昨今、働き方そのものや、働くことに対する個々の価値観が多様になり、複雑性が大きくなっています。
それに伴い、組織やメンバーマネジメントにおいて、従来のやり方だけでは通用せず、頭を悩ませている管理職の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
数多くの組織変革支援、管理職研修を実施してきたリンクアンドモチベーション社によると、管理職に関連する相談は年々増してきており、管理職の役割、メンバーとの向き合い方も大きな転換期を迎えていると言います。
この時代に求められている管理職像とは、どのようなものなのか。メンバーにとって理想の管理職になるためには何を意識していけばいいのか。
今回は『令和の時代の「デキる管理職」』をテーマに全5回の連載として、数多くの企業で管理職育成の支援をされてきたリンクアンドモチベーションの宮澤さんにお話を伺い、そのヒントを探っていきます。
【人物紹介】宮澤 優里 | 株式会社リンクアンドモチベーション MMEカンパニー カンパニー長
2008年 一橋大学を卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。一貫して大手企業向けのビジョン浸透・風土変革・育成に携わり、延べ150社以上を支援。顧客企業の組織変革を成功に導く傍ら、自社のプロダクト開発にも従事。コンサルティング部隊のマネジャーを経て、現在東日本大手企業向けの風土変革・人材育成領域の責任者を務める。また、個人の自立的な成長サイクルを実現する人材育成クラウド「ストレッチクラウド」の事業責任者を兼務。メディアでの解説実績多数。
目次
マネジメントの難易度が高まっている2つの背景
ー本日は『管理職の役割』をテーマに進めていければと思いますが、特に近年、マネジメントに苦戦されている話をよく耳にします。その背景から伺ってもよろしいでしょうか。
宮澤さん:ありがとうございます。大きく分けて「商品市場の変化」と「労働市場の変化」の2つが影響していると考えています。
流行り廃りのサイクルの「激化」が増す商品市場
宮澤さん:1つ目の商品市場の変化ですが、VUCAと言われるように外部環境の変化が非常に激しくなっています。
例えば、苦労してヒット商品を生み出したとしても、いずれは陳腐化し売れなくなりますよね。そうすると、次のヒット商品を模索していく必要がありますが、そのサイクルが非常に短くなっているのです。
同じことをやり続ければ勝てた時代から、常に変化に適応し続けなければならない時代となってきています。
お客様からも「イノベーションを起こしたいんです」というお話をいただくのですが、そのために既存のビジネスプロセスを見直してみたり、多様な人材を採用してみたり、試行錯誤をし続けて変化適応をしていくような組織が求められています。
そして、その牽引役としての管理職への期待が、非常に大きくなってきています。
価値観の多様化による、労働市場の「複雑化」
宮澤さん:もう1つの観点として労働市場の変化があります。
一昔前であれば、終身雇用が前提で入社したら辞めることは少ないので、画一的なマネジメントで組織運営ができていました。
一方で現在は、働き方の価値観が多様化しており、ジェネレーションギャップも大きくなっているように感じています。
また、雇用の流動性が高く転職が当たり前になっており、企業が個人を選ぶのではなく、個人も企業を選ぶ、相互選択の時代になっています。
よって、従業員から選ばれる会社になるために、個々に合わせた多様なマネジメントが求められています。
宮澤さん:さらに付け加えると、コロナ禍の影響が、よりマネジメントの難易度を上げてしまったように思います。
当社の中で、2020年と2021年のマネジメントサーベイのデータを比較したときに、戦略や役割などの「情報提供」について満足度が下がっていることがわかっています。
これは、コロナ禍のリモートワークに伴って顔を合わせない分、部下とのコミュニケーション機会が必然的に減少し、戦略や目標、役割を伝えることの難易度が上がってきているためです。
古今東西、変わらない管理職の重要な役割とは?
ー多様な働き方、価値観に合わせたマネジメントが求められる中で、管理職の役割として特に重視すべきことは何でしょうか?
