トラックなどの運送業は移動距離に応じて勤務時間が異なります。業務の都合上かなりの長時間運転が必要になるケースもあることなどから、運送業以外の業種と同じような労働時間では経営そのものが難しくなるでしょう。そのため、運送業には、通常の業種に適用される「法定労働時間」や「所定労働時間」とは異なるルールが設けられています。
では、運送業の場合、労働時間の上限とはどのように定められているのでしょうか。上限を遵守しなければ過労死や労働災害につながる可能性もあります。このような大きなトラブルが起きてからでは遅いので、運送業における労働時間の規定を確認し、しっかりと勤怠管理をおこないましょう。本記事では運送業の労働時間について詳しく解説します。
関連記事:労働時間とは?労働基準法に基づいた上限時間や、休憩時間のルールを解説!
運送業界では、36協定の特別条項における残業の上限規制は2024年4月から適用されることに加え、上限時間も通常の職種とは異なります。罰則付きの規制であるため、上限規制の内容をしっかりと把握して対応しなくてはなりません。
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目次
【社労士監修】HR関連法改正トレンドBOOK 2024年版
2023年は一部企業を対象に人的資本開示が義務化されたほか、HR関連での法改正に動きが見られました。
2024年では新たな制度の適用や既存のルールの変更・拡大がおこなわれます。
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1. 運送業の労働時間の実態
運送業と言うと、労働時間が長いというイメージを持つ人も少なくないでしょう。運送業とは、手数料や送料を受け取り、指定された場所まで人や物を運ぶ業種のことです。身近な例としては宅配業者やバス・タクシーなどが挙げられますが、鉄道や航空業務も運送業に含まれます。
ここでは、運送業の労働時間の実態に迫ります。
1-1. 運送業の実労働時間を比較
「令和3年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)から、運送業は他の業種に比べて労働時間が長い傾向にあることがわかります。
年齢 |
勤続年数 |
実労働時間 |
所定内給与額(月額) (千円単位切り、賞与などは含まれない) |
||
全産業平均 |
43.4歳 |
12.3年 |
175時間 |
30万円 |
|
トラック |
大型 |
49.9歳 |
12.1年 |
212時間 |
28万円 |
中小型 |
47.4歳 |
10.9年 |
207時間 |
26万円 |
|
タクシー |
60.7歳 |
10.5年 |
176時間 |
20万円 |
|
バス |
53.0歳 |
11.7年 |
186時間 |
23万円 |
特に、トラック運転手は全産業平均に比べ30時間以上多く労働しています。運送業の場合、労働時間以外に拘束時間があるため、実際の時間よりも長く働いていると感じる従業員もいるはずです。
拘束時間の意味や上限については、後ほど解説します。
1-2. 運送業の労働時間が長くなる3つの理由
運送業の労働時間が長くなる主な理由は以下の通りです。
- 交通状況の影響を受けるため
- 手待ち時間があるため
- 慢性的な人手不足のため
運送業の勤務時間は、大半が運転時間です。しかし、交通状況は常に違うため、天候や事故の影響によりいつもより長時間の労働になってしまうケースもよくあります。終業時間になったからといって途中で運転を止めることはできないため、長時間労働にならざるを得ません。
手待ち時間とは、 荷物の積み下ろしの際の運転手の待ち時間のことです。手持ち時間は労働時間ではなく拘束時間に該当しますが、この時間中も従業員はほぼ勤務している状況と変わりません。手待ち時間が拘束時間を長くしていることは確かな事実です。
運送業は慢性的な人材不足に陥っています。そのため、1人の従業員にかかる業務の負荷が大きく、どうしても労働時間が長くなりがちです。慢性的な人材不足をすぐに解消するのは難しいことですが、このまま何も対処しなければ業界に対するイメージが悪化し、人材を集めることがより難しくなります。まずは労働時間の短縮に取り組むなど、労働環境の改善に努めることが大切です。
2.運送業の労働時間の上限は厚生労働省の規定に基づく
通常、法定労働時間を超えて働かせる場合は、従業員と36協定を締結することで、上限規定の範囲内で労働を課すことが可能です。
しかし、運送業の場合は、実際に運転する時間のほかに、勤務中の休息時間も必要となるため、運送業以外の業種とは労働時間に対する考え方が異なります。運送業は、厚生労働省が定める「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」によって労働基準の上限が決められているため注意してください。「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」では、総拘束時間・1日の拘束時間・1日の休息時間・1日の最大運転時間・連続運転時間などに制限を設けています。
本章では、運送業の労働時間の上限について詳しく確認するのでぜひ参考にしてみてください。
関連記事:労働時間の上限とは?2024年建設業、運送業への法改正についても解説!
