
こんにちは!HR NOTE編集部 根本です。
人事領域で「ピープル・アナリティクス」(people-analytics)という考え方が注目されています。
ピープル・アナリティクスは、「職場の人間科学」とも言われ、従業員の行動データを収集・解析することで、職場の生産性を高めたり、従業員が満足して働ける職場作りに役立てる技術のことです。
これまでの経験値や主観的な観察のみによって実行されてきたことが、オフィスでのWebの閲覧履歴やメールの記録、ITテクノロジーなどの活用によって得られるビッグデータに基づいて科学的に解析することができます。
そこで今回は、ピープル・アナリティクスとはどのようなものか、ご紹介いたします。
従業員にセンサーを携帯してもらい、客観的な分析を行う

具体的にどのように行うのかというと、例えば、一定期間、従業員一人ひとりにカード型やウェアラブル型端末に組み込まれたセンサーを携帯してもらい、「いつどこにいたのか」「休憩のとり方」「誰と話したか」「話し方や話すスピード」などをビッグデータとして収集し、項目ごとに分析します。
成果を出している従業員はどのような行動をとっているのかなど、分析結果を経営者と従業員全員が把握して改善を図ることによって、大きな利益向上につなげます。
人間の行動を客観的に分析するためのデータを収集できるテクノロジーの開発と組織コンサルタントを行うHumanyze社の社長兼CEOで、MITメディアラボ研究員でもある、Ben Waber氏は、「ソシオメトリック・バッジ」を用いてピープル・アナリティクスを実践しています。
ソシオメトリック・バッジはトランプほどの大きさのセンサー装置で、赤外線、音、運動といった複数のシグナルを記録し、さらにデータ分析アルゴリズム機能を内蔵しており、1年分の行動データが保存可能となっています。
これにより、以下のようなことがわかってきます。
- 社内外でのネットワーク構築の広さで傾向はあるか
- どのようなときにストレスがかかりやすい傾向にあるか
- 昼食時のコミュニケーションは効果があるのか
- デスクの配置やサイズの違いで変化は起こるのか
- 生産性の高いチームとそうでないチームでは、何が違うのか
上記は一例ですが、これらの情報をもとに先入観によって今まで行われてきたことが本当に効果的なのか、改善が必要なのかどうか客観的に判断でき、職場環境の改善に向けて施策を立てることができます。
また、常に測定を行っているため、「プライバシーは大丈夫か」「行動次第で人事考課に影響するのでは」と懸念に感じることもあるかと思います。
そこで、MITメディアラボのSandy教授はデータの取り扱いとプライバシー対策において以下内容を説いています。
- データの収集は承諾式とし、十分な説明とともに同意をとる。
- 本人が自分のデータの所有権を持ち、データアクセスへの拒否権もある。
- 第三者には集計データのみを譲渡。集計データより個人が特定されることはない。
これらを徹底し、透明性と信頼性を担保できれば、プライバシーの問題は解決可能とのことです。
ピープル・アナリティクスによる企業事例

それでは、実際にピープル・アナリティクスを活用することで、どのような改善が見られたか、いくつか事例をご紹介します。
コールセンターのデータ分析事例
コールセンターでは、「私語禁止」、「シフトに穴をあけない」といったことが一般的な慣習となっていました。
しかし、あるコールセンターの約80人にセンサーを携帯させ、4週間にわたってデータを収集・分析したところ、「シフトに穴をあけないこと」よりも「従業員がそろって休憩する」方が良いことが分かりました。
そこで、チームごとに一度に15分のコーヒー休憩をとらせるようにした結果、自然と「効率を上げるための工夫」などの意見交換が行われるようになり、結果的に年間で1,500万ドルものコスト削減につながりました。
Googleのデータ分析事例
Googleで行われた企業改革についての実例もあります。
ピープル・アナリティクスを実行する前のGoogleの職場環境は、広い空間に従業員がまばらに座っている状態でした。
しかし、データ分析の結果により、多少スペースが狭くなったとしても、関係する部署の従業員が集まって座ったほうが良いということが分かりました。
そうすることで社内のコミュニケーションが改善され、生産性向上、業績向上につなげることに成功しました。
また、その他、ランチテーブルを大きくするだけで、仕事の生産性が10%上昇した事例や、コミュニケーション経路の「中心に近い人物」と話した従業員ほど、タスクを完了するまでの時間が短かく、ある従業員とのコミュニケーションが業績と関係があることが判明した事例など、ピープル・アナリティクスを活用して意外な事実を導き出しています。
最後に

いかがでしたでしょうか。
海外では、数年前からピープル・アナリティクスの考えを活用して従業員の行動分析を行っている企業が増加しているそうです。
GoogleやFacebookなど、ピープル・アナリティクス専門の部署を設立する企業も増えています。
日本で実施している企業は少数かと思いますが、ピープル・アナリティクスによって自社の意外な真実が見えてくるかもしれません。