企業が従業員を採用する際、未成年者を雇用するケースも珍しくありません。ただし、労働基準法によって使用できる者の年齢制限が設けられていたり、年齢証明書の保管が義務付けられていたりするなど、遵守すべき規定が数多くあります。本記事では、労働基準法による年齢の規定やそれに違反した場合の罰則についてわかりやすく解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法の年齢制限とは?
労働基準法では使用できる年齢制限が定められています。そのため、使用者は、原則として一定の年齢に達しない労働者を雇うことができません。ここでは、労働基準法による年齢制限の規定やその例外について詳しく紹介します。
1-1. 労働基準法による年齢制限
労働基準法第56条に則り、原則として、15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで児童を雇用することができません。たとえ満15歳を超えていても、義務教育である中学校を卒業するまでは労働者として雇用できないので注意が必要です。
(最低年齢)
第五十六条 使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない。
1-2. 年齢制限の規定には例外がある
労働基準法第56条には、雇用できる最低年齢の規定の例外も記載されています。次のいずれもの要件を満たす場合、行政官庁の許可を受ければ、満13歳以上の児童を修学時間(授業開始時刻から最終授業終了時刻までの時間から休憩時間を除いた時間)外に働かせることが可能です。
- 「製造・加工業」「鉱業」「土木・建設業」「交通業」「貨物取扱業」に該当しない
- 児童の健康・福祉にとって有害でない
- 児童の労働が軽易である
満年齢は、誕生日を迎える度に1歳ずつ年齢が増えていく数え方です。満13歳とは、生まれた日を起算日として、そこから13年間を経過した日を指します。なお、映画制作や演劇の事業の場合、満13歳未満であっても、上記のいずれもの条件を満たし、行政官庁の許可を受ければ、修学時間外に労働させることが可能です。
② 前項の規定にかかわらず、別表第一第一号から第五号までに掲げる事業以外の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては、行政官庁の許可を受けて、満十三歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については、満十三歳に満たない児童についても、同様とする。
2. 労働基準法の年少者(18歳未満の者)に対する規定
労働基準法では、使用できる最低年齢以外にも、さまざまな年齢に関係した規定があります。ここでは、労働基準法の年少者(満18才に満たない者)に対する規定について詳しく紹介します。
2-1. 年齢証明書の保管が必要
事業者が満18歳に満たない者を雇用する場合、労働基準法第57条に則り、その年少者の年齢を証明する戸籍証明書を事業場に保管する必要があります。また、労働基準法の最低年齢に達しない者を例外的に雇う場合、当該労働が修学に問題ないことを証明する学校長の証明書と、親権者もしくは後見人の同意書を事業場に保管しなければならないので注意が必要です。
(年少者の証明書)
第五十七条 使用者は、満十八才に満たない者について、その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けなければならない。
② 使用者は、前条第二項の規定によつて使用する児童については、修学に差し支えないことを証明する学校長の証明書及び親権者又は後見人の同意書を事業場に備え付けなければならない。
2-2. 労働時間や休日の制限がある
年少者(満18歳に満たない者)に対しては、労働基準法第60条に基づき、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える労働や、法定休日(1週1日もしくは4週4日)の労働は禁止されています。また、フレックスタイム制や変形労働時間制を採用することもできません。ただし、満15歳以上で満18歳に満たない者については、次のいずれかの要件を満たせば、変形労働時間制を採用することが可能です。
- 週40時間を超えない範囲で、1週間のうち1日の労働時間を4時間以内に短縮し、ほかの日の労働時間を10時間まで延長する場合
- 1週48時間、1日8時間を超えない範囲内において、1カ月または1年単位の変形労働時間制を適用する場合
なお、労働基準法における最低年齢に満たない者を例外的に働かせる場合、法定労働時間の週40時間には、修学時間も含めて判断することになります。また、法定労働時間の1日8時間の規定は、1日7時間(就業時間を含む)が適用されるので注意が必要です。
(労働時間及び休日)
第六十条 第三十二条の二から第三十二条の五まで、第三十六条、第四十条及び第四十一条の二の規定は、満十八才に満たない者については、これを適用しない。(省略)
2-3. 深夜業が禁止される
満18歳に満たない年少者に対しては、時間外労働や休日労働だけでなく、労働基準法第61条に則り、深夜労働(原則、午後10時から午前5時まで)も禁止されます。ただし、満16歳以上の男性に該当する労働者で、交代制を採用する場合、深夜労働が例外的に認められます。また、事前に行政官庁の許可を受ければ、「午後10時30分まで労働させる」「午前5時半から労働させる(厚生労働大臣によって午後11時から午前6時までを深夜帯の労働時間と設定された場合)」ことも可能です。
なお、災害などのやむを得ない事情により、例外的に労働時間を延長させる場合や、休日に労働させる場合、「農林業」「畜産・水産業」「保健・衛生業」「電話交換業務」に該当したら、深夜業の規定は適用されません。また、労働基準法の最低年齢に達しない児童を働かせている場合、原則として午後8時から午前5時まで(例外:午後9時から午前6時まで)の深夜業が禁止されるので注意しましょう。
