「所得税」とは給与や賞与など個人の所得に対して課せられる税金です。
会社からは給与だけでなく、出張の際に使った電車などの交通費を支給するケースもありますが、交通費には、所得税は課せられるのでしょうか。
本記事では、交通費の所得税が課税されるかについて詳しく解説します。また、通勤手当に課税されるか、課税されるケースとされないケースなどについても解説するため、ぜひご確認ください。
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1. 交通費と通勤手当の違い
そもそも、交通費と通勤手当にはどのような違いがあるのでしょうか。所得税が発生するかを確認する前に、何が交通費に該当して何が通勤手当に該当するかを今一度おさらいしましょう。
1-1. 交通費とは
交通費とは業務中の移動にかかる費用と定義されています。
出張などで移動する際に電車や飛行機を使うことがあります。もちろん、電車代や飛行機代が発生するのですが、これが交通費です。他にも営業などで客先に移動する際にタクシーを使った場合のタクシー代も交通費となります。
業務上発生している費用のため、会社が支給しなくてはいけません。
1-2. 通勤手当とは
それに対して通勤手当というのは、会社に通勤するためにかかる費用のことです。通勤する際に電車や車を使わなくてはいけない方も多いでしょう。それらにかかる費用の全部または一部を会社が負担することを通勤手当とよびます。
通勤手当の支給は義務付けられておらず、会社の判断に委ねられています。
そのため、通勤手当が支給されない会社も数多く存在しています。
交通費と通勤手当は似ているので混同してしまうこともありますが、違いについてしっかり理解しておきましょう。
2. 交通費に所得税は課税される?
交通費は基本的に所得税に課税されません。交通費は出張などの移動が生じる際に発生します。出張はもちろん、業務の一環としておこなっていることなので、ここで発生する交通費は会社における「必要経費」に該当します。
経費に該当するということは所得税の課税対象外です。そのため、従業員に交通費を支払ったとしても所得税は課税されないのです。交通費の他にも出張の際の宿泊費や生活費などは経費として扱われるため、課税対象にはなりません。
しかし、これはあくまでも基本的なケースです。場合によっては課税対象となることがあるので注意しなくてはいけません。
このように、所得税には課税範囲があり、従業員に支給される給与すべてが課税対象となるわけではありません。給与計算の際に、この範囲を理解していなければ、「過剰に所得税を徴収していた」ということも発生しかねません。
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2-1. 通常利用の範囲内であれば非課税
交通費が必要経費と認められるのは、あくまでも通常利用の範囲に限定されます。例えば、飛行機のファーストクラスや新幹線のグリーン車などは、通常の料金よりも高額になります。移動中の快適さは向上しますが、それらを利用しなければ移動ができないわけではありません。そのため、通常利用の範囲と認められず、非課税にならないことがあるのです。
会社の就業規則に出張中のグリーン車の利用を認めると記載しているケースもあると思います。しかし、就業規則上でグリーン車の利用を認めていて交通費の支給をおこなっていたとしても、所得税の課税対象から外れているわけではありません。
厳密にどこまでが通常利用の範囲かを定義しているわけではありませんが、ファーストクラスやグリーン車などは課税対象とされる可能性があると覚えておくとよいでしょう。
関連記事:所得税の控除種類・扶養控除についてわかりやすく解説!
3. 通勤手当に所得税は課税される?
