固定残業代は、基本給とは別に一定の残業代を加えて支払うものです。時間や金額は会社や対象となる従業員によって異なりますが、36協定との関係もあるため月45時間以内に設定する必要があります。
では40時間に設定した場合、とくに問題はないのでしょうか。
本記事では固定残業代を40時間に設定する場合のメリットや注意点に加えて、固定残業代が違法となるケースや解決方法について解説します。
関連記事:固定残業代について周知の義務や上限など基本を優しく解説
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目次
1. 固定残業代(みなし残業代)40時間が「やばい」はウソ
まずは固定残業代の基本的な意味や、40時間分に設定することが可能かどうか確認しておきましょう。
1-1. 固定残業代とは?
固定残業代とは、実際の残業時間に関わらず、一定の時間外労働分の残業代を固定して支払う制度です。固定残業時間には、休日労働や深夜労働も含まれ、みなし残業代ともよばれます。
固定残業代を導入する大きなメリットは、給与計算を簡略化できることです。毎月一定額を支払えばよいため、従業員ごとに残業代を計算する必要はありません。ただし、想定していた固定残業時間を超過した場合は、追加の残業代を支払う必要があるため、労働時間については適切に把握することが重要です。
1-2. 固定残業代を40時間分に設定することも可能
固定残業代を40時間に設定するのは「やばい」と言われることもありますが、40時間という労働時間数に問題があるのでしょうか?
結論から言うと、固定残業代を40時間に設定しても問題ありません。労働基準法により「労働時間は1日8時間、週40時間」と決められていますが、きちんとした手続きを踏めば「月45時間、年360時間」の時間外労働が認められているためです。
40時間に設定することが「やばい」と言われる場合は、導入時の対応や運用方法に問題がある可能性が高いでしょう。たとえば、36協定を締結していない、40時間を超過した時間分の残業代が支払われていないなど、法律を無視した運用は「やばい」と言われても仕方ありません。
40時間という数値は、労働時間数としては問題ありませんが、運用方法によっては違法性があるので注意が必要です。固定残業代は「やばい」と言われないために注意すべき点については、後ほど詳しく解説するので参考にしてください。
2. 固定残業代を40時間に設定することは会社・従業員ともにメリットがある
固定残業代を40時間に設定するということは、月40時間までの残業代に基本給を加えたものを月給として支払うことを意味します。
仮に実労働時間が40時間より少ない場合でも残業代を減額することはできず、40時間分の残業代を支払わなければなりません。逆に40時間を超えた場合は、超過した時間分の割増賃金を別途支払う必要があります。
会社側としては、残業が40時間までであれば、給与計算の手間を削減できます。
一方、従業員は残業代を稼ぐために無駄に残業をする必要はありません。効率よく仕事をすれば残業代をもらいながらプライベートを充実させられるため、どちらにとってもメリットがあるといえるでしょう。
関連記事:固定残業代を設ける2つのメリットと押さえておきたいデメリット
3. 40時間分の固定残業代はいくら?基本給をもとに計算する方法
固定残業時間が40時間の場合、固定残業代はいくら支払うのが相当なのでしょうか。ここでは、40時間の固定残業代の具体的な計算方法と、40時間を超えた場合の残業代の計算方法を解説します。
3-1. 固定残業代の計算方法
固定残業代は、以下の計算式で算出します。
固定残業代 = 1時間当たりの賃金 × 固定残業時間 × 割増率 |
1時間当たりの賃金は、「その月の給与総額(通勤手当などの一定の手当を除く)÷ 月平均所定労働時間」で求めることができます。 なお、割増率は最低でも1.25倍以上です。
たとえば、毎月の給与額が20万円、月平均所定労働時間が160時間、割増率1.25倍のケースで考えてみましょう。この場合、1時間あたりの賃金は「20万円 ÷ 160時間 = 1,250円」です。つまり、40時間分の固定残業代は「1,250円 × 40時間 × 1.25 = 62,500円」となります。
関連記事:固定残業代(みなし残業代)の計算方法とは?超過分や計算も詳しく解説
3-2. 固定残業時間の40時間を超過した分の残業代の計算方法
実際の残業時間が固定残業時間の40時間を超えた場合は、その分を別途支給しなくてはなりません。先ほどの事例をもとに、月60時間残業したケースで考えてみましょう。
