賃金台帳は、労働者名簿や出勤簿とともに法定三帳簿とよばれる重要な書類です。記載事項や保存方法についても法律で細かく定められているため、しっかりと理解したうえで作成・管理しなければなりません。
この記事では、賃金台帳に必要な記載事項や保存方法について解説します。認識を誤ると罰則を受ける可能性もあるため、もう一度確認しておきましょう。
関連記事:賃金台帳とは?記載事項や具体的な書き方、保管期間を詳しく解説!
「賃金台帳の作成方法や保管期間などがあっているか不安」
「賃金台帳を作成していない場合のリスクを知りたい」
など賃金台帳の取り扱いに関して不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けて当サイトでは、『賃金台帳の作成ガイドブック』を無料で配布しております。記載する際に必要な項目や具体的な記入例をまじえながら、作成手順を詳細に解説しています。
適切な保管期間や賃金台帳の基礎ついても詳しく紹介していますので、「法律に則って適切に帳簿を管理したい」「賃金台帳の基本を確認しておきたい」という担当者の方は、大変参考になる内容となっています。
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目次
1. 賃金台帳の記載事項は決まっている
賃金台帳は、労働基準法(第108条)により作成や更新が義務付けられている法定帳簿です。[注1]
労働時間や残業時間、給与の支払いに関わる内容を記録する重要な書類であるため、法律に基づいて作成したうえで適切に管理することが求められます。
1-1. 賃金台帳の10の記載項目
賃金台帳は、労働基準法施行規則(第54条)によって定められている通りに作成しなければなりません。具体的には、以下の記載項目を含める必要があります。[注2]
- 従業員の氏名
- 従業員の性別
- 賃金の計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働時間数
- 深夜労働時間数
- 休日労働時間数
- 基本給・手当の種類とその金額
- 控除項目とその金額
それぞれの記載事項の意味・記載すべき内容について解説します。
1-1-1. 従業員の氏名
氏名を記載することで、誰の賃金台帳かすぐにわかるようにします。日雇いや派遣などを含むすべての従業員が対象です。
1-1-2. 従業員の性別
氏名と合わせて性別も記載しましょう。
1-1-3. 賃金の計算期間(日雇い労働者については記載不要)
○月○日〜○月○日という形で、どの期間の賃金について記載されているのかを明記します。期間は給与が何日締めになっているかによって変動します。
1-1-4. 労働日数
先程記載した賃金計算期間の中で、実際に対象者が勤務した日数を記載します。休日出勤があった場合には、休日出勤分の日数も加算します。
1-1-5. 労働時間数
賃金計算期間の中で実際に対象者が勤務した時間数を記載します。法定労働時間だけではなく、時間外労働時間、休日労働時間も含めたすべての労働時間を記載することが大切です。
1-1-6. 時間外労働時間数
労働時間数の中から、時間外で労働した時間数を記載します。時間外労働時間とは、法律で定められた1日8時間及び週40時間の法定労働時間を超えて働いた場合の時間です。時間外労働は割増賃金が発生するため、正確な時間を把握することが大切です。
1-1-7. 深夜労働時間数
午後10時〜午前5時の間は、深夜労働時間となります。そのため、この間に労働した場合は、この項目に時間数を記載します。時間外労働と同様、深夜労働も割増賃金となるのが特徴です。
1-1-8. 休日労働時間数
休日に労働した場合の時間数を記載します。労働基準法では、週1または4週を通じて4日休日を設けることを定めています。休日に働いた場合にも割増賃金が発生します。
1-1-9. 基本給・手当の種類とその金額
対象者の給与の土台となるのが、基本給です。更に対象者の立場や家族の有無、通勤距離など個々の事情に応じて手当が支給されます。この基本給と支給される手当の種類及び金額をそれぞれ記載します。
1-1-10. 控除項目とその額の記載
