人事制度とは、企業が人材を効率よく管理するための仕組みのことで、「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つの柱から成り立ちます。社会の変化とともに、人事制度のトレンドは移り変わるので、定期的な改革が求められます。この記事では、人事制度の目的や作り方、見直しのタイミング、設計のポイントについてわかりやすく解説します。
目次
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1. 人事制度とは?
人事制度とは、企業理念や経営目標に基づき、従業員を計画的に効率よく管理するための仕組みのことです。広義的な意味の人事制度には、労務管理だけでなく、次のような人事業務全般が含まれます。
- 採用
- 評価
- 配置
- 育成
- 教育
- マネジメント
- モチベーション管理
ただし、従業員の処遇決定の基本となる「等級制度」「評価制度」「報酬制度」に絞って人事制度とするケースもあります。ここでは、人事制度の目的や、トレンドの移り変わりについて詳しく紹介します。
1-1. 人事制度の目的
人事制度を導入する目的の一つとして、経営目標の実現が挙げられます。経営目標を達成するためには、経営資源の一つである「ヒト」を効率よく管理する仕組みが必要になります。経営戦略から策定された人事戦略に基づき、正しく人事制度を整備することで、従業員の持つスキルが最大限に発揮され、経営目標の実現につなげることが可能です。
また、従業員のモチベーションを向上させることも、人事制度を導入する目的の一つです。不公正な評価や仕事に見合った賃金が支払われていない場合、従業員のモチベーションは低下してしまいます。人事制度を整え、従業員の納得いく評価・報酬体系が実現されることで、モチベーションは高まり、生産性の向上や定着率の上昇につながります。結果として、組織の成長も期待できます。
1-2. 人事制度のトレンドの移り変わり
時代や変化に伴い、人事制度のトレンドは移り変わっていきます。年代ごとにみた、人事制度のトレンドは次の通りです。
年代 |
トレンドの人事制度 |
評価基準 |
1970年代 |
年功主義 |
従業員の勤続年数や年齢など |
1980年代 |
能力主義 |
従業員の資格や能力 |
1990年代 |
成果主義 |
従業員の上げた成果や業績への貢献度 |
2000年代以降 |
役割主義 |
従業員の役割や実際の職務 |
近年における人事制度のトレンドは、従業員が担う職務や役割により報酬や役職などを決定する役割主義です。また、従業員のモチベーション向上や納得いく評価制度の整備のため、行動にフォーカスしたり、ランク付けを廃止したりする動きも強くなっています。
このように、人事制度の主流は社会の変化によって移り変わっていきます。その時代では正しいとされていても、現代では通用しない可能性もあります。人事制度を見直し、組織の課題や目的にあった制度が整備できているか定期的にチェックすることが大切です。
2. 人事制度の構成要素
人事制度の構成要素には、さまざまな種類があります。その中でも人事制度の柱とされているのが「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つです。ここでは、それぞれの人事制度の特徴について詳しく紹介します。
2-1. 等級制度
等級制度とは、職務の内容や能力・スキルの段階に応じて組織における階級を設定する制度のことです。たとえば、次のように等級を設定して、それに応じた役職が定められます。
1等級 |
取締役 |
2等級 |
部長 |
3等級 |
課長 |
4等級 |
係長 |
5等級 |
主任 |
6等級 |
一般社員 |
等級制度には、次のような種類があります。ただし、一つの種類を導入するだけでなく、複数の種類を組み合わせて導入するケースもあります。
職能資格制度 |
従業員の職務遂行能力の評価により等級分けする制度 |
職務等級制度 |
職務の内容や難易度など、定められた基準に対する従業員の遂行結果を点数化して評価し等級分けする制度 |
役割等級制度 |
企業が役割価値を明確にしたのち従業員が目標とする役割・チャレンジ目標を決め、目標に対する従業員の遂行能力を評価して等級分けする制度 |
等級制度を定めることで、組織の求める人材の理想像が明確になります。従業員は上位の等級を目指して、主体的に業務やスキルアップに取り組むようになるため、生産性やモチベーションの向上が期待できます。また、等級制度は、評価制度や報酬制度を定めるための土台となります。
2-2. 評価制度