実残業時間は60時間なので、固定残業代ではない場合、本来支払うべき残業代は「1,250円 × 60時間 × 1.25 = 93,750円」です。先ほどの解説の通り、固定残業代は62,500円なので、別途支払うべき残業代は「93,750円 – 62,500円 = 31,250円」となります。
固定残業代は、固定残業時間を超えた残業代を支払わなくてもいいという制度ではありません。設定していた固定残業時間を超える分は別途支払いが必要になるので、正確な残業時間の把握に努め、賃金計算のミスが起こらないように注意しましょう。
4. 固定残業代を40時間に設定する際に注意すべき点は3つ
労使ともにメリットがある固定残業代ですが、以下のように注意すべき点もあります。
- 労働基準監督署に36協定の届出をしていること
- 固定残業代を上回る割増賃金が発生した場合は別途支給する
- 固定残業代を設定する際は、従業員に固定分に含まれる残業時間と賃金を書面で周知させる
それぞれの注意点について詳しく見ていきましょう。
4-1. 36協定の届出がないと残業自体が違法になる
固定残業代の上限は月45時間ですが、これは36協定で残業の上限が月45時間(年360時間)まで認められているからです。
2019年以前は、特別条項付きの36協定を結ぶことで、実質いくらでも残業を命じることが可能でしたが、働き方改革関連法施行によって上限が設けられました。
36協定は、従業員に残業させるなら必ず届け出てください。36協定の届出がないと残業自体が違法となり、懲役・罰金が科せられる可能性もあるので注意が必要です。
4-2. 固定残業代を上回る残業が発生した場合は割増賃金を別途支給する
固定残業代を40時間に設定しても、月40時間を超える残業がある場合、会社は超過分に対して割増賃金を別途支払わなくてはなりません。
固定残業代は、固定残業時間を超えた分の残業代を支払わなくてもいいという制度ではないため、40時間を超えて残業した場合は追加で支払わなくては違法となります。
4-3. 固定残業代を設定する際は、含まれる残業時間と賃金について書面で明示する
固定残業代を正しく設定するためには、制度を導入する従業員それぞれに固定残業に含まれる残業時間と賃金について、雇用契約書や就業規則などの書面で以下のことを明示する必要があります。
- 固定残業代は残業手当の定額払いであり、それ以外の賃金と区別されること
- 固定残業代に含まれる残業の時間数を明らかにすること
- 固定残業分の時間外労働を超過した場合は時間外手当を支払うこと
5. 固定残業代が違法となる6つのケース
固定残業代を導入すること自体に違法性はありませんが、以下のようなケースでは違法と見なされ、罰則を受ける可能性もあります。大きなトラブルに発展しないよう、事前に確認しておきましょう。
5-1. 残業時間が固定残業分を大幅に超過しても割増賃金が支払われない
繰り返しになりますが、固定残業代として40時間を設定した場合、40時間を超えた分の差額を追加で支払う必要があります。
従業員が働いた分の賃金は、正確に支払わなければなりません。追加の賃金を支払わない場合は、違法となるため注意しましょう。
5-2. 残業が少ない場合に固定残業代を支払わない
実際の残業時間が固定残業時間より短かった場合でも、固定残業代を減額することはできません。無駄な人件費が発生する可能性もあるため、固定残業代を導入する前に、自社の状況をしっかりと把握しておくことが重要です。
5-3. 固定残業代が基本給に含まれている
固定残業代を基本給と分けて表示するよう、厚生労働省が基準を示しています。固定残業代と基本給を分けていないと、固定残業代に含まれる残業時間と賃金がどのくらいあるのか不明瞭です。
固定残業代の具体的な内容がわからなければ、固定残業分を超えたかどうかを判断しにくく、割増賃金が支払われていることを認めてもらえない可能性が高くなるでしょう。
参照:固定残業代 を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします。|厚生労働省
5-4. 雇用契約書や就業規則に固定残業代に関する規定がない
固定残業代の運用が違法にならないためには、固定残業代に関する規定を雇用契約書や就業規則に明示する必要があります。
固定残業代に含まれる割増賃金の範囲(時間外労働・休日労働・深夜労働など)も明確にしましょう。固定残業代に関する規定を明示しないままでは、固定残業代が割増賃金の支払いと認められず、違法と見なされる可能性があります。
