雇用保険料の労働者負担と会社負担の割合に関して、2022年10月から変更が加えられました。人事担当の方は、変更内容を正しく把握することが重要です。本記事では、雇用保険の内容や、労働者負担や会社負担の割合の算出方法や変更内容、高齢者の雇用保険などについてお伝えします。
関連記事:雇用保険とは?加入条件や手続き方法・注意点をわかりやすく解説!
給与計算業務でミスが起きやすい社会保険料。
保険料率の見直しが毎年あるため、更新をし損ねてしまうと支払いの過不足が生じ、従業員の信頼を損なうことにもつながります。
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目次
1. 雇用保険とは社会保険料の一種
雇用保険とは、社会保険もしくは労働保険として分類されます。
広義の「社会保険」の意味合いには、健康保険、厚生年金保険、介護保険(40歳以上に限る)、労災保険、雇用保険が含まれ、これらを総称します。
一方で狭義の「社会保険」の意味合いには、健康保険、厚生年金保険、介護保険(40歳以上に限る)のみが該当します。
そして労災保険、雇用保険は「労働保険」として称されます。
そもそも雇用保険とは、労働者の生活・雇用の安定や能力の向上、失業者や教育訓練を受ける方への給付などのための保険制度であり、会社に雇用される労働者を守るためのものです。
雇用保険の加入条件は、以下の2つです。
- 勤務を開始してから少なくとも31日間以上働く可能性が高い人
- 1週間につき20時間以上働いている人
この条件は、年齢に関わらず適用されます。
参考:雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!|厚生労働省
雇用保険は主に次のような保障があります。
- 失業保険の給付
- 育児休業の給付
- 介護休業の給付
- 教育訓練の給付
それぞれ説明します。
関連記事:雇用保険料の計算方法・2023年の料率引き上げについても解説!
1-1. 失業保険の給付
失業保険とは、ハローワークが定めている失業の状態である人が受け取れるものです。失業の状態とは、仕事に就く意思や能力を備えているものの、仕事に就けないことを指します。
そのため、働く意思がない人や、病気やケガなどの理由ですぐに仕事に就けない場合は、失業手当を受け取れません。以前の職場で雇用保険に加入しており、定められた条件をクリアした人であれば受け取れます。
また、転職や独立などの理由による自己都合退職の場合、離職の日以前の2年間で、雇用保険の被保険者期間が通算して12ヵ月以上あれば、失業保険を受け取ることが可能です。
自己都合退職であっても、家族の介護や出産・育児など、自身の意思に反して退職せざるを得なかった場合(特定理由離職者)や、企業の倒産や解雇などによる会社都合退職の場合(特定受給資格者)は、離職の日以前の1年間で、被保険者期間が通算して6ヵ月以上あることが受け取る条件です。
参考:Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~|厚生労働省
1-2. 育児休業の給付
原則として1歳未満の子どもを育てるために育児休業を取得した場合、定められた条件を満たすと育児休業給付金を受け取れます。
また、子どもが生まれてから8週間までの期間の4週間において、産後パパ育休を取得した場合、出生時育児休業給付金を受け取れます。出生時育児休業給付金を受け取れるのは、原則として男性のみです。
それぞれの給付金を受け取るための条件は、以下の3つです。
・子どもを育てるための育児休業もしくは産後パパ育休育児休業を取得した被保険者であること
・育児休業を開始した日の前の2年間で、賃金支払い基礎日数が11日以上ある月が12ヵ月 以上あること(ない場合は、仕事に就いた時間数が80時間以上の月が12ヵ月以上あること)
・休業開始中の就業日数が、最大でも10日以下であること(10日を超える場合は就業した時間数が80時間以下であること)
1-3. 介護休業の給付
介護休業給付金は、家族を介護するために仕事を休まなければならない場合に支給されるものです。介護が必要だとみなされるのは、2週間以上常に介護しなければならない状態(いわゆる、要介護状態)の方がいるケースと定められています。
介護休業をスタートする前の2年間に、雇用保険の加入期間が12ヵ月以上あれば、支給の対象です。(11日以上仕事をした月を1ヵ月とみなして計算します。)
支給額は休業する前の賃金の67%で、最大で93日休業することが認められています。
1-4. 教育訓練の給付
教育訓練の給付は、仕事をする人のキャリア形成や能力アップをサポートするために、厚生労働大臣が定めた教育訓練を修了したときに、必要な費用の一部が支給されるものです。
教育訓練には、以下の3つが当てはまります。
- 一般教育訓練
- 特定一般教育訓練
- 専門実践教育訓練