従業員の手元に渡る給与は、あらかじめ保険料や税金など控除される金額を差引いた額が支給されます。この控除される項目と金額を、項目別に細かく記載します。
このように、賃金台帳を作成するときは、従業員の氏名や性別といった基本情報はもちろん、賃金の計算期間や労働時間数など、細かい数値を正しく記載しなければなりません。休日出勤や深夜労働の時間は個別に計算する、基本給と手当は分けて記載する、といった細かいルールもあります。タイムカードなども確認しながら、間違いのないように作成しましょう。
[注1]労働基準法 第108条|e-Gov法令検索
[注2]労働基準法施行規則 第54条|e-Gov法令検索
1-2. 厚生労働省の賃金台帳テンプレートと記載項目に関するサンプル例
厚生労働省では、無料で利用できる賃金台帳のテンプレートをホームページで公開しています。「常時雇用労働者」と「日雇い労働者」の2種類があるので、用途に合わせ適切なテンプレートを使用しましょう。
以下のリンクからダウンロードできます。
出典:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」
なお、賃金台帳を自社で作成する場合は、以下のサンプルを参考にするとよいでしょう。記載時の注意点も紹介しているので、活用してみてください。
出典:厚生労働省「賃金台帳の注意事項」
2. 賃金台帳とは
そもそも、賃金台帳とはどのようなものなのでしょうか。その役割や罰則の有無などを確認しておきましょう。
2-1. 賃金台帳と類似するその他の書類との違い
賃金台帳は従業員の賃金や出勤日数などを記載した書類です。会社では、似たような性質をもつ書類を多く扱っていますが、どのような違いがあるのでしょうか。
2-1-1. 賃金台帳と給与明細の違い
賃金台帳と給与明細は、異なる書類です。基本的には併用できないため注意しましょう。そもそも給与明細とは、企業が従業員へ支払う賃金を通知する書類です。健康保険料や厚生年金保険料といった各種の控除が記載されている場合もあります。
ただし、賃金台帳で求められる記載項目がすべて網羅されているわけではありません。給与明細には、休日出勤や深夜労働の時間が細かく記載されていないケースも多いでしょう。
共通する項目もあるため代用したくなりますが、別々に作成するのが基本です。前述のとおり罰則を受ける可能性もあるため、それぞれの記載項目を把握したうえで作成しましょう。
2-1-2. 賃金台帳と労働者名簿・出勤簿との違い
賃金台帳は、労働者名簿や出勤簿とともに『法定三帳簿』と呼ばれます。労働者名簿とは、従業員の氏名や入社日、生年月日などの情報を記録するための書類です。入社時に作成し、必要に応じて更新していかなければなりません。
出勤簿は、従業員の出社時刻や退社時刻、休暇の取得状況などを記録する書類です。休日労働や深夜労働の時間についても記載します。これらの書類は似ている部分もありますが、基本的には別々の役割を担うものです。それぞれ記載すべき項目は異なるため、注意して作成しましょう。
2-2. 賃金台帳の対象者
賃金台帳の記載は、すべての従業員が対象となります。パートやアルバイトなど雇用形態に関係ないので、従業員が1人でもいれば賃金台帳の記載が必要です。
ただし、日雇い労働者と、経営者の立場に近い管理監督者の場合は、記載を除外される項目があるので注意しましょう。
2-3. 賃金台帳は労働基準監督署に提出する可能性がある
賃金台帳は、労働基準監督署による抜き打ち検査においてチェックされる場合もあります。労働基準監督署の大きな役割は、従業員に過剰な労働をさせていないか、給与はしっかりと支払われているかなど、企業の労働環境をチェックすることです。
賃金台帳を見ると従業員の労働状況がすぐにわかるため、抜き打ち検査においてはチェックされる可能性が高いでしょう。賃金台帳に不備がある場合は、是正勧告を受けます。賃金台帳の修正が必要な場合は速やかに対応して、再提出しましょう。
2-4. 賃金台帳の記載事項に漏れがある場合は罰則の対象となる