評価制度とは、期間や基準を定めたうえで、従業員を客観的な指標に基づき評価するための制度です。代表的な評価制度には、次のような種類があります。
能力評価 |
能力・成績・情意の3つの評価基準があり、とくに職務遂行能力による評価に重きを置く制度 |
職務評価 |
従業員が従事する職務の内容や責任の価値などを、基準となる企業が職務分析の結果をまとめた職務記述書との比較により評価する制度 |
役割評価 |
各役職に期待される業務の遂行責任や業績への貢献度など、従業員の役割に基づき評価する制度 |
成果評価 |
一定期間において従業員が期間開始時に定めた目標と期間終了時の実際の成果を比較して、従業員の成果を評価する制度 |
評価制度においても、どれが正解かはありません。ただし、評価制度が正しく整備されていない場合、不公平な評価を生むなど、従業員の会社への不満につながる恐れがあります。組織のなりたい姿にあわせて適切な評価制度を構築することで、従業員の納得いく評価が実現され、仕事のパフォーマンスも向上します。
評価制度に基づき評価された結果は、人材育成や人材配置などの人事施策に役立てることが可能です。また、評価制度は、報酬制度を設計するために不可欠な要素の一つになります。
2-3. 報酬制度
報酬制度とは、従業員の賃金や手当などの報酬を定めるための制度です。報酬制度は、等級や評価を基に設計されます。報酬には、次のような種類があります。
- 基本給
- 賞与
- 手当
- 退職金
- 福利厚生
一般的に基本給や賞与の金額は等級ごとに設定されており、等級が高位になるほど設定額も高くなります。また、各等級の設定額には範囲があり、評価結果により範囲内での金額が決まる仕組みです。
給与・賞与や福利厚生などの報酬は、従業員のモチベーションに大きく影響を与えます。また、人件費が膨大になると、会社の利益が縮小するリスクもあります。このように、報酬制度は、企業経営において重要な要素の一つになります。従業員と組織それぞれの成長のバランスを考えた報酬制度を設計することが大切です。
関連記事:福利厚生とは何か?種類や導入形態を簡単にわかりやすく解説!
3. 人事制度を見直すタイミング
既に人事制度が設計されている場合、いつ人事制度を見直すべきか悩まれるかもしれません。ここでは、人事制度を見直すタイミングについて詳しく紹介します。
3-1. 組織の規模や構造が変化する場合
人事制度を見直すタイミングの一つに、事業の発展や従業員数の拡大などにより、組織の規模・構造が変化する場合が挙げられます。事業が成長し、社員も増えると、新しい職種・役職を用意しなければならないなど、既存の人事制度では対応できない可能性があります。事業内容や企業規模が変化する場合、組織全体を上手く管理できるよう、人事制度を見直してみましょう。
3-2. 外部環境が大きく変化する場合
組織の内部が変わらないとしても、外部環境に大きな変化がある場合、人事制度の見直しが必要になります。たとえば、法改正があった場合、現状の賃金制度では違法となってしまう恐れがあります。また、感染症の拡大や災害の発生などにより、リモートワーク体制の整備が求められる可能性もあります。近年では技術の進歩などの影響もあり、外部環境は目まぐるしく変化しています。随時、社会の変化に注目しておき、適切なタイミングで人事制度を見直せるように準備しておきましょう。
4. 人事制度の設計手順
人事制度の設計手順を理解しておくことで、スムーズに自社にあった人事制度を設計することができます。ここでは、人事制度の設計ステップについて詳しく紹介します。
4-1. 企業理念を確認する
人事制度は、企業の考え方を従業員に示すものでもあります。人事制度が企業理念に結びつきかない場合、従業員は不信感を感じてしまう恐れがあります。まずは企業理念を再確認しましょう。企業理念を軸に、人事制度を設計することで、一貫性のある制度を構築することができます。
4-2. 現状分析をして課題を明確にする
経営理念をチェックしたら、現状の人事制度の課題を洗い出しましょう。経営目標に基づき内部環境と外部環境を分析して、客観的に自社の現状を把握することが大切です。現状と目標のギャップが課題になります。課題が明確になることで、どのような人事制度を設計すべきかが見えてきます。
4-3. 等級制度を設計する
現状の人事制度の課題が明確になったら、人事制度の柱の一つである「等級制度」から設計を始めましょう。組織にどのような役割が必要かを考えると、等級が定めやすいかもしれません。また、等級制度を設計することで、評価制度や報酬制度も設計しやすくなります。
4-4. 評価制度を設計する
