社会保険に加入する従業員が産休を取得した際、所定の手続きをおこなうことで、会社と従業員、双方が支払う社会保険料(健康保険・厚生年金保険)が免除されます。なお、免除といっても、期間中は社会保険料を支払ったものと見なされるため、従業員が将来受け取る年金額に影響が出る心配はありません。
本記事では、産休中の社会保険免除制度の概要と申請方法、対象期間や免除金額の計算方法を解説します。
目次
1. 産休中の社会保険料には免除制度がある
ここでは、社会保険料の定義や免除制度について確認しておきましょう。
1-1. 社会保険料とは?
社会保険とは、生活の安定を図るセーフティネットとして政府と自治体が連携して提供している制度で、社会保険料を支払うことで成り立っています。広義の社会保険料は以下の5つです。
- 健康保険
- 厚生年金保険
- 介護保険
- 雇用保険
- 労災保険
そのなかで健康保険・厚生年金保険・介護保険の3つは狭義の社会保険料、雇用保険・労災保険の2つは労働保険料に分類されます。労災保険料は全額を会社側が負担しますが、その他の4つの保険料については会社と従業員で折半して負担します。保険料は、従業員に支払う給与から天引きして徴収するのが一般的です。
1-2. 手続きをすれば産休中の社会保険料は免除される
従業員が産前・産後休業を取得している間は所定の手続きをおこなうことで、社会保険料の免除を受けられます。従前は育児休業中の社会保険料の免除制度しかなく、産休中は保険料の支払いが必要でした。
しかし、2014年4月より産前・産後休業中にも免除制度が拡大したため、事業主が年金事務所に申し出ることにより、従業員と会社、双方の社会保険料の支払いが免除されます。
関連記事:育児休業給付金の盲点|支給される場合とされない場合がある?
1-3. 免除期間中も従業員の被保険者資格は継続する
免除期間中の社会保険料は、本来支払いが必要な額を“支払ったもの”と見なして、将来の年金額を算出します。そのため、免除申請をしたからといって、従業員が将来受け取る年金額に影響が出るわけではありません。
また、免除期間中は賞与の支払いがあっても、保険料は徴収されませんが、標準賞与額として算入されます。そのため、免除された賞与分も、将来の年金額に反映されます。
会社と従業員どちらにもメリットの多い制度のため、該当する従業員がいる際は忘れずに申請しましょう。
2. 産休による社会保険免除の手続き方法
産休中の社会保険料免除制度を利用するためには、従業員が産前・産後休業を取得している間に、事業主から所管の年金事務所に免除申請をおこなわなければいけません。ここでは、協会けんぽに加入する会社を例に申請方法と注意点を解説します。
2-1. 従業員の産休中に「産前産後休業取得者申請書」を年金事務所に提出する
従業員が産休に入ったら、速やかに下記書類を作成し管轄の年金事務所に届け出ましょう。
- 健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届
- 添付書類:なし
記載内容は、被保険者の氏名・生年月日などの情報の他、出産予定日や産休終了予定日などです。
提出方法は、管轄の年金事務所(または事務センター)に郵送する他、年金事務所の窓口に直接持参したり、電子申請で申請したりしても問題ありません。
参考: 産前産後休業を取得し、保険料の免除を受けようとするとき|日本年金機構
2-2. 「産前産後休業取得者申請書」の注意点
産前産後休業取得者申請書は、産休中の従業員の有給・無給を問いません。出産手当金と異なり、給料が支払われていても届出が必要なため間違いのないようにしましょう。
また、手続きは被保険者の産休中におこなうこと、被保険者本人ではなく事業主経由で年金事務所に提出することが必要です。提出時期や提出者がともに定められているため、届出遅れのないようにしましょう。
関連記事:会社側が出産手当金の申請から入金までに対応すべきフローを徹底解説!
2-3. 産休中であれば出産前・出産後どちらで提出しても問題ない
提出のタイミングは出産前・出産後、どちらでも問題ありません。ただし、出産前の場合、実際の出産日が予定日と異なるケースが多いため、次に紹介する「産前産後休業取得者変更届」も合わせて提出が必要です。
そのため、出産後に出産予定日・出産日を記載して届け出る方が手続きはスムーズかもしれません。
2-4. 産休予定日の変更や早期終了した際の手続き
産後の従業員の体調や出産日によっては、産休予定期間を変更したり、早期に終了したりするケースもあるでしょう。そのような場合は以下の届書を提出し、保険料免除期間を変更する必要があります。
- 健康保険・厚生年金保険 産前産後休業取得者申出書/変更(終了)届
- 添付書類:なし
なお、届書自体は「産前産後休業取得者申請書」と同一であるものの、記載箇所が異なるため注意しましょう。産休の変更や終了の場合、共通記載欄の他に同届書の「A.変更」または、「B.終了」欄にも記載が必要です。
参考: 産前産後休業中の保険料免除を受けている被保険者の産前産後休業期間が変更・終了となったとき|日本年金機構
2-5. 健康保険組合に加入する会社の場合
健康保険が協会けんぽではなく各健康保険組合に加入しているときは、様式が異なるケースがあります。また、同じ様式を使っていても届出の手順が異なることが多いため、それぞれの健康保険組合の窓口に問い合わせ、処理方法を確認してから手続きしましょう。
3. 産休による社会保険免除の期間はいつから?
