従業員が有給休暇を取得したときは、正しい方法で給料の金額を計算しなければなりません。いくつかの計算方法があるため、しっかりと理解したうえで適切な金額を支払いましょう。この記事では、有給休暇の賃金計算やパート・アルバイトの有給休暇について、わかりやすく解説します。
関連記事:【有給休暇】徹底ガイド!付与日数・年5日取得義務化・法律と罰則を解説
有給休暇では給与が発生するため、適切な方法で計算して従業員に支給する必要があります。
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目次
1. 有給休暇の付与条件・付与日数
有給休暇を取得した際に支払う金額を計算する前に、そもそも有給休暇の付与条件を確認しておきましょう。有給休暇の付与には、以下の2つの条件が満たされている必要があります。
- 雇い入れの日から半年以上継続して勤務している
- 全労働日の8割以上出勤している
この条件を満たしている場合、パートやアルバイトの従業員を含むすべての労働者に有給休暇を付与しなければならない点に注意しましょう。
1-1. 有給休暇の付与日数は勤続年数によって異なる
有給休暇の付与条件を満たしたフルタイム労働者の場合、有給休暇の付与日数は以下のように勤続年数に応じて異なります。
継続勤務年数を確認し、正しい有給休暇日数を付与しましょう。
1-2. パートやアルバイトの有給休暇の日数
パートやアルバイトなどの週所定労働日数が5日未満の従業員には、以下の表のように有給休暇を付与します。
このように、有給休暇の付与日数は従業員によって異なります。とくに、パート・アルバイトを雇用している企業は、法律に則って有給休暇を付与できているかの確認が必要です。当サイトでは、有給休暇の法律に則った付与ルールや正しい管理方法が確認できる資料を無料で配布しています。法律に則って有給休暇を管理したいという方は、こちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
関連記事:【図解】有給休暇の付与日数がひと目でわかる!付与要件や最大日数の求め方
1-3. 有給休暇を取得させることは企業の義務!
2019年4月に働き方改革関連法が施行されたことにより、10日以上の有給休暇が付与される従業員については、年5日以上の有給休暇を取得させることが義務化されました。有給休暇を取得できるような対応をおこなわないと、企業側に30万円以下の罰金が科せられるため注意が必要です。
また、有給休暇に関する給与計算についても理解を深めておく必要があります。有給休暇を取得する従業員が増えてくるため、スムーズに対応できるよう計算のルールをしっかりと理解しておきましょう。
2. 有給休暇を取得した際の給与金額の計算方法パターン
労働基準法では、有給休暇を取得した際に企業が支払うべき賃金の計算方法が3パターン定められています。企業は従業員が有給休暇を取得した際に、以下のいずれかの方法で賃金を支払わなければなりません。
また、どのように有給休暇の賃金を支払うかは就業規則に定め、会社全体で統一されている必要があります。部署や個人によって変えるということはできないので、注意が必要です。
2-1. 通常の出勤日と同じ金額の給料を支払う
1つ目は、通常出勤した場合と同じ金額の給料を支払う方法です。有給休暇を取得した日を通常の出勤としてカウントして給与計算をすればよいため、他の計算方法よりも処理業務が簡単です。
月給制の場合は、有給休暇の取得日数に関係なく、通常通り給与計算を進めれば問題ありません。時給制の場合は、通常の出勤日と同じように「所定労働時間×時給」で給与金額を計算しましょう。
2-2. 平均賃金と同じ金額を支払う
2つ目は、直近3カ月の平均賃金を求めて、その平均賃金と同じ金額を支払う方法です。平均賃金を求める方法は2つあり、金額の高い方を平均賃金として使用します。
計算方法:
⑴直近3カ月の賃金総額 ÷ 3カ月の暦日数
⑵直近3カ月の賃金総額 ÷ 3カ月の労働日数×0.6
平均賃金を算出する場合、1点注意しなければならないのが最低保証額についてです。
直近3カ月の暦日数のうち、土日祝日が多く労働日が少なかった場合などに、⑴の計算方法を用いると賃金が少なくなる場合があります。そのような場合は、最低保証額を上回っているかを確認しなければなりません。
最低保証額の計算方法は、⑵の計算方法となります。つまり、2つの計算方法で算出した額の大きいほうを採用する必要があります。
2-3. 標準報酬月額から支払うべき金額を算出する
標準報酬月額とは、健康保険料を算出する際に使用され、従業員それぞれの月額報酬を区切りのよい幅で区分したものです。標準報酬月額は年度や都道府県ごとに変動するので、年度初めには会社が拠点を置く都道府県の標準報酬月額を確認しましょう。
