労働基準法第91条に基づく減給の制裁規定の制限とは?違反した場合の罰則も解説! |HR NOTE

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労働基準法第91条に基づく減給の制裁規定の制限とは?違反した場合の罰則も解説!

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減給

労働基準法第91条では、懲戒処分により減給をおこなう場合の制限について定められています。法律で定められた上限を超えて減給をすると、労働基準法違反となり、罰則が適用される恐れもあります。この記事では、労働基準法第91条に基づく減給の制裁規定の制限に関するルールについてわかりやすく解説します。

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今回は、労働基準法の改正から基本的な内容までを解説した「労働基準法総まとめBOOK」をご用意しました。

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1. 労働基準法第91条に基づく減給の制裁規定の制限とは?

給料カット

労働基準法第91条では、減給に関する制裁規定の制限について定められています。ここでは、減給とは何か説明したうえで、どのような場合に労働基準法第91条の対象になるのかを解説します。

1-1. 減給とは?

減給とは、その名の通り労働者の給与(賃金)を減額することです。労働基準法第15条により、労働契約を締結する際、使用者は労働者に対して労働条件を明示する義務があります。

あらかじめ賃金の決定や計算、支払いの方法は明確にしておかなければならないので、原則として、会社の都合で一方的に減給をおこなうことは認められていません。しかし、労使双方で合意した場合や、労働基準法に則り懲戒処分をする場合は、減給が認められることもあります。

(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。(省略)

引用:労働基準法第15条一部抜粋|e-Gov

関連記事:労働条件の明示義務とは?2024年4月からの明示事項の法改正についても解説!

1-2. 労働基準法第91条の対象となるケース

労働基準法第91条で定められている減給の限度額は、懲戒処分による減給に適用されます。就業規則違反をはじめ、問題行動を起こす従業員に対しては、労働基準法第91条の条件を満たす範囲で減給をおこなうことが可能です。なお、問題行動とは、無断欠勤や遅刻を繰り返す、ミスが多い、会社の情報を社外に漏えいしたなどが挙げられます。

ただし、減給に関して就業規則に明記されていない場合、問題行動に対して減給をおこなうと違法になり、当該減給が無効になる可能性があります。労使双方が納得しトラブルを防止するためにも、懲戒処分により減給をする場合は、就業規則にそのルールを明記しておくことが大切です。

(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

引用:労働基準法第91条|e-Gov

2. 労働基準法第91条による減給額の上限

ショックを受けている男性

懲戒処分により減給をする場合、労働基準法第91条の要件を満たす必要があります。ここでは、労働基準法第91条による減給額の上限について詳しく紹介します。

2-1. 1回の減給は平均賃金1日分の半額を超えてはいけない

労働基準法第91条で定められているように、1回につき平均賃金1日分の半額を超えるような減給は認められていません。なお、平均賃金とは、労働基準法第12条に基づき、原則直近3カ月に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した賃金額のことです。

たとえば、直近3カ月の賃金総額が90万円、その総労働日数が90日の場合、平均賃金は1万と計算できます。また、平均賃金1日分の半額は5,000円となります。つまり、1回につき5,000円を超えて減給をおこなった場合、違法となるので注意が必要です。

第十二条 この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。(省略)

引用:労働基準法第12条一部抜粋|e-Gov

関連記事:労働基準法の平均賃金とは?計算方法や端数処理、最低保障額をわかりやすく解説!

2-2. 減給の総額は10分の1を超えてはいけない

労働基準法第91条では、1回あたりだけでなく、1つの賃金支払期間における減給の上限も定めています。1つの賃金支払期間において、賃金総額の10分の1を超える減給をおこなうことはできません。たとえば、月給制を採用していて、その1つの賃金支払期間の賃金総額が30万円であった場合、減給の総額上限は3万円(= 30万円 × 10分の1)までとなります。

なお、「一賃金支払期」とは、賃金の計算の基礎となる期間をいい、年俸制であれば1年、月給制であれば1カ月が該当します。また、減給がおこなわれる時点の期間を指し、懲戒処分となる行為があった時点の期間で計算はしないため注意が必要です。

2-3. 賞与も減給の対象になるケースがある

賞与やボーナスなどを設けている企業も少なくないでしょう。賞与やボーナスも、労働の対価として支給されるのであれば賃金に該当します。賞与やボーナスのカットをする場合も、労働基準法第91条に基づき減給をおこなう必要があります。

