人事計画(英語:HR Planning)とは、経営戦略に基づき組織が事業を進めるために必要な人材の質や量を定義した計画のことです。この記事では、人事計画とは何か意味や目的を、要員計画、人員計画、採用計画との違いを踏まえながらわかりやすく解説します。また、人事計画のメリット・デメリットや、人事計画書の作成方法の手順も紹介します。
目次
1. 人事計画とは?
ここでは、人事計画とは何か、その意味や定義を紹介します。また、人事計画の目的についても解説します。
1-1. 人事計画の意味や定義
人事計画とは、経営戦略や事業目標を実現するために、自社にどのような人材が必要か定め、適切に人材を管理するための計画を意味します。人事計画は、英語では「Manpower Planning」や「Human Resources Planning」などと表現されます。 人事計画には、採用活動だけでなく、人材配置や人材育成など、必要な人材を確保するための一連のプロセスが含まれます。
1-2. 人事計画の目的
人事計画の大きな目的は、経営目標やビジョンの観点から、効率よく事業を進めるために必要な人材を確保・活用するためのプロセスを明確にし、組織の成長につなげることです。人事計画を定めても、それに基づき行動に移さなければ、意味がありません。人事計画は、経営目標を達成するための手段であり、それを策定することが目的にならないよう注意しましょう。
2. 人事計画と類似する用語との意味の違い
人事計画と似た意味を持つ用語はいくつかあります。ここでは、人事計画の意味を正しく理解するためにも、人事計画と要員計画、人員計画、採用計画それぞれの違いについて詳しく紹介します。
2-1. 人事計画と要員計画の違い
要員計画とは、事業の遂行に必要な人員数や人材の要件を決めるための計画を意味します。人事計画と要員計画の違いは、策定の目的です。要員計画は、事業計画の遂行を目的として策定されます。一方、人事計画は、経営目標に基づき人員の計画を実施します。このように、人事計画が経営目標達成のための長期的計画であるのに対し、要員計画は事業の立ち上げから成功までを対象とした中長期的な計画という違いがあります。
2-2. 人事計画と人員計画の違い
人員計画とは、事業計画を達成するために、各部署の必要な人材の要件、人材の配置を決める計画のことです。人員計画と要員計画は同じような意味で用いられますが、人員計画は「どのような人材が必要か」という質的な側面を考慮して計画が立てられます。一方、要員計画は「何人必要か」という量的な側面に着目して計画がおこなわれます。
このように、人員計画は要員計画と近い関係にあり、人事計画とは策定される目的に違いがあります。つまり、人事計画は経営目標に基づき長期的な目線で人材の計画が実施されるのに対し、人員計画は事業を遂行するため短期的な目線で必要な人材についての計画がおこなわれます。
2-3. 人事計画と採用計画の違い
採用計画とは、採用活動における採用基準、採用人数、選考方法などに関する計画を意味します。人事計画と採用計画は、目的だけでなく、指し示す範囲や内容に大きな違いがあります。人事計画は、組織目標を実現するために設計される総合的な人材に関する計画を指します。そのため、採用だけでなく、人材配置や人材育成なども内容に含まれます。
一方、採用計画は、採用にターゲットを絞り、自社に必要な人材を確保するための計画のことです。また、採用計画は、人事計画や要員計画・人員計画に基づき設計されます。このように、人事計画と採用計画の関係性を押さえると、意味の理解が深まりやすくなります。
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3. 人事計画を策定するメリット
人事計画を策定することで、さまざまなメリットが得られます。ここでは、人事計画を策定するメリットについて詳しく紹介します。
3-1. 人材を有効活用できる
人材は、組織にとって重要な経営資源の一つであり、最近では人材を資本として捉える「人的資本」の考え方も普及しつつあります。少子高齢化の影響もあり、人材確保や人材活用に苦戦している企業は少なくないでしょう。少ない人材で大きな成果を生み出すためには、従業員一人ひとりの価値を最大限に引き出すことが求められます。
経営戦略や事業目標を実現するという観点から人事計画を策定すれば、組織のニーズにあった人材の獲得・育成・活用が可能になります。また、人事計画にあわせて適切に人材を確保することで、人材を有効活用し、事業を効率よく進めることができるようになります。
3-2. 生産性の向上につながる
人事計画を立てることで、計画的に人材の採用や育成、配置ができるようになります。組織が求める人材を明確にし、それにあわせて人材を採用や育成などにより確保し、適性にあわせて配置をおこなえば、人材の価値を最大限に高めることが可能です。
従業員一人ひとりが自分の能力を発揮できる仕事に就けることで、生産性の向上が期待できます。また、人事計画を達成するため、必要に応じて、ITシステムを導入したり、業務の一部をアウトソースしたりすれば、従業員はコア業務に集中できるようになり、業務効率化にもつながります。
3-3. 人事コストの削減が見込める
人事計画を策定すると、経営に必要な人材を把握できるとともに、不必要な人材の整理もおこなえます。自社にとって本当に必要な人材を見極めることで、無駄な採用を減らすことなどにつながり、人事コストを削減することが可能です。また、人事計画に基づき、必要な人材を中途採用から獲得すれば、即戦力となる人材を素早く確保でき、育成コストの削減にもつながります。