標準報酬とは、基本給に加えて諸手当など企業から現金または現物で支給されるものを指します。標準報酬には臨時に支払う報酬や、支給回数が年3回以下の賞与、交通費は含まれません。
標準報酬月額はすでに算出されているものなので、下記の通り、その値を日割りにするだけで支給する金額を算出することができます。
そのため、平均賃金を用いた計算方法に比べて処理業務が簡単です。
1つ注意すべきなのは、標準報酬月額を用いて有給休暇の賃金を計算する場合、事前に企業は従業員との間で労使協定を結ぶ必要があります。
2-4. 半日や時間単位の有給休暇を取得した際の給与金額の計算方法
半日単位や時間単位の有給休暇を取得させた場合、上記3つの計算方法で算出した1日の賃金のうち、働いた時間分のみ支給します。
半日単位や時間単位の有給休暇を取得させた際の賃金計算方法も、日単位による有給休暇の取得と同様に、計算方法を就業規則等に定める必要があります。
2-5. パートやアルバイトが有給休暇を取得した際の給与金額の計算方法
パートやアルバイトが有給休暇を取得した場合の計算方法は、正社員と同様です。先ほど紹介した3つの計算方法のなかから、最適なものを選びましょう。パートやアルバイトは時給制で働くケースが多いため、通常の出勤日と同じように「所定労働時間 × 時給」で計算するのが一般的です。
3. 有給休暇を使うと給料の金額は減る?
企業は従業員が有給休暇を取得した際、給料を確実に支払わなければなりませんが、支払う賃金の計算方法によっては、出勤するよりも給料の金額が減るということもあります。
給料が減るパターンは下記の通りです。
3-1. 平均賃金で計算したとき
平均賃金は休みの日まで含めた日数で計算するため、直近3カ月間に土日などの休日が多く労働日が少ない場合、金額が減る場合があります。状況によっては少なくなりすぎる場合もあるので、「3カ月の賃金総額 ÷ 労働日数 × 0.6」で算出された金額が最低保証額として設定されています。
3-2. 標準報酬月額で計算したとき
標準報酬月額は一定の範囲内の月給を区分して、中央値に近い値を設定しているため、その中央値よりも月給が多い場合は金額が減ることもあります。
たとえば、月給が21万円の労働者の場合、標準報酬月額は20万円となります。また、標準報酬月額には上限があり、従業員がその上限よりも多い月給をもらっていたとしても標準報酬月額の上限で計算されるため、有給休暇における給与金額は少なくなってしまうのです。
このように、計算方法によっては普段通り出勤したときの給料よりも金額が減る場合がありますが、有給休暇を取得したからといって故意に金額を減らすのは労働基準法違反となるので注意しましょう。
4. 有給休暇の給与金額計算で注意すべき8つのポイント
有給休暇の給与計算をするときには、注意すべきポイントが8つあります。それぞれの注意点について詳しく確認しておきましょう。
4-1. 給与計算の方法は就業規則に記載する
有給休暇の給与計算方法は複数あり、方法によっては金額が変わる可能性があるため、就業規則に明記しておく必要があります。トラブルを防ぐためにも、どの計算方法を用いるかを事前にしっかりと記載しておきましょう。
関連記事:有給休暇を定める法律「労働基準法」を解説!違反時の罰則や退職者の対処法
4-2. 有給休暇の給与金額の計算で業務量が増える場合もある
有給休暇の賃金計算は、従業員一人ひとりの分を算出しなければなりません。従業員数が多ければ多いほど、業務量は増えます。
また、有給休暇を取得する日程がバラバラの場合、管理はより複雑になります。紙管理やエクセルなどで手作業をしていると、有給休暇の処理業務に追われたり、入力ミスが発生したりするケースも多いでしょう。
有給休暇の管理を効率化するためには、勤怠管理システムを導入するのがおすすめです。勤怠管理システムのなかには、有給休暇の付与日数や、有給休暇を取得した際に支払う賃金の計算を自動化できるものもあります。このようにシステムを活用することで、有給休暇の処理業務以外に時間が割けるため、処理業務に追われている場合は導入を検討してみると良いでしょう。
4-3. 最低賃金を下回っている場合の対応について
有給休暇の賃金を計算した後、その値が最低賃金を下回っていた場合でも労働基準法上は違法ではありません。
法違反ということにはなりませんが、最低賃金を下回らないような設定をする、または支給方法を明確にして従業員へ説明できる状態にしておくと良いでしょう。
4-4. 標準報酬月額を用いる際は労使協定を事前に結ぶ
標準報酬月額を用いて賃金の計算をおこなう際には、固定給から変動する可能性があるため、あらかじめ労使協定を結んだうえで就業規則に記載しておく必要があります。労使間のトラブルを防止するためにも、お互いに納得した形で進めましょう。