また、懲戒処分として賞与やボーナスの減給をする場合、事前にその旨をきちんと就業規則に明記しておく必要があります。なお、賞与やボーナスの支給額に関する取り決めがなされていなければ、労働基準法第91条の減給額の制限規定の対象にならない可能性もあります。

3. 労働基準法第91条の制裁規定の対象外になるケース

人事名簿

懲戒処分として減給をおこなう場合に、労働基準法第91条の減給の制裁規定の対象になります。ここでは、労働基準法第91条の制裁規定の対象外になるケースについて詳しく紹介します。

3-1. 労使双方の合意による減給

労働契約法第8条に則り、使用者と労働者の両者が合意すれば、労働契約の途中であっても労働条件を変更することができます。労使間の合意により、減給をおこなう場合、労働基準法第91条の減給の制裁規定が適用されません。そのため、同一労働同一賃金などの法律の条件を満たす範囲であれば、自由に減給をすることが可能です。

(労働契約の内容の変更)
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。

引用:労働契約法第8条|e-Gov

3-2. 給与規定が改訂されたことによる減給

就業規則のなかの給与規定の改訂も減給の原因となります。給与規定を改訂したことによる減給は、原則として従業員全員から個別で同意を得る必要があります。しかし、労働契約法第10条により、給与規定の改訂に合理性があり、変更手続きも適正であることが認められれば、事前の同意がなくとも減給が可能です。また、変更後の就業規則をきちんと労働者に周知させる必要もあるので注意しましょう。

第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(省略)

引用:労働契約法第10条一部抜粋|e-Gov

関連記事:雇用契約は途中で変更可能?拒否された場合や覚書のルールについても解説!

3-3. 人事評価の低下や降格による減給

人事評価の低下や降格による減給も認められています。たとえば、人事評価が下がり、それに伴って減給される、役職が下がることに伴って減給されるといったケースが考えられます。この場合も、労働基準法第91条の減給の制裁規定が適用されません。ただし、人事評価の仕組みや降格の条件などをきちんと従業員に周知していなければ、違法になる可能性もあるので気を付けましょう。

3-4. 出勤停止処分による減給

懲戒処分として、減給よりも重い出勤停止処分を就業規則で定めている企業もあるかもしれません。ノーワーク・ノーペイの原則により、出勤停止期間中は労働をしていないため、その分を減給した上で賃金を支払っても問題ありません。たとえば、出勤停止期間が10日間であった場合、その10日分の給与を減額することができます。また、この場合、労働基準法第91条の減給の制裁規定は適用されません。

ただし、あまりにも長い期間を出勤停止期間として定めると、懲戒権の濫用とみなされる可能性もあるので注意しましょう。

4. 労働基準法第91条に基づき減給の罰則を適用する手順

ペナルティ

懲戒処分として減給をする場合、慎重に手続きをおこなうことが大切です。ここでは、労働基準法第91条の減給の罰則を適用する手順について詳しく紹介します。

4-1. 減給の理由を明確にする

問題行動や人事異動、事業の悪化ほか、さまざまな理由で減給する場合は、就業規則を一度確認しておきます。就業規則にそれぞれの理由によって減給する旨が記載されていなければ、減給は難しいでしょう。

就業規則に減給についての規則がなかったことで、新たに減給の項目を設けた場合は、就業規則の変更届を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。就業規則に減給の旨が記載されていたら、次に減給の根拠を確認します。

たとえば、問題行動に対して減給をするのであれば、問題行動が実際にあったかどうかを確認しましょう。また、問題行動を起こした従業員に弁明の場を設けることも大切です。人事評価や人事異動が理由による減給も同様です。一方的、恣意的な人事評価、人事異動ではないことをしっかりと説明することが重要です。

4-2. 従業員の同意を得る

懲戒処分として減給をする前に、従業員に減給の理由やその金額を説明し、同意が得られるか確認をしましょう。労使双方が納得したうえで、減給をおこなうことで、今後のトラブルを防止することができます。たとえば、懲戒処分を下し、減給をした結果、従業員が納得しないために訴えられる恐れがあります。

このような事態を招かないためにも、当該労働者の同意を得られないか確認することが大切です。また、従業員が減給に同意してくれた場合は、お互いの齟齬をなくすために同意書を交わすとよいでしょう。なお、同意を得る際は、労働契約法第3条に基づき、労働者の自由意思を尊重することも重要です。

(労働契約の原則)
第三条 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする。(省略)

