従業員の退職に伴い、「社会保険喪失証明書」の発行を求められる場合があります。
社会保険喪失証明書は、従業員が自社の社会保険の被保険者資格を喪失したことを証明する書類です。主に、退職後に国民健康保険に加入する際に用いられますが、発行が不要なけー。
社会保険から国民健康保険への切り替えは、社会保険の資格喪失後14日以内に手続きを済ませなければなりません。退職する従業員から社会保険喪失証明書の発行を求められた際は速やかに対応しなければならないため、事前に手順の確認や様式を準備しておきましょう。
この記事では、社会保険喪失証明書の発行方法や記載事項、注意点などについて詳しく解説します。
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目次
社会保険料の支払いは従業員の給与から控除するため、従業員が入退社した際の社会保険の手続きはミスなく対応しなければなりませんが、対象者や申請期限、必要書類など大変複雑で漏れやミスが発生しやすい業務です。
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1. 社会保険喪失証明書とは?
社会保険喪失証明書は、対象の従業員が自社における社会保険の被保険者資格を喪失したことを証明するための書類です。ここでは社会保険喪失証明書の概要を解説します。
1-1. 事業主が発行する被保険者資格喪失の証明書
社会保険喪失証明書は、事業主が、主に従業員の退職に伴って社会保険被保険者資格を喪失したことを証明する書類です。
社会保険は企業に雇用される労働者が加入する健康保険・厚生年金保険・雇用保険を指します。これら社会保険は事業所を通じて加入するため、退職する従業員は自社の社会保険から脱退しなければなりません。
このとき、対象の従業員の被保険者資格喪失日や資格喪失手続きが終了していることを示す書類を「社会保険喪失証明書」と呼びます。
1-2. 発行できるのは手続きが完了してから
社会保険喪失証明書を発行するタイミングは、加入している健康保険の資格喪失手続きが完了してからとなります。手続きが完了し、資格を喪失したことを証明する書類であるため、手続きの開始前や途中に発行することはできません。
なお、加入資格の喪失日は、退職日の翌日の日付となります。一般的に、社会保険喪失証明書は年金事務所(協会けんぽ加入者の場合)、あるいは健康保険組合(健保組合加入者の場合)から発行されます。しかし、事業主が作成・発行するケースもあるため、喪失日を誤らないよう注意しましょう。
1-3. 国民健康保険への切り替えに必要
社会保険喪失証明書は、主に退職した元従業員が転職先で社会保険に加入する場合や、個人として国民年金保険に加入する場合、または失業給付の受給手続きなどに用いる書類です。特に、社会保険から国民健康保険への切り替え手続きでは必須の書類であり、退職後に自営業を検討している従業員の場合ははほぼ間違いなく書類の発行を求められます。
なお、社会保険から国民健康保険への切り替えは、社会保険の資格喪失日から14日以内に手続きが必要です。退職する従業員から社会保険喪失証明書の発行を求められた際にすぐ対応できるよう、予め書式を用意しておきましょう。
1-4. 社会保険喪失証明書の発行が必要ないケース
先程も解説しましたが、社会保険喪失証明書の発行が必要となるのは、退職後に国民健康保険に加入する場合です。では、社会保険喪失証明書の発行が不要なケースとはどのようなケースなのでしょうか。
また、退職後に加入する社会保険制度は、退職者の進路によって異なります。以下は、進路別に、社会保険資格喪失証明書の発行が必要か否かと、退職後に社会保険制度に加入する場合の手続き先を示しています。
退職後の進路 |
社会保険喪失証明書の有無 |
健康保険制度 | 手続き先 |
年金制度 | |||
再就職しない (自営・無職など) |
要 | 国民健康保険 | 市区町村の国民健康保険担当課 |
国民年金第1号 | 市区町村の国民年金担当課、年金事務所 | ||
再就職する | 不要 | 健康保険組合・協会けんぽ | 再就職先の担当課 |