(深夜業)
第六十一条 使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。(省略)
2-4. 業務によっては就労制限がある
年少者(満18歳未満の者)の肉体面・精神面を考慮し、労働基準法第62条により、次のような重量物を取り扱う業務や福祉上有害とされる業務に就業させることは禁止されています。
- 有害物質や危険物を取り扱う業務
- 一定以上の重量物を取り扱う業務
- クレーンやボイラー、エレベーターなどの運転
- 焼却、清掃業務 など
また、労働基準法第63条により、年少者を坑内(炭山や鉱山などの危険区域)で働かせることも禁止されているので注意しましょう。
(危険有害業務の就業制限)
第六十二条 使用者は、満十八才に満たない者に、運転中の機械若しくは動力伝導装置の危険な部分の掃除、注油、検査若しくは修繕をさせ、運転中の機械若しくは動力伝導装置にベルト若しくはロープの取付け若しくは取りはずしをさせ、動力によるクレーンの運転をさせ、その他厚生労働省令で定める危険な業務に就かせ、又は厚生労働省令で定める重量物を取り扱う業務に就かせてはならない。
② 使用者は、満十八才に満たない者を、毒劇薬、毒劇物その他有害な原料若しくは材料又は爆発性、発火性若しくは引火性の原料若しくは材料を取り扱う業務、著しくじんあい若しくは粉末を飛散し、若しくは有害ガス若しくは有害放射線を発散する場所又は高温若しくは高圧の場所における業務その他安全、衛生又は福祉に有害な場所における業務に就かせてはならない。
③前項に規定する業務の範囲は、厚生労働省令で定める。
(坑内労働の禁止)
第六十三条 使用者は、満十八才に満たない者を坑内で労働させてはならない。
2-5. 帰郷旅費を負担する必要がある
満18歳に満たない者を解雇する場合で、当該年少者が解雇の日から2週間(14日)以内に帰郷するのであれば、使用者はその帰郷に必要な旅費を負担しなければなりません。ただし、年少者に責めに帰すべき事由があり、行政官庁の認定を受けている場合は、負担しなくても違法になりません。
なお、たとえ児童や年少者だったとしても、相当な理由がなければ解雇はできないので、解雇する際は慎重に手続きをすることが大切です。また、解雇予告の義務や解雇予告手当の支払いについても正しく押さえておきましょう。
(帰郷旅費)
第六十四条 満十八才に満たない者が解雇の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。ただし、満十八才に満たない者がその責めに帰すべき事由に基づいて解雇され、使用者がその事由について行政官庁の認定を受けたときは、この限りでない。
3. 労働基準法の未成年者に対する規定
労働基準法には、児童や年少者以外にも、未成年者に関わる規定があります。ただし、民法改正による成人年齢引き下げに注意が必要です。ここでは、労働基準法の未成年者に対する規定について詳しく紹介します。
3-1. 2022年4月から成人年齢が引き下げ
民法改正により、2022年4月から成人年齢は20歳から18歳に引き下げられています。民法第4条に記載があるように、満18歳以上の者は成人に該当することになります。一方、満18歳未満の者は未成年者となります。
(成年)
第四条 年齢十八歳をもって、成年とする。引用:民法第4条|e-Gov
3-2. 労働契約の締結に関して保護が受けられる
労働基準法第58条に基づき、未成年者(満18歳未満の者)と雇用契約を結ぶ場合、本人の意思に反して未成年者を働かせることを防止するため、親権者や後見人が未成年者に代わって労働契約を締結することはできません。しかし、未成年者にとって労働契約の内容が不利だと認められる場合、親権者や後見人、行政官庁によって当該労働契約を解除することができます。
(未成年者の労働契約)
第五十八条 親権者又は後見人は、未成年者に代つて労働契約を締結してはならない。
② 親権者若しくは後見人又は行政官庁は、労働契約が未成年者に不利であると認める場合においては、将来に向つてこれを解除することができる。
3-3. 独立した賃金請求権がある
満18歳未満の未成年者には、労働基準法第59条に則り、賃金搾取を防ぐ目的などから、独立した賃金請求権が認められています。そのため、親権者や後見人が未成年者の代わりに賃金を受け取ることはできないので注意が必要です。
第五十九条 未成年者は、独立して賃金を請求することができる。親権者又は後見人は、未成年者の賃金を代つて受け取つてはならない。
4. 労働基準法の年齢制限に関する注意点やポイント
ここでは、労働基準法の年齢制限に関する注意点やポイントについて詳しく紹介します。
4-1. 年齢の数え方を正しく理解する
労働基準法では、満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、児童の雇用を禁止しています。満15歳に達した日とは、民法第143条に則り、満15歳の誕生日の前日を指します。たとえば、4月1日生まれの人の場合、3月31日が満15歳に達した日となり、その日が終了すれば当該年少者を雇用することが可能です。
一方、4月2日生まれの人の場合、4月1日が満15歳に達した日となり、翌年の3月31日が終了するまで当該年少者を雇用することはできません。このように、労働基準法の年齢の規定を確認する際は、その数え方も正しく理解しておくことが大切です。
(暦による期間の計算)
第百四十三条 (省略)
2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。(省略)
4-2. 労働基準法に年齢制限の上限はある?