産休中の社会保険料免除の対象期間は、以下の通りです。
- 産前:42日間(2児以上の場合は98日)
- 産後:56日間
(上記のうち、出産を理由に労働に従事しなかった期間)
このうち実際に保険料が免除されるのは、産前・産後休業開始月から終了予定日の翌日が含まれる月の前月までです。なお、産休終了日が月末の場合は、終了月分までが免除されます。
たとえば、3月21日から産前休業を開始し、6月26日までに産後休業を取得する従業員の場合、3~5月分までの社会保険料が免除されます。仮に、6月30日が産休終了日の場合は3~6月分までの社会保険料が免除されます。
産休の手続きに必要な流れは、以下の関連記事も確認してみてください。
参考:産休・育休の対応や手続きにおさえておきたい知識|HR NOTE
4. 産休による社会保険免除の金額
先述のとおり、産休中に社会保険料免除制度を利用することで、厚生年金保険・健康保険ともに全額が免除されます。従業員負担分だけでなく事業主負担分も免除されるため、負担が大きく軽減されるでしょう。
ここでは東京都の会社を例に、社会保険料の免除額を計算します。なお、計算に用いる社会保険料率は以下の通り、直近の料率を利用します。
- 厚生年金保険【全額】:18.3%(平成29年9月1日~ 適用)
- 健康保険 【全額】:9.98%(令和6年3月分~ 適用)
※健康保険は、介護保険第2号被保険者に該当しない者とする
従業員の免除分(折半額)のみを確認したい場合は、計算した保険料額を2で割ると求められます。また、健康保険料率は加入する保険者や都道府県により異なるため、事前に確認しましょう。
参考: 厚生年金保険料額表|日本年金機構
4-1. 標準報酬月額18万円の従業員の場合
産前産後休業取得前の標準報酬月額18万円の従業員では、以下の社会保険料額が免除されます。
厚生年金保険:180,000×18.3%=32,940円
健康保険 :180,000×9.98%=17,964円
社会保険料計:50,904円
3カ月(産休免除期間)×50,904円=152,712円
以上より、152,712円が産休中の社会保険料免除額の合計となります。
4-2. 標準報酬月額30万円の従業員の場合
産前産後休業取得前の標準報酬月額30万円の従業員では、以下の社会保険料額が免除されます。
厚生年金保険:300,000×18.3%=54,900円
健康保険 :300,000×9.98%=29,940円
社会保険料計:84,840円
3カ月(産休免除期間)×84,840円=254,520円
以上より、254,520円が産休中の社会保険料免除額の合計となります。
なお、標準報酬月額の決定方法については関連記事を参照してください。
関連記事:標準報酬月額とは|社会保険料の計算に必要な金額はどのように決まるのかご紹介
5. 産休による社会保険料免除に関する注意点
ここでは、産休による社会保険料免除に関する注意点を紹介します。
5-1. 産後に申請したほうが手間が減る
「産前産後休業取得者申出書」を提出したあとに出産日が変わった場合、変更届を提出しなければなりません。前述の通り、申請のタイミングは産前・産後どちらでも問題はないため、少しでも手間を減らしたい場合は、出産日が確定したあとで手続きをするとよいでしょう。
5-2. 免除期間についてのルールがある
社会保険料の免除期間について、次のようなルールがあるため注意しましょう。
- 同一月内に育児休業などの開始日と終了日があり、その月内に14日以上の育児休業などを取得していること
- 賞与に係る社会保険料は、1カ月を超える育児休業などを取得していること
1つ目のルールは、育児休業が月末を含まない場合、1カ月間で14日以上の育児休業を取得していないと社会保険料が免除されないということです。
2つ目のルールは、育児休業中に賞与を支給する場合、1カ月以上の育児休業を取得していないと社会保険料が免除されないことを意味しています。
6. 産休中の社会保険免除制度は届け出漏れのないように注意
産休中の社会保険免除制度は、申請により従業員だけでなく会社の社会保険料も免除されるため、双方にとってメリットが大きい制度です。免除期間中は社会保険料を支払ったものと見なされるため、従業員が将来受け取る年金額にも反映されます。なお、出産手当金と異なり、産休中に従業員に給与が支給されていても申請が可能なため、忘れずに手続きしましょう。
手続きは従業員の産休中におこない、かつ、事業主経由で年金事務所に届け出なければいけません。添付書類は不要なものの、産休予定日が変更になった際は、別途届出が必要です。届出期間が限定されているため、届け出漏れのないように注意しましょう。