等級制度が設計できたら、次に評価制度を設計しましょう。等級ごとにどのような観点から評価すべきか考えると、スムーズに評価制度を設計することができます。また、企業理念と評価制度に乖離がないかもきちんとチェックすることが大切です。協調性を大事にする企業なのにもかかわらず、完全な成果主義の評価制度を導入してしまうと、個人の成果を追い求めるためにチームワークが低下してしまう可能性があります。このように、自社の風土にあった評価制度を取り入れることも重要です。
4-5. 報酬制度を設計する
最後に人事制度の柱の一つである「報酬制度」を設計しましょう。報酬制度は従業員のモチベーションに大きく関わります。たとえば、評価に関係なく、等級のみで報酬が決まる場合、従業員に安心感を与えられるかもしれませんが、目の前の仕事に対するモチベーションの向上は期待できません。このように、等級や評価を考慮し、適度に従業員のやる気を引き出せる報酬制度を設計することが重要です。
4-6. 明文化と法的チェックを実施する
人事制度が設計できたら、それを文章化することが大切です。明文化することで、スムーズに正確な情報共有をおこなうことができるようになります。また、その内容が法律に違反していないかどうかチェックすることも重要です。たとえば、最低賃金を下回るような報酬制度は違法になります。労働基準法に違反すると、懲役や罰金といった罰則が課せられる恐れもあるので、人事制度の運用を開始する前に法律に違反していないかどうかのチェックもきちんと実施しましょう。
関連記事:労働基準法とは?法律のルールや違反した際の罰則などの要点をわかりやすく解説!
4-7. 従業員に新しい人事制度を周知する
新しい人事制度を運用する前に、その内容を従業員に周知しましょう。従業員に周知しなければ、人事制度の目的や変更点について理解してもらえず、あまり効果が得られません。研修やセミナーなどの機会を設けて、新しい人事制度について理解してもらう場を設けて正しく周知しましょう。
4-8. 人事制度の運用・改善を実施する
人事制度の運用を開始したら、定期的にその効果を検証しましょう。従業員にアンケートやヒアリングを実施すると、人事制度の理解度や共感度などを確認することができます。再度課題が見つかった場合、新たな施策を実施するなどして、改善に努めましょう。
5. 人事制度を設計する際のポイント
人事制度を設計する際には注意点も多くあります。ここでは、人事制度を設計する際のポイントについて詳しく紹介します。
5-1. 企業の規模や成長サイクルに応じた設計にする
従業員数が10人程度の会社なのにも関わらず、従業員数が1,000人程度の会社の人事制度を参考に、細かく等級を定め、評価・報酬を決めたとしても、上手く機能しません。また、自社が成長期と成熟期のどちらに位置するのかで、求められる人事制度も変わってきます。このように、自社の規模や成長サイクルを理解したうえで、それに合った人事制度を設計することが大切です。
5-2. 外部環境の変化に柔軟に対応できるようにする
近年では、技術の進歩や働き方改革などの影響を受け、市場環境や社会構造は目まぐるしく変化しています。人事制度を一度設計しても、外部環境の変化により、すぐに人事制度を見直さなければならないケースもあります。社会の変化に対して柔軟に対応できる人事制度を導入すると、人事制度の設計に関する業務負担を減らし、効率よく人事制度を運用することが可能です。
5-3. 従業員から支持される内容に設計する
客観的にみてどんなに優れている人事制度を設計できたとしても、自社の従業員が納得していなければ、効果的に人事制度を運用することはできません。従業員から支持される人事制度を設計するため、従業員がどのような人事制度を求めているのか調査・分析をおこなうことが大切です。また、人事制度設計の背景や理由を伝えることで、納得感を高めることができるかもしれません。そのため、人事制度を設計したら、きちんと周知をおこないましょう。
5-4. 人事制度の設計から実行までのスケジュールを明確にしておく
人事制度を設計する際、いつまでに設計して、いつ実行するのか、といったスケジュールをあらかじめ明確にしておくことが大切です。人事制度の設計期間が想定よりも長くなってしまい、新たな法改正があったために、設計した人事制度が適用できないという恐れもあります。人事制度設計のスケジュールを定めることで、計画性を持って効率よく人事制度の設計から実行までおこなうことができます。
5-5. 人事制度改革の成功事例を参考にする
人事制度改革に成功した事例は数多くあります。たとえば、次のような四半期ごとにOKRとバリュー評価を実施する人事制度改革により、従業員の自主性が向上した成功事例があります。