3-4. 優秀な人材を育成しやすい
経営目標の実現という観点から人事計画を策定するには、現状の従業員一人ひとりの価値観やスキルなどの人材情報を把握する必要があります。組織の理想像と現状を比較して、不足している人材を育成することで、組織において高いパフォーマンスを発揮する優秀な人材を早期に育成することが可能です。たとえば、次世代リーダーが育っていないことが明らかになれば、人事計画を策定して、早いうちにポテンシャルのある若い人材をマネジメントのポジションに配置して、次の組織の中核を担うリーダーを計画的に育成することができます。
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3-5. 従業員エンゲージメントが向上する
自社の人材の適性を理解せず、組織が一方的に人事計画を立てても、従業員は付いてこず、経営目標を実現できない恐れがあります。人事計画を策定する過程で、従業員一人ひとりの能力やキャリアを可視化することが求められます。また、人事計画を通じて、従業員に組織のビジョンが共有されます。
組織と従業員のニーズを合致させたうえで、人事計画に基づき、キャリア開発を含め人材配置や人材育成などの人事施策を実施することで、従業員のモチベーションを維持・向上させることが可能です。結果として、従業員エンゲージメントも高まり、離職率の低下や定着率の上昇につなげることができます。
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4. 人事計画を策定するデメリットや注意点
人事計画を正しく策定しなければデメリットが生じる可能性もあります。ここでは、人事計画を策定するデメリットや注意点について詳しく紹介します。
4-1. 経営戦略や事業目標と連動させる
人事計画を策定する目的は、経営戦略や事業目標を実現することです。そのため、人事計画は、経営戦略や事業目標と紐づけて設定することが大切です。経営目標と連動した人事計画が策定されれば、一貫性のある採用活動や人材育成、人材配置といった人材施策が実施できるようになります。
また、人事計画は、要員計画や人員計画の指標にもなります。人事計画に一貫性がなく、曖昧になってしまうと、それを基にした計画も正確に立てられず、プロジェクトが失敗に終わってしまうリスクがあります。このように、人事計画の重要性を正しく理解し、経営戦略や事業目標と連動させて適切な人事計画を策定しましょう。
4-2. 定期的に見直しが必要
昨今ではグローバル化や技術進歩により、市場環境が目まぐるしく変化しています。そのため、時代や社会の移り変わりにあわせて、一度立てた人事計画をアップデートさせなければ、時代にそぐわないものとなってしまい、効果的な人事施策を実現できない恐れがあります。このように、人事計画は定期的に見直しが必要になり、時間やコストがかかるというデメリットがあります。予算や担当者を明確にし、あらかじめリソースの最適化をおこなっておきましょう。
4-3. 人事計画を頻繁に変えない
人事計画が時代や社会のニーズにあっているか定期的にチェックすることは大切です。しかし、人事計画を頻繁に変えると、従業員は何を目指せばよいのかわからなくなり、混乱を招き、会社に対する不満につながる恐れがあります。そのため、人事計画を変更する際は、そのタイミングをきちんと見極めましょう。
また、人事計画は、経営戦略や事業目標と紐づけて策定されます。人事計画が上手くいかないのは、非現実的な経営戦略や事業目標が原因である可能性もあります。そのため、人事計画が計画通り進まない場合、原因を追究したうえで、経営戦略や事業目標の見直しを検討してみることも重要です。
4-4. 過去の人事計画における課題を反映させる
人事計画を策定する際は、過去の人事計画における課題も反映させるようにしましょう。たとえば、採用活動で必要な採用人数を満たせなかった場合は、求めている人材の質、要件が厳しすぎる可能性があります。十分な人員数にもかかわらず、人材不足が解消されない場合は、より高いスキルや能力の人材の確保が必要です。
過去の計画と実績のギャップを調査し、問題点を精査したうえで、具体的な改善策を講じていきましょう。また、人事計画の策定・実行後は、評価をおこなうことが大切です。効果を測定して、思うような結果が得られなかった場合は、再び計画を見直し、改善策を検討しましょう。PDCAサイクルを回して、人事計画を継続的に改善することが、経営目標達成のための近道になります。
5. 人事計画書の作り方のステップ
人事計画書の作り方の手順を理解しておくことで、効率よくスムーズに人事計画書を策定することができます。ここでは、人事計画書の作り方のステップについて詳しく紹介します。
5-1. 人材情報を整理する
人事計画を立てるためには、現状の人材について正しく理解する必要があります。そのため、まずは自社の人材情報を整理しましょう。人材情報を整理する際は、次のような項目に沿って情報をまとめ、データベースを作成しましょう。
- 氏名
- 性別
- 生年月日・年齢
- 現在の所属・職位・役職
- 在職期間
- 雇用形態
- 給与
- 保有資格
- 専門性
- キャリア志向
- 異動履歴
- 異動希望
- 懲戒処分の有無
- 家族構成 など
