年末調整とは、従業員の所得税(復興特別所得税を含む)を正しく計算するために年末に実施される手続きのことです。年末調整を実施しないと、罰則が課される可能性もあります。 当記事では、年末調整の義務についてや、年末調整を実施しない場合にどのような罰則があるのかについて解説します。
所得税法第190条では、給与等の支払者(会社)が年末調整を行い、適切な税額を国に納付することを義務づけています。(※注1)
もし年末調整を行わなかった場合、所得税法第190条に違反したとして、罰則の対象となります。
罰則の内容はケースによって異なりますが、懲役刑や罰金刑が科せられる場合もあるので要注意です。
罰則の詳しい内容は後述します。
※注1:所得税法|e-Gov法令検索
関連記事:年末調整とは|確定申告との違い、対応方法、注意点など基礎からわかりやすく解説!
目次
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1. 年末調整をしないとどうなる?罰則について解説
年末調整の対象者の条件を満たしており、「扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員に対して、雇用主には年末調整をおこなう義務が生じます。
年末調整を実施しない場合、従業員だけではなく、会社側も正しい所得税を計算できていない可能性があります。
また、年末調整には、事業者ごとに従業員の納税を一括りにすることで、税金を正確かつ円滑に徴収するという国の目的もあります。そのため、正確な所得税額を確定させるために、年末調整は適切な手順でおこなうことが大切です。
年末調整を行わなかった場合に科される可能性のある罰則は、大きく分けて3つあります。
2-1. 1年以下の懲役または50万円以下の罰金
年末調整手続きに必要な書類に偽りの記載をして税務署長の承認を受けた場合や、年末調整の届出を行わなかった場合には、所得税法第242条のもと、1年以下の懲役または50万円の罰金に科せられます。
2-2. 10年以下の懲役または200万円以下の罰金
源泉徴収義務を怠り、納付すべき所得税を納めなかった場合、所得税法第240条の規定に基づき、10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金に処されます。
なお、こちらのケースでは懲役刑と罰金刑が併科されることもあります。
2-3. 過少申告加算税、延滞税
過少申告加算税とは、本来納付すべき税金よりも少ない額を納付した場合に生じる税金のことです。
一方の延滞税は、所定の納付期限を過ぎてしまった場合に発生する税金を意味します。
計算ミスや納税遅れが故意的なものではなかったとしても、これらの税金はペナルティとして発生しますので、納税額の計算や納付期限には十分注意しておく必要があります。
2-4. 従業員の不利益につながることも
年末調整を行わないと、罰則の対象となる以外にも、大きなデメリットが2つあります。
まず1つ目は、従業員が税金の還付を受けられないところです。
毎月源泉徴収される金額は各種控除が適用されていない段階で計算されるものなので、従業員のほとんどは本来納めるべき金額よりも多い金額を納めています。
年末調整を行うと、過不足が調整されて、過分は「税金の還付」という形で従業員の手元に戻されます。
年末調整を実施しないと、過分があったとしても還付を受けられず、従業員が損をしてしまう可能性があります。
2つ目は、従業員が自ら確定申告しなければならないところです。
一定以上の所得がある方は、年末調整または確定申告を行うことによって納税額を申告する必要があります。
会社員の方は通常、確定申告は不要ですが、もし会社が年末調整を行わなかった場合、自ら確定申告しなければなりません。
確定申告は年末調整に比べると手続きや書類が煩雑で、未経験の方が一から手続きしようとするとかなりの手間と時間がかかります。
場合によっては会社の対応に不満を感じ、早期離職などが相次ぐおそれがあります。
2. 年末調整をしなくても罰則の対象にならないケース
以下のケースはもともと年末調整が不要なので、手続きを行わなくても罰則の対象にはなりません。
- 一年間の給与収入の合計額が2,000万円超える人
- 災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税および復興徳辺宇所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人
- 2ヶ所以上から給与の支払いを受けており、かつ他の勤務先に扶養控除等(異動)申告書を提出している人
- 扶養控除等(異動)申告書を提出していない人
- 年の中途で退職した人で、年末調整の対象となるケースに該当しない人
- 非居住者(国内に居住しない人)
- 一定の条件を満たす日雇い労働者
5に関しては、以下のいずれにも当てはまらない人を意味します。
- 海外支店等に転勤したことなどの理由により非居住者となった人
- 死亡によって退職した人
- 著しい心身の障害のために退職した人
