働き方改革や新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、日本でも新たなスタンダードとして「リモートワーク」という働き方に注目が集まっています。
しかし、アメリカやイギリスと比較すれば、日本におけるリモートワーク普及率はまだまだ低い状況です。
本記事では海外でのリモートワーク普及状況や海外の事例を紹介するとともに、今後日本でリモートワークが普及するために取るべき行動について記載していきます。
1. 海外における「リモートワーク」の状況
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて浸透しつつあるリモートワークですが、2019年末時点においての普及率は20.2%と低い状況でした。(参照:総務省-令和元年通信利用動向調査の結果)
それでは、海外におけるリモートワークの普及率はどのような状況になっているのでしょうか。海外におけるリモートワークの普及状況について紹介していきます。
海外でのリモートワークの普及状況
海外におけるリモートワークの普及率を国別に見てみましょう。
アメリカ |
イギリス |
ドイツ |
フランス |
|
リモートワーク導入率 |
85% |
38% |
22% |
14% |
年間労働時間 |
1,789時間 |
1,704時間 |
1,371時間 |
1,473時間 |
参照:テレワーク情報サイト
アメリカ
アメリカのリモートワークの普及率は85%にも上り、大多数の企業でリモートワークが導入されています。
2010年には連邦政府による「テレワーク強化法」が成立しており、民間企業だけでなく公務員のリモートワークも推進されています。
イギリス
イギリスはヨーロッパの中でもリモートワークの普及率が高い国の1つで、普及率は38%となっています。
ヨーロッパは労働時間の短縮化や労働時間管理の観点で、リモートワークの普及率が高くない場合が多いです。
しかし、イギリスは元々長時間労働の習慣もなく、柔軟な労働時間制度も普及しているため、比較的に普及率が高い国となっています。
ドイツ
ドイツのリモートワークの普及率は22%と、日本と同程度の状況と言えるでしょう。
90年代の不況対策を背景に「ジョブシェアリング」が広く導入されたことで、労働時間の短縮化及び柔軟化が進みました。
リモートワークが、ワークライフバランスの施策として取り上げられていることがわかります。
フランス
フランスのリモートワークの普及率は、14%と日本よりも低い状況です。
これは、元よりフランスがワークライフバランスに配慮した文化があることが理由として挙げられます。
また、長時間労働抑制のために労働時間の管理や柔軟な労働時間制度も導入されていることから、リモートワークの必要性自体があまりない状況になっています。
リモートワーク浸透の背景には「評価制度の違い」
海外でのリモートワークの普及状況を紹介しましたが、特にリモートワーク先進国のアメリカと日本の間には、大きな差があることが見て取れます。
なぜ海外では日本よりもリモートワークが浸透している国があるのでしょうか。
その理由の1つとして、業務に対する評価制度の違いがあります。
日本では終身雇用を基本とした年功序列制度・メンバーシップ型雇用を採用している企業が多く、長く務めた人ほど評価される仕組みとなっている場合も多くあります。
そのため、上司から評価をされるには長時間労働をしてでも「仕事を頑張っている」という姿勢を見せることが必要になってしまいます。
対して、アメリカではジョブ型雇用が浸透しており、仕事内容と責任の所在が明確に定められています。
労働時間管理の制約は設けられておらず、また、成果主義の評価制度が確立しているため、目標に対する成果を出せばどこで勤務をしても同じという考え方が根付いています。
その結果、リモートワークの普及率が高くなっているのです。
2. 海外企業が懸念するリモートワークの問題点
以上のように、成果主義の評価制度が根付いている国では、リモートワークが浸透しやすい環境があります。
そのため、「日本は遅れているから、早くジョブ型雇用に移行するべき」という考えを持つ方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実は、アメリカではこのようなリモートワークに問題意識を感じている企業も少なくありません。彼らが懸念している点は、次の3つです。
①コミュニケーションの欠如による生産性の低下
リモートワークによってオフィス以外のどこでも仕事ができる反面、チーム全体でのコミュニケーションやチームワークが欠如するという問題が起こってしまう場合があります。
会社から離れた状態で仕事を進めることでチーム内での連携が薄くなると、組織で一体感を作りながら高度な成果を上げていくことができない可能性があります。
②従業員の勤怠管理・健康管理が行き届かない
リモートワークは自宅で仕事ができるため長時間労働になってしまうことが考えられます。
家事や育児が一段落した後に働くことになれば、自然と深夜まで働いてしまう可能性も出てくるでしょう。
そのため、長時間労働や深夜労働によって健康異常を訴える人も出てきており、社員一人ひとりの健康管理が難しくなってしまう可能性があります。
③作業環境が整備できず効率が落ちる
リモートワークを実施する上で業務を円滑に遂行するためには、作業環境の整備が必要不可欠です。
ネット環境はじめとした作業環境が悪いと、仕事の効率や生産性が落ちてしまう可能性もあります。
3. 海外企業の事例から見るリモートワーク実施のポイント
