生理休暇とは、労働基準法で定められた法定休暇の一つです。従業員から生理休暇の申請があったら、企業は必ず取得させなければなりません。この記事では、生理休暇は何日取得できるか、賃金は無給・有給かについて紹介します。また、生理休暇の取得を推進するための方法やコツについても解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
1. 労働基準法による生理休暇とは?
労働基準法により生理休暇の取得が認められています。ここでは、労働基準法における生理休暇の定義と条文、生理休暇の取得率、生理休暇の取得を断った場合の罰則について詳しく紹介します。
1-1. 労働基準法における生理休暇の定義と条文
労働基準法第68条に「生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置」の条文が示されています。女性の従業員は、生理日の就業が難しいことを理由に休暇を申請した場合、生理日に生理休暇を取得することが可能です。雇用形態に決まりはないので、無期雇用労働者だけでなく、有期雇用労働者なども取得することができます。
(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)
第六十八条 使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。
1-2. 生理休暇の取得率
令和5年(2023年)9月に公表されている厚生労働省の資料に基づくと、令和2年度(2020年度)において、生理休暇を請求した女性は0.9%、生理休暇を取得した従業員がいた事業所(女性労働者のいない事業所を除く)は3.3%です。
この結果から、労働基準法において生理休暇という制度がありながらも、積極的に利用されていないことがわかります。生理休暇が利用されていない理由には、次のようなことが考えられます。
- 休みを取りにくい職場環境
- 上司に生理であることを言いにくい
- 同僚から生理の辛さを理解してもらえない
そのため、生理のつらい症状があっても薬を服用して我慢しながら就業したり、生理休暇ではなく年次有給休暇として休暇を取得したりする人も少なくないようです。昨今の少子高齢化による人材不足などの課題を解消するため、企業側は女性がより働きやすい環境を推進することに加え、生理休暇を取得しやすい雰囲気に変えていく必要があります。
1-3. 労働基準法による生理休暇に関する罰則
労働基準法第120条により、従業員が生理休暇を請求したにもかかわらず、会社側がこれを認めなかった場合、30万円以下の罰金の罰則を受ける恐れがあります。この処罰はそれほど厳しいものではないかもしれません。しかし、女性が持つ当然の権利を認めないという態度は、社会的信用を失いかねません。従業員や社会からの信頼を大切にきちんと対応しましょう。
第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 (省略)、第六十八条、(省略)の規定に違反した者
2. 労働基準法による生理休暇は何日?
労働基準法における生理休暇には取得できる日数に上限があるのでしょうか。ここでは、労働基準法による生理休暇は何日取得できるのかについて詳しく紹介します。また、生理休暇の取得単位や就業規則による制限についても解説します。
2-1. 生理休暇の日数に上限はない
労働基準法における生理休暇の条文には、日数に関する規定がありません。そのため、生理休暇の日数に上限はありません。極端な話をすれば、従業員から生理休暇を取得したいという申し出があれば、そのすべてに付与する必要があります。
2-2. 生理休暇の取得単位
生理休暇は必ずしも1日単位で取得させなければならないわけではありません。出社してから腹痛がひどくなるケースや、鎮痛剤を服用したら症状が軽くなって出社できるケースなどもあるため、半日単位や時間単位など、柔軟に休暇を取得できるようにすることで、従業員の働き方に関する満足度を高めることができます。
2-3. 就業規則による生理休暇の日数制限は可能?
結論から述べると、就業規則による生理休暇の日数制限はできません。就業規則により生理休暇の日数制限をおこなった場合、労働基準法の生理休暇の日数に決まりがないという基準に満たないことになります。労働基準法第13条により、労働基準法の基準に達しない労働条件を設ける場合、その部分は無効となります。就業規則よりも労働基準法が優先されることを押さえておきましょう。
(この法律違反の契約)
第十三条 この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
3. 生理休暇中の賃金はどうなる?