労働基準法には年齢制限の下限は設けられていますが、上限は設けられていません。平成19年10月から雇用対策法の改正にともない、労働者の募集・採用における年齢制限の禁止が義務化されています。そのため、年齢を問わず均等な機会を与えなければならないため、年齢を理由に応募を断ること、不採用にすることなどは法令違反となります。
また、労働基準法第14条により、満60歳以上の労働者と有期雇用契約を結ぶ場合、上限期間は3年間でなく、5年間が適用される点にも注意が必要です。なお、定年制に関する定めについては、労働基準法に規定されていません。しかし、高年齢者雇用安定法8条によって、原則として、60歳未満の定年制度を設けることは禁止されているため気を付けましょう。
(契約期間等)
第十四条労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。
(省略)
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
(定年を定める場合の年齢)
第八条事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。(省略)
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4-3. 年齢規定に違反すると罰則を課せられる
労働基準法の年齢に関わる規定に違反すると、法律に基づき懲役や罰金といった罰則を受ける可能性があります。たとえば、満15歳未満の者を雇用するなど、労働基準法第56条「最低年齢」に違反した場合、1年以下の懲役もしくは、50万円以下の罰金のペナルティを受ける恐れがあります。
また、年少者(18歳に満たない者)を危険有害業務に就かせた場合、労働基準法第62条に違反することになり、6カ月以下の懲役もしくは、30万円以下の罰金の罰則が課せられるリスクもあります。このように、労働基準法に違反すると、重い罰則を受ける可能性があるので、正しく年齢に関するルールを理解し、遵守しましょう。
5. 労働基準法の年齢規定に関連するよくある質問
ここでは、労働基準法の年齢規定に関連するよくある質問への回答を紹介します。
5-1. 未成年者や年少者が加入すべき保険は?
年少者や未成年者であっても、条件を満たす場合、社会保険に加入させる必要があります。労災保険については、すべての労働者を加入させなければならないため、年少者や未成年者の労働者も必ず加入する必要があります。
雇用保険と健康保険・厚生年金保険には加入要件があり、それぞれ基準が異なります。なお、高等学校や高等専門学校、大学などの学生に該当する場合、原則として社会保険に加入することができません。社会保険の加入要件と労働者の基本情報をよくチェックし、適切な社会保険の手続きをおこないましょう。
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5-2. 年少者や未成年者に有給休暇の付与は必要?
年少者や未成年者でも、使用者に雇用されて働いているのであれば、労働者に変わりないため、次のいずれもの要件を満たす場合、年次有給休暇の付与が必要です。
- 雇用された日から6カ月以上継続勤務している
- すべての労働日の80%以上出勤している
なお、所定労働時間を短くして働いている場合、通常の労働者と年次有給休暇の付与日数が変わる可能性があるので正しく有給休暇の規定も確認しておくことが大切です。また、有給休暇以外に、休憩時間や賃金などのルールも、年少者や未成年者の労働者に適用されるので注意しましょう。
関連記事:有給休暇の付与日数と義務、繰越の計算方法などルールをわかりやすく解説
5-3. 労働基準法による高所作業の年齢規定は?
年少者には、労働基準法に基づく危険有害業務の就業制限があります。年少者労働基準法施行規則第8条により、墜落によって労働者が危害を受ける恐れのある高所作業(高さ5メートル以上の)を18歳未満の者にさせるのは認められません。一方、高所作業の年齢の上限規制はありません。しかし、高齢になると、事故のリスクが高まるため、労働環境の整備に努めることが大切です。
(年少者の就業制限の業務の範囲)
第八条 法第六十二条第一項の厚生労働省令で定める危険な業務及び同条第二項の規定により満十八歳に満たない者を就かせてはならない業務は、次の各号に掲げるものとする。(省略)
二十四 高さが五メートル以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務
6. 労働基準法を確認して年齢の規定を守ろう!
年少者や未成年者は心身の発達途中であり、労働基準法によって守られるべき存在であります。そのため、労働基準法の年齢規定により年齢区分ごとに雇用条件が設けられており、事業者はこの規定を守って就労させなくてはいけません。万が一、規定に違反すると罰則を課されることもあるので注意が必要です。これを機に労働基準法における年齢規定を再確認し、法令を遵守した雇用を推進しましょう。
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