる可能性もあります。
与えられている権限や裁量が少ないと、受動的な行動を取ってしまいます。
1on1の実践ポイント
このようなタイプのメンバーと1on1をする際は、次のような点に意識すると良いでしょう。
Step1:良い面をフィードバックしましょう
まず、Aさんの良い面を伝えてあげる部分から始めると良いでしょう。
このタイプのメンバーは、自分へのプライドが高い人も多いかと思います。
日々の行動から「〇〇のような取り組み、凄く良いよね!」「○○をしてくれて、とても助かっている」といったように、事実ベースでポジティブなフィードバックを伝えるようにしましょう。
Step2:現状に関してヒアリングしましょう
次に、現状の仕事内容や進め方にストレスが無いかを確認しましょう。
- 目的がすり合っているか、達成基準は明確か
- 自分なりに進めて行けるイメージが湧いているか
といった点を率直に聞き、現状を確認します。
また、「周囲と円滑なコミュニケーションを取れているか」という点も確認し、状況を早めに理解すると良いでしょう。
Step3:より良い環境が生まれるようにフィードバックしましょう
Step2で聞いた内容を踏まえて、
- 目的や達成基準を再度合意する
- 関係者との間で曖昧になっているところは、管理職自ら調整をかける
- 可能な限り裁量を渡し、期待していることをしっかりと伝える
- 今の仕事の先にも触れて、この仕事が将来にもつながる実感を持ってもらう
といったアクションをおこないます。
これにより、Aさんが仕事に前向きに取り組めるようにしていくことが大事になります。
「仕事はきっちりかっちり」Bさんの場合
責任感が強く仕事が早いBさん。お願いした仕事は、いつも完璧に仕上げてくれるなど、仕事の正確さには定評があります。具体的に明示した仕事を渡せば、渡した範囲の中で自分なりに考え自由に主体的に動いてくれるため、どのような仕事も期待以上に仕上がります。
ただ、活発で自分の意見もはっきり主張する一方で、役割認識が強く、範囲外のことや曖昧さが多い仕事に関しては、臨機応変に対応してくれない場合もあります。たまに、突発的な仕事が発生した際に、仕事の進め方に関してBさんから注意を受けている若手もよく見かけます。
そのような中、部を超えたプロジェクトを動かす機会があり、その分野に関しては自部署で一番情報を持っているBさんに代表としてプロジェクトに参加してもらうことになりました。
2回目のプロジェクトの打ち合わせが終わった後、Bさんの様子を見ていたら、明らかにプロジェクトに対する不満がありそうです。そのため、Bさんにこのプロジェクトに前向きに取り組んでもらうよう、1on1を実施しようと思っています。
Bさんに納得してこのプロジェクトに参加してもらうためには、どのような1on1をおこなえば良いでしょうか。
Bさんの特徴
9つのタイプの中で、Bさんは「仕事の明確さ」の意向が最も強く、「任された仕事の範囲が明確で、進めやすいかどうか」を特に重視しています。
自身の役割や仕事の範囲を明確にすることで、適切な仕事量で集中して取り組みたいという気持ちが強い傾向にあります。
着実さがあり、責任感も強いのですが、一方で曖昧な環境下での仕事にストレスを感じる可能性が高いでしょう。
また、求められたこと以外に関して自発的な行動をすることは少ないかもしれません。
1on1などで関わる際のポイント
Step1:良い面をフィードバックしましょう
着実さがあり、責任感があるタイプのメンバーには、日々の事実行動に基づいて、ポジティブなフィードバックをするようにしましょう。
「〇〇のような取り組み方をしてくれて、いつも助かっているよ」といったように、取り組み方の部分についても触れてあげると良いかもしれません。
Step2:現状に関してヒアリングしましょう
現状の仕事内容や進め方にストレスが無いかを確認しましょう。
- 役割がはっきりしているか
- 途中で段取りが崩れることはないか
- 周りの関係者とは円滑にコミュニケーションできているか
といった点を率直に聞き、現状を確認するようにしましょう。
Step3:より良い環境が生まれるようにフィードバックしましょう
Step2で聞いた内容を踏まえて、
- 仕事内容の役割や範囲を再度はっきりと伝えて合意する
- 関係者との間で曖昧になっているところは、管理職自ら調整をかける
- マニュアルなど関係書類を提供して、進めやすくする
- 今後も仕事の最初の段階で、しっかりと役割を合意しようと伝える
といったアクションをおこないます。