支給対象は、受講開始日の時点で雇用保険の支給要件期間が3年以上のケースです。
初めて支給を受けようとする方の場合は、一般教育訓練と特定一般教育訓練は1年以上、専門実践教育訓練は2年以上と定められています。
2. 雇用保険料は労使折半ではない
2023年(令和5年)4月1日から2024年3月31日までの雇用保険料の労働者負担と会社負担の割合が変更されました
変更された雇用保険料率を確認していきましょう。
雇用保険料率や負担割合は毎年変わる可能性があるので、注意しましょう。
3. 雇用保険料の労働者負担額と会社負担額の計算方法
雇用保険料の計算方法については、賞与が発生しない月と発生する月とで違いがあるため、注意が必要です。それぞれの違いを、説明していきます。
3-1. 賞与が発生しない月の算出方法
事例1:一般事業に勤務する月収25万円のAさんの場合
(労働者負担)25万円×0.6%=1,625円
(会社負担)25万円×0.95%=2,375円
事例2:清酒製造の事業に勤務する月収30万円のBさんの場合
(労働者負担)30万円×0.7%=2,100円
(会社負担)30万円×1.05%=3,150円
事例3:建設事業に勤務する月収35万円のCさんの場合
(労働者負担)35万円×0.7%=2,450円
(会社負担)35万円×1.15%=4,025円
3-2. 賞与が発生する月の算出方法
賞与が発生する月の計算方法は、(給料×雇用保険料)+(賞与×雇用保険料)です。
例えば、月収25万円に加え、12月に30万円の賞与が発生するAさんの場合は
(25万円×0.95%)+(30万円×0.95%)=2,375円+2,550円=2,850円
です。
給与計算をする際には、雇用保険料のみならず、ほかの社会保険料の計算も必要です。 給与計算をする上で、どの保険料がどのような計算方法なのか混同しやすいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。当サイトでは、そのような方に向けて、社会保険料の種類ごとの計算方法をまとめた資料を無料でお配りしています。社会保険料の計算方法を1冊で把握したい方は、こちらから「社会保険料の給与計算マニュアル」をダウンロードしてご活用ください。
4. 高齢者の雇用保険料の労働者負担と会社負担について
2020年4月1日から制度が変更され、65歳以上の労働者にも雇用保険の納付が義務付けられました。労働者だけでなく、事業主も納付する必要があります。
負担の割合については、ほかの年齢の従業員と変わりません。65歳以上の方を継続して雇用している場合だけでなく、新たに雇用する場合も雇用保険の対象となります。
そのため「納めるのを忘れていた」という状況にならないように注意しましょう。
5. 雇用保険料を算出するときの注意点
ここからは、雇用保険料の計算時に注意すべき点について解説します。
注意すべき点を把握せず計算してしまうと、後から思わぬ手続きが必要となるケースも存在するため、スムーズに遂行するために以下3つのポイントを押さえておきましょう。
5-1. 雇用保険料の割合は変更される可能性がある
雇用保険料の割合は、変更されることもあります。変更されたにもかかわらず、変更前の割合のまま計算してしまうと、後から追加で支払うことになり、追加で手続き工数が発生してしまいます。
そのため、きちんと現在の割合を確認するようにしましょう。
h3 雇用保険料の端数処理方法
端数が出た場合の処理については、以下の2点をふまえて計算します。
- 50銭以下のケースは切り捨て
- 50銭1厘以上のケースは切り上げ
参考:20 雇用保険被保険者からの雇用保険料の控除方法|厚生労働省
例えば、一般事業者で月収22万4,500円の労働者の会社負担の割合は以下の計算となります。
22万4,500円×0.85%=1,908円25銭
そして、この場合は1,908円として計算します。
5-2. 雇用保険未加入のリスク
雇用保険の適用要件を満たしているにも関わらず、未加入の場合は義務違反となります。
企業には、雇用保険法により6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。また追徴金、延滞金の納付なども求められることもあります。
雇用保険の加入は、従業員の失業保険等の手当受給に関わる重要な保険です。未加入の場合は罰則のみならず、社会的信用を低下させる可能性もあるため注意しましょう。
6. 正しい雇用保険料を算出しよう
雇用保険は労働者の負担、会社負担の割合ともに、年度によって変更されるケースがあるため、割合をきちんと把握しておくことが必要です。また、2020年4月から65歳以上の方も雇用保険の対象となったように、今後も対象者や制度が変更するかもしれません。
雇用保険はもちろん、そのほかの保険についても、人事担当であれば内容をきちんと把握し、定められた金額を抜けもれなく納めるようにしましょう。