企業は労働者が提供する労働の対価として賃金を支払っています。ですが、一定の条件によって、労働者の仕事がなくなってしまった場合は、労働が提供されていなくても手当を支給する必要があります。
今回は一定の条件によって労働者が休業した場合に支給される休業手当について、支給条件や計算手順を混ぜながら解説します。
労働基準法総まとめBOOK
労働基準法の内容を詳細に把握していますか?
人事担当者など従業員を管理する役割に就いている場合、雇用に関する法律への理解は大変重要です。
例外や特例なども含めて法律の内容を理解しておくと、従業員に何かあったときに、人事担当者として適切な対応を取ることができます。
今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。
労働基準法の改正から基本的な内容まで、分かりやすく解説しています。より良い職場環境を目指すためにも、ぜひご一読ください。
目次
1. 労働基準法の休業手当とは?
労働基準法における休業手当とは、企業側の責任で従業員を休ませた場合に支給しなければならない手当のことを指します。労働基準法では次のとおり、休業手当として平均賃金の60%以上を支払うことを定めています。
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない
引用:労働基準法第26条|e-Gov法令検索
条文で言及されている「使用者の責に帰すべき事由」とは、以下のような企業都合で従業員が休業する場合を意味します。
- 経営不振
- 資材不足
- 設備や工場の機械不備や欠陥、検査
- 労働者が所属していない組合のストライキ
1-1. 台風をはじめとした自然災害によっては休業手当が認められないケースがある
台風をはじめとした自然災害によって公共交通機関が使用できない場合、休業となっても手当が認められない場合があります。これは自然災害が不可抗力として扱われ、企業の責任でないとされるためです。
1-2. 休業補償との違い
休業手当と似た言葉として休業補償があります。休業補償は業務や通勤でケガや病気をしてしまい、働けなくなった場合に支払われる補償です。休業補償は労災保険でまかなわれます。
また、休業手当は所得税の対象となるのに対して、休業補償は非課税となる点も両者の違いです。
1-3. 有給との違い
年次有給休暇(有給)も勤務はしていなくても賃金が発生します。休業手当と有給の違いは、企業側の責任の有無と支払われる賃金の割合です。休業手当は企業の都合で従業員を休業させることですが、有給の場合、従業員の希望で休みます。また、休業手当は賃金の60%以上が支払われますが、有給は通常どおりの賃金が支払われます。
企業の都合で休業している従業員は、休業期間を有給期間として申請することも可能です。
1-4. 支給対象となるのは正社員だけじゃない
休業手当の支給対象となるのは、正社員だけではありません。次のような雇用形態の方も対象です。
- 時短勤務
- パートタイム、アルバイト
- 日払い勤務
- 派遣勤務
派遣勤務の場合、派遣先は雇用関係にないため、雇用関係のある派遣元が休業手当を支払います。
一方、企業と雇用関係にない業務委託契約や個人事業主は休業手当の対象外です。
2. 労働基準法による休業手当の支給条件
労働基準法の休業手当の支給条件として、会社の都合で休業していることに加えて、労働意欲と労働能力がある、休業日が休日ではないことがあります。
2-1. 従業員本人に労働意欲と労働能力がある
会社の都合で休業状態にあったとしても、従業員本人に労働意欲と労働能力がない場合は支給の条件にあてはまりません。
従業員本人がケガや病気によってすぐに勤務できない状態=労働能力がない状態では、休業手当が支払われません。また、労働意欲がある状態でないと休業手当の支給対象とはならないため、ストライキに参加している休暇中といった場合は対象となりません。
2-2. 休業日が休日ではない
休業手当は、本来勤務する予定であったにもかかわらず、会社の事情で働けなくなった場合に支給されます。そのため、労働の義務が発生する時間帯が支給の対象となり、勤務しない休日は休業手当の対象とはなりません。
3. 労働基準法による休業手当の計算手順
休業手当の計算手順は次のとおりです。
- 直前3カ月間の平均賃金を求める
- 1の金額に60%(以上)と休業日数をかける
この手順によって算出された金額が休業手当となります。
3-1. 直近3カ月の平均賃金の求め方
直近3カ月の平均賃金は、3カ月間に支払われた賃金を総日数で割ることで求められます。この際、通勤手当や残業手当などの手当も賃金のなかに組み込みます。
以下の例の場合、基本給、通勤手当、残業手当を合わせた金額は66万円です。
月 | 総日数(暦日数) | 基本給 | 通勤手当 | 残業手当 |
9月分 | 30日 | 20万円 | 1万円 | 0円 |
8月分 | 31日 | 20万円 | 1万円 | 1万円 |
7月分 | 31日 | 20万円 | 1万円 | 2円 |
合計 | 92日 | 60万円 | 3万円 | 3万円 |
63万円を総日数92日で割ると7,173円91銭が3カ月間の平均賃金です。
3-2. 休業手当の求め方
3カ月間の平均賃金を計算したら、次に休業手当を求めます。上述のケースであれば、平均賃金は7,173円91銭のため、仮に3日出勤できなかったとすると休業手当は以下のとおりです。
7,173円91銭(平均賃金)×60%×3日=12,913円3銭
休業手当では特約がなければ、50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げとなるため、12,913円が休業手当です。
4. 休業手当はノーワーク・ノーペイが適用されない
労働基準法で定められた給与計算の原則は、ノーワーク・ノーペイです。これは仕事をしなかった場合、賃金が発生しないという原則です。しかし、休業手当は仕事をしない期間があっても、会社都合であれば賃金が支払われます。そのため、育児休業や介護休業といったように給与が発生しない制度と混同せずに、正しく休業期間の賃金を支払う必要があります。
4-1. 平均賃金の割合「60%以上」は企業によって異なる
休業手当は3カ月間の平均賃金に休業日数と60%以上をかけます。この際の「60%以上」の具体的な数字は企業の就業規則によって異なります。あくまで「60%」で求められる金額は最低保障額です。そのため、正確な休業手当を計算する際は、自社の就業規則に従いましょう。
5. 休業手当の支給条件と計算手順を把握して正しく支給を
休業手当の支給は、企業の都合で休業している、労働意欲と労働能力がある従業員に対して行われます。また、休業日が休日ではないことも条件です。
休業手当は正社員はもちろん、時短勤務やパートタイム、アルバイト、日払い勤務、派遣勤務であっても対象です。
休業手当を計算する際は、3カ月の平均賃金に休業日数と60%(以上)をかけます。60%という割合で求められる金額は、最低保障の金額です。正しく休業手当を計算するためには、就業規則で定められた割合で計算しましょう。
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