生理休暇中の給与や手当などの賃金について気になる人もいるかもしれません。ここでは、生理休暇中の賃金はどうなるのかについて詳しく紹介します。
3-1. 基本的には無給となる
労働基準法には、生理休暇中の賃金支給に関する規定が示されていません。そのため、無給でも有給でも問題ありません。特段の定めがない場合、無給になることが一般的です。
3-2. 有給にすることもできる
生理休暇の取得日を無給にすると、家族や生活を守るため、無理して働く従業員が発生するかもしれません。生理休暇の取得日を有給とすることで、労働者の健康や生活を守ることができます。ただし、通常と同じ給与とすると、他の従業員から不満が生じる可能性もあります。有給とする場合、生理休暇手当などのように、一律で同額を支給するのも一つの手です。
4. 生理休暇の申請から取得までの流れ
従業員が生理休暇を取得する場合、どのような流れになるのでしょうか。ここでは、生理休暇の申請から取得までの流れについて詳しく紹介します。
4-1. 従業員が就業規則に従って申請する
従業員が生理休暇を取得する場合、就業規則に従って申請してもらいます。申請フォーマットなどを整備しておくと、スムーズに手続きすることができます。また、後からのトラブルを未然に防止するため、口頭だけではなく、書面や電子データなどでも記録を残しておくようにしましょう。
4-2. 会社は原則として生理休暇の取得を断ることができない
生理休暇は、生理によって体調が優れない従業員本人の申請があった場合、就業を免除し休暇を取得させる制度です。労働基準法に定められているため、いかなる理由があっても休暇を付与しなくてはなりません。
企業の中には、就業規則などに生理休暇の規定がないため休暇を付与しないケースがあります。しかし、これは労働基準法に違反する行為です。生理日で就業が困難な従業員から休暇の申請があった場合、就業規則に明確な定めがなくとも、必ず休暇を付与しなくてはならないことを覚えておきましょう。
5. 生理休暇の取得を推進するメリット
生理休暇の取得を推進することで、企業と従業員双方にさまざまなメリットが得られます。ここでは、生理休暇の取得を推進するメリットについて詳しく紹介します。
5-1. 従業員の健康管理を促進できる
生理休暇を取得しづらい環境だと、従業員は無理して働く可能性があります。生理痛を放置すると、子宮内膜症などの病気が悪化し、大きな問題に発展する恐れもあります。積極的に生理休暇を取得できれば、健康管理を促進し、従業員は安心して働くことができるようになります。
5-2. 人材確保につながる
有給の生理休暇制度を用意するなど、生理休暇を積極的に利用できる環境は、女性にとって働きやすい職場といえます。近年では少子高齢化による労働人口の減少により、人材確保に悩みを抱えている企業は増えています。生理休暇を取りやすい環境を整備し、「働きやすい会社」だと社会に認知させることで、求人応募者が増加し、優秀な人材を確保できる可能性が高まります。
6. 生理休暇の取得を推進するデメリットとその対策
生理休暇の取得を推進する場合、メリットだけでなく、デメリットが生じる恐れもあります。このようなリスクにより、生理休暇の取得を積極的に推進できていない企業も少なくないでしょう。ここでは、生理休暇の取得を推進するデメリットとその対策について詳しく紹介します。
6-1. 不正取得が生まれる恐れがある
従業員本人による申請を基本的にすべて承認して休暇を付与するので、生理休暇は性善説に基づく制度ともいえます。そのため、生理日ではなかったり、就業に影響がなかったりする場合でも、生理休暇を取得する従業員が生じる可能性があります。
企業側としては、従業員を疑って生理の症状などを聞き出すようなセクハラ行為は避けなければなりません。しかし、本来なら必要のない休暇を与えることは避けたいはずです。このような生理休暇の不正取得に備え、次のような方法で対策を講じることが推奨されます。
- 就業規則などで生理休暇を完全無給とする
- 生理休暇を有給にできる日数を制限し、超えた分は無給とする
- 不正取得者に対する懲戒ルールを定める
生理休暇を導入する以上、従業員による虚偽申告などのリスクを想定し、あらかじめ対策しておくことが大切です。
6-2. 人員調整が必要になる
生理休暇は当日の申請で利用できる制度です。生理休暇を積極的に取得できるようにすると、急な休みにより、現場が回らなくなってしまう恐れがあります。生理休暇の取得を推進する際は、人手が足りなくなった場合の対策について事前に考えておくことが大切です。また、自宅や移動中でも働けるようテレワーク制度を導入したり、時間単位で生理休暇を取得できる制度を用意したりすれば、生理日にあたっても無理なく働くことができるかもしれません。
7. 生理休暇の取得を推進する方法やコツ
正しい方法で生理休暇の取得を推進することで、人材確保や生産性向上などのメリットが得られます。ここでは、生理休暇の取得を推進する方法やコツについて詳しく紹介します。
7-1. 就業規則を整備する
生理休暇は労働基準法で定められた法定休暇の一つです。また、労働基準法第89条により、従業員数10人以上の企業は、休日や休暇の事項を踏まえて就業規則を作成し、届け出る義務があります。もしも生理休暇について就業規則に記載していない場合、トラブルを生まないためにも、速やかに生理休暇制度を就業規則に記載しましょう。また、生理休暇について就業規則に記載していても、賃金の有無や申請方法などが明示されていなければ、従業員は利用しにくいです。生理休暇の取得を推進するためにも、まずは就業規則の整備から始めてみましょう。
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
関連記事:就業規則とは?労働基準法の定義や記載事項、作成・変更時の注意点を解説!