宮澤さん:前提として、事業成果をあげていくことが第一です。そのための手段としてマネジメントがあります。これは昭和でも令和でも変わらない普遍的な部分だと考えています。ここを外してはいけません。
そして、そのために管理職の役割として大切なのが、組織と現場をつなぐ「結節点」としての役割です。
宮澤さん:上の図の左側の状態ですと、経営者からの理念やミッションの発信に対して、管理職の理解度が低く10しか伝わっていない。その結果、メンバーに落とし込んでも実現度は1になってしまう。これでは結節点としての役割を果たせていません。
当然、右側の状態を目指すことが理想となりますが、ただ理解して伝えるだけでも不十分です。
例えば管理職が理解度80で自分の言葉でしっかり伝えたとしても、メンバーからの信頼が欠けてしまっていたらどうなるでしょうか?
メンバーから信頼を集められていない管理職が、信頼を集められている管理職と同じことを伝えたとしても「あなたが何を言ってるんですか」と、まったく響かずにメンバーの実現度は下がってしまい、結局、左側に近づいてしまいます。
このように、管理職の方々に求められることは、今も昔も変わらずに上下左右の結節点として、社内外をつなぐ存在として活躍することです。
ただ、先ほど申し上げたように、現在の管理職の方々を取り巻く環境は、難しくなってきています。
経営からは、「長期的な視点で価値創造してほしい」「権限移譲して戦略的意思決定を任せたい」といった期待が増えています。
その一方で、短期視点で業績達成のためにも全力投球していくことが求められていて、目先のことを何とかするためにプレイングマネジャー化せざるを得ない状況もあります。
宮澤さん:加えて、人事からの要望も増えてきています。
「1on1を推進して、メンバーに寄り添っていきましょう」と、従業員エンゲージメントを高めるための動きも管理職に求められています。
宮澤さん:さらに加えて、メンバーからは、メンバーマネジメントに対して高い期待をかけられている状況です。
離職理由の本音の上位は、管理職のマネジメントに起因するものとなっています。
宮澤さん:雇用の流動性の高まりもあり、以前より簡単に転職できる時代になっているので、上手にマネジメントができないと、離職の原因に直結してしまいます。
普遍的な部分として、この結節点としての役割を果たすべきなのですが、板挟み状態になっているのが今の管理職だと思います。あらゆる方向から、あれもこれもと投げ込まれては、当然、パフォーマンスは出せないわけです。
一気にすべてを解決するのは当然難しいので、管理職の方々は「段階的な成長を遂げていく」ことが重要だと捉えております。
管理職が成長していくためのステップ
ー段階的な成長というと、どのようなステップで考えていけばよいのでしょうか?
宮澤さん:当社は、管理職を対象にマネジメント状態を診断するマネジメントサーベイを提供しています。累計779社・16,483名の結果から見えてきた「部下からの評価が高い・低いマネジャー特徴」を紹介します。
当社のマネジメントサーベイでは、
• メンバーが「何にどれくらい期待しているのか」
• メンバーが「何にどれくらい満足しているのか」
という2つの軸で360°サーベイを実施しています。
「期待が高くてかつ満足もできている」項目が多ければ、信頼度が高くなります。「期待は高いが満足度が低い」という項目がたくさんある管理職は信頼度が低くなる。そのようなイメージですね。
この回答状況を元に、管理職の方がどのくらいメンバーから信頼をされているかを数値化して、レーティングしています。
宮澤さん:ここからは、それぞれのレーティングについて詳細をご説明していきますね。
レーティングC・D(50%)
こちらは全体平均を下回ってしまっている層で、メンバーから信頼が集められてない『孤独な管理職』と言えます。
傾向としては、目標の提示や権限委譲といった部分は比較的できているのですが、「率先垂範不足」「心理的安全性がない」と思われていて、「あなたは先頭に立って戦えてないじゃないか」「私たちのことなんかわかってくれてないですよね」など、相互不信に陥っています。
レーティングB(30%)
レーティングBの方々は、プレイングマネージャーとして頑張っている方々で、『頼れるリーダー』のイメージですね。
「先頭に立って頑張ってくれている」「率先して行動・意思決定してくれている」という一方で、全社や自部署との結節や、メンバーの成長支援に課題があるケースが見られます。
レーティングA(15%)
Aランクの管理職は、『成果創出マネージャー』です。
全社視点で自部署の使命・目的をしっかりと伝えて、自らも動くだけでなく、メンバーの皆さんを主役にして、組織全体で成果を創出している方々のイメージになります。
レーティングAAA(5%)
最後に、上位5%と記載しているのがレーティングAAAの方で、組織成果の創出とメンバーのやりがいの創出を同時実現できている『組織の結節点』です。
ここが目指す理想像になりますが、事業の成果を出すことはもちろん、メンバーのキャリアや成長、成果創出を支援しています。これを両立できるのが、AAAのレベルです。
ーレーティングC・Dから、AAAに向かって段階を経ていくイメージですね。
宮澤さん:そうですね。例えばよくありがちなのが、1on1で「メンバーの業務やキャリアの相談に乗ってあげましょう」と実践している企業があると思うのですが、C・Dの状態でやっても効果が薄いんです。
それなのに、AAAのことをやらせようとしていて、ちょっとぎこちなくなるというか、そのレベルに達してない管理職の方が1on1をやってしまうと、かえってメンバーの不信感を募らせてしまうこともあります。逆に「何も話したくない」と思われて、表面上の会話で終始してしまうのです。
ーレーティングC・Dの状況にいる管理職の方々が状況を改善していくためには、まずは何をすべきでしょうか?