OKR(Objectives and Key Results) |
・「達成目標(Objectives)」とその目標の達成度をはかる「主要な成果(Key Results)」を意味する ・企業・部門・チーム・個人などの階層ごとに設定することで、組織全体で同じ目標達成を目指せる目標設定方法 |
バリュー評価 |
・企業が設定した「会社の従業員としての価値観や行動基準」つまり「バリュー」を実践できているかを評価する仕組み |
なお、評価は「業績評価」「行動評価」「全社業績」の3つの要素から成り立つ仕組みです。「業績評価」では、OKRを用いた評価をしています。達成度合いでなく過程の成果や行動まで評価することで、従業員の勤労意欲の向上につなげました。また、「行動評価」ではバリュー評価を取り入れ、会社のバリューを実践できているかを評価しています。社内全体で企業の価値観や行動基準への理解が深まる効果を得ることに成功しました。
このように、他社の成功事例を参考にして自社の人事制度を考えることで、スムーズに人事制度を設計することができるようになります。
関連記事:人事制度改革とは?進め方・失敗する原因・事例を解説
6. 人事制度の現代における課題とその対策
現代における人事制度の課題やその対策も理解しておくことで、適切な人事制度の設計に役立てることができます。ここでは、人事制度の現代における課題とその対策について詳しく紹介します。
6-1. 多様な働き方への対応
働き方改革の影響もあり、時短勤務やテレワーク、フレックスタイム制、裁量労働制といったさまざまな働き方を導入する企業が増えています。多様な働き方を取り入れる場合、一つひとつの働き方にあった人事制度の導入が必要です。そのため、人事制度の設計や管理の負担が大きくなる恐れがあります。
まずはどのような働き方が自社に必要かを洗い出しましょう。自社の業務や職種にあわない働き方を導入すると、業務生産性が落ちるだけでなく、人事制度の管理負担も大きくなります。そのため、自社の目的にあった働き方を取り入れ、それにあわせて人事制度を整備するようにしましょう。
6-2. 個別化した業務への評価
終身雇用制度の限界や専門性の高い人材の不足から、ジョブ型雇用制度を取り入れるなど、業務の個別化が進んでいます。一つひとつの仕事に対して目標や成果などの指標を設定して評価をおこなわなければならず、評価に関する管理が困難になっています。場合によっては、不公平を生み、従業員の不満につながる恐れもあります。
このような時代において、評価制度の見直しが求められています。たとえば、ノーレイティングの人事評価制度を取り入れ、従業員のランク付けを廃止し、1on1面談やフィードバックを基に評価を実施することで、リアルタイムで評価を実現することができます。このように、評価自体も個別化することで、個別化された業務に対しても正しく評価できる可能性が高まります。
関連記事:ジョブ型雇用とは?従来の雇用形態との違いやメリット、実施のポイントを解説
6-3. 成果主義型の人事制度の問題点への対策
成果主義を取り入れ、年功序列や終始雇用制度の廃止する動きが高まっています。しかし、成果主義型の人事制度における問題点も浮き彫りになってきています。たとえば、次のような課題や問題点が挙げられます。
- 個人の成果を求めるあまりチームワークが低下する
- 業績を出すために過度な残業をするようになり人件費の負担が大きくなる
- 成果へのプレッシャーからメンタルヘルスが悪化する
このように、成果主義にも課題・問題点があり、限界があります。まずは成果主義の問題を解決できないか、施策を検討してみましょう。成果主義型の人事制度に限界を感じているのであれば、役割主義型の人事制度といった新しい人事制度の導入も検討してみることが大切です。
7. 人事制度を整備して組織を活性化させよう!
人事制度とは、企業理念や経営目標に基づき、人材を計画的に効率よく管理するための仕組みのことです。人事制度を設計する際は、経営理念や経営目標と乖離していないかどうかチェックすることが大切です。また、内部環境や外部環境の変化に応じて、人事制度の見直しが求められます。自社のニーズにあった人事制度を整備し、組織の成長につなげましょう。
福利厚生を充実させることは採用・定着にもつながるため重要ですが、よく手段としてとられる賃上げよりも低コストで従業員満足度をあげられる福利厚生サービスがあることをご存知でしょうか。
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