7-2. 申請フローを整える
生理休暇の取得を推進するためには、就業規則だけでなく、申請フローも整備することが大切です。生理日に就業が困難な場合、誰にどのようにして申請すればよいかわからない場合、生理休暇を取得せず、無理して働いてしまう可能性があります。生理休暇を取得したい場合の申請フローを確立しておくことで、従業員はスムーズに申請ができるようになります。
関連記事:ワークフローシステムとは?メリットや導入方法を詳しく紹介
7-3. 従業員に周知する
就業規則や申請フローを整備しても、従業員が生理休暇の意味や使い方を知っていなければ、制度を利用することができません。生理休暇の仕組みを整えたら、研修やセミナーなどを開き、従業員にきちんと周知することが大切です。また、メリットだけでなく、デメリットや注意点も伝えることで、不正取得を防止することができます。
8. 労働基準法の生理休暇に関するよくある質問
ここでは、労働基準法の生理休暇に関するよくある質問に対する回答を紹介します。
8-1. 生理休暇の申請には診断書が必要?
生理休暇の申請に医師の診断書は必須でありません。しかし、企業の中には、不正取得を防止するため、生理休暇の取得条件として医師の診断書を必要とするケースもあります。このような条件を課すと、就業が困難であるにもかかわらず通院したり、費用をかけて診断書を入手したりと本人の負担が大きくなります。結果として、生理休暇を取得しないという選択につながる可能性があります。生理休暇の取得を推進するという観点からは、診断書の提出を義務付けず、体調や症状を報告させる程度に留めておくことが推奨されます。
8-2. パートやアルバイトでも生理休暇の取得はできる?
生理休暇に雇用形態は関係ないので、パートやアルバイトでも取得することができます。ただし、個人事業主やフリーランスで活動されている人は、労働基準法の適用対象に当てはまらず、生理休暇を取得できないので注意が必要です。生理休暇を申請・取得できるのは、あくまでも「労働者」ということを押さえておきましょう。
8-3. 生理休暇の代わりに年次有給休暇を使用できる?
生理休暇中の賃金を無給としている場合、生理休暇の代わりに年次有給休暇を利用したいと考える従業員もいるかもしれません。年次有給休暇の申請・取得は労働者の自由です。そのため、生理休暇の代わりに年次有給休暇を取得したいと従業員が願い出た場合、原則として、企業は拒否できないので注意が必要です。
8-4. PMS(月経前症候群)でも生理休暇を取得できる?
PMS(月経前症候群)とは、生理の数日程度前から始まる、あらゆる精神的・身体的な不調のことです。PMSは、生理日にあたらないため、原則として、生理休暇を取得することができません。しかし、PMSの症状がある従業員をサポートするため、就業規則でPMSの症状でも生理休暇や特別休暇を取得できるようにしている企業もあります。従業員の健康管理を促進するため、この機会にPMSの理解を深め、就業規則や休暇の見直しを検討してみましょう。
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9. 労働基準法による生理休暇の仕組みを正しく理解しよう!
生理休暇は働く女性が行使できる当然の権利です。企業側は従業員からの申し出があれば、必ず生理休暇を付与しなくてはなりません。万が一生理休暇を認めない場合は罰金を課せられることもあるので注意が必要です。しかし、生理休暇の賃金や不正取得については企業側で調整できるため、就業規則などを策定する際は、企業活動に影響が出ないように検討するとよいでしょう。
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