2-1. 総拘束時間
総拘束時間は労働時間のことではありません。労働時間に休憩時間や手待ち時間などを含んだものが総拘束時間となります。総拘束時間は、1ヵ月につき293時間が上限となっています。36協定を結んだ場合は、1カ月につき最大360時間まで、1年につき6ヵ月まで延長することが可能です。
しかし、1年間の拘束時間の合計が3516時間(293時間×12カ月)を超えることはできないので注意しましょう。
2-2. 1日の最大拘束時間
1日の最大拘束時間は原則として13時間となっています。しかし、拘束時間と拘束時間の間に休憩時間を8時間以上確保すれば、拘束時間を最大で16時間まで延長することが可能です。
しかし、拘束時間が15時間を超えることが認められているのは、始業時間から24時間以内に8時間以上の休息期間を取り、なおかつ1週間につき2回の業務までとなっています。
2-3. 1日の休息時間
自動車運転における休息時間は、一般的な企業の休息時間とは考え方が異なります。運送業においては、終業から始業までの間でドライバーが休める時間のことを意味しており、連続して8時間の休息時間が必要です。それが困難な場合は、一定期間内における全勤務回数の2分の1を限度として、休憩時間を拘束時間の間や後に与えることが可能となっています。
なお、この場合は、1日において連続4時間以上、合計で10時間以上になるようにしなければなりません。
2-4. 1日の最大運転時間
1日の最大運転時間は、2日平均で9時間以内となっています。1週間に運転させていい時間は、2週間ごとの平均で44時間以内となっており、それを超えて運転をさせることは認められていません。
2-5. 連続運転時間
ドライバーを連続して運転させていい時間は4時間です。4時間以内、もしくは4時間が経過した直後に休憩を30分確保させなくてはいけません。休憩時間を分割することも可能で、その場合は1回の休憩につき10分以上、合計で30分以上となるようにします。
3. 労働基準法改正に伴う2024年問題が運送業の労働時間に及ぼす影響とは
自動車運転の業務に関する2024年問題とは、特別条項付き36協定の適用猶予期間が終わり、労働時間に上限が設けられることによってもたらされるさまざまな問題を指します。具体的には、人材の確保や生産性の向上などで、運送業にとって避けては通れない課題が山積みです。
3-1. 【2024年~】時間外労働の上限規制
2024年から適用される時間外労働の上限規制は以下の通りです。
①時間外労働は年720時間まで
②2~6ヵ月の平均でいずれも80時間以内(休日労働含む)
③単月100時間未満 (休日労働含む)
④原則(月45時間)を上回る月は年6回を上限(休日労働含まない)
これまでは、特別条項付き36協定を締結していれば、実質的な労働時間の上限はありませんでした。
しかし、法改正後、トラックドライバーの労働時間は「法定労働時間+年960時間までの時間外労働」となり、「1カあたりの残業時間が45時間を超えるのは年6回まで」という新しい規定は適用されません。
2024年から時間外労働の上限規制が運送業にも適用されると、1人あたりの従業員稼働時間が限定されるため、その分多くの人材を確保しなければならないなどの問題が生じる可能性があります。
このように、働き方改革関連法により、36協が罰則付きで改訂されたため、定に関する改定箇所が罰則付きで存在するため、運送業も早急に対応を進める必要があります。当サイトでは、運送業界における上限規制の内容や法改正が施行するスケジュールをわかりやすく解説した資料を無料で配布しております。 残業の上限規制の法改正や、具体的な対処方法もあわせて知りたい方は、こちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
3-2. 60時間以上の残業に対する割増賃金率の引き上げ
2023年4月より、中小企業も1ヵ月の時間外労働が60時間を超過した分に対して、50%以上の割増賃金率を適用して賃金を支給しなければなりません。
2023年3月までは、中小企業に対して猶予期間が設けられていました。そのため、時間外労働の時間にかかわらず25%以上の割増賃金を支給すればよかったのですが、2023年4月からは50%以上支給する必要があります。
正しい割増率で賃金を支給しない場合、法律違反となり罰則を科される可能性もあるため注意しましょう。
3-3. 2024年問題と合わせて運送業が対応しておくべきこと
2024年問題に関連して、運送業が対応しておくべきことは、主に2つあります。
1つ目は、同一労働同一賃金の対応です。
同一労働同一賃金とは、正規雇用・非正規雇用など雇用形態にかかわらず、同じ職場で同じ業務を担当している従業員に対して同一の賃金を支払うことです。
同一労働同一賃金は2021年4月から適用されているため、まだ対応していない場合は早急に対応しなければなりません。
2つ目は、年次有給休暇の5日取得義務化です。
2019年4月に労働基準法が改正され、有給休暇を年10日以上取得した従業員に対して、5日以上取得させることが企業に義務付けられました。
パートやアルバイトの従業員を含む有給休暇を年10日以上取得したすべての従業員に適用されるため、注意しましょう。
4. 運送業において労働時間上限を超過した場合の3つのリスク
運送業において、労働時間上限を超過するとさまざまなリスクが高まります。ここでは、代表的な3つのリスクを紹介いたします。
関連記事:月の労働時間上限とは?月平均所定労働時間や残代計算について解説!