悪質な場合は是正勧告では済まず、罰則を科せられてしまいます。記載すべき項目が抜けていたり、賃金台帳の作成や更新を怠っていたりする場合は、罰則の対象となり、30万円以下の罰金が課せられるケースもあるため注意しましょう。
関連記事:賃金台帳の書き方とは?注意すべき点と必要になるケースを解説
3. 賃金台帳の記載事項に関する5つの注意点
賃金台帳を作成するときは、いくつかの注意点があります。以下、それぞれの注意点について解説します。
3-1.常に最新の状態に更新しておく
賃金台帳は、常に最新の状態にしておきましょう。記載事項が網羅されていたとしても、古い情報では意味がありません。従業員へ給与を支払うタイミングで、賃金台帳を更新していくのが基本です。
タイムカードや勤怠管理システムなどの情報を確認しながら、新しい数値を記入していきましょう。
3-2. 客観的に把握した労働時間を記載する
賃金台帳には、期間内全体の労働時間を記載する項目や、深夜、休日、時間外など労働時間数の内訳を記載する項目もあります。労働時間を記載するときに重要なのが、客観的な記録により把握した労働時間を記載するという点です。
働き方改革により労働安全衛生法が改正され、2019年4月から従業員の労働時間の客観的な記録による把握が義務づけられました。タイムカードの利用やパソコンの使用時間の記録など、自己申告に頼らない把握方法で労働時間を確認することが求められるようになっています。
賃金台帳にも客観的に把握した正しい労働時間を記載することで、正しい勤怠状況を管理することができます。会社や従業員の都合で労働時間を改ざんすることがないようにしなければいけません。
3-3. 給与明細と混同しない
賃金台帳作成に似ている業務として、給与明細作成の業務が挙げられます。給与明細は従業員に対して会社が交付しなければいけない通知書ですが、賃金台帳と給与明細を混同して扱うことがないように注意しましょう。
賃金台帳に記載する項目と給与明細に記載する項目は、近い部分もありますが全く同じというわけではありません。給与明細では網羅できない項目も賃金台帳にはあるので、給与明細の保管で賃金台帳の代用とすることがないようにしましょう。
賃金台帳を作成していない場合や、不正に作成した場合には違法となります。罰則規定も存在しており、場合によっては30万円以下の罰金が科される可能性もあるため、必ず作成しなければいけません。
3-4.記載事項が抜けているフォーマットもある
賃金台帳に決まった書式はなく、表計算ソフトを使って作成しても、市販のフォーマットを利用しても問題ありません。
ただし、記載すべき項目が抜けていないか、事前にチェックしておきましょう。とくに市販のフォーマットは、賃金台帳としての基準を満たしていないケースもあるため注意が必要です。
3-5. 記載ミス防止に向けて対策する
賃金台帳にはそれぞれの項目に細かな数字を記載する必要があります。そのため、人為的な記載ミスが発生しやすいといえるでしょう。賃金台帳の作成には、高い正確性が求められます。
記載ミスを防ぐためには、チェック体制を強化したり、アナログで入力する手間を省けるシステムを導入したりするなど、正しく記載する工夫を施すことが重要となります。見直しの工数を定着させるためにも、自社にてマニュアルを作成することも効果的です。
4. 賃金台帳の保存方法に関する3つのポイント
賃金台帳は作成するだけではなく、一定の条件を満たして保存しなければなりません。ここでは、賃金台帳の保存方法について3つのポイントで解説します。
4-1. 賃金台帳の保存期間は5年(当分の間3年)
賃金台帳の保存期間は5年間です。以前は3年間の保存で問題ありませんでしたが、令和2年の労働基準法改正により5年に延長されました。最後の記入日から起算して5年間、破棄することはできません。
間違って紛失したり処分したりすると労働基準法違反となるため、管理方法を明確に定めたうえで保存しておきましょう。
関連記事:賃金台帳の保存期間とは|違反しないための対応方法も解説
4-2. データとして保存する場合は要件を満たす必要がある
賃金台帳はパソコンで作成し、データとして保存しておいても問題ありません。ただし、誤って消去されない、長期にわたって保存できる、必要に応じて画面上に表示したり印刷したりできる、という要件を満たす必要はあります。[注3]