これにより、Bさんが仕事に充実して取り組めるようにしていきましょう。
「自分の個性を認めてくれる環境で働きたい」Cさんの場合
学生時代からNPO団体に所属し、自ら主体的に活動してきたCさん。多趣味で好奇心旺盛な上、自分の世界観があり、とても個性的です。
人とは違った着眼点に誇りを持っており、顧客への提案資料をお願いするとCさんならではのセンスが光った、今までにはないアウトプットが出てきます。そのため、新しい企画を考える際や、社内初の試みをおこなう際には、いつもCさんが重宝されています。
一方で、独自の進め方や副業の仕事などの兼ね合いもあり、複数の人との調整が発生する仕事や、マルチタスクをこなさなければならない状況に陥ると、「この進め方は組織としてどうなのか」「時間外まで対応するのは組織としておかしい」とすぐに不満を訴えてくることが多く、能力は高いが他の人のやり方にあわせられない点がCさんの課題でしょう。
これまでは、能力に見合った仕事をなかなか任せられない状況が続いていましたが、そろそろ次のフェーズに進んでもらいたいと、あなたはCさんに関係者が多く顧客からの要望も高い仕事を渡すことにしました。
顧客との初回の打ち合わせを終えたタイミングでCさんと1on1を実施することにしましたが、Cさんに最後までやり切ってもらうためには、どのような話をすれば良いでしょうか?
Cさんの特徴
9つのタイプの中で、Cさんは「自律性尊重の風土」の意向が最も強く、「個々が自律的に働くことを尊重している風土かどうか」を特に重視しています。
時間や場所の自由さ、個性やスタイルを認め合う風土で働きたいという気持ちが強い傾向にあります。
また、自分らしさを大切にしているため、そのCさんの良さを信じて期待をかけることで力を発揮するタイプでしょう。
画一的な環境だと目立たつことができず、力を発揮しない可能性が高いです。
1on1などで関わる際のポイント
Step1:良い面をフィードバックしましょう
自分らしさを大切にしているタイプのメンバーには、その人らしさが出ているシーンを思い出すことが大事です。
「〇〇の時、Cさんの良さが出ていて、本当に助かったよ」といった形で、ポジティブなフィードバックを伝えましょう。
Step2:現状に関してヒアリングしましょう
現状の仕事内容や進め方にストレスが無いかを確認しましょう。
- 仕事の目的や目標、役割がはっきりしているか
- 進めて行く上で障害となるようなことはないか
- 周りの関係者とは円滑にコミュニケーションできているか
- プライベート等とのバランスは上手く取れているか
といった点を率直に聞き、現状を確認しましょう。
最終成果まで導くにあたり、リスクが無いかを話し合い、その上で、期待を込めて、任せるスタンスを少しでも取りながら接すると良いでしょう。
Step3:より良い環境が生まれるようにフィードバックしましょう
Step2の内容を踏まえて、進め方に関して意向に沿える点は、期待を込めて任せてしまうことが大事です。
一方で、全て任せるとリスクもありますので、報告義務などに関しては互いに合意しておくようにしましょう。
責任感のある人が多く、きちんと伝えれば理解することはできると思います。
また、組織全般の制度や周りとのバランス的に、本人に任せることが出来ない点がある場合は、その背景をしっかりと伝えることが大事です。
最後に
今回は「仕事のコントロール」「仕事の明確さ」「自律性尊重の風土」を重視するタイプに対する1on1の実践方法についてご紹介しました。
タイプによって、重視するポイントや調整するポイントが異なりますので、それぞれ見極めて対応する必要があります。
「メンバーが働く上で何を重視しているのか」といった点は、なかなか上司としても聞く機会の生まれない問いであるかと思います。関係性によっては、面と向かって聞くこと自体が憚られる場合もあるのではないでしょうか。
その難しさを乗り越えるために、NEWONEでは、管理職の7つ道具(ココラボ)として、1on1の支援ツール「カルテ(https://cocolabo.club/karte)」を用意しております。
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メンバーの診断結果を踏まえて1on1を実践するだけで、1on1がとてもやりやすくなります。無料のツールになるので、ぜひご活用ください。
次回の記事では、違う3つのタイプの1on1対応方法についてまとめていきたいと思います。