5-5. 固定残業代を除いた基本給が最低賃金を下回るほど少額
固定残業代を除いた基本給が少なすぎる場合は、会社が不当に残業代を抑えようとしていると見なされます。このように、長時間労働を前提とする固定残業代は不合理であるとして、割増賃金の支払いとして認められない可能性があるでしょう。
また、基本給が最低賃金を下回るのも違法です。最低賃金法違反として罰則や行政処分が科せられる可能性もあります。
5-6. 固定残業が月45時間以上に設定されている
従業員に残業をさせるには会社は36協定を締結する必要があり、労働基準法で1カ月あたりの残業時間の上限は45時間と定められています。
この上限を超えた残業を前提としたような固定残業代の設定は違法であり、無効とされる可能性が高いでしょう。
関連記事:固定残業代の45時間超が認められる場合と認められない場合をケース別に解説
6. 固定残業代の問題を解決するために押さえておきたいポイント
固定残業代が違法や無効とならないためにはどうすればいいのか、押さえておきたいポイントは以下の通りです。
- 雇用契約書や就業規則に固定残業代に関する規定を細かく具体的に明示する
- 採用時の求人広告や労働条件通知書にも明示する
- 各従業員の実労働時間を把握し、固定残業を超えた分について正しく割増賃金を支払う
- 従業員の平均的な残業時間を把握し、適切な時間を固定残業代に設定する
- 固定残業代制度の活用には最新の裁判例に詳しい弁護士に相談する
各ポイントの詳細は以下の通りです。
6-1. 雇用契約書や就業規則に規定を明示する
固定残業代を導入する会社は、それに関する規定を従業員に明示する必要があります。賃金や労働時間などの労働条件を明示することは、労働基準法の第15条によって定められた企業の義務です。
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
労使間で認識の相違が生まれないよう、雇用契約書や就業規則に規定を明記しておきましょう。
6-2. 採用時の求人広告や労働条件通知書にも明示する
雇用契約書や就業規則だけではなく、採用時の求人広告などにも的確な表現で具体的に表記しなくてはなりません。固定残業代を採用しているかどうかなど、賃金や労働時間に関する条件は、職場を選ぶときの重要なチェックポイントです。採用後にトラブルが発生することのないよう、事前に伝えておくようにしましょう。
6-3. 各従業員の実労働時間を正しく把握する
固定残業代において最もトラブルになりやすいのが、超過分の割増賃金の未払いです。これを防ぐには、各従業員の実労働時間を把握し、固定残業時間を超えた分に対して正しい賃金を支払いましょう。
従業員数が多くなると労働時間の把握に手間がかかるため、勤怠管理システムを導入するなどの解決策を検討することも重要です。
6-4. 適切な時間を固定残業代に設定する
決められた時間よりも実労働時間が大幅に少ない場合、固定残業代は会社にとって負担が大きくなります。定期的に従業員の平均的な残業時間を確認し、実労働時間と大きく乖離しない範囲で固定残業の時間を設定しましょう。
6-5. 最新の裁判例に詳しい弁護士に相談する
固定残業代に関する裁判例を知ることは固定残業代制度の運用に有効です。最新の裁判例に詳しい弁護士に相談するなどして、適切な運用を心がけましょう。
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7. 固定残業代を40時間に設定する場合は実労働時間との差に注意
固定残業代を40時間に設定すること自体は違法ではありませんが、労働基準法では残業(時間外労働)は月45時間以内と定められています。固定残業代を40時間に設定するということは、上限に近い残業が必要とされるケースであるため、法令を遵守して運用しましょう。
また、実労働時間が40時間より大きく下回ったとしても、固定残業代を減額することはできません。逆に、40時間を超えた場合は、その分の割増賃金を正しく支払う必要があります。
固定残業代を40時間に設定すれば、40時間の残業までは固定で割増賃金を支払うことになるため、賃金計算の手間は軽減されます。しかし、実際の残業時間と乖離があるとトラブルになりやすいので注意が必要です。固定残業代40時間を適切に運用するためには、従業員の労働時間の正確な把握に努めましょう。
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