4-5. 有給休暇は2年で消滅する
有給休暇は付与してから2年で消滅してしまいます。付与した年の翌年までは繰り越すことができますが、それ以上は繰り越せないため、早めに消化してもらうことが大切です。
また、有給休暇を1年で消滅させるなど、会社独自のルールを設定することはできません。有給休暇を2年間保有することは従業員の権利であるため、勝手に消滅させないよう注意しましょう。
4-6. 有給休暇を取得した際の通勤手当の扱い
従業員が有給休暇を取得した際、通勤手当の支給をするかは企業が選択することができます。ただし、有給休暇を取得した際に通勤手当を支給しない場合は、あらかじめ就業規則に記載しておくと良いでしょう。主な理由は2点あります。
・有給休暇を取得した際に不当な扱いをしてはいけないから
・有給休暇の賃金計算方法を「通常の出勤日と同じ額の給料を支払う」にしていた場合、所定労働時間を就労した場合に支払われる通常の額を支払わなければならないから
通勤手当は本来支給義務はないので、支払うかどうかは企業の自由ですが、元々支給していて、有給休暇を取得した日の分を控除すると、従業員が不満を抱く可能性もあります。
また、通勤のために定期券を購入している従業員がいる場合、有給休暇を取得したことによって従業員の通勤にかかる負担が減るわけではないので、通勤手当を控除しないのが一般的です。
4-7. 有給休暇を取得した際の皆勤手当の扱い
皆勤手当を支給している場合は注意が必要です。有給休暇を取得した従業員に対して、皆勤手当を支給しないという対応をしたことで、労使間のトラブルが発生する可能性もあります。実際に裁判にまで発展したケースもあるため、適切な判断をすることが大切です。
4-8. 有給休暇の賃金は年収に含まれる
有給休暇の賃金は通常の賃金と同様、給与所得に含まれるため、年収の算出をする際にもカウントします。そのため、アルバイトの従業員の扶養上限を算出する場合や、所得税・住民税の計算をする際にも有給休暇の賃金を含んだうえで計算する必要があります。
年収の算出をする際には、有給休暇の賃金も含めるよう注意しましょう。
5. 有給休暇を買い取ることは原則できない
有給休暇を買い取ることは原則できません。有給休暇は、従業員の心身の健康を維持し、継続的に働いてもらうためのものであるため、適切に取得させるようにしましょう。ただし、以下のような場合には買い取りが認められています。
- 退職時に消化しきれない有給休暇があるケース
- 時効で消滅する有給休暇を買い取るケース
- 法律で定められた以上の有給休暇が付与されているケース
基本的には有給休暇を取得しやすい環境を構築し、買い取りはできる限り避けましょう。
5-1. 有給休暇を買い取るときの金額
有給休暇を買い取るときの金額について、とくに法律による決まりはありません。企業の判断によって、自由に買取金額を決めることが可能です。ただし、あまりにも安い金額を設定すると、労使間のトラブルが発生する可能性もあるため注意しましょう。
有給休暇を取得した際の賃金と同額にするなど、従業員の不利益とならないよう配慮することが大切です。
6. 有給休暇の給与金額が間違っていたときの対応方法
有給休暇を取得した際の給与金額が間違っていた場合は、すぐに対応しなければなりません。計算ミスにより実際より少ない金額を支給してしまった場合などは、不足分を支払う必要があります。該当する従業員にしっかりと事情を説明することも大切です。逆に、実際より多い金額を支給してしまった場合は、該当する従業員に返還請求をしましょう。
6-1. 有給休暇の給与は3年間請求できる
有給休暇は2年で消滅してしまいますが、有給休暇に対する給与は3年間請求できます。もし有給休暇に対する給与を支払っていない場合は、3年間は従業員からの請求に応じなければなりません。そもそも給与の支払い漏れがないよう、しっかりと管理することが大切です。
7. 有給休暇取得時の賃金や金額の計算方法を理解しよう
従業員が有給休暇を取得した場合の賃金の計算方法は、①通常の出勤と同じ額の給料を支払う方法、②平均賃金を支払う方法、③標準報酬月額を支払う方法の3パターンがあります。
平均賃金と標準報酬月額を用いて計算すると、場合によっては出勤した場合よりも金額が少なくなることがあります。
いずれの方法にもメリット・デメリットがあるため、それぞれの企業に合った方法を選択するのが好ましいでしょう。
有給休暇では給与が発生するため、適切な方法で計算して従業員に支給する必要があります。
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