宮澤さん:やはり大事なのは信頼構築です。この「信頼」にも2つの側面で考えていただきたいです。
1つは「自分たちのことをわかってくれている」という信頼感ですね。メンバーは「自分たちのことをわかってほしい」というニーズが強く、これはデータからも見て取れます。
ですので、1on1をやるとしてもまずは「相手を理解する」ことに焦点をあててやるべきだと思います。自分を理解してもらうのではなく、メンバーを理解することに努めることですね。
もう1つが、成果に向けて「この人は先頭に立ち、リーダーシップをとって頑張ってくれている」「何かあったら守ってくれるだろう」という信頼感です。
信頼が欠けてしまっているケースでは、まずはこの2つの信頼が求められるでしょう。
ーサーベイによって可視化して、まずは自分がどの位置にいるのかを把握することは大事なことですね。
宮澤さん:まさにおっしゃるとおりで、弊社ではご支援させていただく際にも『ストレッチクラウド』というサービスを提供していますが、上記のようなサーベイを実施し、管理職の方の状態を把握することからはじめます。
そして、レーティングや項目における特徴・傾向を踏まえて、何がまず変えるべき成長課題なのかを明らかにしていきます。
例えば、Bの方であれば、Aになるための課題を洗い出し、そこに集中して取り組んでもらいます。
もし仮に、人事の方から「管理職にキャリアマネジメントもやってもらいたいです」という要望をいただいても、「サーベイ結果を見るとまだ早いと思います」といったイメージで、何にフォーカスして成長していくのかを、すりあわせていきます。
一律で何かしらの施策を打つではなく、一人ひとりの課題を明確にして、個々人のペースで丁寧に成長の階段を上っていくことが重要です。
そうした結果、管理職のスコアが上昇するにつれて、メンバーの従業員エンゲージメントが高まってきます。
そうなると主体性が高い組織になってくるので、メンバーが管理職に期待する項目も変わっていきます。管理職自身に対する要望というより、業務の背景・意義の伝達に関する項目や、顧客価値・評価の確認、といった項目への期待が高まる傾向が見られます。
管理職の成長とともに、組織・メンバーの目線もあがっていくので、やはり管理職は重要なポジションだと捉えております。
管理職は大変だが、非常に尊い役割である
ーありがとうございます。マネジメントの悩みは尽きないものと思いますが、最後に読者の方々に向けてメッセージをお願いできますでしょうか。
宮澤さん:私自身も管理職を任されていますが、やるべきことはわかっていても「そんなに簡単なことではないな」と日々感じております。
それでも、「メンバーの力を引き出して事業成果につなげていくことができるのは、やはり管理職しかいない」と思っているので、非常に尊い役割だと考えています。
宮澤さん:一方で、管理職になること自体がゴールではありません。
管理職こそ、先頭に立ってメンバー以上に前に進み続けていく、変わり続けていくことが、とても大事だと思っています。
ただ、それを1人でやるのは非常に骨が折れることなので、社内外で同じ立場に置かれている方と手を取り合って、頑張っていけたら良いですね。
多くのお客様をご支援させていただいている中で、みなさん悩みを抱えていらっしゃいますが、解消・解決できないものはありません。ぜひ、一緒に乗り越えていきましょう。
それでは、次回は「評価される管理職の育成」についてお話していければと思います。