当然、紙で保存する場合と同様に、記載事項を網羅することも必要です。労働基準監督署の抜き打ち検査時などに、すぐ提出できるよう常に更新しつつ、正しい方法で保存しておきましょう。
4-3. 事業所ごとに保存する
賃金台帳は会社ごとではなく、事業所ごとに作成して保存するのが基本です。複数の事業所や支社がある企業は注意しましょう。
とはいえ、無理に紙ベースの賃金台帳を各事業所で保存する必要はありません。賃金台帳のデータを本社のサーバーで管理しておき、必要に応じて各事業所からアクセスして更新したり印刷したりする、という方法も認められています。
このように、賃金台帳を保存する場合いくつかの満たすべき条件などを把握しておく必要があります。当サイトでは、賃金台帳を含んだ法定三帳簿の作成方法から保管方法まで一冊で理解できるガイドブックを無料で配布しています。法律に則った賃金台帳の作成・保管をおこないたい方は、こちらからダウンロードして、お役立てください。
5. 効率のよい賃金台帳の記入方法
ここまで賃金台帳を作成するうえで注意すべき点を解説しました。
最後に、記載項目が多くミスが発生しやすい賃金台帳を、より効率よく作成するための方法を紹介します。
5-1. エクセルを使用する
自分で賃金台帳を作成しやすいように工夫したい人におすすめなのが、エクセルを用いた方法です。エクセルを業務上使用する機会がある人事労務のご担当の方にとっては、新しい操作方法を覚えなくても使いやすい点が魅力といえるでしょう。
また賃金台帳の記載項目をエクセルで入力していく場合は、必須項目が含まれていることが条件で、会社や担当者にとって最適なフォーマットにカスタマイズできるというメリットもあります。
5-2. 賃金台帳の見本を活用する
あらかじめ決められたフォーマットの賃金台帳を使いたい場合は、ネット上にあるテンプレートをダウンロードして使用するのがおすすめです。無料で使用できるものも多く、簡単に賃金台帳のフォーマットを手に入れることができます。
より安心してテンプレートを手に入れたい場合には、厚生労働省のホームページにあるテンプレートをご活用ください。正社員、パート、アルバイトといった「常用労働者用」と、「日々雇い入れられる者用」の2種類があるため、雇用形態に応じて使い分けることができます。
出典:厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)」
5-3. 給与計算システムを活用する
手書きやエクセルの手入力で発生しやすい人為的ミスを防止するためには、給与計算システムを活用することも効果的でしょう。
給与計算システムの中には、賃金台帳はもちろん、算定基礎届の自動作成がおこなえるものもあります。また勤怠管理情報と連携ができると、給与計算や賞与計算等も自動で完了するため大幅に業務工数が削減し、効率化が見込めます。
最後に、記載項目が多くミスが発生しやすい賃金台帳を、より効率よく作成するための方法を紹介します。
6. 必要事項を記載した賃金台帳を作成して適切に保存しよう!
今回は、賃金台帳に記載すべき項目や、保存するときの注意点などについて解説しました。賃金台帳には、従業員の氏名や性別のほか、深夜労働や休日労働の時間数、各種の手当や控除項目などを正しく記載しなければなりません。
正しい方法で保存することも重要です。間違って破棄すると罰則を受ける可能性もあるため、保存ルールを定めて適切に管理していきましょう。
「賃金台帳の作成方法や保管期間などがあっているか不安」
「賃金台帳を作成していない場合のリスクを知りたい」
など賃金台帳の取り扱いに関して不安な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方に向けて当サイトでは、『賃金台帳の作成ガイドブック』を無料で配布しております。記載する際に必要な項目や具体的な記入例をまじえながら、作成手順を詳細に解説しています。
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