それでは、実際に海外企業でリモートワークを導入している企業では、「採用」「組織」「労務」の3面に関して、どのような対策を取っているのでしょうか。
海外企業のリモートワーク導入事例とともに紹介します。
採用活動はリモートでも社風の理解が進むように設計
リモートワーク環境下においての採用活動は、「Zoom」や「Calling」といったWeb会議システムを利用することで面接を実施することが可能です。
日本でも普及し始めている方法ですので、比較的簡単にイメージすることができるかもしれません。
一方で、リモートワーク中における採用では「候補者が社風を理解できるか」という点に注意が必要です。
候補者の中には、実際のオフィスやそこで働いている社員の雰囲気を感じ取ることができず、「この会社に入ってよいのか」という不安を抱えてしまったり、入社後にミスマッチを感じてしまったりする人も多くいます。
アメリカの医薬系企業Constellation社では、こういった候補者の不安を払拭するべく、動画を使ったバーチャル・オフィスツアーを実施して企業の雰囲気を掴んでもらう工夫をしています。
相手を意識したコミュニケーションで組織の生産性低下を防ぐ
リモートワーク環境下で適切なコミュニケーションをおこなうためには、「相手が今どのような状態にあるかを意識する」ことが重要になります。
相手の状況が見えない時には「即レスポンス」を求めたくなりますが、相手は相手の優先事項があるため、すぐに返答を要求することを避けた方が良いでしょう。
また、リモートワーク歴が20年以上もあるアメリカのIT系企業Basecamp社では、社内でのコミュニケーションを主に「長文の文章でおこなう」とのことです。
文章を書くことで考えがブラッシュアップされたり、将来振り返ったりすることも可能になります。
適切なタイミングで、適切な内容の発信を心掛けることで、組織としての生産性を向上させることにつながっていきます。
「成果主義」「労働裁量制」を適切に組み込むことが大事
また、労務面においては、勤怠管理がしにくく長時間労働につながったり、従業員1人ひとりの業務評価がしにくい場合が考えられます。
もちろん、「成果主義」「労働裁量性」も併せて導入することを検討していかなければならない場合もあるでしょう。
成果主義の考え方が確立している企業では、成果や目標達成によってきちんとして業務評価を受けるシステムも整っています。
また、アメリカでは労働時間管理の制約がなく、アメリカについでリモートワークの普及率の高いカナダにおいては年間の総労働時間が1700時間までと決まっていたりと、決められた労働時間の範囲内で、自分の裁量で働くことができます。
自社の評価制度や社内制度を構築する上では、こういった国々の事例を参考に、自社に合わせた形で取り入れていきましょう。
4. 日本におけるリモートワークの未来
ここまで海外におけるリモートワークの現状と導入事例について紹介してきました。
アメリカやイギリスなどのリモートワーク普及率が高い国と比較すると、日本でリモートワークが普及するには、まだまだ課題が多くあります。
今後、日本でリモートワークはどのように浸透するか?
日本では、働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて半ば強制的に、リモートワークの導入が進みました。
しかし、日本の多くの企業では、まだ終身雇用や年功序列制度などの高度経済成長期を支えた組織文化が根強く残っています。
日本型の人事制度(終身雇用や年功序列制度)のままリモートワークを実施すれば、生産性は上がるどころか、むしろ下がる可能性もあります。
まず、日本でリモートワークが浸透するためには、評価をおこなう人事部やマネージャー陣が「仕事のプロセス」だけでなく、「仕事の成果」も重要視するマインドに切り替えていく必要があるでしょう。
日本の雇用環境に合わせた「成果主義的な人事制度」を
リモートワークが浸透している国や企業では、「時間・場所問わず、求められた目標に対しての成果物を出すことで正当な評価を受ける仕組みが整っているからこそリモートワークが定着している」ことがわかります。
これまでの日本企業の評価基準では「仕事をした」という事実を評価していることが多く、明確な成果物が無くても評価の上で大きな問題が無かった場合も多いことでしょう。
これらを成果主義的なものに即座に変えることは、なかなか難しいと思います。
いきなり、完全な成果主義的な評価制度を目指すのではなく、リモートワークを実施することで効率的にできる仕事と非効率的な仕事を切り分けた上で、仕事のプロセスを見ることができるようにすることが大事になるでしょう。
リモートワークは勤務中に何をしているかを監視されることはありません。しかし、監視されないからといって、何もしなければ成果は発生せず、その人自身の価値はゼロになって当然です。
「週3日リモートワークで、残りを出社する」といったようにメリハリをつけたりすることで、日本の形式にあった形でリモートワークを浸透させていくこともできるかもしれません。
5. まとめ
今回は海外におけるリモートワークの現状と導入事例を中心に紹介した上で、日本におけるリモートワーク導入にあたっての課題点と海外から学ぶリモートワーク事例について述べました。
日本におけるリモートワークの浸透には評価制度を再考しなければならないと思いますが、その際に大事なことは「日本の雇用環境に合わせた形でリモートワークの制度をさせること」でしょう。
日本企業のモデルとなりうる海外の動向からは、今後も目が離せません。