グローバル化や少子高齢化が進むなかで、従業員を年の途中で海外赴任させたり、外国人労働者を雇用したりする企業も少なくないでしょう。従業員が非居住者に該当する場合や、海外に住所のある扶養家族がいる場合には、年末調整での扱い方が通常の従業員と異なるケースもあります。 当記事では、非居住者や外国人従業員の年末調整についてわかりやすく解説します。
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目次
1. 非居住者は年末調整の対象に含まれない
結論として、非居住者に該当する従業員は、年末調整の対象に含まれません。ここでは、非居住者の年末調整について説明する前に、年末調整の定義や対象者について詳しく紹介します。
1-1. 年末調整とは?
年末調整とは、雇用主の義務であり、毎月(毎日)の給与などの支払いのときに源泉徴収をした税額の合計と、その年のすべての給与から計算された納めるべき年税額を比較して、その過不足金額を精算する手続きのことです。
従業員の給与から徴収される源泉所得税は、概算で算出されているため、過不足金額が生じる原因になります。また、年末調整では、扶養控除や配偶者控除、保険料控除など、従業員それぞれの事情に応じて受けられる控除や控除額が異なることも、過不足金額が発生する理由の一つです。さらに、年の途中で扶養家族の人数が変わる場合も、過不足税額が生じる原因として挙げられます。
このような理由で過不足税額が生じた場合には、年末調整により、従業員から新たに徴収をおこなったり、従業員に還付をおこなったりして精算します。ただし、非居住者のように、年末調整の対象外に該当するケースもあるため注意が必要です。
関連記事:年末調整とは?確定申告との違いや対象者、やり方や注意点などを徹底解説!
1-2. 年末調整の対象者
年末調整の対象となる人は、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出しており、原則として年末まで勤務している労働者です。一方、年末調整の対象外になるのは、次のような人です。
- その年の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える人
- 「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する法律」の規定により、その年の給与に対する所得税(復興特別所得税を含む)の源泉徴収について徴収猶予もしくは還付を受けた人
- 2カ所以上から給与の支払を受けている人で、他の勤務先で年末調整を受ける人
- 年の途中で退職した人(※年末調整の対象者に該当する場合もあり)
- 非居住者
- 継続して同一の雇用主に雇用されていない日雇労働者 など
このように、非居住者は年末調整の対象者に該当しません。そのため、会社は非居住者の従業員を特定して、年末調整の対象者から除外しなければなりません。
関連記事:年末調整の対象者は?12月退職は含むべきかなど対象条件を徹底解説
2. 年末調整における非居住者とは?
非居住者は年末調整の対象外になります。しかし、非居住者の定義を正しく理解していなければ、間違って年末調整をおこなってしまう恐れがあります。ここでは、居住者と非居住者の違いについて詳しく紹介します。
2-1. 住所と居所の違い
居住者と非居住者の違いを正しく理解するためには、住所と居所の違いを把握しておく必要があります。住所と居所の定義は、次の通りです。
用語 |
説明 |
住所(じゅうしょ) |
生活の本拠として住んでいる場所 |
居所(いどころ・きょしょ) |
現時点、身を置いている場所 |
このように、住所と居所は一見すると、同じ意味合いだと考えられます。なお、「生活の本拠」とは、私生活の中心となる場所を意味します。次に、民法の定義を確認してみましょう。民法第22条に「住所」と民法第23条に「居所」の定義が記載されています。
(住所)
第二十二条 各人の生活の本拠をその者の住所とする。
(居所)
第二十三条 住所が知れない場合には、居所を住所とみなす。
2 日本に住所を有しない者は、その者が日本人又は外国人のいずれであるかを問わず、日本における居所をその者の住所とみなす。ただし、準拠法を定める法律に従いその者の住所地法によるべき場合は、この限りでない。
民法に基づくと、住所とは「生活の本拠」のことです。生活の本拠地がない場合は、現状生活している居所が住所になります。なお、生活の本拠かどうかは、その人の生活の範囲や中心がどこにあるかなど、客観的事実により判定されます。このように、住所と居所には意味の違いがあるので、正しく理解しておきましょう。
関連記事:年末調整に書くべき住所を間違えたらどうなる?住所変更した場合についても解説!