通勤手当に所得税が課税されるかどうかは利用している交通手段や金額によって異なります。いくつかのパターンに分けて確認していきましょう。
3-1. 電車やバスなどの公共交通機関
電車やバスを使って通勤する場合は、1ヵ月あたり15万円を超えた金額についてのみ課税対象となります。それ以内であれば所得税は課税されません。
しかし、通勤経路としていくつかのルートが考えられる場合は、最も経済的でかつ合理的と認められる経路でなくてはいけません。都心だと大回りをして通勤することも可能です。会社がそのルートを認めていたとしても、所得税法上は課税対象となるので注意してください。
そして交通費の際にも説明しましたが、グリーン車は経済的かつ合理的という条件から外れています。そのため、グリーン車を使って通勤している場合は、所得税の課税対象となってしまいます。
3-2. マイカーや自転車・バイク
マイカーや自転車・バイクを利用して通勤する場合は、通勤距離に応じて一定の金額を超えた分について所得税が課税されます。通勤距離ごとの非課税上限額は以下のように定義されています。
- 片道55km以上:31,600円
- 片道45km以上~55km未満:28,000円
- 片道35km以上~45km未満:24,400円
- 片道25km以上~35km未満:18,700円
- 片道15km以上~25km未満:12,900円
- 片道10km以上~15km未満:7,100円
- 片道2km以上~10km未満:4,200円
- 片道2km未満:全額
例えば、通勤距離が50kmあり、通勤手当として30,000円支給されたとしましょう。その場合は、30,000円-28,000円で2,000円が所得税の課税対象となります。
3-3. マイカーや自転車・バイクと公共交通機関の併用
最後に2つの移動手段を併用する場合についてです。この場合は、それぞれの通勤にかかる費用を合算して1ヵ月あたり15万円を超えた場合に所得税の課税対象になります。
公共交通機関を利用したのであれば、15万円を超えると所得税の課税対象になると覚えておくとわかりやすいでしょう。
また、通勤手当として15万円以上支給するケースは滅多にないと思いますが、支給する金額次第では従業員の所得税を増やすことになりかねません。それを防ぐために、就業規則などに通勤手当の支給上限について記載しておくとよいでしょう。
通勤手当は全て支払わなくてはいけないという法律はありません。支給する金額は会社が自由に決めることができます。例えば、5,000円しか通勤時に利用していなくても一律で20,000円支給するといったことも可能です。しかし、会社が通勤手当と認める範囲と所得税法上で課税対象となる範囲が異なる場合があるため、その点はご注意ください。
4. 所得税と交通費に関してよくある質問
ここからは、所得税と交通費に関してよく生じる疑問について紹介します。
通勤手当が課税される場合の対応、消費税の扱い方、税抜き計算方法、社会保険料の計算における通勤手当の有無についてあわせて解説していきます。
4-1. 通勤手当が課税される場合はどう対応すべき?
通勤手当に所得税が課される場合には、年末調整にて給与に含める必要があります。
特に、給与計算を電卓やエクセルで計算して管理している場合には、通勤手当を課税と非課税に分けて把握できるよう記録しましょう。
給与計算システムを導入すると、課税・非課税を分けて自動で計算が可能なため便利です。
関連記事:年末調整とは|確定申告との違い、対応方法、注意点など基礎からわかりやすく解説!
4-2. 通勤手当の消費税はどうすべき?
通勤手当は消費税も、基本的には全額課税仕入れとなります。なぜなら通勤手当とは、所得ではなく、従業員が通勤するために必要な交通費として実費の補填になっているためです。
4-3. 交通費の税抜き計算はどうやる?
交通費の精算書の場合には、税抜きの本体料金と消費税をわけて計算します。
電車賃やバス運賃などにはあらかじめ消費税が含まれています。
そのため税抜き計算をしたい場合には、以下の公式にあてはめると計算が可能です。(消費税率10%の場合)
- 「電車賃÷1.1=税抜き料金」
- 「税抜き料金-電車賃=消費税」
4-4. 社会保険料の計算には、通勤手当は含まれる?
社会保険料の計算においても、通勤手当を含みます。
標準報酬月額を算出するための算定基礎届にも、非課税の通勤手当は含めて計算します。
なぜなら非課税の通勤手当は、あくまで所得税が非課税であるだけであり、ほかの税金や保険料も適用されるわけではないからです。
5. 通勤方法をしっかりと確認
交通費や通勤手当を考慮して所得税を計算するのは非常に複雑です。通勤手当が高額にならない限り、課税対象になることはありません。従業員の通勤時に多額の費用が発生するケースも稀でしょう。
しかし、実際に通勤手当が課税対象となった際には、移動距離や交通費、交通手段を確認して適切に対応するようにしましょう。