4-1. 過労死
長時間労働は過労死に直結します。運送業や運輸業は最も過労死が多い業種といわれています。従業員が過労死認定を受けた場合、ニュースになったり、遺族から訴えられたりすることも珍しくありません。従業員を失うだけでなく、社会的信用が失墜したり、莫大な慰謝料を支払わなくてはならなくなったりと、企業にとって大きな損失となります。社会的な立場や金銭問題を心配する前に、大切な従業員を守るため、過労死は絶対に避けなくてはなりません。
4-2. 労働災害
長時間運転をしていると、集中力や体力が低下します。その状態で運転を続ければ、輸送中の事故などの労働災害が発生するリスクが高まるのは当然です。もし、事故を起こして亡くなってしまった場合は、先ほどの場合と同様に企業が金銭的補償をする可能性が出てきます。
また、刑事責任が問われるケースもあります。さまざまな観点から、労働災害は絶対に避けなくてはならず、企業はそのための十分な対策を講じなくてはなりません。
4-3. 残業代などのトラブル
残業代の未払いや時間外労働の長期化が問題視されるケースも増えてきました。これらが公になってしまうと、ブラック企業というイメージが定着して企業の価値を大きく下げることになりかねません。また、労働基準法や労働安全衛生法に違反した場合、従業員が労働基準監督署に訴え出るという場合もあります。
運送業は長時間労働なくしては事業が成り立たないという側面もありますが、少しでも労働時間を削減するために適切な勤怠管理をおこなうことが大切です。
5. 長時間労働を防ぐためには勤怠管理が重要!勤怠管理の3つのポイント
労働時間を減らすために、真っ先に取り組まなくてはならないのが勤怠管理です。適切な勤怠管理をおこなうための3つのポイントを紹介します。
5-1. 外出先でも正確に労働時間を把握できるようにする
勤務実態は正確に把握しなくてはいけません。しかし、長距離輸送が多い運送業に関しては、労働時間や休憩時間を正確に把握するのが難しいという一面もあります。タイムレコーダーを用いていたとしても、勤怠管理は自己申告に頼らざるをえないというケースが多いでしょう。
しかし、自己申告では正確な勤怠管理は困難です。クラウドサービスなどを利用して、どこからでも正確な勤怠管理ができる仕組みに変えていくことが求められています。
5-2. 勤怠の締め作業を自動化する
勤務実態を正確に把握できない原因の1つとして、勤怠の締め作業があります。運送業は様々なタイムテーブルで働く従業員を抱えています。その結果、締め作業に時間がかかるという問題が生じてしまうのです。
締め作業を効率よくおこなえる勤怠管理システムなどを導入して、自動化するのがおすすめです。
5-3. 2024年問題に対応する必要がある
2024年問題は勤怠管理にも影響します。というのも、運送業は2024年4月から時間外労働の上限規制がスタートしますが、ドライバー以外の職種はすでに労働基準法改正後の規制の対象となるため、1つの現場で2つの規制が混在しているため、それぞれに対応しなくてはなりません。
このように、法改正がおこなわれる度に勤怠管理を見直す必要が出てきます。今後も法改正がおこなわれることが考えられるため、勤怠管理システムなどを導入し、最新の法令に則った勤怠管理をおこなうことが大切です。
また、2024年4月以降は従業員の残業時間が減ることが予測されるため、企業は人件費を削減できるという恩恵を受けられます。しかし、従業員の中には残業代を生活費に充てるケースもあるため、残業代が減ることで業務や会社に対して不満を募らせることも考えられます。
そのため、企業は従業員の不満を抑え、業務を全うしてもらえるような対策を講じる必要があります。具体的な対策は以下の通りです。
- 企業独自の諸手当の金額を増やす
- 給与を上げる、新たな手当を作る
- 福利厚生を手厚くする
6. 労働環境を整えて働きやすい職場にしよう
トラックドライバーはなくてはならない業種です。しかし、通常の業種に比べて拘束時間が長く、従業員にとって負担が大きな業種でもあります。過酷な労働環境は運送業のイメージダウンにつながり、結果として人手不足を招いてしまうでしょう。また、従業員の離職が後を絶たず、人材流出にもつながりかねません。
このような事態を防ぐためには、トラックドライバーの労働環境を改善し、徐々に労働時間の削減を推進していくことが大切です。
運送業界では、36協定の特別条項における残業の上限規制は2024年4月から適用されることに加え、上限時間も通常の職種とは異なります。罰則付きの規制であるため、上限規制の内容をしっかりと把握して対応しなくてはなりません。
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