厚生年金 | 再就職先の担当課 | ||
退職する会社で 任意継続加入 |
不要 | 健康保険 | 退職する会社の担当課 |
国民年金第1号 | 市区町村の国民年金担当課、年金事務所 | ||
配偶者の扶養になる | 不要 | 健康保険 | 配偶者の勤務先担当課 |
国民年金第3号 | 配偶者の勤務先担当課 |
退職する従業員が以下のケースに該当する場合は、社会保険喪失証明書の発行は必要ありません。
- 再就職により、転職先の健康保険や協会けんぽに加入する
- 勤務先の健康保険に任意継続加入する
- 家族の健康保険に加入する
- 国民年金や厚生年金といった年金制度に加入する
社会保険資格喪失証明書が必要なケースと不要なケースは混同されがちですが、上記の表を参考に区別しましょう。
1-5. 社会保険喪失届の発行ルールは企業によって異なる
社会保険喪失届の発行に法的義務はなく、必ずしも退職する全ての従業員に発行しなければいけないものではありません。発行のルールは企業によって異なり、退職者から求められた場合に限り発行する企業や、一切発行しない企業もあります。
退職後に社会保険喪失届が必要となるケースは限られますが、先述の通り国民健康保険への切り替えでは必須の書類です。従業員から退職の申し入れがあった際は、手続きをスムーズに進めるため社会保険喪失証明書の必要の有無を確認するとよいでしょう。
関連記事:社員が退職したときの社会保険手続きについて徹底解説
2. 社会保険喪失証明書を発行する手順
ここでは、自社で社会保険喪失証明書を発行する手順を紹介します。退職者の要望に応じて迅速に対応できるよう、社会保険喪失証明書の発行ルールを確認しておくことが大切です。
2-1. 社会保険喪失証明書の書式を用意する
退職する従業員から社会保険喪失証明書の発行を依頼された場合に備え、予め書式を用意しておきましょう。
社会保険喪失証明書には規定の書式がなく、各事業所で任意の書式を用意する必要があります。
自社で書式を持っていない場合は社労士事務所などに相談するとよいでしょう。また、自治体によってはホームページ上で書式を配布している場合もあります。
なお、社会保険喪失証明書の書式は自社で作成しても構いません。その際は「被保険者本人」「扶養家族」「事業所(自社)」それぞれについて必要な記入項目を設け、証明書としての体裁が整っていることを確認しましょう。記入項目やダウンロードの方法についてはのちほど紹介します。
2-2. 従業員の要望に応じて社会保険喪失証明書を発行する
従業員の退職時に社会保険喪失証明書の発行を希望された際は、用意した書式を基に書類を作成しましょう。先述の通り、社会保険喪失証明書は企業に発行義務が義務付けられている書類ではありません。実際の業務では、退職時に希望があった場合のみ作成するケースが一般的です。
2-3. 作成した社会保険喪失証明書を本人に郵送する
社会保険喪失証明の作成後は会社保管用としてコピーを1部作成し、原本は退職する従業員本人に渡します。
なお、社会保険喪失証明書の発行は、原則としてその従業員の「被保険者資格喪失届」を提出した後におこないます。資格の喪失を証明する書類ですので、資格喪失前には発行できません。被保険者資格喪失届は退職日の翌日から5日以内に提出しなければならないため、資格喪失証明書の作成と合わせて速やかに対応しましょう。
証明書の完成は必然的に従業員の退職後となるため、本人の自宅へ郵送するケースが一般的です。
社会保険被保険者資格喪失届は退職日から5日以内に提出しなければなりませが、社会保険の被保険者資格を喪失した場合、しなければいけない手続きはいくつもあります。
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3. 社会保険喪失証明書に必須の記載事項
社会保険喪失証明書の様式に規定はないため、自社で作成するケースも出てくるでしょう。社会保険喪失証明書に記載する項目は決められているため、これから解説する内容を参考にして規定に沿った様式を作成して使用しましょう。
3-1. 社会保険喪失証明書き事項