- 12月に支給されるべき給与等の支払を受けた後に退職した人
- パートタイマー等として働いている人が退職した場合で、本年中に支払いを受ける給与の総額が103万円以下である人
ただ、年末調整をしなくて良いケースはあくまで例外であり、従業員の年末調整を行うのは雇用主の義務です。
年末調整を怠ると罰則の対象となるのはもちろん、従業員の不利益に繋がるおそれがありますので、必ず年末調整を行うようにしましょう。
関連記事:年末調整の対象者は?対象となる条件をわかりやすく解説
3. 年末調整が遅れたときの罰則や対応方法
所得税法代190条では、従業員が納めるべき税金は、年末調整後、翌月10日までに国に納付することとしています。(※注1)
また、年末調整に使用した法定調書は、原則として支払いが確定した年の、翌年1月31日までに提出することが義務づけられています。(※注2)
年末調整に遅れが生じ、これらの期限に間に合わなかった場合は、過少申告加算税や延滞税の対象となってしまいます。
さらに、遅れたからといってそのまま放置していると、故意に税金を納めなかったと判断され、より重い懲役刑や罰金刑に処される可能性があります。
遅れた理由にかかわらず、期限を過ぎるとペナルティの対象となりますので、年末調整を忘れていた、あるいは手続きが期限に間に合わなかった場合は、以下いずれかの方法で早急に対処しましょう。
※注2:法定調書の提出義務者|国税庁
3-1. 1月末までで年末調整の再計算を行う
年末調整に係る法定調書の提出期限は1月31日までなので、その期限内であれば年末調整を再計算するという形で遅れに対応できます。
通常の年末調整の場合、12月末までで計算しますが、遅れが生じた場合は1月末までで再計算することになります。
3-2. 2月~3月に確定申告してもらう
年末調整が遅れた場合、従業員自身に確定申告してもらうという方法もあります。
確定申告は例年2月16日~3月15日までが期限ですので、年内に行う年末調整に間に合わなかった場合でも、申告可能です。
ただ、確定申告は従業員自らが行う必要がありますので、年末調整が遅れた理由が会社側にあった場合、反感を買うおそれがあります。
いずれの場合も、通常の年末調整に比べるとやや手間がかかりますので、年末調整は忘れずにきちんと行うことを心がけましょう。 しかし、中には「年末調整業務が複雑で正しく手続きができているかどうかわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。 そのような方に向けて、当サイトでは年末調整の一連の流れを一冊の資料にまとめて無料でお配りしています。年末調整業務に不安のある方は、こちらから「年末調整ガイドブック」をダウンロードしてご活用ください。
4. 年末調整を簡単におこなう方法
年末調整を簡単かつ効率的におこないたい場合は、以下のような方法を試してみましょう。
4-1. 年末調整に関するマニュアルを準備する
まずは年末調整でのミスを防ぐためにも、マニュアルを用意しておくことが重要です。手順や注意点をまとめておけば、ミスを減らせるだけではなく、担当者が変わるときでもスムーズに引き継ぐことができるでしょう。
余裕をもったスケジュールを組むことも大切です。。書類を配布したり回収したりするためには、それなりの時間がかかるため、期限内に提出してもらえるようにしっかりと計画を立て、従業員全員に周知しておきましょう。
4-2. 年末調整に対応した人事・労務ソフトを導入する
年末調整の業務を紙でおこなっている場合は、年末調整に対応した人事・労務ソフトを導入して、電子化を図るのがおすすめです。人事・労務ソフトを導入すれば、計算や記入ミスなどを減らし、年末調整を正確かつスムーズに進めることができます。ペーパーレス化を推進することにより、書類を配布したり回収したりする手間を省けます。
パソコンで入力作業をおこなえるため、手書きのような面倒さもありません。オフィスだけではなく自宅や外出中でも作業でき、システム上でそのまま提出できるため、リモートワークにも最適です。
5. 年末調整を行わないと懲役刑や罰金刑の対象になるので注意
年末調整は給与支払者の義務ですので、適切な方法で行わなかった場合、懲役刑や罰金刑の対象となります。
特に納税義務を怠った場合、10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、あるいはその併科に処される可能性があります。
年末調整を行わなかったことが故意であってもなくても罰則の対象となりますので、年末調整は忘れずに行うことが大切です。
遅れた場合は1月末までで再計算するか、あるいは従業員自身に確定申告してもらうかのいずれかで対応可能ですが、再計算の手間がかかること、従業員に負担がかかることなどから、あまり推奨されません。
年末調整のスケジュールはあらかじめ決まっていますので、余裕を持って準備を行い、スムーズに手続きを済ませるようにしましょう。
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