2-2. 居住者と非居住者の違い
居住者と非居住者の定義は、所得税法第2条で説明されています。居住者とは、国内に「住所」がある個人、または、現在まで引き続き1年以上「居所」がある個人のことです。また、非永住者とは、居住者のうち、日本国籍がなく、過去10年以内に住所または居所のあった期間が5年以内の個人を指します。一方、非居住者とは、居住者に該当しない個人のことです。
たとえば、日本に3年前に来て1年以上住んでおり、企業で働いている外国人労働者は、居住者(非永住者)に該当します。このような外国人労働者は、年末調整の対象者に含まれます。一方、日本国内に住所をもっていない労働者や、居所があっても2〜3カ月しか住んでいない労働者は非居住者に当てはまります。このような労働者は、非居住者のため、年末調整の対象にならないので注意が必要です。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(省略)
三 居住者 国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて一年以上居所を有する個人をいう。
四 非永住者 居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去十年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が五年以下である個人をいう。
五 非居住者 居住者以外の個人をいう。
(省略)
3. 年末調整における海外赴任者の取り扱い
自社の従業員が海外に赴任することになった場合、年末調整はどのようにおこなえばよいのでしょうか。ここでは、年末調整における海外赴任者の取り扱いについて詳しく紹介します。
3-1. 海外勤務期間が1年未満の場合(居住者)
海外赴任者でも、海外での勤務期間が1年未満の場合は「居住者」に該当します。この場合は、年末調整の対象者になります。また、年の途中で海外赴任をおこなう従業員も、場合によっては、年末調整の対象者になります。出国する日までに確定した収入に対して、出国する日までに年末調整をおこなうことが必要です。
扶養控除等(異動)申告書を提出した居住者で、その年の年末調整の対象となるその年中に支払うべきことが確定した給与等の支給額が2,000万円以下である者が、1年以上の予定で海外に転勤することになった場合には、給与等の支払を行う者は、その居住者が海外に出国する日までに、年末調整をしなければなりません。
3-2. 年の途中で日本に帰国した場合(居住者)
年の途中で海外から日本に帰国した従業員も、居住者に該当するので、年末調整の対象者に含まれます。「扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらったうえで、帰国した日から年末までの給与などの総額について年末調整を実施しましょう。なお、帰国日以降に、海外で勤務した期間の給与などの支給がある場合には、その金額も源泉徴収の対象になります。
年末調整については、帰国日以後に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が提出されていれば、帰国日以後年末までに給与等の支給期が到来するものを対象として行うこととなります。(年末調整)
帰国後に居住者となる人に支払う給与等で、その人が居住者となった日以後に支給期が到来するものについては、その給与等の金額のうちに非居住者であった期間の勤務に対応する部分および賞与の査定期間に対応する部分の金額が含まれているときであっても、その総額を居住者に対する給与等として所得税および復興特別所得税の源泉徴収をします。(源泉徴収)
3-3. 海外勤務期間が1年以上の場合(非居住者)
海外赴任の期間が1年未満の場合は、居住者に該当するため、年末調整の対象者になります。一方、海外赴任の期間が1年以上を予定する場合は、非居住者に該当し、年末調整の対象外になります。ただし、年の途中で自社の海外支店などに1年以上の予定で転勤する場合、出国する日までに確定する収入については、年末調整を実施する義務があります。なお、給与の支払者は、出国する日までに、年末調整をおこなわなければなりません。
役員や使用人が海外の支店などに1年以上の予定で転勤した場合には、一般的には所得税法でいう非居住者、1年未満であれば居住者になります。
3-4. 海外でテレワークをする場合(非居住者)
海外を生活の拠点として、1年以上、テレワークによって日本国内の仕事をしている場合は、非居住者に該当します。非居住者に該当するかどうかは、海外・日本のどちらの仕事をしているかでなく、生活の拠点がどこにあるかによって決まります。海外で長期的にテレワークをしている従業員がいる場合、年末調整の対象外となるため注意が必要です。
3-5. 【注意】居住者であっても年末調整の対象外となる場合
海外赴任をおこなう従業員のうち、居住者であっても、年末調整の対象外になることがあります。「扶養控除等(異動)申告書」を年末調整を実施する日までに会社に提出した従業員が、年末調整の対象になります。つまり、「扶養控除等(異動)申告書」を提出していなければ、海外赴任者で居住者に該当する場合でも、年末調整を受けられない可能性があります。また、その年に支払うことが確定した給与などの支給額が2,000万円を超える従業員は、居住者であっても、そもそも年末調整の対象者から外れるため年末調整はできません。このような場合は、従業員自身で確定申告をおこなわなければならないため、あらかじめ周知しておくようにしましょう。
関連記事:年末調整の書き方をわかりやすく解説!学生や独身者の記入ポイントも紹介!