社会保険喪失証明書に記載すべき項目は大きく「被保険者の情報」「被扶養者の情報」「事業者(自社)の情報」の3つに分けられます。各項目で必要な情報は以下の通りです。
<被保険者の情報>
- 氏名
- 生年月日
- 現住所
- 基礎年金番号
- 保険者番号
- 被保険者記号・番号
- 資格取得年月日(入社日)
- 資格喪失年月日
- 退職日
<被扶養者の情報>
- 氏名
- 続柄
- 生年月日
- (被扶養者の)認定年月日
- (被扶養者の)喪失年月日
<事業所(自社)の情報>
- 事業所名
- 所在地
- 代表者氏名
- 代表印
- 電話番号
<その他>
- 書類の名称(健康保険・厚生年金保険 資格喪失証明書など)
- 書類の作成年月日
社会保険資格喪失証明書には、被保険者が扶養している人物の情報も記載します。また、最後に事業所情報と、記載内容に誤りがないことを証明するための日付の忘れずに記載してください。
3-2. 社会保険喪失証明書のフォーマットをダウンロードする方法
社会保険喪失証明書のフォーマットは、Web上で公開されています。それらを参考にすると、様式の作成がスムーズに進むでしょう。
ただし、それらをダウンロードして使用する場合は、上記で解説した「社会保険喪失証明書に記載すべき事項」がすべて網羅されていることを確認してください。
なお、板橋区のホームページでは「社会保険喪失証明書」の様式を公開しているので参考にするとよいでしょう。
出典:板橋区「健康保険・厚生年金保険等被保険者資格喪失証明書」
4. 社会保険喪失証明書の書き方と注意点
社会保険喪失証明書の書き方や注意点について解説します。退職者から証明書の発行を希望された場合や、自社で書式を作成する場合は以下の内容を参考にしてください。
4-1. 資格喪失日は退職日の翌日
社会保険喪失証明書の記載で間違えやすいポイントが資格喪失日です。退職に伴う社会保険脱退の場合、資格喪失日は退職日の翌日です。退職日の当日はまだ被保険者の扱いになるので、日付を間違えないようにしましょう。同様に、被扶養者の認定喪失日も被保険者本人の退職日の翌日です。
なお、社会保険の資格喪失日を過ぎるとそれまで加入していた健康保険は適用されません。保険未加入期間に病院等を利用した場合、医療費は全額負担となってしまいます。退職者のうち国民健康保険根の切り替えを行う者、および次の職場の入社日まで間が空く者に関しては注意を促しましょう。
4-2. 社会保険喪失証明書は紛失しても再発行できる
退職した従業員から「社会保険資格喪失証明書を紛失した」との申し出があった場合は、再発行を受け付けましょう。
健康保険法において、健康保険に関する書類は退職から2年間の保存が義務付けられています。つまり、退職から2年以内であれば記録が保存されているため、社会保険資格喪失証明書の再発行は可能です。
4-3. 社会保険喪失証明書が「もらえない」場合の対処方法
社会保険喪失証明書を発行する方法は主に3つあります。
- 会社の書式に従って発行する
- 「社会保険資格喪失証明書」のひな型を利用して、会社が発行する
- 協会けんぽか日本年金機構(年金事務所)に「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認通知書 」を発行してもらう
先述の通り、企業には社会保険喪失証明書を発行する義務はありません。そのため、企業によっては発行を断るケースも出てくるでしょう。
しかし、退職する従業員は国民健康保険への切り替えなどで必要となる書類のため、「社会保険喪失証明書をもらいないと困る」と言われてしまうかもしれません。その場合は、自身で「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認請求書」を全国健康保険協会(協会けんぽ)あるいは日本年金機構(年金事務所)に提出し、「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認通知書 」を交付してもらうようにアナウンスしましょう。
なお、社会保険喪失証明書の代わりとして、以下のいずれかで国民健康保険に加入できる場合があります。
- 退職証明書や離職票など、退職日が確認できる書類を持参する