項目に抜けや漏れがあると、従業員の人材情報を正しく把握できず、誤った人事計画書の作成につながるため、慎重に人材データベースは作成するようにしましょう。また、構築したデータベースから従業員一人ひとりの価値観やスキルを差別化して可視化できるかチェックしてみることも大切です。
5-2. 必要な人材の質・特性を把握する
人材情報を整理したら、次に自社に必要な人材の質・特性を把握します。組織の求める人材像を確定させ、どのような人材なら経営目標を達成できるか細かく分析しましょう。その際は、最適な人材配置や人材育成ができるよう、現場の人材ニーズを調査することが大切です。また、将来ニーズが変わる可能性を考えて、次のような項目についてもあらかじめリスク分析をしておきましょう。
- 従業員の定年退職・離職の可能性
- 合併または買収の可能性
- 提供が予定されている新しい商品・サービス
- 設備投資の予定
- 経済による経営状況の変化
- 競合他社の人事状況
幅広い切り口から情報をまとめておくことで、状況に応じて自社が求める人材を割り出しやすくなります。
5-3. 必要な人員数を算出する
自社の人材を量的観点から見極めるため、必要な人員数を算出します。人員数の算出方法は、「マクロ的手法(トップダウン方式)」と「ミクロ的手法(ボトムアップ方式)」の2種類があります。
マクロ的手法(トップダウン方式) |
(労働分配率 × 付加価値率 × 年間売上高) ÷ 1人分の人件費 |
(目標売上高 × 適正人件費率) ÷ 1人分の人件費 |
|
ミクロ的手法(ボトムアップ方式) |
総業務量 ÷ (所定労働時間 × 1人の標準業務量) |
マクロ的手法では、人件費の予算をベースに適切な人員を算出するため、人事コストを必要最低限に抑えられます。一方、予算内に人員を抑えようとすると、必要な人員を十分に確保できない恐れがあることに注意です。
ミクロ的手法では、業務量をもとに必要な人員を算出するため、人員不足の解消に役立ちます。ただし、網羅的に人員を満たそうとすると、予算をオーバーすることになりかねません。いずれの方法においても、自社の財務状況とのバランスを考えることが重要です。
5-4. 人事計画書にまとめる
自社の人材情報や必要な人材の質・量を踏まえて、人事計画書を作成します。人事計画書を作成する際は、各事業、部署における人事を緊急度、優先度によって整理することがポイントです。人事の緊急度、優先度を見極めることで、先にどのような人材をどれくらい揃えるべきかがわかり、人事計画が効率的に進みます。あわせて、新たな人材を採用すべきか、アウトソースやITシステムを活用すべきかも決めましょう。
5-5. 人事計画書をチェックする
人事計画書が作成できたら、実際に実行に移す前に、管理職や経営陣の人達にチェックしてもらうことが大切です。現状を正しく洗い出せているか、経営戦略や事業目標と紐づいているかなど、あらかじめ確認してもらいたい項目を定めておくと、精査してもらいやすくなります。
人事計画書のチェックが完了したら、実際に人事計画書に基づき、施策を実施しましょう。定期的に計画と実績に乖離がないか振り返りをおこない、必要に応じて改善を実施することが大切です。
6. 人事計画書の作成を効率化するためのツール
人事計画書を作成する場合、ITツールを活用することで、効率よく正確な人事計画書を作成することができます。ここでは、人事計画書の作成を効率化するためのツールについて紹介します。
6-1. エクセルやスプレッドシート
ExcelやGoogleスプレッドシートは、普段から使い慣れているツールであり、多くの従業員に馴染みがあるため、スムーズに人事計画書を作成して、共有することが可能です。また、既に導入してれいれば、新たなコストがかからない点もメリットといえます。さらに、インターネット上などにある人事計画書のフォーマット・テンプレートを用いてカスタマイズすれば、効率よく人事計画書を作成することができます。
6-2. タレントマネジメントシステム
タレントマネジメントシステムとは、人材の採用から育成、評価、配置、キャリア開発までのデータを一元管理し、人事業務の効率化や戦略的な人材配置を支援するためのツールです。タレントマネジメントシステムを活用すれば、従業員の基本情報に加えて、能力や技術といったタレント情報もシステム上で管理することが可能です。これにより、従業員の現状のスキルを客観的に把握することができます。
また、タレントマネジメントシステムであれば、リアルタイムで情報を更新できるため、情報共有や意思決定を早めることが可能です。さらに、分析やシミュレーションといった機能も搭載されているので、自社の課題を分析し、具体的な解決策をシミュレーションを通じて検討することができます。タレントマネジメントシステムにより、現状を正しく把握したうえで、人事計画書を作成し、人事施策を計画的に実施することで、効率よく組織の成長へとつなげることができます。
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7. 人事計画を効率よく策定して組織を活性化させよう!
経営戦略や事業目標と結び付けて人事計画を策定すれば、一貫性のある人事施策を実施し、効率よく組織の成長へとつなげることができます。人事計画書に基づき人事施策を実施したら、その効果を検証し、計画と実績が一致しているかチェックすることが大切です。計画通りにいっていないのであれば、改善が必要になります。人事計画の作成や人事施策の実施を効率化したい場合、タレントマネジメントシステムなどのITツールの導入も検討してみましょう。