4. 外国人でも居住者の場合は年末調整の対象となる
外国人も日本人の従業員と同様で、居住者と非居住者のどちらに該当するかによって、年末調整の対象者になるかは異なります。外国人従業員が、日本に住所をもっている場合や、日本に1年以上住み続けている場合には、居住者に該当し、年末調整の対象になります。一方、居住者に該当しない外国人従業員は、年末調整の対象になりません。なお、ほかの一般的な従業員と同様で、年末調整を実施するには「扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらう必要があります。
5. 居住者と非居住者の課税の範囲
居住者(永住者)、居住者(非永住者)、非居住者いずれに該当するかで、課税される範囲は次のように異なります。
国内源泉所得 |
国外源泉所得 |
||
居住者 |
永住者 |
課税 |
課税 |
非永住者 |
課税 |
日本国内で支払われたもの、国外から送金されたものは課税、その他は非課税 |
|
非居住者 |
課税 |
非課税 |
非居住者の労働者に対する年末調整は不要ですが、源泉徴収はおこなう義務があります。源泉徴収の対象となる国内源泉所得とその税率は種類によって異なりますが、給与の源泉徴収税率は20.42%です。
非居住者(省略)に対して、日本国内で源泉徴収の対象となる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、原則として、所得税および復興特別所得税を源泉徴収しなければなりません。
6. 非居住者や海外赴任者の年末調整における注意点
非居住者や海外赴任者の年末調整には、注意点が数多くあります。ここでは、非居住者や海外赴任者の年末調整における注意点について詳しく紹介します。
6-1. 保険料控除の対象に気を付ける
年の途中で海外赴任する場合でも、年末調整で社会保険料控除や生命保険料控除などの保険料控除を受けることができます。しかし、対象となるのは、居住者であった期間である出国する日までに支払われたものになります。出国後に支払われた保険料については控除対象にならないので注意が必要です。
6-2. 扶養控除・配偶者控除の対象になる日に注意する
年の途中で海外赴任をする場合、扶養控除や配偶者控除も受けることが可能です。一般的な従業員の場合、その年の12月31時点の現況で控除の対象になるかが判断されます。しかし、海外赴任する人の場合、出国時点の現況で控除を受けられるかが判定されます。また、控除対象の判定に必要な合計所得金額(その年の1月1日から12月31日まで)についても出国時点で見積もります。
6-3. 租税条約を理解しておく
租税条約とは、課税関係の安定や二重課税の排除などを目的に二国間で結ばれる条約のことです。日本は、次の図のように数多くの国と租税条約を締結しています。原則として、国内の税法よりも租税条約が優先されるので、正しく理解しておきましょう。
6-4. 役員と従業員の海外赴任の違いを把握しておく
役員と通常の従業員では海外赴任をおこなった場合、受け取る給与の取り扱いが異なります。非居住者に該当すれば、海外で受け取る給与は「国外源泉所得」に該当し、原則として課税されません。しかし、日本法人の役員として海外で勤務した場合、非居住者に該当する場合でも、その給与は日本国内で生じたものとして、源泉徴収(税率:20.42%)がおこなわれます。ただし、役員が日本の法人の使用人として常時国外で働く場合、源泉徴収をする必要はありません。
非居住者となった役員や使用人に出国後に給与等を支払う場合ですが、役員と使用人では、源泉徴収のしかたが異なります。海外勤務に対する報酬であっても、内国法人の役員として受ける報酬は、国内源泉所得に該当することから、20.42パーセントの税率で源泉徴収が必要です。ただし、その役員が、海外支店の支店長など使用人としての立場で常時海外において勤務している場合には、源泉徴収の必要はありません。
7.「非居住者である扶養親族」がいる場合の年末調整の方法
ここでは、従業員が非居住者の親族に対する扶養控除を適用する場合の方法について詳しく紹介します。
7-1. 年末調整における「非居住者である扶養親族」とは?