- 退職先に、電話で退職者の退職日を確認する
- 年金事務所窓口で社会保険資格喪失証明書を交付してもらう(協会けんぽの場合)
上記3つの代替案で国民健康保険への加入ができるかは自治体によって異なります。また、そもそも会社が被保険者資格喪失届を提出していない場合は、協会けんぽで社会保険資格喪失証明書を交付してもらうことはできません。
自社で社会保険喪失証明書をする・しないに関わらず、保険者資格喪失届の手続きは早めにおこないましょう。
自社で社会保険喪失証明書を発行しない場合は、退職した従業員が困らないよう、事前に退職後に必要となる手続きをまとめた書類などを準備しておくと親切です。
なお、日本年金機構(年金事務所)の「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認請求書」は以下からダウンロードすることができます。
出典:日本年金機構(年金事務所)「健康保険・厚生年金保険資格取得・資格喪失等確認請求書」
4-4. 社会保険喪失証明書が「届かない」トラブルは回避する
自社で社会保険喪失証明書を作成・発行する場合、従業員の希望する日程に合わせてできるだけ早く届ける必要があります。なぜなら、社会保険から国民健康保険への切り替えは、社会保険の資格喪失後14日におこなわなくてはならないためです。
企業側の事情で社会保険喪失証明書が届かないというトラブルは回避しなくてはなりません。そのためには、社会保険喪失証明書のフォーマットを用意したり、手続きの手順を確認したりして、従業員の要望に合わせられるようにしっかりと準備をしておくことが大切です。
5. 社会保険喪失証明書を用いて国民健康保険などに切り替える方法
退職によって社会康保険資格喪失証明書の発行を依頼する従業員の多くは、国民健康保険への切り替えを必要とします。日本では「国民皆保険」といって、国民全員が健康保険に加入することが義務づけられているため、会社を退職したあとは速やかに国民健康保険への切り替えをおこなわなくてはなりません。
場合によっては、国民健康保険への切り替え方法について質問を受ける可能性もあるので、これから紹介する内容を把握しておくとよいでしょう。
5-1. 国民健康保険の切り替えに必要な持ち物
国民健康保険に切り替えに必要となる書類は以下の通りです。
- 健康保険資格喪失証明書
- 世帯主と加入者全員のマイナンバーがわかるもの(個人番号カード、通知カード)
- 免許証やマイナンバーカードなどの本人確認書類
なお、持ち物は自治体によって多少異なります。場合によってはキャッシュカードや通帳などの提出を求められることもあるため、あらかじめホームページなどで持ち物を確認しておくとよいでしょう。
5-2. 国民健康保険に切り替える際の手順や期限
国民健康保険への切り替えの窓口となるのは、市区町村の「国民健康保険担当課」です。
繰り返しになりますが、申請期限は社会保険喪失日から14日以内です。社会保険喪失日は退職日の翌日となるので、仮に6月1日に退職した場合は6月2日が社会保険喪失日となり、6月2日から14日以内に国民健康保険への切り替え手続きが必要になります。
なお、この期限を過ぎてから申請をおこなった場合でも国民健康保険に加入することは可能です。ただし、この場合も社会保険喪失日までさかのぼって保険に加入することになるため、さかのぼった分の保険料を納めなくてはなりません。
病気やけがに備え、国民健康保険への切り替えはなるべく早くおこなうようにアナウンスしましょう。
6. 社会保険喪失証明書を速やかに発行できるよう準備しておこう
社会保険喪失証明書は退職する従業員が自社の社会保険資格を喪失していることを証明する重要な書類です。退職後、他社の社会保険や国民健康保険等に加入する際に用いられます。
特に、国民健康保険への切り替えでは、社会保険喪失証明書は必須の書類です。国民健康保険への切り替えは社会保険喪失日から14日以内となるため、早急に社会保険喪失証明書を発行しなくてはなりません。
そのためには、事前に社会保険喪失証明書の書式を用意したり、手続きの手順を確認したりして準備を万全にしておくことが大切です。