引用:労働契約法第3条一部抜粋|e-Gov

4-3. 従業員が減給を拒否する場合は懲戒処分を検討する

従業員が減給に同意しなかった場合、落ち着いた対応が求められます。懲戒処分としての減給を下すのに十分な理由があるかどうか、再度チェックすることが大切です。また、労働基準法第91条で定められる減給額の上限を超えていないかもしっかり確認しましょう。自社だけでは懲戒処分の手続きを進めるのに不安がある場合、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談してみることをおすすめします。

4-4. 最低賃金を下回っていないかチェックする

懲戒処分として減給をおこなった場合、その後の賃金が最低賃金を下回っていないかチェックすることが大切です。労働基準法第28条により、最低賃金については、最低賃金法の定めに従うこととされています。

また、最低賃金法第3条に基づき、労働者に対しては、原則として、最低賃金以上の賃金を支給しなければ違法になります。これは、減給後の賃金にもあてはまります。地域別最低賃金と特定最低賃金をチェックし、減給後の賃金がそれぞれを上回っているか確認することが重要です。

(最低賃金)
第二十八条 賃金の最低基準に関しては、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)の定めるところによる。

引用:労働基準法第28条|e-Gov

(最低賃金の効力)
第四条 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。(省略)

引用:最低賃金法第4条一部抜粋|e-Gov

関連記事:労働基準法における最低賃金とは?基準や罰則を徹底解説

5. 労働基準法第91条に基づき減給する場合の注意点

懲戒処分として減給をする場合、いくつか気を付けるべき点があります。ここでは、労働基準法第91条に基づき減給する場合の注意点について詳しく紹介します。

5-1. 減給できる期間に注意する

労働基準法第91条に基づく減給は、1回の違反行為につき1回までです。たとえば、月給20万円の労働者に3,000円(7月の賃金から)の減給処分を下した場合、7月の賃金は19万7,000円になります。その他に減給処分となるような行為がなければ、8月の賃金は元の20万円に戻す必要があります。

このように、原則として、長期間にわたって減給することは認められていません。減給処分が複数月に及ぶのは、減給額が定まり、その金額を複数月にわたって減給する場合に限られます。

5-2. 減給の根拠を就業規則に明示しておく

労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を雇用している場合、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に届け出をおこなう必要があります。また、就業規則には、減給の定めをする場合その種類や程度を明記しなければなりません。就業規則に記載されていない理由によって、減給をおこなうことは認められない可能性が高いので注意しましょう。

(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
(省略)
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
(省略)

引用:労働基準法第89条一部抜粋|e-Gov

5-3. 懲戒権の濫用に気を付ける

労働契約法第15条に則り、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合、懲戒権の濫用と判断され、当該懲戒は無効になります。そのため、懲戒処分として減給をおこなう場合、過去の判例などもチェックし、慎重に手続きをおこなうことが大切です。

(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

引用:労働契約法第15条|e-Gov

5-4. 妊娠・出産・育児などを理由とした減給は違法

男女雇用機会均等法第9条により、妊娠や出産、それに伴う育児休業の取得といった理由だけで、減給をおこなうことは認められていません。懲戒処分として減給をする場合、労働基準法だけでなく、男女雇用機会均等法など他の法律もチェックし、違法とならないよう手続きを進めることが大切です。

3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

引用:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第9条一部抜粋|e-Gov

関連記事:労働基準法による妊婦を守る制度についてわかりやすく紹介

5-5. 労働基準法に違反すると罰則がある

1回の処分に対して平均賃金1日分の半額以上を減給した場合、労働基準法第91条に違反することになります。この場合、労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金の罰則が課せられる恐れがあります。また、当該減給は無効になり、元の賃金に戻さなければならない可能性もあるので注意しましょう。

第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 (省略)、第九十一条、(省略)の規定に違反した者

引用:労働基準法第120条一部抜粋|e-Gov

6. 労働基準法第91条の減給額の制限ルールをきちんと遵守しよう!

仕事の説明をしている

懲戒処分による減給は、労働基準法第91条で上限が定められています。上限を超えて減給をした場合、労働基準法に基づき、30万円以下の罰金の罰則を受けるリスクがあります。また、減給の懲戒処分は、慎重に進めなければ、懲戒権の濫用と判断され、減給が無効になる恐れもあります。懲戒処分による減給をおこなう場合、就業規則をチェックし、まずは当該労働者に説明をすることから始めましょう。

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