扶養親族が国外に居住している従業員について、どのように年末調整を進めればよいかわからない人もいるかもしれません。「非居住者である扶養親族」とは、国外居住親族と呼ばれることもあり、国内に住所をもたず、かつ現在まで引き続き1年以上国内に居所を有しない扶養親族のことです。
非居住者である扶養親族がいる場合に、扶養控除や配偶者(特別)控除、障害者控除といった控除を受けるには、その国外居住親族に係わる「親族関係書類」や「送金関係書類」を源泉徴収義務者(会社など)に提出、もしくは提示する必要があります。なお、親族関係書類や送金関係書類が外国語で作成されている場合には、その翻訳文も必要になります。
7-2. 親族関係書類・送金関係書類を提出してもらう
従業員が非居住者の親族の扶養控除を適用するには、まず親族関係書類や送金関係書類を会社に提出してもらう必要があります。親族関係書類は、次のいずれかの書類で、国外居住親族が居住者の親族であることを証明する書類です。
- 戸籍の附票の写しなど日本国又は地方公共団体が発行した書類及び非居住者である親族の旅券の写し
- 外国政府又は外国の地方公共団体が発行した書類(非居住者である親族の氏名、生年月日及び住所又は居所の記載があるものに限ります。)
送金関係書類は、次のような、居住者がその年に国外居住親族の生活費や教育費のために支払いをおこなったことを証明する書類です。
- 金融機関が発行した書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引によりあなたから非居住者の親族に支払をしたことを明らかにする書類
- いわゆるクレジットカード発行会社が発行した書類又はその写しで、非居住者の親族がそのクレジットカード発行会社が交付したカードを利用して商品の購入や役務提供を受けたことに対する支払をしたことにより、その代金に相当する額の金銭をあなたから受領し、又は受領することとなることを明らかにする書類
このように、非居住者の親族の扶養控除を適用する場合は、あらかじめ必要な書類(親族関係書類・送金関係書類)を把握し、余裕をもって手続きしましょう。
7-3. 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書に記載してもらう
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書には、国外居住親族に関する情報を記載してもらう必要があります。「非居住者である親族」の欄には、源泉控除対象配偶者、もしくは控除対象扶養親族が国外居住親族の場合、「〇」を記載するよう伝えましょう。
また、「生計を一にする事実」の欄には、その年に国外居住親族に対して送金などをおこなった金額の合計を記載する必要があります。なお、配偶者(特別)控除を受ける場合には、「配偶者控除等申告書の記載」にも、同様の事実を記載してもらいましょう。
8. 非居住者の社員がいる場合の年末調整に注意しよう!
非居住者は、原則として年末調整の対象外になります。なお、非居住者とは、居住者に該当しない人のことです。海外赴任をおこなう従業員は、非居住者に該当しますが、場合によっては年末調整を受けられます。また、非居住者である扶養親族がいる従業員の場合、年末調整で控除を受けるときは、提出書類に注意が必要です。このように、非居住者の従業員や扶養親族がいる場合、年末調整のやり方を理解して、正しく年末調整の手続きをおこなうことが大切です。
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