所得税には扶養控除という制度があることをご存知でしょうか。扶養控除を受けると、従業員の所得税額が少なくなります。この記事では、所得税の扶養控除について解説しております。また、従業員が扶養控除を受けるための要件や、控除金額についても紹介するためぜひご確認ください。
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1. 所得税の扶養控除について
「所得税の扶養控除」とは、所得税を納税する人と生計を共にする人を対象に扶養控除の要件を満たす場合に、所得税の控除が受けられるという制度です。
そもそも扶養には「自分一人で生活するのが難しく、家族や親戚から経済的な援助を受ける」という意味があります。扶養家族がいるということは、納税者は家族のために経済的な援助をしているということになります。
その状態で所得税を他の人と同じように徴収するとどうなるでしょうか。扶養家族を養うためにお金を使わなくてはいけないのに、所得税も多く支払うことになるので家計にとって大きな負担となります。
その負担を少しでも減らすために、扶養家族がいる人に対しては扶養控除という形で所得税の減税措置を講じているのです。
扶養には「税制上の扶養」と「社会保険の扶養」の2種類があります。今まで説明してきたのは税制上の扶養についてです。所得税の控除を受けるためには、税制上の扶養の要件を満たす扶養家族がいなくてはいけません。
社会保険上の扶養になると、扶養者が社会保険料を支払う必要がなくなります。社会保険上の扶養は、扶養家族にとってメリットがある制度であり扶養者に対して保険料の減額などのメリットはありません。
「税制上の扶養」の要件と「社会保険上の扶養」の要件は混同しやすいためご注意ください。
関連記事:所得税の控除種類・扶養控除についてわかりやすく解説!
2. 所得税の扶養控除の要件
所得税の扶養控除を受けるための要件は以下の5つです。
- 納税者の扶養親族で生計を一にする人
- 年間の合計所得金額が48万円以下の人
- 個人事業主の事業を手伝っている家族である青色事業専従者、事業専従者でない人
- 他の人の扶養親族、控除対象配偶者になっていない人
- 16歳以上である
その年の12月31日の時点でこの条件を満たしていると、扶養控除を受けることができます。ここで注意してほしいのはあくまでもこれは「扶養控除を受けるための要件」であり、「扶養に入るための要件」ではないという点です。
扶養に入るための要件としては以下のように定められています。まずは扶養に入ろうとしている方と扶養者が同一世帯に属している場合についてです。その場合の要件は「年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、扶養者の年間収入の2分の1未満である場合」と定められています。
また、同一世帯に属していない場合については「年間収入が130万円未満(認定対象者が60歳以上またはおおむね障害厚生年金を受けられる程度の障害者の場合は180万円未満)であって、かつ、扶養者からの援助による収入額より少ない場合」と定められています。
どちらの要件も扶養控除を受けるための要件と比べると緩くなっています。つまり、扶養に入ることはできても、扶養控除を受けられないケースが存在するということです。扶養に入っているから扶養控除が受けられると勘違いしやすいので注意してください。
先ほど説明した社会保険上の扶養として認められるためには、扶養に入るための要件さえ満たせば問題ありません。年収が130万円を超えた時点で社会保険上の扶養からは外れてしまいます。103万円の壁や130万円の壁という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
これは扶養に関わる年収ラインを表しています。103万円を超えると所得税が発生し、130万円を超えると社会保険の扶養から外れます。そういった理由があって〇〇円の壁という表現をしているのです。
扶養の要件を満たすうえで注意しなければいけないのは交通費や通勤手当などについてです。税制上の扶養を考える際は、交通費や通勤手当は年収に含めません。例えば扶養家族の年収が50万円だとして、そのうちの5万円が通勤手当に相当する場合は、税制上の扶養の要件を満たしていることになります。
しかし、社会保険上の扶養の要件については、交通費や通勤手当を年収に含みます。例えば、年収が133万円あり、そのうちの5万円が交通費や通勤手当の場合でも社会保険上の扶養からは外れてしまいます。このように税制上の扶養と社会保険上の扶養では、考え方が異なるポイントがあるので注意してください。
関連記事:所得税はいくらからかかる?年収ごとの所得税率・考え方をわかりやすく解説
3. 所得税の扶養控除の金額
最後に所得税の扶養控除の金額について解説します。金額については一律で定められているわけではなく、条件次第で変化するので注意してください。以下の4通りのいずれかが適用されることになります。
- その年12月31日現在の年齢が16歳以上の「控除対象扶養親族」は、38万円
- その年12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満の「特定扶養親族」は、63万円
- その年12月31日現在の年齢が70歳以上で同居老親等以外の者である老人扶養親族は、48万円
- 老人扶養親族のうち、納税者またはその配偶者の直系の尊属で、納税者又はその配偶者と普段同居している同居老親等は、58万円
扶養家族の年齢などによってどれくらい控除されるかは異なります。扶養控除を受ける際は、どれが適用されるかを確認してください。
なお、所得税を計算する場合は扶養控除以外にも複数の控除すべき項目があるため、控除の種類と金額を把握しておく必要があります。当サイトでは、所得税の計算方法と計算の流れをわかりやすく解説した資料を無料でお配りしています。所得税の計算に必要な控除と正しい計算手順を知りたい方は、こちらから資料をダウンロードしてご活用ください。
3-1. 扶養控除を受けるための手続き
扶養控除を受けるためには要件を満たしており、なおかつ扶養控除を受けるために手続きを行う必要があります。従業員に扶養控除を受けるか考えている方がいる場合は、手続きについて案内をしてください。
手続きの内容としては「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」という書類を、その年の最初に給与の支払を受ける日の前日(中途就職の場合、就職後最初の給与の支払を受ける日の前日)までに給与支払者に提出してもらう必要があります。この書類の提出がないと扶養控除を受けることはできないので、従業員には必ず案内をしてください。
関連記事:【2022年度版】扶養控除等(異動)申告書とは?書き方を項目別に紹介
4. システム導入で計算ミスの軽減を
扶養控除が適用される従業員がいると、所得税の計算はさらに複雑になります。どの金額の控除が適用されるかを調べたうえで所得税の計算を行わなくてはいけないので、業務が煩雑になるうえに計算ミスも起こりやすくなります。
そこでおすすめなのが所得税などの計算を自動で行ってくれるシステムの導入です。扶養家族がいるケースについても対応しており、スムーズに所得税を求めることができます。さらに自動計算であるため計算ミスも起こりづらくなります。人事の業務は非常に多いです。所得税の計算以外にも色んな税金の計算を行わなくてはいけません。システムを導入すれば、多種多様な税金に対応することができます。人事の業務量の多さに悩んでいる方は、ぜひこのようなシステムの導入を検討してください。