HR NOTEの読者の皆さん、はじめまして。株式会社HARESの西村創一朗です。
今月より、HR NOTEで『採用の本質』というタイトルで連載させていただくことになりました。
昨年12月末に5年9ヶ月勤務したリクルートキャリアを退職し、今年1月より人事・採用コンサルタントとして独立しました。IT・Web・人材業界を中心に、リファラル採用や採用ブランディングの支援を行っています。僭越ながら、HR NOTEの「採用・人事領域でフォローしておきたい今注目の17人とは」という記事でも以前まとめていただきました。
歴史上、かつてないほど「HR」が重要な時代に
今、世の中は一年先、いえ、半年先すら完璧に予測し、見通すことが難しい「不確実性の高い時代」に突入しています。不確実性の高い時代の経営においては、そうした変化をいち早く捉え、柔軟に変化に対応できる力を持った人材を採用し、入社後に最大限能力を発揮してもらうことが重要です。
また、自社に合った優秀な人材を採用することの重要性は言うまでもなく、多様なバッググラウンドや個性を持ったメンバーが能力を最大限発揮できるように「新しい働き方」への対応を含めて人材マネジメントのあり方を根本から見直す必要性に迫られています。
そう、人事・採用担当者は未だかつてないほど多くの課題への対峙を迫られているのですが、ある意味で、人事・採用担当者にとってはチャンスとも言えるかもしれません。
「これまでのやり方」をただ踏襲するだけでは、成果が出せない時代だからこそ、これまではやっていなかったような大胆なチャレンジも出来るようになるからです。
「前例がないからできない」ではなく「前例がないからこそ、価値があるかもしれない」という発想の転換こそが、これからの時代の人事。採用担当者には不可欠です。
バズワードに振り回されてはいけない
ダイレクトリクルーティングやリファラルリクルーティングに採用マーケティング、HRTechにピープルアナリティクス。人事・採用を取り巻く環境の変化が激しいからこそ、耳慣れない「新しい言葉」が日々目まぐるしく誕生し、それらを追いかけるだけで一杯いっぱい、という方も多いかもしれません。
最先端のトレンドを把握し、キャッチアップし続け、必要に応じて積極的に自社に取り入れていくことはもちろん重要です。事実、成果を出されている人事・採用担当の方は例外なく最先端の採用トレンドに対して敏感です。
ただし、目先の手法論ばかりに捉われていては、思うような成果を生み出すことはできません。手法はあくまで手法にすぎません。絶対にうまくいく採用手法、どんな業界・職種でも効果を発揮する万能な採用手法なんていうものはありません。
「その採用手法は、自社に合った採用手法なのか」「そもそも、自社が実行するべき採用手法なのか」をしっかり考える必要があります。
まずは『TMP』を徹底的に考えよ
私が新入社員の頃、とにかく徹底的に叩き込まれた「思考の枠組み」が、『TMP』です。
TMPとは、下記の頭文字を取ったもの。
- Targeting:適切な採用ターゲットの設定
- Messaging:ターゲットに刺さるメッセージ・ストーリーの作成
- Processing:最適な採用プロセスの設計
この3点さえきちんと押さえられれば、クライアントの採用を成功に導ける、という非常にシンプルで有用なフレームワークです。言葉にすると非常にシンプルですが、ターゲティング・メッセージング・プロセシングの全てを完璧に設計できている企業はほとんどありません。
採用ターゲットを設定する上でよく陥りがちなのは、知らず知らずのうちに「青い鳥」を追いかけてしまっているパターンです。採用側からすれば、高いスキル・経験を持った人材を採用したいと思うのは当然のことなのですが、就職・転職市場にほとんど出てこないような希少人材を、相場よりも低い条件・待遇で採用活動を続けていては、いつまで経っても採用できません。
採用活動とは、マーケティング活動である
そのため、適切なターゲット設定においては「あれもこれも」と条件を設けすぎずに、「絶対に譲れない条件は何か?それはなぜか?」を採用オーナー(経営者や事業責任者)と腹落ちするまでとことんディスカッションし、優先度の低い条件については「捨てる勇気」や「なければ育てる覚悟」が求められます。
また、採用ターゲットに対する「メッセージング」も非常に重要です。採用ターゲットが一体いまの職場にどんな不満を感じているのか、次の職場にはどんなことを求めているのかなど、求職者のインサイトを正確に捉えることからはじまります。
さらに、自社に就職・転職した場合、その人にとってはどんな価値やメリットがあるのか、価値提案を言語化することも重要です。もちろん、競合他社と比べてどんな優位性があるのか、という点も重要です。
また、見落とされがちですが、選考プロセスも非常に重要です。書類選考、適性検査、一次面接(現場マネージャー)、二次面接(事業部長)、最終面接(社長)という選考プロセスが本当にいまの自社にとって、あるいは今の熾烈な採用市場において最適なのか。ここはぜひゼロベースで考えたいところです。
誰に対して(ターゲティング)、どんなメッセージで心を動かして(メッセージング)、どんなプロセスを経て入社の意思決定をしてもらうのか(プロセシング)。
そう「リクルーティング」は本質的には「マーケティング」と全く同じ構造なのです。
いえ、むしろ「マーケティング」よりもよっぽど難易度が高いかもしれません。「商品を買ってさえくれれば誰でもOK」なマーケティングとは異なり、リクルーティングの場合は「自社での活躍が期待できる人」に振り向いてもらわなくてはならないからです。
採用を起点に、すべてを編み直す
採用成功のために「TMP」が必要だ、と言う話をしてきましたが、もちろん採用成功がゴールではありません。
人事・採用担当者のミッションは「事業戦略に必要な人材を採用し、入社後活躍まで支援すること」にあります。せっかく人材を採用できたとしても、入社後に活躍できないまま退職してしまっては元も子もありません。
特に昨今、採用シーンで求められているのは「変革型人材」です。
しかし、「変革型人材」であるがゆえに、既存の組織風土になじめず、思うような活躍ができていない、と言うケースも少なくありません。
そうした不幸なケースに陥ることを避け、変革型人材も含め、採用したメンバー全員が最大限能力が発揮できるよう、組織体制や社内制度を整え、場合によっては経営陣を巻き込んで抜本的に変えていくことも必要です。
単なる「人材調達担当」や「採用マーケター」で終わるのではなく、経営者視点に立って、必要に応じて採用を起点に、すべてを編み直す覚悟で社内を巻き込み、採用活動にコミットできると、人材採用という仕事がもっとやりがいの大きい仕事に見えてくるはずです。
最後に
いかがでしたでしょうか。
本連載では『採用の本質』と題して、最先端の採用手法やトレンドを押さえつつも、本質的に何が重要なのか?にスポットを当て、コラムやインタビューという形で、人材採用に携わる方々にとって有益な情報をお届けしたいと思っていますので、次回以降の連載を楽しみにお待ちください。